最終更新:2026年10月19日
仕訳(しわけ)とは、1つの取引を「借方(かりかた)=左」と「貸方(かしかた)=右」の2つの面に分けて、勘定科目と金額を帳簿に書くことです。簡単に言えば、取引で「何が増えて、何が減ったか」を左右に並べる作業です。法人税法施行規則54条は、仕訳帳を「全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿」と定めています。借方の合計と貸方の合計は必ず一致するので、合わなければどこかが間違っています。
この記事では、借方・貸方の読み方を国税庁の資料の表で整理したうえで、架空の一人法人で起きる典型的な仕訳10個を金額つきで並べ、会計ソフトの自動仕訳を確認するときの見方までまとめました。簿記の教科書ではなく、自分の会社の帳簿を読む一人社長と、取引先の決算書を読むマーケターのための記事です。2026年10月19日時点の制度で書いています。
仕訳とは?結論から
仕訳は、取引を勘定科目に振り分けて、左右の両方に同じ金額を書く記録の単位です。国税庁の「記帳のしかた(青色申告編)」は、帳簿の記帳は仕訳から始まり、取引は必ず資産・負債・資本・収益・費用のどれかに分類されると説明しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | しわけ(借方=かりかた、貸方=かしかた) |
| 一言でいうと | 取引で何が増えて何が減ったかを、左右に同じ金額で書くこと |
| 書く帳簿 | 仕訳帳(取引の発生順)。そこから勘定科目ごとの総勘定元帳へ転記する |
| 1行に書くこと | 取引の年月日・内容・勘定科目・金額(法人税法施行規則55条) |
| 左右のルール | 資産と費用は増えたら借方、負債・純資産・収益は増えたら貸方 |
| 検算 | 1つの仕訳の借方合計と貸方合計は必ず一致する |
| 行き着く先 | 集計すると試算表になり、貸借対照表と損益計算書ができる |
仕訳のルールと帳簿の決まり(借方・貸方の表)
借方と貸方のどちらに書くかは、勘定科目の5つの区分と「増えたか、減ったか」の組み合わせで決まります。下の表は、国税庁の「記帳のしかた(青色申告編)」(令和8年5月1日現在の法令等で作成)にある借方と貸方の表を、一人法人の科目の例と並べたものです。国税庁の資料は個人事業主向けなので「資本(元入金)」と書かれていますが、法人では純資産(資本金・利益剰余金など)にあたります。
| 区分 | 借方(左)に書くとき | 貸方(右)に書くとき | 一人法人の科目の例 |
|---|---|---|---|
| 資産 | 増えたとき | 減ったとき | 普通預金・売掛金・工具器具備品 |
| 負債 | 減ったとき | 増えたとき | 未払金・預り金・役員借入金・未払法人税等 |
| 純資産 | 減ったとき | 増えたとき | 資本金・利益剰余金 |
| 費用 | 発生したとき | 取り消したとき | 役員報酬・法定福利費・通信費・減価償却費 |
| 収益 | 取り消したとき | 発生したとき | 売上高・雑収入 |
覚え方は「資産と費用は左で増える、それ以外は右で増える」の1行で足ります。左右に意味があるのは、貸借対照表の形と同じだからです。貸借対照表は左に資産、右に負債と純資産を置くので、資産が増える取引は左、借金が増える取引は右に書きます。
帳簿の流れも国税庁の同じ資料が示しています。取引が起きたら仕訳帳に仕訳し、勘定科目ごとの総勘定元帳と補助簿に転記し、年末に試算表をつくって貸借対照表と損益計算書を作り、申告書につなげます。会計ソフトでは転記と集計が自動になりますが、出発点が仕訳であることは変わりません。
法人の帳簿の決まりは、次の3つの法令で確認できます。
- 会社法615条:合同会社などの持分会社は、法務省令で定めるところにより、適時に正確な会計帳簿を作り、閉鎖の時から10年間保存します(株式会社は432条で同じ内容。e-Gov 会社法)
