会社員時代、経費精算は月末にレシートをシステムへ放り込めば終わりでした。承認するのは上司で、判断するのは経理でした。
独立して、その全部が自分の仕事になりました。領収書を1枚手に取るたびに「これは経費になるのか」を自分で決める。誰も承認してくれない代わりに、間違えたら税務調査で指摘されるのも自分です。
結論から書きます。仕事のための旅費は、交通費も宿泊費も経費になります。線引きはたったひとつ、「その支出が事業に必要だったと、他人に説明できるか」です。この記事では、一人法人を経営しているぼくの実感ベースで、旅費の線引きと、精算を回すコツをまとめます。
※2026年7月27日時点の情報です。個別の判断は顧問税理士に確認してください。ぼくが税理士を探したときの話は「独立したら税理士は必須。ぼくが税理士ドットコムをすすめる理由」に書いています。
旅費が経費になる基準は「事業との関連を説明できるか」
旅費が経費になる基準は、事業との関連性です。金額の大小でも、領収書の有無でもありません。
取引先との商談、現地調査、展示会やカンファレンスへの参加、撮影や取材。目的が事業であれば、そのための移動と宿泊は経費(勘定科目でいう旅費交通費)になります。逆に、どれだけ安くても、目的が私的な旅行なら経費にはなりません。
判断に迷ったら、ぼくはこう自問しています。
「税務署の人に、この出張の目的を30秒で説明できるか」
説明できるなら経費。口ごもるなら、たぶんグレーです。グレーを無理に押し込むより、白いものを漏らさず計上するほうが、一人社長の精神衛生にはずっといいと思っています。
経費になる旅費・ならない旅費の一覧
出張に紐づく支出は、思っているより広く経費になります。一覧にします。
| 支出 | 経費になるか | 補足 |
|---|---|---|
| 航空券・新幹線・電車・バス | ◯ | 事業目的の移動なら全額 |
| 宿泊費 | ◯ | 業務に必要な日数分 |
| タクシー | ◯ | 深夜・荷物・時間の事情を説明できる範囲で |
| 空港・駅までの移動、駐車場 | ◯ | 自宅から空港までも出張の一部 |
| 出張先での取引先との食事 | ◯ | 接待交際費または会議費として |
| 出張中の一人での食事 | △ | 原則は経費にならない(日当でカバーする領域・後述) |
| 観光・お土産(私用) | ✕ | 取引先への手土産なら◯(接待交際費) |
| 家族・同行者の分 | ✕ | 従業員として業務に従事している場合を除く |
△と✕の扱いこそが、この後の本題です。一人での食事は「日当」の設計で、観光が混ざる出張は「按分」の考え方で、それぞれ整理できます。
観光を兼ねた出張は、按分して業務部分だけ経費にする
観光を兼ねた出張は、全額経費でも全額自腹でもなく、業務部分だけを経費にします。これを按分と呼びます。
考え方はシンプルです。
- 出張の主目的が業務(2泊3日のうち2日が商談、最終日に半日観光):往復の交通費は経費。宿泊費は業務日数分。観光にかかった費用だけ除く
- 主目的が旅行(家族旅行のついでに取引先へ挨拶):挨拶に直接かかった費用だけ経費。往復の交通費は原則自腹
- ワーケーション:滞在先でPCを開いただけでは経費になりません。その場所である必要性と、業務の実態(打ち合わせの記録・成果物)を残せる部分だけ
ぼくの感覚では、按分は「攻める技術」ではなくて「守る技術」です。旅程表を残しておいて、業務と私用を最初から分けて記録しておく。そうすると堂々と業務部分を計上できます。分けずに全額突っ込むのが、いちばん危ない。
一人法人なら「出張旅費規程」で日当が出せます
一人法人には、個人事業主には使えない武器があります。出張旅費規程を作って、自分に日当を支給する方法です。
日当は、出張中の細かい実費(一人での食事、通信費、雑費)をまとめてカバーする定額の手当です。これがなかなか強力な仕組みで、
- 法人側:損金(経費)になる
- 受け取る個人側:通常必要と認められる範囲なら所得税がかからない(所得税法9条1項4号。範囲の考え方は所得税基本通達9-3)
- 消費税:国内出張の日当は課税仕入れとして処理できる(国税庁タックスアンサー No.6459)
という三方よしの設計になっています。個人事業主は自分に日当を払えません(事業主本人への手当という概念がないため)。ここは法人化のメリットとして、もっと知られていい話だと思います。
ただし条件があります。
- 出張旅費規程を先に作っておくこと。金額・対象・距離の基準を明文化する。一人でも「全役職員に適用される規程」として作る
- 金額が世間相場から離れていないこと。産労総合研究所の2019年度 国内・海外出張旅費に関する調査では、国内の宿泊出張の日当(全地域一律)は社長で平均4,598円、一般社員で平均2,355円です。一人社長だからと1日3万円のような設定にすると、給与として課税される(=非課税の意味がなくなる)リスクがあります
- 出張の記録を残すこと。規程だけ作って実態がないのがいちばんまずい
規程のひな形は税理士がたいてい持っています。作るのは1日仕事です。年に数回でも出張がある一人社長なら、検討する価値はあると思います。
精算を回すコツは「3行の出張メモ」
経費精算でいちばん大事な証拠は、領収書ではなくて「目的の記録」です。
領収書は「いくら払ったか」しか証明してくれません。税務調査で聞かれるのは「なぜ払ったか」のほうです。だからぼくは、出張のたびに3行だけメモを残しています。
7/15-16 福岡
