確定申告は、独立して最初にぶつかる壁のひとつです。ただ、3年やってみて分かったことがあります。結論から書きます。確定申告がしんどいのは、手続きが難しいからではなく、1年分をまとめてやろうとするからです。やること自体は決まっていて、毎月少しずつ処理していれば、2月に慌てる必要はありません。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳でtiny合同会社を設立しました。数字は得意なほうではありません。だからこそ、なるべく考えずに済む形にしています。実際にやっている流れを、そのまま書きます。
まず、いつまでに何をするのか
全体像から押さえます。確定申告は、1月1日から12月31日までの所得を、翌年の決まった期間に申告して納税する手続きです。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 通年(毎月) | 売上と経費を記録する。ここが本体 |
| 1月 | 控除証明書などの書類を集める |
| 2月16日〜3月15日 | 確定申告の提出・納税(年により前後します) |
| 3月末まで | 翌年から青色申告にしたい場合の申請期限 |
期限で覚えておくべきは3月15日です。ここを過ぎると、青色申告特別控除が減額されたり、加算税がかかったりします。
そしてもうひとつ。青色申告をするには、事前の申請が要ります。その年の分から青色にしたいなら、原則としてその年の3月15日までに申請が必要です。開業した年なら、開業から2ヶ月以内。知らないと1年損します。
青色申告と白色申告、どちらを選ぶか
結論を先に書くと、ほとんどの人は青色一択です。理由は控除額の差です。
| 白色申告 | 青色申告(10万円控除) | 青色申告(65万円控除) | |
|---|---|---|---|
| 特別控除 | なし | 10万円 | 最大65万円 |
| 帳簿 | 簡易な記帳 | 簡易簿記 | 複式簿記 |
| 提出方法 | 問わない | 問わない | e-Taxまたは電子帳簿保存が必要 |
| 事前申請 | 不要 | 必要 | 必要 |
複式簿記と聞くと身構えますが、いまは会計ソフトが自動でやります。簿記の知識がなくても、口座とカードを連携しておけば、複式簿記の帳簿ができあがります。手書きの時代の常識で判断すると、65万円を捨てることになります。
ぼくの感覚では、会計ソフトの年間費用は1万円台から2万円台です。65万円の控除と比べたら、迷う金額ではありません。
ぼくが毎年やっている、4つの手順
実際の流れです。特別なことはしていません。
手順1:口座とカードを事業用に分ける
いちばん最初にやるべきはこれです。プライベートと事業のお金が混ざっていると、あとで全部仕分ける羽目になります。
ぼくは独立時に、事業用の口座とクレジットカードを作りました。事業の支払いは全部そこを通します。これだけで、確定申告の作業量が体感で半分以下になります。分けるのに手数料はほぼかかりません。やらない理由がない部分です。
手順2:会計ソフトに連携して、自動で取り込む
次に、口座とカードを会計ソフトに連携します。すると、明細が自動で取り込まれます。あとは、取り込まれた明細に勘定科目をつけていくだけです。
この作業を月に一度、30分だけやると決めています。ためると地獄ですが、月次なら30分で終わります。確定申告がつらい人の大半は、この分割をしていないだけです。
手順3:1月に、控除の書類を集める
年が明けたら、控除関係の書類を集めます。国民年金や国民健康保険の支払額、生命保険料控除証明書、iDeCoの証明書、医療費の記録など。この時期に郵送で届くものが多いので、捨てないことが大事です。
手順4:e-Taxで提出する
提出は電子申告にします。理由は明確で、65万円控除の条件になっているからです。紙で出すと55万円に下がります。
会計ソフトを使っていれば、そのままe-Taxに連携して送信できます。マイナンバーカードとスマホがあれば、家から出ずに終わります。
経費でいちばん多い誤解
質問がいちばん多いのがここです。まず原則を書きます。経費とは、事業の売上を得るために使った費用のことです。この定義に照らして説明できるかどうかが、すべての判断基準になります。
よくある誤解は2つです。
ひとつは、「領収書があれば経費になる」という誤解。なりません。領収書は支払いの証拠であって、事業との関係を証明するものではありません。聞かれたときに、何のために使ったかを説明できることのほうが重要です。
もうひとつは、「経費を増やせば得をする」という誤解。経費が増えれば税金は減りますが、手元のお金も同じだけ減っています。1万円使って3,000円税金が減るなら、7,000円は出ていったままです。必要ないものを買うのは、単なる浪費です。
迷いやすいものは、按分という考え方で処理します。自宅兼事務所の家賃なら、仕事に使っている面積や時間の割合で分ける。大事なのは、割合の根拠を自分で説明できることです。
会計ソフトは、どれを選ぶか
