最終更新:2026年10月19日
役員借入金とは、会社が社長などの役員からお金を借りているときに使う勘定科目で、会社から見れば返す義務のある負債です。一人法人では、設立の前後に社長個人のカードや口座で払った会社の経費が、そのまま役員借入金になる場面がいちばん多くあります。会社が元本を返しても社長の所得は増えず、税金の対象になるのは利息を受け取った場合のその利息で、社長個人の雑所得になります。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立しました。登記が終わってすぐに取引が始まったので、入金先がしばらく個人の口座になり、帳簿が複雑になりました。会社と個人のお金が同じ口座を行き来すると、どちらがどちらに借りているのかの記録が増えます。役員借入金は、その記録のうち「会社が社長に借りている」側の名前です。この記事は2026年10月19日時点の制度で書いています。
役員借入金とは?結論から
役員借入金は、会社が役員に対して負っている借金を記録する勘定科目です。決算書の科目名は会社によって「役員借入金」「代表者借入金」などと書き分けられますが、中身は同じで、会社がいずれ社長に返すお金を指します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何か | 会社が役員から借りているお金(会社の負債) |
| 一人法人でよく生まれる場面 | 設立前後に社長個人が立て替えた経費/会社の口座の残高が足りず、社長が個人のお金を入れたとき |
| 元本を返したとき | 貸したお金が戻るだけなので、社長の所得は増えない |
| 利息を受け取ったとき | 社長個人の雑所得(非営業用貸金の利子) |
| 社長の確定申告 | 同族会社の役員が、その会社から貸付金の利子を受け取ったら、金額にかかわらず確定申告が必要 |
| 申告書での見え方 | 勘定科目内訳明細書に、役員からの借入は50万円未満でも1件ずつ記載する |
| 反対の向き | 会社が役員に貸している場合は「役員貸付金」で、扱いがまったく違う |
押さえておきたいのは、向きです。社長が会社に貸すのが役員借入金、会社が社長に貸すのが役員貸付金です。役員借入金は会社に返す義務があるだけですが、役員貸付金は、無利息で貸すと通常の利息との差額が役員への経済的な利益として扱われるなど、税金の論点が増えます(国税庁 No.5202 役員等に対する経済的利益)。この記事は、税金の心配が比較的少ない役員借入金の側を扱います。
税金と申告書のルール(制度と出典)
役員借入金そのものに税金はかかりません。税金や申告の話が出てくるのは、利息を払ったとき、申告書に残高を書くとき、返済を免除したとき、社長に相続が起きたときの4つの場面です。
| 場面 | 扱い | 出典 |
|---|---|---|
| 社長が利息を受け取る | 個人の雑所得。国税庁は雑所得の例に「非営業用貸金の利子」を挙げている | 国税庁 No.1500 雑所得 |
| 利息を受け取った社長の確定申告 | 給与所得者でも「同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人」は確定申告が必要。給与以外の所得が20万円以下なら不要、という一般の線は使えない | 国税庁 No.1900 |
| 一人法人が同族会社にあたるか | 株主等の3人以下とその関係者で、発行済株式または出資の50%を超えて持つ会社は同族会社。社長一人が全額出資している会社はこれにあたる | 法人税法2条10号(e-Gov) |
| 決算での記載 | 借入金及び支払利子の内訳書では、借入先が役員・株主・関係会社なら、期末現在高が50万円未満でもすべて各別に記載する | e-Tax 内訳書の留意事項 |
| 法人事業概況説明書 | 同族会社は、代表者からの借入金などの額を千円単位で記載する | 国税庁「法人事業概況説明書の書き方」 |
| 設立前の立替 | 設立登記の登録免許税など設立のための費用は創立費、設立後から事業開始までの開業準備の費用は開業費。どちらも繰延資産 | 法人税法施行令14条1項(e-Gov) |
| 返済を免除する | 会社の側では、返さなくてよくなった額が益金の計算に入るのが原則。同族会社の株の価値が免除で上がると、ほかの株主(社員)が免除した人から贈与を受けたものとして扱われる | 法人税法22条2項(e-Gov)、相続税法基本通達9-2 |
| 社長に相続が起きる | 社長が会社に貸しているお金は、社長の側では貸付金。相続税がかかる財産に貸付金が含まれる | 国税庁 No.4105 |
