最終更新:2026年10月19日
役員貸付金とは、会社が役員にお金を貸していて、まだ返してもらっていない状態のことです。一人法人なら、社長である自分が自分の会社から借りているお金になります。無利息や低い利息のままにすると、国税庁が示す利率で計算した利息との差額が社長の給与として課税されることがあり、その利率は令和8年中に貸し付けた分なら年1.3%です。この記事では、役員貸付金で何が起きるのか、利息の考え方と消し方の選択肢を、国税庁などの公式ページで確かめながら一人社長向けに整理します。内容は最終更新日(2026年10月19日)時点の制度で書いています。
役員貸付金とは?結論から
役員貸付金とは、会社から役員個人へ流れたお金のうち、給与でも経費でもなく「貸したもの」として会社の帳簿に残っている金額のことです。税金の面では利息をどう扱うか、経営の面では決算書にどう見えるかの2つが問題になります。
| 論点 | 結論 | 確認した出典 |
|---|---|---|
| 利息の基準 | 会社が他から借りて貸したならその借入金の利率、それ以外は貸付けを行った年ごとの利率(令和8年中の貸付けは1.3%) | 国税庁 No.2606 |
| 無利息・低利のとき | 基準の利率で計算した利息と実際の利息の差額が、給与として課税される(例外あり) | 国税庁 No.2606 |
| 会社側の扱い | 無利息・低利の貸付けや債権の放棄は、役員への経済的な利益として給与に含まれる | 国税庁 No.5202 |
| 決算書での見え方 | 貸借対照表の資産の側に、役員への貸付金として残る | (会計の表示の形) |
| 消し方 | 返済・役員報酬や賞与の手取りからの返済・退職金との相殺・資産の買い取り・債権放棄。それぞれ税金の扱いが違う | 国税庁 No.5202・No.5211 |
反対に、社長が会社にお金を貸している状態は役員借入金と呼びます。名前は似ていますが、お金の向きも税金の論点も別物です。この記事は、会社から社長へお金が流れている側だけを扱います。
役員貸付金の制度・利率・税金(公式で確認した表)
役員貸付金の制度で中心になるのは、国税庁 No.2606 が示す利息の基準です。以下は、2026年10月19日に公式ページを開いて確認した内容です。
| 貸付けを行った年 | 利息相当額の計算に使う利率(会社が他から借り入れて貸した場合を除く) |
|---|---|
| 平成30年から令和2年中 | 1.6% |
| 令和3年中 | 1.0% |
| 令和4年から令和7年中 | 0.9% |
| 令和8年中 | 1.3% |
出典:国税庁 No.2606 金銭を貸し付けたとき(令和8年4月1日現在法令等)。会社が銀行などから借り入れたお金をそのまま役員に貸した場合は、その借入金の利率が基準になります。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 給与として課税しなくてよい場合 | (1)災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要になった役員に、合理的な金額・返済期間で貸す場合(2)会社の借入金の平均調達金利など合理的な利率を定めて貸す場合(3)基準の利率で計算した利息と実際の利息の差額が1年間で5,000円以下の場合 | 国税庁 No.2606 |
| 経済的利益の例 | 役員に対する債権の放棄・免除をした場合のその債権の額、無利息または低率で貸し付けた場合の通常の利率による利息と実際の利息の差額、役員の個人的費用の負担額など | 国税庁 No.5202 役員等に対する経済的利益 |
| 法人税での扱い | 継続的に供与される経済的利益で毎月おおむね一定のものは定期同額給与として損金になる。それ以外は定期同額給与に当たらず損金にならない | |
| 会社の収益 | 益金には、有償または無償による役務の提供などに係る収益の額を含む | 法人税法22条2項 |
| 会社と役員の取引 | 取締役が会社と取引するときは株主総会の承認(株式会社)、業務を執行する社員が会社と取引するときは他の社員の過半数の承認(合同会社・定款に別段の定めがあればそれに従う) | 会社法356条・595条 |
利率の表で見落としやすいのは、基準が「いつ貸したか」で決まる点です。令和7年中に貸した残高は0.9%、令和8年に入ってから追加で貸した分は1.3%と、同じ社長への貸付金でも年ごとに利率が分かれます。
会社法の承認の手続きは、役員が自分一人の会社では「承認する人が自分しかいない」形になります。その場合にどう書面を残すかも含めて、契約書や議事録の形は司法書士や税理士に確認してください。
