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失業保険と開業|再就職手当の要件と開業届・もらえない場合

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最終更新:2026年10月20日

失業保険(雇用保険の基本手当)を受けている人が開業すると、基本手当はそこで止まります。ただし、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていて、その事業で自立できるとハローワークに認められれば、残りの日数の60%か70%が「再就職手当」として一度に支給されます。自己都合で辞めて給付制限がある人は、待期満了後1か月を過ぎてから開業(準備を含む)する必要があります。

ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立したマーケターです。退職後の手続きの全体は退職後の手続きの順番をまとめた記事に、国民年金は退職後の国民年金保険料を免除する方法に、健康保険は独立したら保険証はどうなるかの記事に任せ、この記事は失業保険と開業の関係だけを、厚生労働省とハローワークの資料で確認できた範囲で整理します。2026年10月20日時点の制度で書いています。

失業保険をもらいながら開業できる?結論から

開業した時点で「失業の状態」ではなくなるので、基本手当は受けられなくなります。代わりに使える道は、再就職手当と受給期間の特例の2つで、同じ事業についてはどちらか一方です。

状況 基本手当 使える制度
開業の準備を始めた 準備を始めた時点で止まる 再就職手当の判定は準備開始日を基準にする
開業し、残日数が3分の1以上ある 以後は受けない 再就職手当(残日数×基本手当日額×60%または70%)
開業したが、再就職手当の要件に当てはまらない 以後は受けない 受給期間の特例(事業をしていた期間を最大3年、受給期間に数えない)
事業をやめて再び仕事を探す 残日数と受給期間が残っていれば受けられる 再求職の申込みをする

基本手当は失業中の生活を支えながら再就職を促す給付で、厚生労働省のQ&Aは「自営業の方」を受給できない例に挙げています(厚生労働省 Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~ Q2)。一方で再就職手当は、受給資格の決定を受けた後に早く安定した職業に就いた人だけでなく、事業を開始した人も対象になる制度です。開業を決めたら「もう関係ない」と手続きをやめるのではなく、先にハローワークへ申し出るのが出発点になります。

再就職手当(開業)の要件・支給率・申請期限

再就職手当は、残日数・自立できる事業か・開業の時期の3つで決まります。ハローワークの案内と、厚生労働省の業務取扱要領(令和8年8月版)で確認できた内容を表にしました。

論点 確認できた内容 出典
残日数 事業を開始した日(準備期間がある場合は準備を始めた日)の前日までの失業の認定を受けたうえで、支給残日数が所定給付日数の3分の1以上 ハローワーク 就職促進給付、ハローワーク札幌 Q&A
支給率 残日数が3分の2以上なら残日数×基本手当日額×70%、3分の1以上なら60%。1円未満は切り捨て 再就職手当のご案内(PDF)
計算に使う基本手当日額の上限 離職時60歳未満は6,745円、60歳以上65歳未満は5,454円(令和9年7月31日までの額。毎年8月1日に改定) 再就職手当のご案内(PDF)
自立できる事業か 雇用保険の被保険者を雇って適用事業主になるか、開業届の写し(法人は登記事項証明書)などで事業の開始・内容・事業所の実在が確認でき、1年を超えて安定的に続けられる客観的条件があるとハローワークが認めること 業務取扱要領 57001-58000(就職促進給付)
開業の時期 受給手続き後の待期7日が満了した後。離職理由による給付制限がある人は、待期満了後1か月の間に事業(準備を含む)を始めていないこと 業務取扱要領、再就職手当のご案内(PDF)
過去の受給 事業開始日前3年以内に再就職手当または常用就職支度手当を受けていないこと(事業開始による再就職手当を含む) 再就職手当のご案内(PDF)
申請期限 実際の事業開始日の翌日から1か月以内に、再就職手当支給申請書を管轄のハローワークへ。代理人・郵送も可 業務取扱要領、ハローワーク札幌 Q&A
受給期間の特例との関係 同じ事業について再就職手当を受けた場合、受給期間の特例は使えない。特例の申請は、事業の開始・専念・準備専念の日の翌日から2か月以内 受給期間の特例のリーフレット(PDF)、ハローワーク 基本手当について

