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フリーランスの保険|損害賠償・所得補償・医療と労災の特別加入

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最終更新:2026年10月20日

フリーランスの保険は、病院代に備える「医療」、働けない間の収入に備える「所得補償」、仕事で相手に与えた損害に備える「賠償責任」の3種で考えると整理できます。順番は、公的な制度(国民健康保険・国民年金・労災保険の特別加入)で埋まる部分を先に確かめ、残った穴だけを民間や団体の保険で検討することです。2024年11月1日からは、企業から業務委託を受けるフリーランスも、業種を問わず労災保険に特別加入できるようになりました。

ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立したマーケターです。退職時の健康保険の選び方は独立したら保険証はどうなるかの記事に、国民年金の免除は退職後の国民年金保険料を免除する方法に任せ、この記事は「フリーランスがどの保険をどの順で考えるか」だけを、厚生労働省・日本年金機構・国税庁と業界団体の解説で確認できた範囲で整理します。特定の保険会社・商品・団体の保険はすすめません。2026年10月20日時点の制度で書いています。

フリーランスの保険とは?結論から

「フリーランスの保険」は法律の用語ではなく、一般的には、会社員なら会社の制度で守られていた部分を自分で埋める保険の総称です。3種それぞれで、公的な制度がどこまで受け持つかが違います。

種類 備える場面 公的な制度で受け持つ部分 民間・団体の保険で考える部分
医療 病気やけがの治療費 国民健康保険の療養の給付と、1か月の自己負担に上限を設ける高額療養費 保険外の診療・食事代・差額ベッド代など、高額療養費の対象にならない費用
所得補償 働けない間の収入 国保の個人事業主は傷病手当金が原則なし。長期の障害は障害基礎年金(1・2級)。仕事中のけがは労災の特別加入 所得補償保険・就業不能保険で、短期の休業の穴を埋めるか
賠償責任 納品物のミス、情報漏えい、作業中の事故で相手に損害を与えたとき 公的な制度はない 事業向けの賠償責任保険。個人の日常生活向けの保険は仕事中の事故を対象外にしている

ここでいうフリーランスは、厚生労働省などのガイドラインの定義に合わせて「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」を指します(厚生労働省 確かめよう労働条件)。個人事業主だけでなく、一人で会社を作った人も含まれる点が大事です。なお、協会けんぽのよくある質問では、保険外の診療・食事代・差額ベッド代などは高額療養費の対象外とされています(協会けんぽ よくあるご質問)。医療の備えで民間の保険を考えるなら、この対象外の部分が検討の範囲です。どちらに当たるかで、使える公的な制度が変わります。

公的制度(国保・国民年金・労災の特別加入)の要件と費用

民間の保険を見る前に確かめるのは、国保・国民年金・労災の特別加入の3つです。保険料が法令や公的な料率で決まり、加入の判断も自分でできます。

制度 確認できた内容 出典
国民健康保険(市区町村) 療養の給付・高額療養費などを行う。傷病手当金・出産手当金は条例で定めた場合に行える給付(国民健康保険法58条2項)。保険料は自治体ごと・年度ごとに違うので住所地で確認 e-Gov 国民健康保険法、厚生労働省 国民健康保険制度の概要(PDF)
国民健康保険組合 同種の事業または業務に従事する人で、組合の地区内に住所がある人を組合員として組織する(同法13条)。入れるのは対象の業種の人だけ e-Gov 国民健康保険法
高額療養費 窓口で払った額が自己負担の上限を超えると、超えた分が支給される。上限は年齢と所得で決まり、令和8年8月から上限額の見直しと年間上限の新設がある 厚生労働省 高額療養費制度
国民年金(第1号被保険者) 令和8年度の保険料は月17,920円。障害等級1・2級なら障害基礎年金(令和8年4月分から、昭和31年4月2日以後生まれで1級年1,059,125円・2級年847,300円) 日本年金機構 国民年金保険料、日本年金機構 障害基礎年金
労災保険の特別加入(特定フリーランス事業) 令和6年11月から対象。企業等から業務委託を受けて行う事業と、同種の事業を消費者から受ける場合が対象で、消費者からだけ受ける人は対象外。給付基礎日額を3,500円〜25,000円の16段階から選び、年間保険料は給付基礎日額×365日×1000分の3 厚生労働省 特定フリーランス事業の特別加入、リーフレット「フリーランスの皆さまへ」(PDF)

