退職して国民年金に切り替えた人は、保険料を0円にできる場合があります。月17,920円、1年で215,040円。申請しなければ、そのまま口座から引き落とされ続けます。
ただ、この制度を「退職した人なら誰でも通る」と書いている記事が多くて、そこが気になっていました。通らない人がはっきりいます。分かれ目は自分の所得ではなく、配偶者と世帯主の所得のほうです。
ぼくは40歳で独立したとき、企業型DCをiDeCoに移す手続きには時間をかけました。でも年金のほうは、切り替えの手続きとしか思っていませんでした。順番を間違えたところから書きます。
退職した人が使えるのは「失業等による特例免除」
失業等による特例免除は、退職した人の前年所得をゼロとみなして、国民年金保険料の免除を審査する制度です。通常の免除とは別枠で、離職票などを添えて申請します。
会社を辞めて厚生年金から国民年金に切り替わると、令和8年度は月17,920円の保険料が発生します(令和7年度から410円上がりました)。収入が途切れているのに、金額は現役のときの所得と関係なく一律です。
日本年金機構も転職検討者向けの案内ページを出していますが、退職の手続きをした窓口で必ず案内されるとは限りません。制度が動くのは、自分から申請したときだけです。
前年に600万あっても、本人の所得はゼロとして審査される
通常の免除は前年の所得で判定されます。だから前年に600万円あった人は、自分は対象外だと思い込みます。ここが最大の落とし穴です。
特例免除は違います。退職した事実があれば、退職した本人の前年所得はゼロとして審査されます。前年に600万あろうが800万あろうが、その数字は見られません。
対象になるのは、失業のあった月の前月からの期間です。辞めた月の分から使えると考えて構いません。
落ちるのは、配偶者と世帯主で引っかかったとき
国民年金の免除は、申請した本人ひとりで判定されません。本人・配偶者・世帯主の3人全員が所得基準を下回っていることが条件です。ひとりでも超えていれば通りません。
特例免除が消してくれるのは、このうち本人の枠だけ。残りのふたりは、通常どおり前年の所得で審査されます。
| 退職後の状況 | 審査で見られる人 | 通りやすさ |
|---|---|---|
| ひとり暮らし・独身(世帯主も自分) | 実質、誰も残らない | 全額免除が通りやすい |
| 配偶者がパート・扶養内 | 配偶者 | 基準内に収まることが多い |
| 配偶者が正社員で収入あり | 配偶者 | 金額しだい。段階免除で通ることがある |
| 退職して実家に戻った | 世帯主である親 | 落ちやすい。納付猶予を検討 |
全額免除の所得基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」です。扶養がいなければ所得67万円、あなたを扶養に入れている配偶者なら扶養1人で102万円、子どもがもう1人いれば137万円。ひとり増えるごとに35万円ずつ上がります。収入ではなく所得なので、給与なら控除を引いたあとの数字で見ます。
見落とされやすいのは、いちばん下の行です。辞めて実家に戻ると、親の所得で落ちます。この場合に効くのが納付猶予制度で、こちらは20歳以上50歳未満が対象、審査するのは本人と配偶者だけです。世帯主の所得を見ません。免除と同じく、受給資格期間には算入されます。
全額が通らなくても、段階がある
免除は全額かゼロかの二択ではありません。全額・4分の3・半額・4分の1の4段階があり、申請すると上から順に自動で審査されます。
全額が落ちても、半額が通れば月8,960円で済みます。
| 区分 | 毎月の納付額 | 所得の基準(本人・配偶者・世帯主それぞれ) |
|---|---|---|
| 全額免除 | 0円 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 |
| 4分の3免除 | 4,480円 | 88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
| 半額免除 | 8,960円 | 128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
| 4分の1免除 | 13,440円 | 168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
ただ、一部免除には全額免除にない注意点があります。免除されなかった残りを自分で納めないと、その期間はまるごと未納扱いになります。半額免除が通ったのに残りの8,960円を払わないでいると、免除の効果ごと消えます。
通らなかったから諦める、ではなく、いくらまで下がるかを確かめる。そういう制度です。
免除と未納は、まったく違う
免除は、払わなくてよいと国に承認された状態です。未納は、ただ払っていない状態です。同じ「払っていない」でも、扱いが3つの点で分かれます。
ひとつ目は、受給資格期間です。免除期間は年金を受け取る資格の年数にちゃんと算入されます。未納は入りません。
ふたつ目は、障害年金と遺族年金です。これらには保険料の納付要件があり、免除期間は要件を満たす期間として数えられます。未納が多いと、いざというときに受け取れないことがあります。金額の損得より、こちらのほうが重い違いです。
3つ目は、将来もらえる額です。ここは正直に書いておきます。全額免除の期間は、保険料を全額納めた場合の2分の1で年金額に反映されます。免除しても年金は減らない、と書いている記事がありますが、それは受給資格期間の話と混ざっています。減ります。半分は残ります。