「1年を超えて安定的に続けられる客観的条件」について、業務取扱要領は4つの例を挙げています。独立開業できる程度の資格や技能があり職業経験を活かして始めること、事務所の賃借料や設備の購入など一定の経費をかけていること、補助的に業務をこなす人(同居の親族を除く)を複数雇うこと、他の事業主との請負契約などの内容から1年を超えて続くと判断できることのどれかです。確認書類として、事務所の賃貸借契約や請負契約、免許証などを求められることがあります。

自己都合で辞めた人の給付制限は、退職日が令和7年4月1日以降なら原則1か月、3月31日以前なら原則2か月です。5年間に2回以上、正当な理由なく自己都合で退職して受給資格決定を受けた場合などは3か月になります(厚生労働省 Q&A Q20)。

開業までの手順と再就職手当の計算(例)

順番を間違えなければ、手続きは4つで足ります。大事なのは、開業の準備に入る前にハローワークへ申し出ることです。

  1. 離職票を持ってハローワークで受給手続きをする:受給手続きをしていないと、再就職手当を含む手当は受けられません(厚生労働省 Q&A Q42)
  2. 開業の意思が固まった段階でハローワークに申し出る:準備を始めた時点で基本手当は止まり、残日数の判定も準備開始日の前日までの認定で行われます
  3. 税務署に開業届を出し、事業の実態が分かる書類をそろえる:業務委託契約書、事務所の賃貸借契約、設備の購入の記録など
  4. 事業開始日の翌日から1か月以内に再就職手当支給申請書を出す:受給資格者証と確認書類を添えます。受けられなかったときに備えて、受給期間の特例も検討します

金額は、残日数で大きく変わります。架空の人で計算します。

例:40歳、自己都合で退職、雇用保険の被保険者期間15年。所定給付日数は120日です(ハローワーク 基本手当の所定給付日数)。基本手当日額は説明用の架空の数字で6,000円とします。120日の3分の2は80日、3分の1は40日です。

開業のタイミング(例) 支給残日数 給付率 再就職手当の額
給付制限(1か月)が明けた直後、基本手当を受ける前に開業 120日 70% 6,000円×120日×70%=504,000円
基本手当を50日分受けた後に開業 70日 60% 6,000円×70日×60%=252,000円
基本手当を85日分受けた後に開業 35日 なし 40日を下回るので支給されない
基本手当日額が7,500円の人が、残日数120日で開業 120日 70% 上限の6,745円で計算し、6,745円×120日×70%=566,580円

検算します。120日は80日以上なので70%、70日は40日以上80日未満なので60%、35日は40日未満なので対象外です。2行目の人が残り70日分をすべて基本手当で受けると6,000円×70日=420,000円で、再就職手当の252,000円はその60%にあたります。給付率は早く動くほど高い設計です。なお、支給残日数は受給期間の満了日までの日数を超えて数えられません(厚生労働省 Q&A Q39)。

個人事業主・副業の人の判断ポイント

個人事業として始めるか、会社を作るかで、出す書類と「いつ開業したか」の基準日が変わります。法人の場合は、役員に就いた時点で基本手当の対象から外れる点にも注意が要ります。

比べる点 個人事業主として開業 会社(法人)を設立
事業開始の確認書類 開業届の写し 登記事項証明書(法人ベース・レジストリで確認できれば添付を省略できる場合がある)
申請期限の起点 税務署に出した開業届の開業年月日 法人の成立年月日(人を雇う場合は適用事業所の設置年月日)
基本手当との関係 事業の準備や開始で失業の状態でなくなる 会社の役員に就任していると原則受けられない(活動や報酬がない場合はハローワークで確認)
税務署への届出の期限 開業した年分の確定申告期限まで(所得税法229条) 法人設立届出書(法人設立届出書の書き方)

個人の開業届の期限は、国税庁のタックスアンサーで「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」になっています(国税庁 No.2090[令和8年4月1日現在法令等]、国税庁 A1-5)。ただ、再就職手当は開業届の写しで事業開始を確かめ、申請期限は開業から1か月以内です。税の期限に合わせて後回しにすると、ハローワークに出す書類がそろいません。再就職手当を考えるなら、開業届は開業してすぐ出すのが筋です。

