最終更新:2026年10月19日
貸借対照表の見方は、左側の資産を「お金の使い道」、右側の負債と純資産を「お金の出どころ」として読み、右の中で返す必要があるお金(負債)とないお金(純資産)の割合を確かめることです。資産の合計と、負債と純資産の合計は必ず一致します。区分のルールは会社計算規則73条〜76条で決まっていて、初心者がまず見るべきなのは純資産がプラスかマイナスか、つまり債務超過かどうかです。この記事では、会社計算規則・国税庁・財務省の公式資料で確認できた範囲だけを使い、架空の一人法人の貸借対照表で、自己資本比率と流動比率の計算、債務超過の意味、取引先の決算公告を読むときの見どころまで整理します。内容は最終更新日時点の制度にもとづいています。
貸借対照表の見方とは?結論から
貸借対照表は、決算日という一日の時点で、会社が何をどれだけ持ち、そのお金をどこから集めたかを左右に並べた書類です。会社計算規則73条は、貸借対照表を資産・負債・純資産の3つの部に区分するよう定めています。「左が使い道、右が出どころ」という言い方は条文の言葉ではなく、一般的な読み方の説明です。
| 位置 | 部 | 中の区分 | 読み方(一般的な説明) | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 左(借方) | 資産 | 流動資産・固定資産・繰延資産 | 集めたお金を何に変えて持っているか | 会社計算規則74条 |
| 右(貸方) | 負債 | 流動負債・固定負債 | いずれ返す・払う必要があるお金 | 同75条 |
| 右(貸方) | 純資産 | 合同会社は社員資本(資本金・資本剰余金・利益剰余金など) | 返す必要がないお金と、これまでの利益の積み上げ | 同76条1項3号・3項 |
式にすると「資産=負債+純資産」です。見方の順番は、純資産の符号を見る、純資産が総資本に占める割合(自己資本比率)を見る、1年以内に払うお金と1年以内にお金になるものを比べる(流動比率)、の3つが基本です。
制度・ルール──流動と固定を分ける「一年」と、作る人
流動か固定かは、売掛金や買掛金のような通常の取引から生じたものかどうかと、1年以内にお金になる・払うものかどうかで分けます。会社計算規則74条3項・75条2項がその並べ方を定め、74条4項は「一年内」を事業年度の末日の翌日から1年以内と決めています。一般的には、前者を正常営業循環基準、後者を一年基準と呼びます。一人法人によく出てくる科目を表にします。
| 区分 | 一人法人によく出てくる科目の例 | 会社計算規則の定め |
|---|---|---|
| 流動資産 | 現金及び預金、売掛金、前払費用(1年内に費用となるもの) | 74条3項1号(1年内に期限の来ない預金は除く) |
| 有形固定資産 | 工具、器具及び備品(パソコンなど耐用年数1年以上のもの) | 74条3項2号ヘ |
| 無形固定資産 | ソフトウエア、商標権 | 74条3項3号 |
| 流動負債 | 買掛金、未払金、未払費用、預り金、1年内に返す借入金 | 75条2項1号 |
| 固定負債 | 長期借入金、流動負債に入らないその他の負債 | 75条2項2号 |
| 純資産(合同会社) | 資本金、資本剰余金、利益剰余金 | 76条3項 |
貸借対照表を作る義務と使い道は、法人と個人事業主で次のように違います。
| 論点 | 法人(株式会社・合同会社) | 個人事業主(青色申告) |
|---|---|---|
| 作る根拠 | 設立日と各事業年度の貸借対照表を作る(会社法435条1項・2項、合同会社は617条1項・2項) | 青色申告決算書に「貸借対照表(資産負債調)」の欄がある |
| 税務署への提出 | 確定申告書に添付(法人税法74条3項・法人税法施行規則35条1号) | 55万円・65万円の青色申告特別控除を受けるなら、損益計算書とともに添付(国税庁 No.2072) |
| 右側の中身 | 負債と純資産(資本金・利益剰余金など) | 負債と、元入金・事業主借・青色申告特別控除前の所得金額など |
| 世の中への公開 | 株式会社は決算公告の義務あり、合同会社はなし(会社法440条) | なし |
勘定科目の名前は法令で一つに決まっていません。会社計算規則73条2項は、資産と負債の各項目に「適当な名称」を付けるよう求めているだけなので、毎期同じ科目を使い続けることが読みやすさの前提です。科目の一覧は別記事で扱います。
読み方の手順──架空の一人法人で比率を計算する
貸借対照表は、合計の一致を確かめたら、純資産・自己資本比率・流動比率の順に読みます。以下は架空の一人法人「合同会社みどり企画」の決算日時点の例です。会社名も数字もすべて説明のための例で、実在の会社の数字ではありません。
| 資産の部(例) | 金額 | 負債・純資産の部(例) | 金額 |
|---|---|---|---|
| 流動資産 | 3,800,000円 | 流動負債 | 750,000円 |