- 法人税法施行規則53条:青色申告の承認を受けた法人は、資産・負債・資本に影響するすべての取引を、複式簿記の原則に従って整然と明りょうに記録し、その記録にもとづいて決算をします
- 法人税法施行規則54条・55条:仕訳帳と総勘定元帳を備え、仕訳帳には取引の発生順に、年月日・内容・勘定科目・金額を書きます(e-Gov 法人税法施行規則)
勘定科目の名前を1つに決める法令はありません。法人税法施行規則57条も、青色申告法人は「おおむね」別表二十五の科目に従って貸借対照表と損益計算書を作るとしているだけです。別表二十五には売掛金・未払金・借入金・法定福利費・通信費・広告宣伝費・減価償却費などが並びますが、「役員報酬」や「預り金」のように別表にない科目名も一般的に使われています。大事なのは、同じ取引に毎期同じ科目を使う継続性です。よく使う科目の一覧は、別記事でまとめる予定です。
一人法人の典型仕訳10例(架空の金額で検算)
ここからは架空の会社で、一人法人によく出てくる仕訳を10個並べます。会社も金額もすべて「例」で、実在の会社や本人の会社の数字ではありません。社会保険料・源泉所得税・消費税・法人税の金額も、仕訳の形を見せるための数字で、実際の料率や税額表から計算したものではありません。
例の前提:合同会社サンプル企画(架空)。社長1人のマーケティング支援会社で、消費税の課税事業者として税抜経理をしている設定です。月の顧問料は税抜30万円、役員報酬は月30万円とします。
| 場面(例) | 借方 | 貸方 | 何が増えて何が減ったか |
|---|---|---|---|
| ①4月分の顧問料を請求した(売上の計上) | 売掛金 330,000 | 売上高 300,000/仮受消費税 30,000 | 受け取る権利(資産)が増え、売上(収益)が発生した |
| ②5月末に①が振り込まれた(入金) | 普通預金 330,000 | 売掛金 330,000 | 預金(資産)が増え、受け取る権利(資産)が減った |
| ③国内のクラウドサービスの月額を会社のカードで払った(経費のカード払い) | 通信費 10,000/仮払消費税 1,000 | 未払金 11,000 | 費用が発生し、カード会社への支払い義務(負債)が増えた。翌月の引落しは「未払金 11,000/普通預金 11,000」 |
| ④役員報酬を支給した | 役員報酬 300,000 | 預り金(社会保険料)45,000/預り金(源泉所得税)5,000/普通預金 250,000 | 費用が発生し、天引きして国などに納める義務(負債)と、預金の減少に分かれた |
| ⑤社会保険料が口座から引き落とされた | 預り金(社会保険料)45,000/法定福利費 45,000 | 普通預金 90,000 | 預かっていた本人分(負債)が減り、会社負担分の費用が発生した |
| ⑥④で天引きした源泉所得税を納付した | 預り金(源泉所得税)5,000 | 普通預金 5,000 | 納める義務(負債)が減り、預金(資産)が減った |
| ⑦社長が個人のカードで会社の書籍代を立て替えた | 新聞図書費 3,000/仮払消費税 300 | 役員借入金 3,300 | 費用が発生し、会社が社長に返す義務(負債)が増えた |
| ⑧決算で、期首に48万円で買ったパソコンの減価償却をした(定率法・1年目) | 減価償却費 240,000 | 工具器具備品 240,000 | 費用が発生し、パソコンの帳簿上の価値(資産)が減った |
| ⑨決算で、1年分の消費税を整理した | 仮受消費税 360,000 | 仮払消費税 150,000/未払消費税等 210,000 | 預かった消費税と払った消費税を相殺し、残りを納める義務(負債)にした |
| ⑩決算で、法人税・住民税・事業税を計上した | 法人税、住民税及び事業税 120,000 | 未払法人税等 120,000 | 税金の費用が発生し、納める義務(負債)が増えた |