在職中から続けている副業を、退職後に本業にする人もいます。受給期間の特例は「離職日以前に当該事業を開始し、離職日の翌日以後に当該事業に専念する場合」も対象に含めると明記しています。一方、その場合に再就職手当の事業開始日がどう判断されるかは、公式の資料で確認できませんでした。受給手続きの時点で、副業の内容と収入をハローワークに伝えて判断を仰ぐのが確実です。受給中に副業や単発の仕事をした日は、収入の有無にかかわらず失業認定申告書に書く必要があります(厚生労働省 Q&A Q35・Q36)。

ぼくは独立するとき、企業型DCをiDeCoに移す手続きには時間をかけ、健康保険は任意継続と国保を電卓で並べて比べました。それなのに、年金のほうは切り替えの手続きをしただけで終わらせています(国民年金の免除の記事に書いた話です)。自分で選ばないと先に進まない手続きは調べ、窓口で言われたとおりに書けば終わる手続きは素通りしていました。再就職手当は、自分から申し出て書類を出さない限り何も動かない側の制度です。開業の段取りを組むとき、ハローワークへの申し出を最初の行に書いておくと抜けません。開業前後にやることの全体は独立・開業前にやることリストにまとめています。

よくある間違いと注意点

いちばん多い間違いは、開業の準備を黙って進めてしまうことです。準備を始めた日が、基本手当が止まる日であり、給付制限の1か月の判定や残日数の判定の基準日にもなります。

  • 給付制限中の早すぎる開業:自己都合で辞めた人が待期満了後1か月の間に開業(準備を含む)すると、再就職手当の対象になりません
  • 開業届を出せば必ずもらえると思う:開業届は確認書類の1つで、1年を超えて続けられる客観的条件があるかを別に見られます
  • 受給手続きをせずに開業する:受給資格の決定を受けていないと、再就職手当は受けられません
  • 3年以内に2回目を受けようとする:事業開始日前3年以内に再就職手当を受けていると対象外です
  • 受給中の収入を申告しない:申告せずに受給すると不正受給になり、支給が止まるうえ、不正に受給した額の3倍の額の納付を命じられる場合があります(厚生労働省 Q&A Q36)
  • 家族の扶養のまま受給する:協会けんぽの被扶養者は、基本手当の日額が3,612円以上で支給が始まると扶養から外れる届出が必要です(日本年金機構 被扶養者の手続き)。健康保険組合の扱いは加入先で確認します

雇用保険の給付は非課税で、確定申告は不要と厚生労働省のQ&Aにあります(Q27)。事業の売上の申告とは分けて考えます。開業した年の確定申告の流れはフリーランスの確定申告の完全ガイドに書きました。

この記事は最終更新日時点の制度で書いています。受給できるかどうかは管轄のハローワークが個別に判断します。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。

失業保険と開業に関するよくある質問

開業届を出すと失業保険はもらえなくなりますか?

開業すると失業の状態ではなくなるので、基本手当はそれ以降受けられません。ただし、残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、要件を満たせば再就職手当が支給されます。開業届の写しは、その事業開始を確かめる書類として使われます。

開業準備中も失業保険はもらえますか?

ハローワークの案内では、開業の準備を始めた時点で基本手当は止まります。再就職手当の残日数や給付制限の判定も、準備を始めた日を基準にします。開業の意思が固まった段階で、管轄のハローワークに申し出てください。

再就職手当の審査では何を見られますか?

事業の開始・内容・事業所の実在と、1年を超えて事業を続けられる客観的条件です。業務取扱要領は、資格や技能と職業経験、事務所や設備への一定の経費、補助者の雇用、1年を超える請負契約などを例に挙げています。審査のために一定の期間がかかります。

開業しても再就職手当がもらえないのはどんなときですか?

残日数が3分の1未満のとき、給付制限がある人が待期満了後1か月以内に開業したとき、3年以内に再就職手当を受けていたとき、自立できる事業と認められないときなどです。もらえない場合も、受給期間の特例を申請すれば、事業をやめて再就職するときに残りの基本手当を受けられる可能性があります。

おわりに──再就職手当は、黙って開業した人には届かない

開業すれば失業保険は止まります。ただ、そこで終わる制度ではありません。準備を始める前に申し出て、残日数があるうちに開業し、1か月以内に書類を出した人にだけ、残りの日数が形を変えて届きます。開業の日付は、自分で決める最初の経営判断です。

今週やることは1つです。手元の雇用保険受給資格者証で、所定給付日数と基本手当日額を確かめてください。その2つの数字があれば、自分の再就職手当の上限が計算できます。

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