お金の話

一人で法人を作るということ。──tiny合同会社を設立してわかったこと

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「箱だけ作っといて。仕事振るから」

法人を作ったきっかけは、先輩のその一言でした。2019年の秋のことです。

こうして生まれたのがtiny合同会社です。資本金50万円。代表社員はぼく一人。従業員はいない。いわゆる「一人法人」というやつです。

「なんでわざわざ?フリーランスでよくないか」とよく聞かれます。その問いに答えるのに、この記事を書くことにしました。設立の手順も、コストも、個人事業主との違いも、やってみてわかったことも、全部書きます。

個人事業主と一人法人、何が違うのか

まず根本的な話から。

個人事業主とは、法人を作らずに事業を行う個人のことです。開業届を税務署に出せば、その日からスタートできます。手続きは5分。費用はゼロ。事業の収益はそのまま「個人の所得」として課税されます。

一人法人とは、たった一人で法人(会社)を設立し、代表者として事業を行う形態のことです。法人格が生まれるということは、「あなた個人」と「会社」が法的に別の存在になるということです。

この違いは、想像するより大きいです。

個人事業主のぼくが稼いだ1,000万円は、ぼくの収入です。法人のぼくが稼いだ1,000万円は、会社の売上です。ぼくはそこから「役員報酬」という形で給与を受け取ります。この構造の違いが、税金・信用・責任の範囲に影響してきます。

合同会社にしたか、株式会社にしたか

「法人を作る」と決めたとき、最初に選択を迫られるのが会社の種類です。一人法人の場合、現実的な選択肢は株式会社か合同会社かのどちらかです。

ぼくは合同会社を選びました。理由はシンプルで、設立コストが安く、機動力があるからです。将来的に仲間を増やしたり、大きく組織を作っていきたい人は、最初から株式会社を選ぶのがいいと思います。

具体的に比べると、こうなります。

  • 設立費用:登録免許税だけで、株式会社は最低15万円(さらに定款認証の手数料)、合同会社は最低6万円(定款認証が不要)。出典:国税庁 No.7191。内訳は合同会社の設立費用に
  • 決算公告:株式会社は義務(官報なら8万円台から。国立印刷局の掲載例・令和7年4月1日現在)、合同会社は不要(決算公告とは)
  • 機関設計:株式会社は取締役・株主総会が必要、合同会社は社員(出資者)が経営者を兼ねるため不要
  • 知名度・信頼性:株式会社の方が一般に認知されている。「合同会社って何?」と聞かれることはある

大企業と取引が多い業種や、将来的に資金調達・上場を考えているなら株式会社の方がいいと思います。ぼくのように中小・スタートアップとのプロジェクトが中心で、一人で動き続けるつもりなら、合同会社で十分でした。

ちなみにAmazonジャパンも、Google合同会社も、法的には合同会社です。

設立の手順──実際にやったこと

難しそうに見えて、手順自体はそこまで複雑ではありません。順番に書きます。

① 会社の基本情報を決める

まず決めるべきことが7つあります。

  • 商号(会社名):「〇〇合同会社」「合同会社〇〇」どちらでも可
  • 所在地(本店):自宅でも可。バーチャルオフィスも可
  • 事業目的:何をするか。広く書いておく方が後で楽です
  • 資本金:1円から可能。資本金の額は、銀行が法律で確かめる項目には入っていません。ただし1,000万円以上だと設立1期目から消費税の課税事業者になるなど、額で変わることがあります。ぼくは50万円にしました(決め方は資本金はいくらにするか)
  • 出資者(社員)と出資比率:一人法人なら自分100%
  • 代表社員(合同会社の場合):自分
  • 決算月:いつでも可。個人的には設立月から11ヶ月後が節税上シンプルです

② 定款を作成する

定款とは、会社のルールブックです。上記で決めた内容を所定のフォーマットで文書にします。合同会社の場合、公証人による認証は不要なので、自分で作成して押印するだけです。

ぼくはfreee会社設立を使いました。画面に沿って会社名や住所、事業内容を入力すると、定款と必要書類がまとめて出力されます。バックオフィスが苦手なぼくでも、身構えていたほど難しくはありませんでした。

同じようなサービスにはマネーフォワード クラウド会社設立などもあります。質問に答えるだけで必要書類を自動作成してくれます。無料で使えるものも多く、法務局への申請まで一通りサポートしてくれます。

