最終更新:2026年10月19日
欠損金の繰越控除とは、赤字(欠損金額)が出た事業年度の分を、翌期以降の黒字の所得から差し引いて、法人税の計算上の所得を小さくできる仕組みです。平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は、10年にわたって繰り越せます。使うための要件は、赤字の期に青色申告書である確定申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出し、帳簿書類を保存していることです。資本金1億円以下の中小法人等なら、その期の所得の全額まで控除できます。この記事は最終更新日時点の制度で、国税庁・e-Gov法令検索などの公式ページで確認できた内容だけを書いています。
欠損金の繰越控除とは?結論から
欠損金の繰越控除は、会社の損益を1年ごとに区切りながら、赤字の年と黒字の年をならすための制度です。国税庁タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)のNo.5762で確認した要点を表にします。
| 項目 | 内容 | 確認した公式ページ |
|---|---|---|
| 仕組み | 過去の事業年度の欠損金額を、その期の所得金額の計算上、損金の額に算入する | No.5762・法人税法 第57条 |
| 繰り越せる期間 | 各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度の欠損金。平成30年4月1日前に開始した事業年度の欠損金は9年 | No.5762 |
| 要件 | 欠損金が生じた期に青色申告書である確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出し、帳簿書類を保存している | No.5762 |
| 控除できる上限 | 中小法人等は控除前の所得金額まで(全額)。中小法人等以外は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度で所得の50%まで | No.5762 |
| 使う順番 | 欠損金が2つ以上の期にあるときは、いちばん古い期の分から順に使う | No.5762 |
| 帳簿書類の保存 | 青色欠損金が生じた期の帳簿書類は10年間(平成30年4月1日前に開始した期は9年間) | 国税庁 No.5930 |
| 申告書の書き方 | 別表七(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」に記載する | 国税庁 法人税申告書の記載要領(令和7年版) |
大事なのは、欠損金が「あとで使える権利」として、申告書の上で毎年引き継がれていく点です。一度でも引き継ぎが途切れると、使えるはずの赤字が消えます。
制度・要件・期間──国税庁 No.5762で確認できたこと
繰越控除を使えるかどうかは、赤字が出た期の申告書が青色だったかで決まります。後の期が白色申告になっても、赤字の期に青色申告書を出していれば、その欠損金は繰越控除の対象になります(No.5762)。
要件を分解すると3つです。1つ目は、欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を出していること。2つ目は、その後の各事業年度について連続して確定申告書を出していること。3つ目は、その事業年度の帳簿書類を保存していることです。法人税法2条31号では、確定申告書には期限後申告書も含まれると定めています(法人税法)。ただし、確定申告書を提出期限までに出さなかった場合、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができる、と同法127条1項4号にあります。「遅れても出せば続く」と考えるより、期限内に毎年出すのが前提です。
控除できる上限は、中小法人等かどうかで分かれます。No.5762の中小法人等は、普通法人のうち資本金(出資金)の額が1億円以下のものなどで、資本金5億円以上の法人などの100%子法人等や大通算法人は除かれます。個人が出資した資本金1億円以下の一人法人なら、通常は中小法人等に当たり、繰越控除前の所得金額の全額まで控除できます。中小法人等以外の法人は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度では所得の50%が上限です。
期間の数え方は、「各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度」です。国税庁の記載要領には、3月決算法人の例として、令和8年3月期に控除できる青色欠損金は平成29年3月期以降に生じたものと書かれています(平成30年4月1日前に開始した期なので9年)。同じ数え方をすると、2026年4月1日に始まる2027年3月期の欠損金は、2037年3月期まで使える計算です。