検算です。①は借方330,000円、貸方300,000+30,000=330,000円。②は330,000円どうし。③は借方10,000+1,000=11,000円で貸方11,000円。④は借方300,000円、貸方45,000+5,000+250,000=300,000円。⑤は借方45,000+45,000=90,000円で貸方90,000円。⑥は5,000円どうし。⑦は借方3,000+300=3,300円で貸方3,300円。⑧は240,000円どうし。⑨は借方360,000円、貸方150,000+210,000=360,000円。⑩は120,000円どうしで、10例すべて左右の合計が一致しています。
それぞれの補足です。
- ①と②:請求した時点で売上を計上し、入金のときは売上を増やさず売掛金を消します。入金のときにもう一度売上を立てると二重計上になります
- ④と⑤:例では住民税の天引きを省き、社会保険料の本人負担と会社負担を同じ額にしています。実際の保険料の計算は役員報酬と社会保険料の計算に、報酬額を変えるときのルールは定期同額給与とはに書きました
- ⑥:源泉所得税は原則として給与を払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満で納期の特例の承認を受けていれば、1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日が期限です(国税庁 No.2505)。申請書は会社設立後の届出一覧にまとめています
- ⑦:会社から見ると社長からお金を借りた状態です。返すときは「役員借入金 3,300/普通預金 3,300」になります。詳しくは役員借入金とはへ
- ⑧:パソコン(耐用年数4年)の200%定率法の償却率0.500で、48万円×0.500=24万円です。購入したときの仕訳は「工具器具備品 480,000/仮払消費税 48,000/普通預金 528,000」で、⑨の仮払消費税150,000円にはこの48,000円が含まれている設定です。法人の法定償却方法や期中に買った場合の月割りは減価償却とはに書きました
- ⑨:本則課税で、仮受と仮払の差額がそのまま納付額になったと仮定した例です。実際の納付税額は申告書で別に計算するので、差額が出たら雑収入や雑損失で調整するのが一般的です。簡易課税や2割特例を使うと、この差は大きくなります
- ⑩:法人住民税の均等割は赤字でもかかります(法人住民税の均等割)。税額の出し方は法人税の計算へ
一人法人・マーケターの読みどころ
一人法人の社長が仕訳を自分で書く場面は、会計ソフトを使っていると多くありません。それでも仕訳が読めると、ソフトが出した仕訳案のどこを疑えばいいかが分かります。マーケターにとっては、決算書の数字がどの取引の集計なのかを逆算する手がかりになります。
ぼくは簿記の知識がほぼない状態で独立し、会計ソフトの比較記事に書いたとおり、借方・貸方という言葉を使わずに操作できる設計の会計ソフトから始めました。銀行口座とカードを連携すると取引の明細が自動で入り、毎月やることは科目が正しいかの確認です。一人で合同会社を設立した体験でも、会計の入力はツールに頼り、判断が必要なところは税理士に頼る分け方にしたと書きました。一方で一人法人の記事には、登記後すぐに取引が始まり、入金先がしばらく個人口座になって帳簿が複雑になったことも書いています。自動化しても、誰のお金がどこにあるかの両面を確かめる仕事は残ります。
自動で取り込まれた仕訳を確認するときは、次の5点を見ると、上の10例のどこでずれやすいかが分かります。
| 確認する点 | よくあるずれ | 関係する例 |
|---|---|---|
| 相手科目 | 入金を売上にしてしまい、請求時の売上と二重になる | ①② |
| 日付 | カードの利用日ではなく引落日に費用を立て、月や期がずれる | ③ |
| 総額か手取りか | 役員報酬を振込額の250,000円だけで記帳し、天引き分の預り金が消える | ④⑤⑥ |
| 誰のお金か | 個人のカード払いや個人口座への入金を、会社の預金の動きとして取り込む | ⑦ |
| 税区分 | 海外のサービスや、消費税がかからない取引に、国内の課税仕入れと同じ税区分を付けてしまう | ③⑨ |