③ 資本金を払い込む

個人の銀行口座に、資本金として出資する金額を振り込みます(自分から自分へ)。この通帳のコピーが後の登記申請書類に必要になります。

④ 登記申請書類を作成・提出する

法務局に提出する書類を揃えます。主なものはこちらです。

  • 合同会社設立登記申請書
  • 定款
  • 代表社員の就任承諾書
  • 払込みを証する書面(通帳コピー)
  • 印鑑届出書

登録免許税として6万円(資本金の0.7%、最低額)の収入印紙が必要です。合同会社の場合はこれが設立費用のメインになります。

法務局の窓口に持参するか、オンラインでも申請できます。ぼくは窓口に持ち込みました。受付から登記完了まで約1週間です。

⑤ 各種届出をする

登記が完了したら、以下の届出を行います。

  • 税務署:法人設立届出書、青色申告の承認申請書(設立から3ヶ月以内)
  • 都道府県税事務所・市区町村:法人設立届出書
  • 年金事務所:社会保険の加入手続き(役員報酬を支払う場合)

ここまでの設立書類や届出は、フォームに沿って作れるサービスを使うと、ぐっと楽になります。ぼくもゼロから調べるのがつらくて、途中から頼りました。

マネーフォワード クラウド会社設立で書類を無料作成する

書類づくりを自分でやるか、設立サービスや専門家に任せるかの比べ方は合同会社の設立費用にまとめました。

⑥ 法人口座を開設する

これが一番時間がかかります。銀行は法律(犯罪収益移転防止法)に沿って、事業の内容や取引の目的を確かめます。確認される項目と、落ちたときの見直し方は法人口座の審査に落ちる理由にまとめました。

ぼくは三菱UFJ銀行でも口座を開設しましたが、正直なところ誰も気にしていないと思います。あとから開いたGMOあおぞらネット銀行の法人口座はオンラインで完結し、数日で使えるようになりました(GMOあおぞらネット銀行の法人口座)。どの銀行でも、事業内容を1〜2行で言い切れるようにしておくと手続きが進みやすいです。

設立が済んだら、会計ソフトを最初の月から動かす

設立の手続きが落ち着いたら、会計ソフトを最初の月から動かしておくのがおすすめです。freeeとマネーフォワードが二大定番で、どちらも法人口座やカードと連携できます。ぼくは両方さわって決めました。後からまとめてやろうとすると、必ず挫折します。

freee会計を見てみる / マネーフォワード クラウドを見てみる

→ freeeとマネーフォワードの選び方は「freeeとマネーフォワードどちらがいい?」に詳しくまとめています。

法人化のメリット──数字で見ると違う

「法人にする意味って何?」という問いに対して、ぼくが実感した答えを書きます。

節税効果

個人事業主の場合、所得が増えるほど所得税率が上がります(累進課税)。課税所得が900万円を超える部分には、所得税33%と住民税10%で合計43%の税率がかかります(所得税は国税庁 No.2260の速算表。復興特別所得税は別)。上の段の税率が高くなる、という意味です。

法人の場合、中小法人(資本金1億円以下)の法人税率は、年800万円以下の所得の部分が15%、超える部分が23.2%です(15%は2027年3月31日までに開始する事業年度の特例。出典:国税庁 No.5759)。実際には地方税なども加わるので、合計の目安は法人税の計算で試算しています。所得が増えたときの上の段の税率で比べると、法人のほうが低く抑えられる場面があります。

さらに大きいのは、役員報酬の設計です。会社から自分へ給与を出す形にすることで、給与所得控除(最大195万円)が使えます。個人事業主にはない控除です。

加えて、法人では経費にできるものの考え方が変わります。たとえば社宅は、役員から一定の家賃(賃料相当額)を受け取ることを条件に、会社の経費にできます(自宅を社宅にする方法)。役員の退職金も、会社から払えば経費になり得ます(役員退職金の計算方法)。なお、小規模企業共済の掛金は会社の経費ではなく、個人の所得から引ける所得控除です(出典:中小機構 小規模企業共済FAQ)。個別の扱いは税理士に確認してください。

社会的信用と仕事の受けやすさ

これは実感として一番大きかったです。法人の方が、仕事は受けやすいです。

特にBtoB取引では、発注側に稟議や与信審査があります。「個人への発注」より「法人への発注」の方が社内を通しやすい。先輩に「箱だけ作っておいて」と言われたのも、まさにこの理由です。法人格があることで、取引の入口のハードルが下がります。

有限責任

合同会社は有限責任です。万が一の場合、出資額(資本金)以上の責任を個人が負うことはありません。個人事業主の場合は無限責任なので、事業の借金は個人財産で弁済する義務が生じます。

所得分散

法人化すると、配偶者などを役員にして役員報酬を分散させることも可能です。それぞれに給与所得控除が適用されるので、家族全体の手取りが増える可能性があります。

個人事業主の方が向いているケースもある

法人化が必ずしも全員に向いているわけではありません。

所得がまだ大きくないうちは、節税効果よりも法人の維持コスト(税理士費用・社会保険料・均等割など)の方が上回ることがあります。

法人は、たとえ赤字でも法人住民税の均等割が毎年かかります。東京都23区の場合、1年分で最低でも年7万円です(設立初年度は月割。法人住民税の均等割)。個人事業主にはありません。