創立費と開業費は、償却できる上限がその繰延資産の額(すでに償却した分を除いた残り)とされています(法人税法施行令64条1項1号)。設立前に社長が立て替えた費用は、いったん役員借入金と創立費・開業費の組み合わせで記帳し、いつ経費にするかを決算で選ぶ流れになります。どの期に寄せるかは、税理士と相談して決めるところです。設立にかかる費用の内訳は合同会社の設立費用の記事にまとめています。
元本の返済について、国税庁のページで「非課税」と明記した一文は見つけられませんでした。ただ、雑所得として挙げられているのは利子のほうで、元本は貸したお金が戻るだけです。所得の計算に入るのは利息の部分、と覚えておけば大きく外しません。
仕訳の手順(例)
役員借入金の仕訳は、お金が社長から会社へ動いたら貸方に、会社から社長へ戻ったら借方に書く、の2つだけです。以下の金額と科目はすべて架空の例で、実際の科目の選び方は会社の会計方針によって変わります。
| 場面(例) | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 設立前、定款と登記の費用を社長個人のお金で払った(例:80,000円) | 創立費 80,000 | 役員借入金 80,000 |
| 設立後、会社で使う文房具を社長の個人カードで買った(例:3,300円) | 消耗品費 3,300 | 役員借入金 3,300 |
| 会社の口座の残高が足りず、社長が個人口座から会社口座へ入れた(例:300,000円) | 普通預金 300,000 | 役員借入金 300,000 |
| 会社が社長に一部を返した(例:100,000円) | 役員借入金 100,000 | 普通預金 100,000 |
| 利息を払った(例:残高200,000円・年1%・1年分=2,000円) | 支払利息 2,000 | 普通預金 2,000 |
例の数字で残高を追うと、80,000+3,300+300,000−100,000=283,300円が期末の役員借入金です。利息の例は計算を分かりやすくするための数字で、年1%を勧めているわけではありません。利息を付けるか、何%にするかは、税理士と決めてください。
手順は次の5つです。
- 立て替えた支払いの証拠を集める:領収書、カードの利用明細、振込の控えを、会社の支払い分だけ別のフォルダに分ける
- 立替の一覧を作る:日付・相手・金額・内容を一覧にし、設立前の分(創立費・開業費)と設立後の分(通常の経費)に分ける
- 一覧の合計を役員借入金として記帳する:会計ソフトに1件ずつ入れるか、一覧ごとにまとめて入れるかは税理士と決める
- 返すときは返済と分かる形で振り込む:振込の摘要に「借入金返済」などと書き、役員報酬の振込とは別にする
- 決算で残高を確かめる:一覧の残高と帳簿の残高が合うかを見て、内訳書に記載する
反対向きの動きにも注意が要ります。取引先からの入金が社長個人の口座に入った場合、会社のお金を社長が預かっている状態になるので、会社から見れば社長に対する債権です。役員借入金の残高と差し引きして整理するか、別の科目で管理するかは、税理士に確認して決めます。
一人社長の判断ポイント
一人社長が決めることは、残高をどう扱うかの1点です。返す、残す、資本金に振り替える、免除する、の4つの選択肢があり、どれを選ぶかで税金と手続きが変わります。
| 選択肢 | 起きること | 注意 |
|---|---|---|
| 会社の口座から返す | 会社の負債が減る。元本は社長の所得にならない | 役員報酬と分けて振り込む。会社の手元資金を先に確保する |
| 残高を持ったままにする | 会社の負債として残り続ける | 社長に相続が起きると、社長の貸付金として相続財産になる(No.4105) |
| 資本金に振り替える(増資) | 負債が資本に変わる | 資本金の増加の登記が要り、登録免許税がかかる(最低3万円・国税庁 No.7191)。税務の扱いは税理士に確認 |
| 返済を免除する | 会社の負債が消える | 会社の益金の計算に入るのが原則。ほかに株主(社員)がいれば贈与の論点も出る(通達9-2) |
一人法人なら、まず「返せる分から返す」を基本にして、返せないなら残すのが無難だと思います。資本金への振り替えと免除は、どちらも税金の判断がからむので、自分だけで決める選択肢ではありません。資本金の額が何に効くかは資本金はいくらにするかの記事で整理しています。
