退職したら、最初の14日以内に「健康保険」と「国民年金」の手続きを済ませます。健康保険は、会社の保険を続ける任意継続(期限は20日以内)、国民健康保険、家族の扶養の3つから選びます。そのあとに住民税の払い方の切り替え、失業保険、企業型DCの移換が続きます。期限が短い順に片づければ、取りこぼしはまず起きません。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳で独立しました。辞めたときの手続きで実感したことがあります。自分で選ばないと先に進まない手続きは調べるのに、選ばなくても終わる手続きは素通りしてしまうのです。この記事では、退職後の手続きを期限の短い順に並べ、どこで判断が必要になるかを整理します(2026年10月時点の制度にもとづいています)。
退職後の手続きは、期限の短い順に6つ
会社員のあいだは、保険も年金も税金も会社が代わりに処理してくれています。辞めた翌日からは、その全部が自分の手続きになります。
| 手続き | 期限の目安 | 窓口 | 判断が要るか |
|---|---|---|---|
| 国民年金への切り替え | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村(マイナポータルも可) | 免除を申請するかどうか |
| 国民健康保険への加入 | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村 | 任意継続・扶養と比べて選ぶ |
| 健康保険の任意継続 | 資格を失った日から20日以内 | 加入していた健康保険(協会けんぽ・健保組合) | 国保と保険料を比べて選ぶ |
| 住民税の払い方 | 退職前に会社へ申し出る | 勤務先 | 一括か普通徴収か(6〜12月退職) |
| 失業保険(基本手当) | 離職票が届いたら早めに(受給期間は原則1年) | 住所地のハローワーク | 受給するか・独立するなら特例を使うか |
| 企業型DCの移換 | 資格を失った月の翌月から6か月以内 | iDeCoの金融機関・転職先 | どこへ移すか |
転職先が決まっていて、退職日の翌日から入社する人は、保険と年金は新しい会社が手続きしてくれます。この記事が必要になるのは、退職と入社のあいだに1日でも空く人と、独立する人です。
14日以内:国民年金は、切り替えより免除の確認が大事
会社員は厚生年金の第2号被保険者です。退職すると、国民年金の第1号被保険者への切り替えが必要になります。期限は退職日の翌日から14日以内で、住所地の市区町村の窓口か、マイナポータルの電子申請で手続きします(出典:日本年金機構「会社を退職したときの国民年金の手続き」)。
配偶者を扶養に入れていた人は、配偶者も第3号から第1号への切り替えが要ります。ここは見落としやすいところです。
切り替え自体は、書類を出せば終わります。大事なのは、そのときに保険料の免除を検討するかどうかです。退職して収入がなくなった人には、失業を理由にした特例免除があります。本人の前年所得を除いて審査されるので、会社員時代に年収が高かった人でも対象になる可能性があります。条件と申請の流れは退職後の国民年金保険料を免除する方法にまとめています。
ぼくはこの免除を見ていませんでした。切り替えの手続きだけして、それで終わったと思っていたのです。窓口で何も選ばなくても切り替えは完了するので、免除という選択肢があることに気づく場面がありませんでした。
20日以内:健康保険は「任意継続・国保・扶養」の3択
健康保険は、退職すると会社の保険の資格を失います。次の3つから選びます。
| 選択肢 | 保険料 | 期限 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 任意継続 | 会社負担分も含めて全額自己負担。ただし上限あり | 資格を失った日から20日以内 | 会社員時代の給与が高かった人・扶養家族がいる人 |
| 国民健康保険 | 前年の所得で決まる。扶養の考え方がない | 退職日の翌日から14日以内 | 前年の所得が低めの人・単身の人 |
| 家族の扶養 | 本人の負担なし | 家族の勤務先に確認 | 今後の年収見込みが130万円未満の人 |
任意継続は、退職前に2か月以上続けて加入していたことが条件で、最長2年まで続けられます。保険料は会社が払っていた分も自分で払うので、単純に倍になると思われがちです。ただ、保険料のもとになる標準報酬月額には上限があり、協会けんぽの場合、2026年度の上限は32万円です。会社員時代に給与が高かった人ほど、この上限が効いて国保より安くなることがあります。
国保は前年の所得で計算されるので、退職した年とその翌年は高めに出やすいです。家族を扶養に入れている人は、国保だと家族の分も保険料がかかるので、任意継続のほうが有利になりやすいです。
いちばん確実なのは、市区町村の窓口で国保の保険料を試算してもらい、健康保険の窓口で任意継続の保険料を聞いて、2つの数字を並べることです。20日の期限を過ぎると任意継続は選べなくなるので、比べるなら退職の翌週までに動きます。
独立して法人を作る人は、さらに別の選択肢として、会社の社会保険に加入する道があります。役員報酬の有無で扱いが変わるので、独立したら保険証はどうなるのかを先に読んでおくと迷いません。
退職前に決める:住民税は、辞める月で払い方が変わる
住民税は前年の所得にかかる税金なので、辞めたあとも支払いが続きます。会社員のあいだは給与から天引きされていたものが、退職を境に払い方が変わります。
1月から5月に辞める場合は、5月分までの残りが最後の給与や退職金からまとめて引かれるのが原則です。6月から12月に辞める場合は、残りを自分で納付書で払う普通徴収に切り替わります。退職前に会社に申し出れば、一括で引いてもらうこともできます。