また、会計・税務の手間が増えます。個人事業主の確定申告より、法人の決算・申告は格段に複雑です。税理士なしで自力でやるのはかなり難しく、顧問契約の費用が発生します(金額は事務所と依頼範囲で異なります)。

「年収◯万円を超えたら法人化」とよく言われますが、同じ所得でも、役員報酬の決め方や税理士費用などの維持費で損得は入れ替わります。判断の軸と試算は法人成りのタイミングにまとめました。最終的には税理士に相談してから決めることを強くおすすめします。

やってみてわかった落とし穴

設立そのものより、その後の方が地味に大変でした。

法人口座開設は早めに動くべきでした。ぼくは登記完了後すぐに取引が始まったので、入金先がしばらく個人口座になってしまい、帳簿が複雑になりました。登記申請と並行して口座開設の準備を進めておくのが正解です。

役員報酬は期首に決める必要があります。法人税法上、役員報酬は事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、その後は原則1年間変更できません(定期同額給与のルール)。変更すると損金算入が認められないケースが出てきます。最初に設定するとき、慎重に考えた方がいいです。

社会保険料は想定より高いです。役員報酬を受け取る法人の代表者は、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務です。役員報酬から個人負担分が引かれ、法人負担分も発生します。国民健康保険や国民年金より保障は厚くなりますが、コストとしてはかなり増えます。

税理士は必要か

結論から書くと、ほぼ必須です。

個人事業主の確定申告は、freeeやMFを使えば自力でなんとかなります。でも法人の決算申告はそれとは別物です。法人税・消費税・地方税を別々に申告する必要があり、勘定科目の処理も複雑になります。税務調査のリスクもある。

ぼくの場合、顧問料は月2万円(年24万円)です。決して安くはないですが、ここをケチって申告ミスをした方が後で高くつきます。

ただ、税理士選びは慎重にした方がいいです。顧問料が安くても、質問のたびに追加費用を請求してくる事務所もあります。最初の面談で「節税の相談にも乗ってもらえるか」「月に何回連絡できるか」を確認しておくといいです。

健康保険はどうなるか

これが、法人化してから一番「大変だな」と感じたところです。

法人の代表者も、役員報酬を受け取るなら社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務です。一方で、役員報酬が0円など報酬のない役員しかいない法人は社会保険の適用を受けられず、国民健康保険と国民年金になります(日本年金機構)。年金の違いは国民年金と厚生年金の違いにまとめました。

社会保険料は役員報酬の金額によって変わりますが、報酬月額30万円の場合、健康保険料+厚生年金保険料の合計は月約4.5万円(個人負担分)です。これに加えて会社負担分も同程度発生します。つまり月9万円近くが社会保険料として出ていく計算です。

国民健康保険と比べると保障は手厚くなります(傷病手当金・出産手当金など)。でも純粋なコストとして見ると、独立前より負担は増えます。役員報酬をいくらに設定するかは、この社会保険料とのバランスも含めて考える必要があります。

ぼくが法人化してから正直「大変だった」と思うのは、この社会保険の手続きと毎月の支払いです。サラリーマン時代は会社が全部やってくれていたことを、全部自分でやることになります。

設立にかかった費用まとめ

  • 登録免許税:6万円
  • 印鑑作成(代表印・銀行印・角印):1〜2万円
  • 定款作成:freee会社設立の画面で作成
  • 合計:約8〜10万円

その後の年間ランニングコストとしては、税理士顧問料が月2万円(年24万円)、法人住民税均等割が年7万円です。これが個人事業主にはないコストです。

それでも法人にした、その理由

コストと手間の話を書いてきたけれど、最後に数字ではない話を書きます。

自分の会社があると、いい。

「tiny合同会社」という名前を作ったことで、自分の仕事に「形」が生まれました。フリーランスのぼくではなく、会社としてのtinyが仕事を受ける。その感覚が、精神的にはっきりした切り替えになりました。

それだけではなくて、チャレンジしている気持ちが湧いてくるんです。自分で決めて、自分で動かしている実感。社員として組織の中にいたときとは全然違う感覚です。

社会保険の手続きも、税理士とのやりとりも、正直面倒だと思うことはあります。でもそれも含めて、全部「自分の会社のこと」として動いている。その感覚が、続けるエネルギーになっています。

「そろそろかな」と思っている人の、参考になれば嬉しいです。

※ 本記事の情報は執筆時点のものです。税務・法務の詳細は必ず専門家に確認してください。

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