労災の特別加入は、個人で労働基準監督署に申し込むのではなく、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体を通じて申請します。団体は住んでいる地域に関係なく選べ、厚生労働省のページに一覧があります。給付は、療養(補償)等給付、休業4日目以降に給付基礎日額の60%(特別支給金20%と合わせて80%)が出る休業(補償)等給付、障害・遺族への給付などです(リーフレット「どんな補償が受けられるか?」(PDF))。

注意したいのは、ITフリーランスや芸能関係作業従事者、アニメーション制作作業従事者など、別の区分がすでにある仕事です。その場合は「特定フリーランス事業」ではなく、該当する区分の特別加入団体から加入します。厚生労働省のリーフレットは、市場調査などのコンサルティングや、広報用のイラスト作成などのデザイン・コンテンツ制作を特定フリーランス事業の例に挙げています。

保険を考える順番と労災の特別加入の保険料(例)

保険は、公的な制度で受け持つ部分を引いた残りにだけかけるものです。この順番で確かめると、同じ備えを二重に買わずに済みます。

  1. 加入している健康保険と年金の種類を確かめる:国保か、協会けんぽか、健康保険組合か。第1号か第2号か
  2. 傷病手当金があるかを確かめる:国保なら住所地の条例、国保組合なら規約で確認します
  3. 労災の特別加入の対象かを確かめる:企業から業務委託を受けているか、別の区分に当たらないか
  4. 業務委託契約書の損害賠償の条項を読む:賠償の上限や対象が決まっているかで、必要な補償の大きさが変わります
  5. 残った穴の大きさを、貯蓄で何か月しのげるかで測る:足りない分だけを、民間や団体の保険で検討します

労災の特別加入の保険料は、選ぶ給付基礎日額で決まります。架空の数字で計算します。例:企業から業務委託を受けるフリーランスが、給付基礎日額8,000円を選び、仕事中のけがで10日間休んだ場合です。

計算の段(例) 計算
保険料算定基礎額 8,000円×365日=2,920,000円
年間保険料 2,920,000円×3/1000=8,760円
休業1日あたりの給付 8,000円×60%=4,800円、特別支給金8,000円×20%=1,600円、合計6,400円
10日休んだとき 4日目から10日目までの7日分、6,400円×7日=44,800円

検算します。年間保険料8,760円は、厚生労働省のリーフレットの保険料表で給付基礎日額8,000円の行と一致します。6,400円は8,000円の80%です。給付基礎日額は所得の水準に見合った額を選ぶ決まりで、高く選ぶほど保険料も給付も上がります。

個人事業主・一人法人の判断ポイント

同じフリーランスでも、個人事業主と一人法人の役員では入っている公的な制度が違います。保険の要否は、この表のどちらの列にいるかを決めてから考えます。

比べる点 個人事業主(国保・国民年金=第1号) 一人法人の役員(協会けんぽ・厚生年金=第2号)
医療 国保(業種によっては国保組合) 協会けんぽなどの健康保険。役員報酬が0円だと被保険者になれない
働けない間の収入 傷病手当金は原則なし 傷病手当金あり(休んだ日に報酬が出ていないことが条件)
障害 障害基礎年金(1・2級) 障害基礎年金に加え、障害厚生年金(1〜3級)
仕事中のけが 特定フリーランス事業などの特別加入(任意) 代表者は原則として労災の対象外。特定フリーランス事業の特別加入を一人法人の代表者が使えるかは、公式の資料で明確に確認できなかったので、労働基準監督署か特別加入団体に確認
賠償責任 契約の当事者は個人。事業の債務は個人の財産で負う 契約の当事者は会社。株主の責任は株式の引受価額まで、合同会社の社員の責任は出資の価額まで(会社法104条・580条2項)

代表者が労災の対象外になる点は、厚生労働省の通知(法人の代表者等に対する健康保険の保険給付について)で確認しました。被保険者5人未満の事業所で、従業員と著しく異ならない仕事をしている代表者の業務上のけがは健康保険で給付されますが、その場合も傷病手当金は出ません。法人化の判断材料としての社会保険は法人成りのタイミングの記事に、加入の手続きは社会保険の新規適用届の記事に書きました。