| 現金及び預金 | 2,600,000円 | 未払金 | 300,000円 |
| 売掛金 | 1,100,000円 | 未払費用 | 200,000円 |
| 前払費用 | 100,000円 | 預り金 | 100,000円 |
| 固定資産 | 400,000円 | 未払法人税等 | 150,000円 |
| 工具、器具及び備品 | 400,000円 | 固定負債 | 1,800,000円 |
| 長期借入金 | 800,000円 | ||
| 役員借入金 | 1,000,000円 | ||
| 負債合計 | 2,550,000円 | ||
| 純資産(社員資本) | 1,650,000円 | ||
| 資本金 | 1,000,000円 | ||
| 利益剰余金 | 650,000円 | ||
| 資産合計 | 4,200,000円 | 負債・純資産合計 | 4,200,000円 |
検算します。流動資産は2,600,000円+1,100,000円+100,000円=3,800,000円、資産合計は3,800,000円+400,000円=4,200,000円です。右側は流動負債750,000円+固定負債1,800,000円=負債合計2,550,000円、純資産は1,000,000円+650,000円=1,650,000円で、2,550,000円+1,650,000円=4,200,000円となり左右が一致します。この数字で3つの比率を計算します。
| 指標 | 式(財務省の定義) | 例の計算 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | (純資産−新株予約権)÷総資本×100 | 1,650,000円÷4,200,000円×100=39.3% | 集めたお金のうち返さなくてよい部分の割合 |
| 流動比率 | 流動資産÷流動負債×100 | 3,800,000円÷750,000円×100=506.7% | 1年以内に払うお金を、1年以内にお金になるものでまかなえるか |
| 当座比率 | (現金預金+受取手形+売掛金+有価証券)÷流動負債×100 | 3,700,000円÷750,000円×100=493.3% | すぐにお金になるものだけで払えるか |
式は財務省財務総合政策研究所の「法人企業統計からみえる企業の財務指標」の定義で、総資本は負債と純資産の合計です(この例では4,200,000円)。同じ資料は、2024年度の自己資本比率を全産業・全規模で42.1%、流動比率を150.0%としています。大企業を含む平均なので、一人法人の合格ラインとして使うものではありません。例のみどり企画は、流動比率が高く短期の支払いには余裕がありますが、負債のうち100万円は社長個人から借りた役員借入金です。
次は、純資産がマイナスになった場合の例です。
| 例2(架空) | 金額 |
|---|---|
| 資産合計 | 3,000,000円 |
| 負債合計 | 3,800,000円 |
| 資本金 | 1,000,000円 |
| 利益剰余金 | −1,800,000円 |
| 純資産合計 | −800,000円 |
| 負債・純資産合計 | 3,000,000円 |
1,000,000円−1,800,000円=−800,000円、3,800,000円−800,000円=3,000,000円で、左右は一致します。負債が資産を80万円上回っているので、一般的にはこの状態を「債務超過」と呼びます。破産法16条1項は債務超過を「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」と定めていて、法人の破産手続開始の原因の一つにしています。ただし、法律上の債務超過は財産をどう評価するかで判断が変わり得るので、帳簿の純資産がマイナスであることと、そのまま同じ意味ではありません。
一人法人・マーケターの読みどころ
一人法人の貸借対照表で最初に見るのは、現金及び預金と、未払法人税等や未払金のように払う日が決まっている流動負債の差です。利益が出ていても、売掛金が多くて預金が少なければ、支払いの月にお金が足りなくなります。役員借入金や役員貸付金のように社長と会社の間のお金が残っていないかも確かめます。それぞれの扱いは役員借入金とはと役員貸付金とはにまとめています。
ぼくは登記が終わってすぐに取引が始まったので、入金先がしばらく個人口座になり、帳簿が複雑になりました。その経験は一人で法人を作るということに書いています。独立してからは、請求書を出してから入金まで翌月末、案件によってはそれより後という時間差があり、ぼくは売上の見込みより手元に残っている現金を見るようになりました(一人で合同会社を設立したときにやったことリスト)。貸借対照表は、その「手元の現金」と「まだ入っていない売上(売掛金)」を同じ紙の上で並べて見せてくれる書類です。