ぼく自身の話をすると、設立直後に困ったのは借入金というより、法人口座の開設が遅れたことでした。登記の完了後すぐに取引が始まったので、入金先がしばらく個人の口座になり、帳簿が複雑になりました。一人で法人を作るということには「登記申請と並行して口座開設の準備を進めておくのが正解」と書いています。入金が個人口座に入るのは役員借入金とは逆向きの動きですが、立替と同じ月に起きると、帳簿の上で両方向の貸し借りが並びます。口座を分けた日から、この記録は一気に減ります。法人口座の選び方はGMOあおぞらネット銀行の法人口座の記事にまとめました。
ぼくはバックオフィスの作業がかなり苦手で、判断できない税務は税理士ドットコムで探した税理士に頼りました。役員借入金も、立替の一覧さえ作っておけば、科目の選び方や利息の有無は税理士に任せられます。社長がやるのは、会社のために個人で払ったものを漏らさず記録するところまでです。日々の記帳を楽にする会計ソフトの選び方はfreeeとマネーフォワードの比較に書きました。
よくある間違いと注意点
いちばん見落とされやすいのは、利息を受け取った社長の確定申告です。給与以外の所得が20万円以下なら申告不要、という会社員の感覚のままでいると、申告の漏れにつながります。
- 利息が少額なら確定申告は不要だと思う:同族会社の役員がその会社から貸付金の利子を受け取った場合は、金額にかかわらず確定申告が必要です(国税庁 No.1900)。少額の利息を付けるくらいなら、無利息にして記録だけ残すほうが手間は少なく済みます
- 返済を役員報酬に上乗せして振り込む:役員報酬は毎月同じ額を払う定期同額給与が基本です(国税庁 No.5211)。返済と報酬を1回の振込にまとめると、記録の上で報酬が増えたように見えます。振込も摘要も分けます。報酬の決め方は一人法人の役員報酬の決め方に書きました
- 証拠のない立替を記帳する:領収書や明細のない支払いは、会社の経費だと説明できません。立て替えた時点で、会社の分だけ分けて保存します
- 役員貸付金と取り違える:会社が社長に貸す向きは、無利息だと経済的な利益の扱いが出てきます(国税庁 No.5202)。科目の向きを逆に記帳すると、決算書の意味が変わります
- 免除を「帳簿の整理」くらいに考える:免除は会社の益金や、ほかの株主(社員)への贈与の論点につながります。実行する前に税理士に相談します
- 内訳書に出ないと思う:役員からの借入は、50万円未満でも内訳書に1件ずつ記載します。社長の名前と残高が申告書に載る前提で、残高の根拠を一覧で持っておきます
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。様式や扱いは改正で変わることがあるので、決算や申告の前に国税庁のページで確かめてください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
役員借入金に関するよくある質問
役員借入金を返済したら、社長に税金はかかりますか?
元本の返済は貸したお金が戻るだけなので、社長の所得にはなりません。所得になるのは利息を受け取った場合のその利息で、国税庁は非営業用貸金の利子を雑所得の例に挙げています。利息を受け取った同族会社の役員は、金額にかかわらず確定申告が必要です。
役員借入金に利息は付けるべきですか?
付けなければならない決まりは、確認した公式ページには見当たりませんでした。利息を付けると会社では費用になり、社長には雑所得と確定申告の手間が生まれます。付けるかどうか、付けるなら何%にするかは、税理士と相談して決めてください。
設立前に立て替えた費用も、役員借入金にできますか?
できます。設立登記の登録免許税など設立のための費用は創立費、設立後に事業を始めるまでの開業準備の費用は開業費として、相手科目を役員借入金にして記帳します。創立費と開業費は繰延資産で、いつ経費にするかを決算で選べます。
役員借入金を返さずに放置すると、どうなりますか?
会社の負債として残り続け、決算のたびに内訳書へ記載します。社長に相続が起きると、社長が会社に貸しているお金は貸付金として相続財産に含まれます。返済を免除して消す方法もありますが、会社の益金や贈与の論点が出るので、税理士に相談してから決めます。
おわりに──役員借入金は、会社と自分の財布の境目を書き残す科目
役員借入金は、節税の道具ではありません。一人法人で曖昧になりやすい「会社のお金」と「自分のお金」の境目を、帳簿の上に書き残すための科目です。境目が書いてあれば返すのも免除するのも選べますが、書いていなければ、何も選べません。
今日やることは1つです。設立から今日までに、個人のカードや口座で払った会社の支払いを一覧にしてください。その一覧が、役員借入金の残高そのものになります。