◯◯社・△△さんと新規案件の打ち合わせ(15日14時〜)
16日午前は□□の現地確認
これだけです。日報でも報告書でもなく、3行。カレンダーの予定にメモ欄として書いておくだけでも機能します。半年後の自分と、数年後の税務調査官への手紙だと思って書いています。
実務の細かい話も2つだけ。
- 電車・バスなど公共交通機関は3万円未満なら領収書なしでも帳簿記載で仕入税額控除ができます。それに、出張旅費や日当として支給するものは、一定の範囲で帳簿のみの保存で控除が認められる特例があります(インボイス制度の出張旅費等特例。詳細は国税庁タックスアンサー No.6459)
- 領収書・旅程・メモを放り込む先は1か所に決めておく。ぼくは会計ソフトに直接放り込む運用です。会計ソフトの選び方は「フリーランス・一人法人の会計ソフトはfreeeとマネーフォワードどちらがいい?」に書きました
予約を1か所にまとめると、精算はもっと楽になります
ここまで書いた「証拠を残す」を、いちばん簡単にする方法があります。予約する場所を1か所に固定することです。
航空会社のサイト、ホテルの予約サイト、比較サイトとバラバラに予約すると、領収書もメールも散らばります。月末に「あの領収書どこだっけ」と探す時間は、一人社長にとって純粋なコストです。
国内の航空券を比較できるサイトはいくつかあります。経費精算の観点で見ると、選ぶ基準は「安さ」よりもどれだけ1か所にまとまるかです。主要3社を並べます(2026年7月時点で各社公式を確認)。
| サービス | 対応航空会社 | 航空券以外の取扱 | 経費精算の観点での強み |
|---|---|---|---|
| エアトリ |
国内ほぼ全社(JAL・ANA・スカイマーク・Peach・ジェットスターなど14社) | ホテル・新幹線・レンタカー・高速バス・ツアー | 移動も宿泊も履歴が1か所に集まる。購入額の2%がポイントで戻る |
| ソラハピ |
主要8社(JAL・ANA・Peach・ジェットスター・AIRDO・スカイマーク・スターフライヤー・ソラシドエア) | 航空券のみ | 航空券だけに絞られていて画面が単純。あと払い(ペイディ)が使える |
| 格安航空券センター |
5社(JAL・スカイマーク・FDA・Peach・トキエア)※ANA非対応 | ホテル・レンタカー・ツアー | 入金確認メールに領収書のURLが届くと公式に明記されている |
3社とも国内線専門で、支払い方法もクレジットカード・銀行振込・コンビニ・Amazon Payとほぼ横並びです。差が出るのは、対応している航空会社の数と、航空券以外を扱うかどうかでした。
ぼくが国内出張ですすめるのはエアトリです。理由は最安値だからではなく、ANAを含めて全社を横断できて、しかもホテルや新幹線まで同じ履歴に残るからです。経費精算で効くのは1円の差ではなく、月末に探し回らなくて済むことのほうです。予約履歴と領収書がマイページに揃っている状態は、そのまま精算の台帳になります。
ANAを使わないと決まっているなら、格安航空券センターも選択肢になります。領収書がURLで届くと明記しているのは3社の中でここだけで、経費で落とす前提の出張とは相性がいいところです。
エアトリで国内航空券を比較してみる
会員登録は無料。比較するだけなら1分です。
泊まりの出張なら、航空券とホテルをセットで予約できるエアトリプラスのほうが向いています。移動と宿泊がひとつの予約にまとまるので、精算の手間が半分になりますし、セットのほうが総額が安くなることも多いです。
エアトリプラスで航空券とホテルをまとめて予約する
日帰りなら航空券のみ、泊まりならセット、が使い分けの目安です。
よくある質問
Q. 個人事業主でも日当は出せますか?
出せません。日当を非課税で受け取れる仕組みは、法人から役員・従業員への支給が前提です。個人事業主が自分に日当を払うことはできず、出張中の実費(交通費・宿泊費)を個別に経費計上する形になります。従業員を雇っている場合、その従業員への日当は支給できます。
Q. 領収書をなくした交通費は経費にできませんか?
できます。電車・バスなどそもそも領収書が出ない支出は、日付・区間・金額・目的を記録しておけば経費にできます(出金伝票や会計ソフトのメモで十分です)。ただし航空券やホテルのような金額の大きいものは、予約サイトのマイページから領収書を再発行できることが多いので、まず予約履歴を確認するのが早いです。
Q. マイルで取った航空券は経費になりますか?
原則なりません。経費はお金を払った事実に対して計上するもので、マイル利用分は支出がないためです。逆に、会社の経費で貯めたマイルを私的に使う運用は税務上グレーなので、一人法人なら「マイルも事業の出張に使う」に統一しておくのがすっきりします。
Q. 前泊・後泊は経費になりますか?
業務上の必要があれば経費になります。朝一の会議のための前泊、最終便がなくなった場合の後泊は問題ありません。一方、業務が終わったあと観光のために延泊した分は私費です。ここも「30秒で説明できるか」で判断できます。
おわりに──経費精算は、商売の輪郭を確かめる作業
独立して気づいたのは、経費精算は「面倒な事務作業」ではなくて、自分の商売の輪郭を確かめる作業だということでした。
この出張は何のためだったのか。この移動は売上につながったのか。領収書の1枚1枚に説明をつける習慣は、そのまま事業の解像度になります。
線引きに迷う日もあります。でも、迷ったら説明できるほうを選ぶ。それだけで、一人社長の経費精算はだいたいうまくいくと、ぼくは思っています。