独立の準備でいちばん後回しにされるのが、年金まわりです。ぼくもそうでした。結論から書きます。会社員から独立すると、iDeCoは自動では切り替わりません。自分で手続きが要ります。そして掛金の上限は、会社員時代の月2.3万円から、月6.8万円へと約3倍に増えます。知らないと、放置して損をするか、増やせる枠を使わないままになります。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳でtiny合同会社を設立しました。独立時にいちばん分からなかったのが、この確定拠出年金の扱いでした。当時ほしかった情報を、そのまままとめます。
まず、iDeCoとは何か
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自分で積み立てて、自分で運用し、原則60歳以降に受け取る、自分でつくる年金制度のことです。国が用意した制度ですが、入るかどうかは任意です。
最大の特徴は、税制の優遇が3段階あることです。
- 拠出時:掛金が全額、所得控除の対象になる
- 運用時:運用で出た利益に税金がかからない
- 受取時:退職所得控除や公的年金等控除が使える
独立した人にとって、いちばん効くのは1つ目です。掛金がまるごと所得から引かれるので、その年の税金が減ります。フリーランスは会社員のような退職金がないぶん、この制度の意味が大きくなります。
会社員と自営業では、枠がまったく違う
ここがこの記事の中心です。iDeCoの掛金上限は、加入している年金の区分で決まります。独立すると、この区分が変わります。
| 立場 | 年金の区分 | 掛金の上限(月額) |
|---|---|---|
| 会社員(企業年金なし) | 第2号被保険者 | 23,000円 |
| 会社員(企業年金あり) | 第2号被保険者 | 20,000円 |
| 自営業・フリーランス | 第1号被保険者 | 68,000円 |
約3倍です。年間にすると、会社員時代の27.6万円に対し、自営業は81.6万円。所得控除の額がそのまま変わるので、節税の効き方も違ってきます。
ただし注意点があります。この6.8万円は、国民年金基金や国民年金の付加保険料と合算した上限です。国民年金基金にも入るなら、その分だけiDeCoに回せる額は減ります。両方をフルで使えるわけではありません。
2026年12月から、制度が変わります
ここは、いま知っておく価値があります。2026年12月1日に制度改正があり、掛金の上限が引き上げられます。
| 現行 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 第1号(自営業・フリーランス) | 月68,000円 | 月75,000円 |
| 第2号(会社員・公務員) | 月23,000円/20,000円 | 月62,000円 |
| 加入できる年齢 | 65歳未満 | 70歳未満(一定の条件あり) |
掛金上限の引き上げが適用されるのは、2027年1月の掛金からです(出典:楽天証券)。
注目すべきは、会社員の枠が月2.3万円から6.2万円へと大きく上がることです。これまで「独立すると枠が3倍になる」ことが一つの利点でしたが、その差は縮まります。逆に言えば、会社員のうちから使い倒せる制度になる、ということでもあります。
独立するときに、実際に何をするのか
手続きの話に入ります。会社を辞めた時点で、iDeCoは自動的には切り替わりません。ここが最大の落とし穴です。
すでにiDeCoに加入していた場合
加入者としての資格は続きますが、区分の変更届を出す必要があります。第2号被保険者から第1号被保険者へ変わったことを、運営管理機関(口座を持っている金融機関)に届け出ます。
これを出さないと、掛金の上限は会社員時代のままです。せっかく枠が3倍になっているのに、2.3万円のまま積み立て続けることになります。損ではありませんが、機会を捨てています。
あわせて、掛金の引き落とし方法も変わります。会社員時代に給与天引きにしていた場合、そのままでは引き落とせません。個人の口座振替に切り替える手続きが要ります。ここを放置すると、掛金が止まります。
会社の企業型DCに入っていた場合
会社に企業型確定拠出年金があった人は、こちらが該当します。退職すると、その資産をiDeCoに移す手続きが必要です。これを移換と呼びます。
ここがいちばん危険な部分です。手続きをしないまま一定期間が過ぎると、資産が国民年金基金連合会に自動的に移されます。この状態を自動移換と言います。
自動移換されると、次のことが起きます。
- 運用されない:現金のまま置かれるので、増えません
- 手数料が引かれ続ける:管理のための手数料が資産から差し引かれます
- 加入期間に算入されない:受け取り開始年齢の判定に影響する場合があります
放置するほど、静かに目減りしていきます。退職したら、まずここを確認してください。
手続きの順番
実際の流れを整理します。独立前後で、この順番でやると詰まりません。
- 退職前:企業型DCがあるか、iDeCoに加入しているかを確認する
- 退職後すぐ:国民年金の第1号被保険者への切り替えを市区町村で行う(これは年金全体の手続き)
- iDeCoの口座を用意する:持っていなければ金融機関を選んで開設する
- 区分変更または移換の書類を出す:加入者被保険者種別変更届、または移換の申出書