役員貸付金の消し方──選択肢の比較表と利息の計算例
役員貸付金の消し方は、「社長が自分のお金で返す」か「会社から社長へ払うお金と相殺する」かの2系統に分かれます。どちらを選んでも、相殺に使う給与や退職金には税金がかかるので、残高が一気に消える方法ほど税金の負担も大きくなります。
| 消し方 | 中身 | 注意点 |
|---|---|---|
| 個人の預金から返済 | 社長個人の口座から会社の口座へ振り込む | いちばん単純。返す原資が個人にあるかどうかがすべて |
| 役員報酬の手取りから返済 | 毎月の役員報酬の手取りから、決めた額を会社へ戻す | 報酬を増やして返すなら、増額は原則として期首から3か月以内(国税庁 No.5211)。増やした報酬には所得税や社会保険料もかかる |
| 役員賞与の手取りから返済 | 事前確定届出給与として届け出た賞与の手取りで返す | 届け出たとおりに払わないと損金にならない。賞与にも所得税などがかかる |
| 退職金と相殺 | 退任するときの退職金の手取りで残高を返す | 退任が前提。退職金の額は相当な範囲であることが必要(法人税法施行令70条2号) |
| 社長の資産を会社が買い取る | 社長個人の資産を会社に売り、その代金と相殺する | 時価より高く買うと、差額は役員への経済的な利益になる(国税庁 No.5202) |
| 債権を放棄する | 会社が貸付金を返してもらわないことにする | 放棄した債権の額は役員への経済的な利益として給与に含まれる。毎月おおむね一定の給与ではないので損金にならず、社長側でも給与として課税される |
表の下の2行ほど、残高はすぐに消えますが、税金の論点は増えます。現実的なのは、上の3行を組み合わせて、何年で返し終えるかの計画を先に作ることです。
利息の計算例(例)
以下はすべて架空の例です。1年を通して残高が変わらなかったものとして、国税庁 No.2606 の利率で計算します。
| ケース(例) | 計算 | 1年分の利息相当額 |
|---|---|---|
| 令和8年中に300万円を無利息で貸した | 300万円×1.3% | 3万9,000円 |
| 令和7年中に200万円、令和8年中に100万円を無利息で貸した | 200万円×0.9%+100万円×1.3%=1万8,000円+1万3,000円 | 3万1,000円 |
| 令和8年中に30万円を無利息で貸した | 30万円×1.3% | 3,900円(差額が年5,000円以下) |
1行目と2行目は、差額が1年間で5,000円を超えるので、利息を取らなければ差額が社長の給与として課税されます。避けるなら、基準の利率以上の利息を実際に取り、会社の受取利息として帳簿に載せます。3行目は差額が年5,000円以下なので、No.2606 の例外(3)にあたります。逆算すると、令和8年中の貸付けだけなら、1年を通した残高がおよそ38万円までがこの線の内側です(38万円×1.3%=4,940円)。
帳簿では、貸したときに「役員貸付金/普通預金」、利息を受け取ったときに「普通預金/受取利息」と記帳するのが基本の形です。科目名は会計ソフトや税理士の方針で「短期貸付金」などになることもあります。
一人社長の判断ポイント
一人社長が役員貸付金で判断すべきポイントは、利息の計算よりも先に、「なぜ会社のお金が自分に流れ続けているのか」を止めることです。一人法人では、貸す側の決裁も借りる側の申請も自分なので、ルールを決めない限り残高は静かに増えていきます。
ぼくは博報堂とアクセンチュアを経て40歳でtiny合同会社を一人で作り、「一人法人の役員報酬の決め方」で、役員報酬を低く決めすぎると生活費が足りなくなり、会社から個人へお金を移す別の手当てが必要になると書きました。役員貸付金は、その「別の手当て」が帳簿に残った姿だと思います。一人法人で起きやすい原因は、だいたい次の3つです。
- 生活費と会社の口座が混ざる:個人の支払いを会社の口座や法人カードで払い、あとで精算しないまま決算を迎えると、その額が役員貸付金として残ります
- 役員報酬が暮らしに足りていない:報酬は1年間変えられないので、足りない分を会社から引き出す形になりやすい。報酬の水準そのものを、次の期首に見直すのが根本の対策です
- 使い道の分からない出金がある:領収書のない出金や、事業との関係を説明できない支払いは、決算のときに役員への貸付金として整理されることがあります