欠損金を前の期に戻して法人税を還付してもらう「欠損金の繰戻しによる還付」もあります。No.5763によると、欠損事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰り戻すもので、中小企業者等以外の法人は令和10年3月31日までに終了する事業年度の欠損金について原則として使えません。中小企業者等が使うには、青色申告書を連続して出していることに加え、欠損事業年度の申告書を提出期限までに出し、同時に還付請求書を出す必要があります。設立1期目の赤字には繰り戻す前の期がないので、一人法人がまず使うのは繰越控除のほうです。
繰越控除は法人税の制度ですが、地方税にも影響します。法人事業税の所得は「法人税の課税標準である所得の計算の例により算定する」と地方税法72条の23にあり(地方税法)、法人住民税の法人税割と地方法人税は法人税額に税率を掛けます。法人税の所得が小さくなれば、これらも連動して小さくなります。一方、法人住民税の均等割は所得に関係なくかかるので、欠損金があっても減りません。
計算の手順と例──3期分で見る欠損金の繰越控除
繰越控除の計算は、その期の控除前の所得と、手元に残っている欠損金のうち小さいほうを差し引くだけです。中小法人等を前提に、架空の数字で3期分を追います。
| 前提(例) | 内容 |
|---|---|
| 会社 | 資本金300万円の合同会社(中小法人等)。社員は代表1人 |
| 青色申告 | 設立1期目から青色申告の承認を受け、毎期期限内に確定申告書を出している |
| 事業年度 | 3月決算。1期目は2026年4月1日〜2027年3月31日 |
| 所得 | 1期目は欠損金額400万円、2期目は繰越控除前の所得150万円、3期目は600万円 |
| 税額の概算 | 法人税だけを、年800万円以下の部分の税率15%で計算(地方法人税・地方税は含めない) |
| 期(例) | 繰越控除前の所得 | 当期控除額 | 控除後の所得 | 翌期繰越額 | 法人税(15%で概算) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1期目 | −400万円(欠損金額) | ― | 0円 | 400万円 | 0円 |
| 2期目 | 150万円 | 150万円 | 0円 | 250万円 | 0円 |
| 3期目 | 600万円 | 250万円 | 350万円 | 0円 | 52万5,000円 |
検算します。2期目は所得150万円より欠損金400万円のほうが大きいので、150万円だけ控除して所得は0円、残りは400万円−150万円=250万円です。3期目は600万円−250万円=350万円が所得になり、350万円×15%=52万5,000円です。3期の所得の合計は−400万円+150万円+600万円=350万円で、控除後の所得の合計(0円+0円+350万円)と一致します。
比べるために、条件を1つずつ変えた場合も並べます。
| 比較(例) | 2期目 | 3期目 | 2期目と3期目の法人税の合計 |
|---|---|---|---|
| 上の例(青色申告・中小法人等) | 所得0円 | 所得350万円 | 52万5,000円 |
| 1期目を白色申告で出していた場合 | 所得150万円(法人税22万5,000円) | 所得600万円(法人税90万円) | 112万5,000円 |
| 参考:中小法人等以外で控除が所得の50%までの場合 | 75万円を控除して所得75万円 | 300万円を控除して所得300万円(25万円は4期目へ) | 税率が異なるため省略 |
白色申告の行との差は112万5,000円−52万5,000円=60万円で、使えなくなった欠損金400万円×15%と一致します。1期目の申告書の色だけで、2期目と3期目の法人税がこれだけ変わります。
申告書では、この流れを別表七(一)に書きます。国税庁の記載要領では、「控除未済欠損金額」に過去の期の青色欠損金額を古い期から順に書き、「当期控除額」には古い期の分から順に控除できる金額を書きます。前期の別表七(一)の「翌期繰越額」と当期の「控除未済欠損金額」が一致しているか、「当期控除額」の計が別表四の「欠損金等の当期控除額」と一致しているかが、チェックポイントとして挙げられています。会計ソフトや税理士に任せる場合でも、毎期この1枚で残高が引き継がれていることだけは目で確かめておくと安心です。
一人法人の判断ポイント
一人法人にとっての最大の分かれ目は、設立1期目を青色申告にできるかどうかです。1期目は売上より先に立ち上げの支出が出ることもあり、その期が白色申告だと、そこで出た赤字は繰り越せません。
設立1期目の青色申告の承認申請の期限は、設立の日以後3か月を経過した日と、その事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までです(国税庁 青色申告書の承認の申請)。ほかの届出とあわせた一覧は会社設立後の届出一覧にまとめました。決算月を設立月の近くに置くと1期目が短くなり、この期限も早まるので、決算月の決め方とあわせて考えてください。
個人事業主のときにも赤字を繰り越す仕組みはありましたが、期間も要件も違います。法人成りした人が混同しやすい点を表で分けます。
| 論点 | 一人法人(法人税の欠損金の繰越控除) | 個人事業主(所得税の純損失の繰越控除) |
|---|---|---|