減った分は、10年以内なら追納で埋められます。ただし承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に追納すると、当時の保険料に加算額が上乗せされます。収入が戻ってから2年以内に追納すれば加算はつきません。
iDeCoを積んでいる人は、申請する前に止まる
国民年金保険料の免除または納付猶予を受けている第1号被保険者は、iDeCoに掛金を出せません。全額免除でも一部免除でも同じです。
これは独立や転職の準備をしている人にとって、地味に大きい話です。すでにiDeCoを積んでいる状態で免除が承認されると、掛金は自動では止まりません。引き落としが続いたあと、国民年金の免除が判明した時点で休止の案内が届き、その月の掛金は還付されます。手続きが二度手間になります。
免除を申請するなら、iDeCoの拠出をどうするかを先に決めておく。独立するときのiDeCoの扱いは別記事にまとめました。
手続きは書類1枚。2年1ヶ月まで遡れる
やることは単純です。住所地の市区町村役場の国民年金窓口か年金事務所で、退職したので免除を申請したい、と言うだけです。郵送と電子申請もできます。
持っていくもの
- 雇用保険被保険者離職票のコピー、または雇用保険受給資格者証・受給資格通知のコピー
- 基礎年金番号がわかるもの(年金手帳・基礎年金番号通知書など)
- 本人確認書類
書くのは国民年金保険料免除・納付猶予申請書の1枚です。
遡れる期間は、申請時点から2年1ヶ月前まで。すでに半年払ってしまった人も間に合います。月17,920円で計算すると、半年分で107,520円が戻る可能性があります。
もうひとつ、忘れられやすいことがあります。特例免除の承認を受けた人は、翌年度もあらためて申請が必要です。1回出せば自動で続くものではありません。免除の年度は7月から翌年6月までで区切られるので、6月ごろに一度思い出す仕組みを作っておくのが安全です。
独立のとき、ぼくが動かしたのはiDeCoだけだった
独立して最初に片づけたのが、企業型DCの移換でした。会社で積み立てていた確定拠出年金は、辞めるとそのまま置いておけません。移換先を自分で決めて、iDeCoに移しました。
運用商品を選んで、口座を開いて、書類を送る。決めることが多くて、すぐには終わりませんでした。放っておくと国民年金基金連合会に自動移換されて、運用が止まったまま手数料だけ引かれ続けます。だから必死で調べました。
でも同じ時期、年金のほうは切り替えの手続きをしただけで終わっていました。健康保険は任意継続と国保を電卓で並べて比べたのに、年金だけ素通りしています。独立するときの健康保険の記事は、そのときの計算の記録です。
理由ははっきりしています。iDeCoも健康保険も、自分で選ばないと先に進まない手続きでした。決めないと宙に浮く。だから調べた。年金の切り替えは、窓口で言われたとおりに書けば完了します。決めるところがないから、調べませんでした。
制度は、知っている人を助ける設計ではありません。申請した人だけを助ける設計になっています。悪意があるわけでもなくて、そういう作りになっている。だから、選ばされない場面ほど抜けます。
しかもこのふたつは、記事の途中で書いたとおりつながっています。免除を受けている間は、iDeCoに掛金を出せません。iDeCoに移す手続きだけを先に済ませて、あとから免除を申請すると、還付の手間が増えます。片方だけ見ていると、順番を間違えます。独立や退職で動く手続きは、独立開業のチェックリストに一覧で置いています。
今週やることは、ひとつだけです。離職票か雇用保険受給資格者証を探して、手元にあるか確認する。窓口に行くかどうかは、そのあとで決めれば間に合います。
よくある質問
Q. 自己都合で辞めた場合も、特例免除は使えますか?
使えます。退職の理由は問われません。雇用保険の給付制限の有無とも関係なく、離職票または雇用保険受給資格者証で退職の事実が確認できれば審査の対象になります。
Q. 免除が通ると、将来の年金はいくら減りますか?
全額免除の期間は、保険料を全額納めた場合の2分の1で年金額に反映されます。ゼロにはなりません。減った分は10年以内なら追納できます。
Q. 実家に戻って親と同居していますが、親の所得で落ちました。ほかに方法はありますか?
50歳未満であれば納付猶予制度が使えます。審査するのは本人と配偶者だけで、世帯主である親の所得は見られません。受給資格期間には算入されますが、年金額には反映されない点が免除との違いです。
Q. すでに数ヶ月分を払ってしまいました。戻ってきますか?
申請時点から2年1ヶ月前までの期間が対象になるので、納付済みの分も免除が承認されれば還付の対象になります。窓口で納付済みである旨を伝えてください。
Q. 転職先がすぐ決まっている場合も、申請する意味はありますか?
空白が1ヶ月でもあれば、その月の保険料は発生します。金額は17,920円です。手続きの手間と比べて判断することになりますが、空白が2ヶ月以上あるなら申請する価値はあります。
出典
- 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」(所得基準・審査対象者・納付猶予の年齢要件)
- 日本年金機構「【転職をご検討中の方へ】国民年金の加入、保険料免除・納付猶予制度のご案内」(退職者の前年所得の扱い・必要書類)
- 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」(10年以内・3年度目以降の加算額)
- 令和8年度の国民年金保険料 月額17,920円(前年度比410円増)
(この記事の情報は2026年8月11日時点のものです。所得基準や必要書類は市区町村によって運用が異なる場合があるため、最終的な判断は年金事務所または住所地の国民年金窓口で確認してください)