独立を考え始めると、税理士に頼むべきかどうかで一度は迷います。そして次に、どう選べばいいのか分からなくなります。結論から書きます。いい税理士とは、節税がうまい人のことではありません。あなたの事業を理解したうえで、判断の材料をくれる人です。ここを取り違えると、契約してから後悔します。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳でtiny合同会社を設立しました。数字は苦手なほうです。だからこそ、誰に頼むかで生活が変わることを実感しました。順番に書いていきます。
そもそも、税理士は何をしてくれる人なのか
まず前提を揃えます。税理士とは、税務の代理・書類の作成・相談を業務として行える国家資格者のことです。この3つは、税理士以外がやると法律違反になります。
ここでよくある誤解があります。記帳や経理の代行は、税理士でなくてもできます。だから「記帳代行だけなら安いところがある」という話が出てきます。逆に言えば、税理士に頼む価値は記帳そのものではなく、判断が必要な部分にあります。
この経費は落ちるのか。いま法人化すべきか。役員報酬をいくらに設定するか。こうした問いは、正解が一つではありません。事業の状況によって答えが変わります。だから、人を選ぶ意味が出てきます。
いい税理士の条件は、4つに絞れる
ぼくが実際に頼んでみて、また周りの独立した人の話を聞いて、条件はこの4つに集約されると思っています。
1. 質問に「場合による」で終わらせない
税務には、白黒つかない領域があります。だから「グレーですね」で終わる人がいます。でも、それでは頼んでいる意味がありません。
いい税理士は、そのグレーの中で、どこまでが安全でどこからが危ないかの線を示してくれます。「この使い方なら説明がつきます」「ここまでいくと指摘されます」と、判断できる形に変えてくれる。答えではなく、判断材料をくれる人が、いちばん役に立ちます。
2. あなたの業種と規模を理解している
税理士にも得意分野があります。飲食に強い人、不動産に強い人、フリーランスや一人法人を多く見ている人。ここが合っていないと、話が噛み合いません。
大企業を主に見ている事務所に一人法人が行くと、優先順位が下がることがあります。逆に、同じような規模の顧客を多く抱えている税理士なら、よくある落とし穴を先回りして教えてくれます。
3. こちらから聞かなくても、期限を教えてくれる
独立して分かったのは、税務の失敗の多くが期限の見落としだということです。青色申告の申請、消費税の届出、年末調整、決算。知らなければ、そもそも準備できません。
いい税理士は、こちらが聞く前に「来月これがあります」と言ってくれます。逆に、聞いたことにしか答えない人だと、知らないことは永遠に知らないままになります。
4. 連絡が返ってくる
拍子抜けするかもしれませんが、これが実務ではいちばん重要かもしれません。返信が遅い税理士は、それだけで機会を失わせます。
判断が必要な場面は、たいてい急に来ます。この契約を受けるか、この買い物をいまするか。その場で相談できないと、自分で判断するしかなくなります。それなら頼んでいる意味が薄れます。
逆に、選んではいけないパターン
正直に書くと、こちらのほうが判断しやすいかもしれません。
| 兆候 | なぜ危ないか |
|---|---|
| 節税を強く推してくる | 過度な節税は税務調査の対象になりやすい。リスクを負うのは自分 |
| 質問への返信が遅い | 判断が必要なときに相談できず、頼む意味が薄れる |
| 専門用語のまま説明する | 理解できない説明では、自分で判断できない |
| 料金体系が不明瞭 | 後から追加費用が出て、費用対効果が読めなくなる |
| 会ったことがない担当者がつく | 営業と実務担当が別で、話が通っていないことがある |
いちばん警戒したいのは、最初の行です。節税を売りにする人は、一見いちばん頼もしく見えます。でも、税務調査で否認されたときに責任を負うのは、税理士ではなく事業者本人です。いい税理士ほど、やりすぎには慎重です。
相場を知らないと、判断できない
費用も判断材料のひとつです。相場を知らないまま提示額を見ても、高いか安いか分かりません。おおよその目安は次のとおりです。
- 個人事業主の顧問:月1万円台から3万円程度。確定申告のみの依頼なら数万円から
- 一人法人の顧問:月2万円台から5万円程度。決算料が別途かかることが多い
- 決算申告:顧問料の4〜6ヶ月分が目安になることが多い
金額は事業規模や依頼範囲で変わるので、必ず見積もりで確認してください。ここで大事なのは、安さで選ばないことです。安い分だけ、対応の範囲か、レスポンスの速さのどちらかが削られています。
ぼくの感覚では、顧問料は「相談できる権利」への支払いです。記帳や申告書の作成に払っていると考えると高く感じますが、判断に迷ったときにすぐ聞ける相手がいることへの費用だと考えると、納得感が変わります。