マーケターが取引先の貸借対照表を見られるのは、主に株式会社の決算公告です。官報や新聞の場合は貸借対照表の要旨が載ります(会社法440条2項)。見どころは、純資産の部がマイナスになっていないか、利益剰余金がマイナスで年々膨らんでいないか、流動負債に対して現金及び預金が少なすぎないか、の3点です。合同会社には決算公告の義務がないので、同じ方法では見られません。公告の仕組みは決算公告とはで確認してください。
マーケティングの数字とつなげると、貸借対照表に載るのは過去の取引の結果だけで、一般的には自社で育てた顧客との関係やブランドは資産として計上されません。広告で獲得した顧客がこれから生む価値は、LTVとして別に計算するしかなく、その獲得費が見合っているかはユニットエコノミクスで確かめます。一方で、売掛金の多さは「売ってから入金されるまでの時間」を表しているので、獲得費を先に払い、回収があとになる事業ほど、貸借対照表の現金及び預金が先に細っていきます。顧客を増やすほど現金が減る構造になっていないかを見るのが、マーケターにとっての貸借対照表の使い道です。
よくある間違いと注意点
貸借対照表でいちばん多い読み違いは、純資産や利益剰余金を「手元にあるお金」だと思うことです。純資産は右側、つまりお金の出どころの数字で、そのお金が今どこにあるかは左側の資産を見ないと分かりません。ほかの注意点も並べます。
- 左右が合わないまま読む:左右の合計は必ず一致します。個人事業主の青色申告決算書でも、損益計算書と貸借対照表の青色申告特別控除前の所得金額は必ず一致し、一致しなければ記帳誤りなどが考えられると国税庁は案内しています(令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方)。
- 資本金の大きさを会社の体力だと思う:資本金は出資を受けた額で、赤字が続けば利益剰余金がマイナスになり、純資産は資本金より小さくなります。資本金の決め方は資本金はいくらにするかで扱っています。
- 決算日以外の日も同じだと思う:貸借対照表は決算日一日の時点の数字です。決算日の直後に大きな支払いがあれば、翌日には景色が変わっています。
- 帳簿の金額を売れる値段だと思う:資産の金額は取得した価額から減価償却などをした帳簿上の金額で、今売ったらいくらかとは別です。
- 債務超過を放っておく:赤字が続いた結果の欠損金は税務上の繰越しの対象になり得ますが、純資産のマイナスは自然には消えません。税務の扱いは欠損金の繰越しにまとめています。
この記事は、最終更新日時点の制度で、e-Gov法令検索の会社法・会社計算規則・法人税法・破産法と、国税庁・財務省の公式資料で確認できた内容だけを書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。相談先を探すならいい税理士とは何かに探し方を書いています。
貸借対照表の見方に関するよくある質問
貸借対照表について、検索で一緒に調べられている「左右」「初心者」「債務超過」「個人事業主」の疑問に答えます。条文と数字は、最終更新日時点で公式ページとe-Gov法令検索で確認できたものだけです。
貸借対照表の左右はどういう関係ですか?
左が資産、右が負債と純資産で、一般的には左を「お金の使い道」、右を「お金の出どころ」と読みます。集めたお金は必ず何かの形で持っているので、資産の合計と負債・純資産の合計は一致します。合わないときは記帳か集計の誤りです。
初心者は貸借対照表のどこから見ればいいですか?
純資産の合計から見ます。マイナスなら債務超過の状態です。次に自己資本比率(純資産÷総資本)で返さなくてよいお金の割合を、流動比率(流動資産÷流動負債)で1年以内の支払いに余裕があるかを確かめます。
債務超過とはどういう状態ですか?
一般的には、負債の合計が資産の合計を上回り、純資産がマイナスになった状態を指します。破産法16条1項は、財産で債務を完済できない状態を債務超過と定め、法人の破産手続開始の原因の一つにしています。帳簿上の債務超過と法律上の判断は財産の評価で変わり得ます。
個人事業主にも貸借対照表は必要ですか?
55万円・65万円の青色申告特別控除を受けるなら必要です。国税庁のNo.2072は、正規の簿記で記帳し、その記帳にもとづく貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付することを要件にしています。個人の貸借対照表には元入金や事業主貸・事業主借といった個人特有の科目があります。
おわりに──貸借対照表は、利益の大きさではなく「お金の居場所」を読む書類
損益計算書が一年間にいくら稼いだかを示すのに対して、貸借対照表は、稼いだお金と借りたお金が決算日に今どこにいるかを示します。右側でお金の出どころを、左側でその居場所を確かめれば、利益が出ているのに苦しい会社と、利益は小さいのに強い会社の違いが見えてきます。左右が一致するのは当たり前で、読む価値があるのは、その一致の中身です。