- 掛金額を決めて、口座振替を設定する:上限まで使うかは資金繰り次第
書類の受付から反映まで、数週間から2ヶ月ほどかかることがあります。独立してから慌てるより、退職が決まった時点で動くほうが楽です。
ただし、全員が上限まで入れるべきではない
正直に書きます。iDeCoの最大の弱点は、原則60歳まで引き出せないことです。
独立直後は、収入が不安定になります。ぼく自身、独立して最初に痛感したのは、売上より先に手元の現金がどれだけ残るかが生命線だということでした。ここで月6.8万円を年金に固定してしまうと、資金繰りが厳しくなったときに動かせません。
だから、順番はこう考えるのがいいと思っています。
| 優先順位 | 何に回すか | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 生活防衛資金(6ヶ月〜1年分) | 引き出せる現金がないと、仕事を選べなくなる |
| 2 | 事業に必要な運転資金 | 売上が入るまでの立て替えが必要になる |
| 3 | iDeCo・小規模企業共済など | 節税効果は大きいが、動かせない |
節税だけを見て順番を間違えると、黒字なのに現金がない状態になります。お金の防衛ラインの考え方は、独立・開業前にやることリストにも書きました。
なお、フリーランスには小規模企業共済という別の制度もあります。こちらも掛金が全額所得控除になり、iDeCoと違って一定の条件で解約できます。併用もできるので、両方を見比べてから配分を決めるのが現実的です。
金融機関は、何で選ぶか
iDeCoは、どこで口座を作るかで差が出ます。見るべきは3点です。
- 口座管理手数料:毎月かかります。無料のところと有料のところがあり、20年30年の積立では差が出ます
- 商品のラインナップ:低コストの投資信託が揃っているか。信託報酬の差は長期で効きます
- 手続きのしやすさ:オンラインで完結するか、書面が必要か
ぼくの感覚では、手数料の安さを最優先でいいと思います。運用成績は読めませんが、手数料は確実に引かれるからです。読めないものより、確実なコストを削るほうが合理的です。
独立時に、ぼくが分からなかったこと
最後に、当時つまずいた点を正直に書きます。
いちばん分からなかったのは、そもそも自分が何をすべき立場なのかでした。企業型DCとiDeCoの違い、移換と変更の違い、国民年金の手続きと確定拠出年金の手続きが別物であること。用語が似ていて、どれが自分に該当するのか判別できませんでした。
整理すると、判断はこの2問で済みます。
- 会社に企業型DCがあったか → あったなら「移換」が必要
- 自分でiDeCoに入っていたか → 入っていたなら「区分変更」が必要
両方に当てはまる人もいます。該当するものを全部やる、というだけの話でした。言葉が難しいだけで、構造は単純です。
そして、この手のことは税理士に聞くと早いです。年金の専門ではありませんが、独立直後の資金計画とセットで相談できます。税理士の選び方はいい税理士とは何かの記事に書きました。
よくある質問
独立したらiDeCoの掛金上限はいくらになりますか
自営業・フリーランス(第1号被保険者)の場合、月額68,000円です。会社員時代の23,000円(企業年金がない場合)から約3倍になります。ただし、国民年金基金や付加保険料と合算した上限であるため、それらに加入している場合はiDeCoに回せる額が減ります。
会社を辞めたら、iDeCoは自動で切り替わりますか
切り替わりません。第2号被保険者から第1号被保険者への区分変更届を、口座のある金融機関へ提出する必要があります。また、給与天引きだった場合は個人口座からの振替に変更しないと掛金が止まります。
企業型DCに入っていた場合はどうなりますか
退職後、iDeCoへ移換する手続きが必要です。手続きをしないまま一定期間が過ぎると自動移換となり、資産が現金のまま運用されず、手数料が引かれ続けます。加入期間としても算入されない場合があるため、退職したら早めに確認してください。
2026年12月の改正で何が変わりますか
掛金の上限が引き上げられます。第1号被保険者は月68,000円から75,000円へ、第2号被保険者は月23,000円などから62,000円へ変わります。加入できる年齢も65歳未満から70歳未満に広がります。掛金への適用は2027年1月分からです。
独立直後から上限いっぱい入れるべきですか
おすすめしません。iDeCoは原則60歳まで引き出せないためです。独立直後は収入が不安定になるので、まず生活防衛資金と事業の運転資金を確保し、そのうえで余力の範囲で拠出するほうが安全です。節税を優先して現金が枯れると、仕事を選べなくなります。
まとめ
独立時のiDeCoで押さえるべきは、3つだけです。
1つ目、自動では切り替わらない。区分変更か移換の手続きが要ります。特に企業型DCの放置は、運用されないまま手数料だけ引かれ続けるので危険です。
2つ目、枠が約3倍になる。月2.3万円から6.8万円へ。そして2026年12月の改正で7.5万円まで上がります。
3つ目、上限まで入れるかは別問題。60歳まで引き出せないので、生活防衛資金と運転資金を先に確保してからです。
用語が似ていて分かりにくい制度ですが、やることは「該当するものを届け出る」だけです。難しいのは手続きではなく、自分がどれに当てはまるかを判別する部分でした。