対策も3つに絞れます。1つ目は、生活費と会社の固定費を分けることです。ぼくは「一人で合同会社を設立した体験」の記事で、生活費と会社の固定費を分け、何か月分の現金を残すか決めることを独立前の「お金の防衛ライン」として書きました。2つ目は、どうしても貸すなら金銭消費貸借契約書を作り、利率と返済の予定を書いておくことです。3つ目は、決算のたびに残高を確かめ、減っていなければ報酬の決め方まで戻って考えることです。
決算書を読む側から見ると、役員貸付金は「会社のお金が社長個人のほうへ出ていて、まだ戻っていない」状態として映ります。金融機関や取引先がこの残高をどう評価するかの公式な基準は公表されていないので、ここでは数字を書きません。ただ、自分で説明できない残高を決算書に置いておく理由は、どこにもないと思います。
役員貸付金でよくある間違いと注意点
役員貸付金でいちばん多い間違いは、「自分の会社だから、自分が借りても問題はない」と考えて、利息も契約書もないまま残高を積み上げることです。会社と社長は法律上も税金上も別の存在で、お金の貸し借りにもその前提がそのまま当てはまります。
- 利率を「最新の年」だけで計算する:基準の利率は貸付けを行った年で決まります。令和7年までに貸した分と令和8年に貸した分は、別々に計算します(国税庁 No.2606)
- 利息を決めただけで受け取っていない:契約書に利率を書いても、実際に利息を払っていなければ、差額の扱いは無利息と同じ問題になります
- 残高を一度に債権放棄で消す:放棄した額は役員への給与に含まれ、毎月おおむね一定の給与ではないので会社の損金になりません(国税庁 No.5202)
- 期の途中で役員報酬を上げて返済にあてる:期首から3か月を過ぎた増額分は、原則として損金になりません(国税庁 No.5211)
- 決算の直前に返して、直後にまた借りる:決算日の残高だけを消しても、お金の流れは変わっていません。原因の口座の混同を止めないと、翌期も同じ残高が戻ってきます
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。利率は年ごとに国税庁が示すものなので、貸し付けた年の利率を出典のページで確認してください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。会計ソフトで口座の入出金を毎月仕訳しておくと、残高が増えはじめた時点で気づけます。ソフトの選び方は「freeeとマネーフォワードどちらがいい?」、相談先の選び方は「いい税理士とは何か」にまとめています。
役員貸付金に関するよくある質問
役員貸付金について、検索でよく一緒に調べられている「利息」「消し方」「利率」「令和8年」の疑問に、公式の資料で確認できた範囲で答えます。
役員貸付金に利息は必要ですか?
無利息でも貸すこと自体はできますが、国税庁 No.2606 の利率で計算した利息と実際の利息の差額が、社長の給与として課税されることがあります。差額が1年間で5,000円以下の場合や、災害・病気などで臨時に多額の生活資金が必要な場合などは、給与として課税しなくてよいとされています。それ以外は、基準の利率以上の利息を実際に受け取るのが基本です。
令和8年の役員貸付金の利率は何%ですか?
令和8年中に貸付けを行った分は1.3%です。令和4年から令和7年中に貸し付けた分は0.9%のままで、利率は貸付けを行った年で決まります。会社が銀行などから借り入れて貸した場合は、その借入金の利率が基準になります。
役員貸付金の消し方にはどんな方法がありますか?
個人の預金から返す、役員報酬や賞与の手取りから返す、退任時の退職金と相殺する、社長の資産を時価で会社が買い取って相殺する、債権を放棄する、の5つが主な選択肢です。債権放棄は役員への給与として扱われ、会社の損金にならないうえ社長側でも課税されるため、負担がいちばん大きくなります。
役員貸付金を返さないとどうなりますか?
決算書の資産の側に残り続け、利息を取っていなければ利息相当額の差額が毎年の課税の問題になります。最終的に返済をやめて会社が放棄すれば、放棄した額は役員への給与として扱われます。残高が増えている原因が役員報酬の不足や口座の混同なら、そちらを先に直すのが近道です。
おわりに──役員貸付金は、借りたお金ではなく、決めなかったお金の行き先
役員貸付金は、社長が会社から借りたお金というより、役員報酬で決めきれなかったお金が行き場を失って帳簿に残ったものです。利率を覚えるより先に、そのお金の出口を決めることが本当の対策になります。
今日やることは1つだけです。直近の試算表か決算書で「役員貸付金」の残高を確かめ、いつ・何に使ったお金なのかを1行ずつ書き出してください。書き出せない行があれば、そこが会社と自分の財布の境界線がにじんでいる場所です。