ぼくが独立準備でいちばん焦ったのは、保険証が手元にない期間ができることでした。実際には、切り替えの手続きをしていれば後から精算できると分かり、制度の問題ではなく情報が届いていないだけだったと書いています(独立時の健康保険の記事)。その後に法人化して社会保険に入ると、手続きと毎月の支払いが大変になった一方、保障は国保より厚くなりました(一人法人を作った体験の記事)。フリーランスの保険で迷う人の多くは、民間の商品の前に、この「どの制度の上に立っているか」の確認で止まっているのだと思います。

よくある間違いと注意点

いちばん多い間違いは、手元の保険で仕事中の事故まで守られていると思い込むことです。個人向けの保険と事業向けの保険は、対象にする事故の範囲が違います。

  • 個人賠償責任保険で仕事の事故も出ると思う:日本損害保険協会の解説では、個人賠償責任保険は日常生活の事故が対象で、被保険者の職務遂行に直接起因する損害賠償責任は支払われない場合に挙げられています(損害保険Q&A 問92)
  • 賠償の根拠を知らずに契約する:契約どおりに履行しなかったときは民法415条、故意・過失で他人の権利を侵害したときは民法709条で損害賠償の責任を負います(e-Gov 民法)。事業向けの賠償責任保険には、施設・生産物(PL)・請負・サイバーなどの種類があります(日本損害保険協会 企業のための保険ナビ)
  • 労災の特別加入を個人で申し込もうとする:特別加入団体を通じてしか手続きできません。団体の会費や条件は各団体の公式で確認します
  • 働き方の実態を見ない:契約の形式にかかわらず実態として労働者と認められる場合は、特別加入しなくても労災保険が適用されると厚生労働省のリーフレットにあります
  • 所得補償保険の保険料を経費にする:個人事業主が自分を被保険者にした保険料は家事費で、必要経費になりません(国税庁 No.1760)

この記事は最終更新日時点の制度で書いています。特定の保険会社・保険商品・代理店・団体の保険をすすめるものではなく、民間の保険料の比較もしていません。民間・団体の保険は、各団体・保険会社の公式ページと約款で確認してください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。

フリーランスの保険に関するよくある質問

フリーランスは何の保険に加入すべきですか?

入るべき保険は人によって違うので、先に公的な制度を確かめます。個人事業主は国保と国民年金に加入し、企業から業務委託を受けているなら労災の特別加入を検討します。そのうえで、働けない間の収入と仕事の賠償責任のうち、貯蓄で受け止められない部分だけを民間や団体の保険で考えます。

フリーランスに損害賠償保険は必要ですか?

賠償責任には公的な制度がないので、仕事で相手に損害を与える可能性がある人は検討の対象になります。まず業務委託契約書の損害賠償の条項で、上限や対象を確かめてください。個人の日常生活向けの賠償責任保険は、仕事中の事故を対象外にしています。

フリーランスの保険組合とは何ですか?

一般的には、同じ業種の人が集まって国民健康保険を運営する国民健康保険組合を指すことが多い言葉です。国民健康保険法13条で、同種の事業または業務に従事する人で組織すると定められています。入れるのは対象の業種の人だけなので、各組合の公式で加入資格を確認してください。

フリーランスは労災保険に入れますか?

2024年11月1日から、企業等から業務委託を受けるフリーランスは、業種を問わず特定フリーランス事業として特別加入できます。特別加入団体を通じて申請し、年間保険料は給付基礎日額×365日×1000分の3です。消費者からだけ仕事を受けている人は対象外です。

おわりに──フリーランスの保険は、公的な制度の外側にだけかける

会社員は、医療・休業・労災・賠償の多くを会社の仕組みに任せていました。独立すると、その全部を自分で組み直すことになります。ただ、最初に開くのは保険会社のページではなく、自分が入っている健康保険と年金と労災の制度表です。そこで埋まらない部分だけが、保険の出番です。

今週やることは1つです。いちばん大きな取引先との業務委託契約書を開き、損害賠償の条項に上限が書いてあるかを確かめてください。賠償の備えをどこまで厚くするかは、その一文で決まります。

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