ここで判断が要るのは、6月から12月に辞める人です。普通徴収にすると、数か月後に納付書がまとめて届きます。収入が途切れた時期に数十万円の請求が来て慌てる人が多いので、退職金や最後の給与から一括で引いてもらうほうが、あとで楽になることもあります。冬のボーナスをもらって辞める人は、ちょうどこの区分に入ります。
離職票が届いたら:失業保険は、独立する人も一度確認する
失業保険(雇用保険の基本手当)は、離職票が届いてから住所地のハローワークで手続きします。離職票は、退職後に会社から郵送されてくるのが一般的です。
自己都合で辞めた場合、2025年4月以降の離職は、7日間の待機のあと、原則1か月の給付制限を経てから支給が始まります。改正前は2か月でした。離職日の前1年以内か離職後に、対象の教育訓練を受けると給付制限がなくなる仕組みもあります。
独立する人は、失業保険は関係ないと思いがちです。基本手当は再就職を前提にしているので、独立すると決めている人はそのままでは対象になりません。ただし、受給資格の決定を受けたあとに事業を始めた場合は、条件を満たせば再就職手当の対象になります(失業保険と開業)。また、退職後に事業を始めた人には、受給期間の特例があります。事業を始めた日の翌日から2か月以内にハローワークへ申請すると、事業をしていた期間(最長3年)を受給期間に数えないでおけます(出典:厚生労働省「離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」)。
事業がうまくいかずに再就職することになったとき、権利が残っているのは心強いはずです。独立を考えている人こそ、この申請だけはしておく価値があると思います。
6か月以内:企業型DCは、放っておくと運用が止まる
会社で企業型確定拠出年金(企業型DC)に入っていた人は、退職すると加入者の資格を失います。転職先の企業型DCかiDeCoへ、自分で移す手続きが必要です。
期限は、資格を失った月の翌月から6か月以内です。期限内に手続きしないと、資産は現金化されて国民年金基金連合会に自動で移されます。自動移換されると、運用は止まり、手数料が差し引かれ、その期間は受給の要件になる加入期間にも数えられません。
ぼくは独立したとき、企業型DCをiDeCoに移しました。こちらは移換先を自分で選ばないと何も進まない手続きなので、調べて動きました。年金の切り替えを素通りしたのと対照的です。iDeCoへの移し方と独立後の掛金の考え方は、独立するとき、iDeCoはどうすればいいのかに書いています。
ぼくが取りこぼしたのは、選ばなくても終わる手続きだった
退職の手続きを振り返ると、ぼくがちゃんと調べたのは、選択しないと進まないものばかりでした。企業型DCは移換先を決めないと動かない。健康保険も、どれに入るか決めないと保険証が手元に来ない。だから調べて、比べて、選びました。
一方、国民年金は、窓口で切り替えの書類を出せば完了します。免除という選択肢を知らなくても、手続きは問題なく終わります。終わったように見える手続きの中に、選べたはずの選択肢が隠れていました。
この経験から、退職後の手続きは「期限」と「選択肢があるか」の2つで見るようにしています。期限の短い順に並べ、それぞれに選択肢があるかを確認する。選択肢がある手続きは、窓口に行く前に比べておく。それだけで、取りこぼしはかなり減ります。
よくある質問
退職後の手続きは、何から始めればいいですか?
期限が短い順に、国民年金と国民健康保険(14日以内)、健康保険の任意継続(20日以内)から始めます。転職先に退職日の翌日から入社する場合は、保険と年金は新しい会社が手続きするので、自分で動くのは住民税と企業型DCが中心になります。
任意継続と国民健康保険は、どちらが安いですか?
人によって逆になります。任意継続は保険料のもとになる額に上限があるため、会社員時代に給与が高かった人や扶養家族がいる人は安くなりやすいです。国保は前年の所得で決まります。市区町村と健康保険の窓口でそれぞれ試算してもらい、数字を並べて決めるのが確実です。
14日を過ぎてしまったら、どうなりますか?
国民年金と国民健康保険は、14日を過ぎても手続きはできます。ただし、さかのぼって保険料を払うことになり、国保の加入手続きが済むまでのあいだに病院にかかると、医療費をいったん全額払うことになる場合があります。気づいた時点で、すぐ市区町村の窓口に相談してください。
独立する場合も、失業保険の手続きは必要ですか?
独立する人は基本手当の対象になりませんが、ただし、受給資格の決定を受けたあとに事業を始めた場合は、条件を満たせば再就職手当の対象になります。事業を始めた人向けには受給期間の特例もあります。事業開始日の翌日から2か月以内にハローワークへ申請すると、事業をしていた期間(最長3年)を受給期間に数えずにおけます。事業をやめて再就職するときに備えて、申請を検討する価値があります。
まとめ:退職後の手続きは「期限」と「選択肢」で並べる
退職後の手続きは6つです。14日以内の国民年金と国民健康保険、20日以内の任意継続、退職前に決める住民税、離職票が届いてからの失業保険、6か月以内の企業型DC。期限の短い順に片づけ、それぞれに選択肢があるかを確認します。
今日やることは1つだけです。退職日が決まっているなら、その翌日から14日後と20日後の日付を、いまカレンダーに入れておく。期限が見えていれば、比べる時間が取れます。
退職の段取りそのものは、転職を上司に伝えるタイミングと退職願の書き方から順に読むと、切り出しから手続きまでがつながります。
(この記事は2026年10月時点の制度にもとづいています。保険料や期限の扱いは、加入先の健康保険・お住まいの市区町村・ハローワークで最新の情報を確認してください)