| 繰り越せる期間 | 10年(平成30年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金) | 翌年以後3年間 |
| 主な要件 | 欠損の期に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出・帳簿書類を保存 | 青色申告者は事業所得などの損失を繰り越せる |
| 控除の上限 | 中小法人等は所得の全額まで | 各年分の所得金額から控除 |
| 繰戻し還付 | 中小企業者等は、前1年以内に開始した事業年度へ繰り戻して還付を請求できる | 前年も青色申告なら、前年分に繰り戻して還付を受けられる |
| 事業税 | 法人税の所得の計算の例による | 青色申告者は翌年以降3年間、損失の繰越控除(東京都) |
個人事業主の欄は、国税庁のNo.2070 青色申告制度と東京都主税局の個人事業税のページで確認した内容です。法人税法57条が対象にしているのは、その法人の事業年度に生じた欠損金額です。個人事業主のときの赤字と会社の欠損金は、それぞれの申告の中で別々に扱われます。
ぼくが2019年に一人でtiny合同会社を作ったときのことは、tiny合同会社を設立してわかったことに書きました。そこでは登記後に出す届出として、税務署への青色申告の承認申請書(設立から3か月以内)を挙げています。税理士ドットコムの記事には、最初の期の途中まで自分で帳簿をつけ、決算の直前に慌てて税理士を探したことも書きました。そのとき、節税は決算のあとに計算する作業ではなく、期の初めに設計する作業だと理解しました。欠損金の繰越控除はその典型で、使えるかどうかは赤字が出たあとではなく、設立直後の届出と最初の申告で決まります。
よくある間違いと注意点
まず避けたい間違いは、赤字なら申告しなくてもよいと考えることです。所得がなくても確定申告書は出す必要があり、ここで連続が途切れると、過去の欠損金を使う要件を満たせなくなります。ほかの注意点も並べます。
- 1期目の青色申告の承認申請を出し忘れる:欠損金が生じた期に青色申告書を出していないと、その欠損金は繰り越せません。
- 期限後でも同じだと思う:期限後申告書も確定申告書に含まれますが、提出期限までに出さないと青色申告の承認を取り消されることがあります(法人税法127条1項4号)。繰戻し還付は期限内の提出が要件です(No.5763)。
- 帳簿を7年で捨てる:法人の帳簿書類の保存期間は原則7年ですが、青色欠損金が生じた期の分は10年です(No.5930)。
- 新しい欠損金から先に使う:欠損金が複数の期にあるときは、古い期の分から順に控除します(No.5762)。
- 9年と10年を取り違える:平成30年4月1日前に開始した事業年度の欠損金は9年です。古い期の残高があるときは期限を個別に確認してください。
- 欠損金があれば地方税もゼロになると思う:法人税割や法人事業税の所得割は小さくなりますが、法人住民税の均等割は残ります。
この記事は、最終更新日時点の制度で書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。税理士の選び方はいい税理士とは何かにまとめています。
欠損金の繰越控除に関するよくある質問
欠損金の繰越控除について、一緒に検索されている「期間10年」「青色申告」「わかりやすく」「別表七」の疑問に答えます。回答は、最終更新日時点で国税庁と法令のページで確認できた内容です。
欠損金の繰越期間は10年ですか?
平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年です。それより前に開始した事業年度の欠損金は9年です。期間は「各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度」で数え、古い期の分から順に使います。
青色申告でないと欠損金は繰り越せませんか?
繰り越せません。欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を出していることが要件です。その期が青色なら、後の期が白色申告書でも、その欠損金は繰越控除の対象になります。
欠損金の繰越控除をわかりやすく言うと何ですか?
今年の赤字を、来年以降の黒字から差し引ける仕組みです。例えば1期目に400万円の赤字、2期目に150万円、3期目に600万円の黒字なら、中小法人等は2期目の所得が0円、3期目が350万円になります。法人税はその小さくなった所得に対してかかります。
別表七とは何ですか?
法人税申告書の別表七(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」のことです。過去の期から繰り越した欠損金の残高、当期に控除した額、翌期に繰り越す額を期ごとに書きます。前期の「翌期繰越額」と当期の「控除未済欠損金額」が一致しているかが、確認の基本です。
おわりに──欠損金は、赤字の年に出した申告書の中に残る資産
赤字の年は、税金がかからない年に見えます。実際には、青色申告書を期限内に出したかどうかで、その赤字が10年使える資産になるか、何も残らない数字で終わるかが分かれます。一人法人が決めることは「黒字になったら考える」ことではなく、「赤字の年こそ、青色で期限内に申告を出す」ことです。