海外のサービスの消費税の扱いはサブスクの勘定科目で整理しました。
マーケターが取引先や転職先の決算書を読むときも、仕訳の発想が役に立ちます。広告費は一般的に「広告宣伝費/普通預金」や「広告宣伝費/未払金」の形で記帳され、損益計算書では販売費及び一般管理費の中に集計されます。つまり決算書の広告宣伝費は、1年分の広告の仕訳の合計です。施策ごとのROIを出すときに、分母の投資額へ制作費や外注費を入れるのかは、どの科目で記帳されているかで変わります。分子と分母の決め方はROIとはに書きましたが、会社の帳簿のどの科目を拾うかまで決めておくと、マーケの数字と経理の数字が食い違いません。
よくある間違いと注意点
仕訳の間違いは、借方と貸方の合計が合っていても起きます。合計の一致は検算の最低条件で、科目と日付が正しいことまでは保証しません。
- 左右を位置だけで覚える:「お金が入ったら左」と覚えると、未払金の支払い(負債の減少が左)で迷います。増えたか減ったかと区分の組み合わせで考えます
- 入金のときに売上を立てる:請求時に売上を計上しているなら、入金のときは売掛金を消すだけです
- 手取りだけを記帳する:役員報酬は総額を費用にし、天引き分は預り金にします。預り金は納めた時点で消えます
- 個人と会社のお金を混ぜる:社長個人の支払いを会社の経費にするなら、役員借入金などで会社と個人の貸し借りを残します
- 消費税の経理方式を途中で混ぜる:税込経理と税抜経理が混ざると、仮払消費税の残高が合わなくなります
- 間違いを消して書き直す:一般的には、誤った仕訳と逆の仕訳で取り消し、正しい仕訳を入れ直す訂正のしかたが使われます。どう直したかが帳簿に残ります
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。法令や国税庁の資料は改正で変わることがあるので、使う前に国税庁とe-Govのページで確かめてください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
仕訳に関するよくある質問
仕訳を簡単にわかりやすく言うと何ですか?
取引で何が増えて何が減ったかを、左(借方)と右(貸方)に同じ金額で書くことです。たとえば売掛金が入金されたら、預金が増えて売掛金が減ったので「普通預金/売掛金」と書きます。法人税法施行規則54条は、仕訳帳を全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿と定めています。
借方と貸方はどちらが左ですか?覚え方はありますか?
借方が左、貸方が右です。覚え方は「資産と費用は左で増える、負債・純資産・収益は右で増える」の1行です。貸借対照表が左に資産、右に負債と純資産を置く形と同じなので、表の形と合わせて覚えると迷いません。
経理の仕訳は会計ソフトの自動仕訳に任せてもいいですか?
入力と転記はソフトに任せてかまいませんが、出てきた仕訳案の確認は人の仕事です。相手科目・日付・総額か手取りか・誰のお金か・消費税の区分の5点を見ると、ずれの多くは見つかります。判断に迷う取引は、税理士に確認してください。
仕訳を間違えたときはどう直しますか?
一般的には、誤った仕訳と逆の仕訳を入れて取り消し、正しい仕訳を入れ直します。決算と申告が終わった期の間違いは帳簿の訂正だけでは済まず、修正申告などが必要になることがあるので、税理士に相談してください。
おわりに──仕訳は、お金の記録ではなく、交換の説明
仕訳を「お金が出入りした記録」と考えると、借方と貸方の意味が見えなくなります。仕訳が書いているのは、何かが増えた代わりに何かが減ったという交換の両面です。売上の入金は、お金が増えた話であると同時に、受け取る権利が消えた話でもあります。仕訳は、お金の記録ではなく、交換の説明です。
今日やることは、会計ソフトで先月の取引を5件だけ開き、それぞれ「何が増えて、何が減ったか」を声に出して読んでみることです。言えない仕訳が1件でもあれば、そこが帳簿でいちばん先に確かめる場所です。