独立前に頼むべきか、後でいいのか
タイミングの話もよく聞かれます。ぼくの答えは独立前です。理由は2つあります。
ひとつは、法人にするか個人事業主でいくかの判断そのものに、税務の知識が要るからです。ここを自分で決めてから相談に行くと、すでに最適でない選択をしていることがあります。
もうひとつは、開業直後がいちばん届出が多い時期だからです。開業届、青色申告承認申請、法人なら設立届に給与支払事務所の届出。しかも期限があります。この時期に相談相手がいないと、あとで取り返せない見落としが出ます。
ぼくが独立前にやったことの全体像は、マーケターが独立・開業前にやることリストにまとめました。会社設立の実務は一人で合同会社を設立した話に書いています。
どうやって探すか
探し方は大きく3つです。それぞれ性格が違います。
| 探し方 | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|
| 知人の紹介 | 信頼できる人が近くにいる | 合わなかったときに切りにくい |
| 自分で検索して問い合わせ | 業種特化で探したい | 比較に時間がかかる |
| 紹介サービスを使う | 比較して選びたい | 提案された中から選ぶ形になる |
ぼくが使ったのは3番目でした。理由は単純で、比較対象がないと、いいかどうかを判断できないからです。1人だけ会って決めると、その人が普通なのか優れているのか分かりません。
紹介サービスなら、税理士ドットコムが代表的です。条件を伝えると複数の税理士を紹介してもらえて、費用の相談もできます。実際に使った感想は独立したら税理士は必須という記事に詳しく書きました。
別の選択肢として、税理士紹介エージェントのように、担当者が要望を聞いたうえで絞り込んでくれるサービスもあります。
面談で必ず聞いたほうがいい5つの質問
誰に頼むか決める前に、これだけは聞いてください。答え方で、かなり分かります。
- 「同じくらいの規模の顧客は、どれくらいいますか」:自分の規模を見慣れているかが分かる
- 「連絡はどの手段で、どれくらいで返ってきますか」:実務でいちばん効く部分
- 「顧問料に含まれる範囲と、別料金になるものを教えてください」:後出しの費用を防ぐ
- 「担当は、いま話している方ですか」:営業と実務担当が違う場合を確認する
- 「うちの規模で、やらないほうがいい節税はありますか」:やりすぎを止めてくれる人かが分かる
最後の質問が、いちばん効きます。ここで具体的に「これはやめたほうがいい」と言える人は、リスクを理解しています。逆に、できることばかり並べる人は、少し警戒したほうがいいです。
よくある質問
いい税理士とは、どんな税理士ですか
節税がうまい人ではなく、判断材料をくれる人です。具体的には、グレーな論点について安全と危険の線を示せること、あなたの業種と規模を理解していること、期限を先回りして教えてくれること、そして連絡が早いことの4つが揃っている人です。
税理士の費用相場はどれくらいですか
個人事業主の顧問で月1万円台から3万円程度、一人法人で月2万円台から5万円程度が目安です。決算申告は顧問料の4〜6ヶ月分程度かかることが多くなります。事業規模や依頼範囲で変わるため、必ず見積もりで確認してください。
独立前と独立後、いつ頼むべきですか
独立前です。法人にするか個人事業主でいくかという判断自体に税務の知識が必要ですし、開業直後は届出が集中して期限も多いためです。自分で決めてから相談すると、すでに最適でない選択をしている場合があります。
節税を強く勧める税理士は避けたほうがいいですか
慎重に見たほうがいいです。過度な節税は税務調査で否認される可能性があり、その責任を負うのは税理士ではなく事業者本人です。経験のある税理士ほど、やりすぎには慎重で、やらないほうがいいことも教えてくれます。
税理士は本当に必要ですか
売上規模が小さいうちは、会計ソフトだけで回ることもあります。ただ、法人化する場合や、判断に迷う取引が増えてきた場合は、頼んだほうが結果的に安く済むことが多いです。顧問料は作業への支払いではなく、相談できる権利への支払いだと考えると判断しやすくなります。
まとめ
いい税理士とは、節税がうまい人ではありません。グレーな部分に線を引いてくれて、期限を先回りして教えてくれて、連絡が早い人です。派手さはありませんが、この3つが揃っていると、独立後の消耗がかなり減ります。
そして選ぶときは、必ず複数と話してください。比較対象がないと、いいかどうかは判断できません。面談では、できることより「やらないほうがいいこと」を聞くのが近道です。
税務は、後から取り返しがつきにくい領域です。だからこそ、独立する前に相談相手を決めておくほうが、安心して踏み出せます。