ここは実際に両方さわって比べました。詳しい比較はfreeeとマネーフォワードの比較記事に書いていますが、要点だけ。
freee会計は、簿記を知らない人向けの設計です。質問に答えていく形で進むので、勘定科目が分からなくても手が止まりません。ぼくのようにバックオフィスが苦手な人には、こちらが向いています。![]()
マネーフォワード クラウドは、簿記の考え方に沿った作りです。経理の経験がある人や、あとから見返して整理したい人はこちらが使いやすいと思います。![]()
どちらも無料期間があるので、年明けに慌てて選ぶより、いまのうちに両方さわっておくのが正解です。途中で乗り換えるのは面倒なので、最初の選択が効きます。
税理士に頼むべきかどうか
正直に書きます。売上規模が小さいうちは、会計ソフトだけで十分回ります。ぼくも最初はそうでした。
頼んだほうがいいのは、次のような場合です。
- 法人化した:法人税の申告は個人より格段に複雑になります
- 判断に迷う取引が増えてきた:この経費は認められるか、という問いが月に何度も出てくる状態
- 時間の価値が顧問料を上回った:申告作業に何十時間も使うより、その時間を売上に回したほうが得な段階
探し方や、いい税理士の見分け方はいい税理士とは何かの記事にまとめました。比較して選びたいなら、税理士ドットコムのような紹介サービスを使うと、複数の候補を並べられます。
なお、独立時にはiDeCo(個人型確定拠出年金)の手続きも必要になります。掛金が全額所得控除になるので確定申告にも直結しますが、会社を辞めても自動では切り替わりません。手続きと上限額は独立するとき、iDeCoはどうすればいいのかにまとめました。
これから開業する人へ
まだ開業していないなら、順番があります。開業届と青色申告承認申請書は、セットで出してください。青色申告の申請を忘れると、その年は白色になります。
どちらもオンラインで作れます。弥生の開業・起業ナビのようなサービスなら、フォームに沿って埋めるだけで書類が揃います。税務署に何を出すか調べる時間が、まるごと消えます。
独立前にやることの全体像は、マーケターが独立・開業前にやることリストに整理しています。
3年やって、いちばん効いたこと
最後に、実感を書きます。いちばん効いたのは、知識ではなく仕組みでした。
簿記を勉強したわけではありません。やったのは、事業用の口座を分けて、会計ソフトに連携して、月末に30分だけ触る。これだけです。意志で乗り切ろうとすると必ず破綻するので、考えなくても処理が進む形にしました。
逆に、いちばん損をしたのは1年目です。青色申告の申請期限を軽く見ていて、準備が間に合いませんでした。制度を知らないだけで、数十万円の控除を逃します。知識がないことより、期限を知らないことのほうが高くつきます。
よくある質問
確定申告の期限はいつですか
原則として、翌年の2月16日から3月15日までです(年によって前後します)。この期間に、前年1月1日から12月31日までの所得を申告して納税します。期限を過ぎると青色申告特別控除が減額されたり、無申告加算税や延滞税がかかったりします。
青色申告と白色申告、どちらがいいですか
ほとんどの場合、青色申告です。最大65万円の特別控除があり、白色にはこの控除がありません。複式簿記が必要ですが、会計ソフトを使えば自動で作成されるため、簿記の知識がなくても対応できます。ただし事前の申請が必要で、原則その年の3月15日まで、開業した年は開業から2ヶ月以内です。
65万円の控除を受ける条件は何ですか
複式簿記での記帳に加えて、e-Taxでの電子申告か電子帳簿保存が必要です。紙で提出すると55万円に下がります。会計ソフトを使っていればe-Taxとの連携ができるため、マイナンバーカードがあれば自宅から提出できます。
どこまでが経費になりますか
事業の売上を得るために使った費用かどうかで判断します。領収書があれば経費になるわけではなく、何のために使ったかを説明できることが重要です。自宅兼事務所の家賃などは、仕事に使う割合で按分します。割合の根拠を自分で説明できる状態にしておいてください。
会計ソフトは必要ですか
実質的に必要です。65万円控除の条件である複式簿記とe-Tax提出を、手作業でやるのは現実的ではありません。年間費用は1万円台から2万円台程度で、控除額と比べれば十分に見合います。
税理士に頼むべきですか
売上規模が小さいうちは会計ソフトだけで回ります。法人化した場合、判断に迷う取引が増えた場合、申告作業の時間を売上に回したほうが得な段階になった場合は、頼む価値があります。
まとめ
確定申告がつらいのは、難しいからではなく1年分をまとめてやろうとするからです。事業用の口座を分けて、会計ソフトに連携して、月に30分処理する。この形にすれば、2月に慌てることはなくなります。
そして、いちばん高くつくのは知識不足ではなく期限を知らないことです。青色申告の申請には期限があり、逃すとその年は控除が受けられません。
制度は、知っている人だけが得をするようにできています。面倒だから後回しにするほど、静かに損をしていきます。