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福利厚生費(一人社長)の認められる範囲|健康診断・慰安旅行の線引き

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最終更新:2026年10月19日

福利厚生費とは、役員や従業員の福利厚生のために会社が負担する費用のうち、給与として課税されないものをまとめて呼ぶ科目名の例です。国税庁の通達は、健康診断・レクリエーション旅行・会食などについて「全員が対象で、社会通念上一般的なものなら給与にしなくてよい」としつつ、「役員だけを対象とする場合」をその例外から外しています。社員のいない一人社長の会社では、対象の全員が役員である自分だけになるので、福利厚生費のつもりの支出が役員への給与と扱われやすい構造があります。この記事では、国税庁の通達・質疑応答事例・タックスアンサーで確認できた範囲だけで、認められる範囲と否認されやすい例を整理します。内容は最終更新日時点の制度にもとづいています。

福利厚生費(一人社長)とは?結論から

一人社長にとっての福利厚生費は、「通達の条件を満たせば給与にならない費用」ですが、その条件の多くに「役員だけを対象とする場合を除く」と書かれています。給与と扱われると、会社では損金にならず、社長個人には所得税がかかります。要点を表にします。

項目 内容 確認した公式ページ
福利厚生費という言葉 法令で定義された科目名ではない。会社ごとに科目名を選べ、毎期同じ科目を使い続けることが大事 ―
給与にしなくてよい基本の考え方 福利厚生施設の運営費などの負担による経済的利益は、著しく多額な場合か役員だけを対象とする場合を除き、課税しなくて差し支えない 所得税基本通達 36-29
会食・旅行などの行事 社会通念上一般的な行事の費用は、不参加者に金銭を払う場合か役員だけを対象とする場合を除き、課税しなくて差し支えない 所得税基本通達 36-30
給与と扱われた場合(法人) 経済的な利益も役員給与に含まれ、定期同額給与などに当たらなければ損金不算入 法人税法 第34条第1項・第4項/法人税基本通達 9-2-9〜9-2-11
給与にしない扱いと法人税 所得税で課税されない経済的利益で、会社が給与として経理しなかったものは、役員給与として扱わない 法人税基本通達 9-2-10

つまり、法人税で損金になるかどうかは、所得税で給与として課税されるかどうかとつながっています。一人社長が福利厚生費を考えるときは、「会社の経費になるか」の前に「自分への給与にならないか」を先に確かめる順番になります。

福利厚生費として認められる範囲──公式ページで確認した中身

福利厚生費として認められる範囲は、支出の種類ごとに国税庁の通達や質疑応答事例で条件が示されています。健康診断・旅行・行事は「全員が対象」が条件で、役員だけが対象なら外れます。慶弔金と食事は、それとは別の基準です。確認できたものを表にします。

支出 給与にしなくてよい条件 外れる場合 出典
健康診断・人間ドック 一定年齢以上の希望者は全員受けられ、受けた人の全員を対象に、一般的に実施されている人間ドック程度の費用を負担する 役員や特定の地位にある人だけを対象に費用を負担する場合は「課税の問題が生じる」 国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用負担」
従業員レクリエーション旅行 旅行期間が4泊5日以内(海外は現地での滞在が4泊5日以内)、参加者が全体の50%以上、少額不追求の趣旨を逸脱しない 役員だけで行う旅行、取引先の接待のための旅行、実質的に私的な旅行、金銭と選べる旅行 国税庁 No.2603
会食・運動会などの行事 社会通念上一般的に行われている行事の費用 不参加者に代わりの金銭を払う場合、役員だけを対象とする場合 所得税基本通達 36-30
結婚・出産などの祝金品 雇用契約等にもとづいて支給され、地位等に照らして社会通念上相当な額 相当な額を超える場合は給与等 所得税基本通達 28-5
香典・災害等の見舞金 受け取る人の社会的地位、贈る側との関係等に照らして社会通念上相当な額 相当な額を超える場合 所得税基本通達 9-23
食事の現物支給 本人が食事の価額の50%以上を負担し、かつ(食事の価額−本人負担)が月7,500円(税抜)以下 どちらかを満たさなければ差額が給与。現金での食事代の補助は原則として全額が給与 国税庁 No.2594

食事の現物支給の非課税限度額は、令和8年度の税制改正にあわせた通達改正で月3,500円から月7,500円に引き上げられ、2026年4月1日以後に支給する食事から適用されています(国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」)。

社会保険料の会社負担分は、福利厚生費とは別の話です。国税庁の質疑応答事例は、健康保険法の規定で事業主が負担すべき保険料は経済的利益に当たらず、本人が負担すべき部分を会社が負担したときに初めて経済的利益が生じるとしています。科目名の例としては「法定福利費」があります。

一人社長に関係が深い社宅と出張手当は、別記事で扱っています。役員社宅の賃料相当額は自宅を社宅にする方法(一人法人)、出張の日当は一人法人の旅費の線引きを見てください。

否認されやすい例・認められやすい例と計算例

否認されやすいのは「社長だけが受ける・社長だけが行く・規程がない」支出で、認められやすいのは「全員が同じ条件で受けられる・額が社会通念の範囲」の支出です。一人社長の会社では、前者に当てはまりやすくなります。健康診断・慶弔・旅行で比べます。

支出 否認されやすい例 認められやすい例
健康診断 社員のいない会社で、社長1人分の人間ドック代だけを会社が負担する(役員だけが対象の形になる) 役員と従業員のうち一定年齢以上の希望者全員が受けられる制度にし、一般的な人間ドック程度の費用を全員分負担する
慶弔 規程がなく、その都度金額を決める。地位に照らして高額な祝金 雇用契約や規程にもとづき、社会通念上相当な額の祝金・見舞金を支給する
旅行 社長1人や役員だけで行く旅行、観光が目的の私的な旅行、5泊6日以上の旅行 従業員を含めた全体の50%以上が参加する4泊5日以内の旅行で、会社負担が少額不追求の範囲

旅行を例に、損金になる額の違いを架空の数字で比べます。どちらも3月決算の会社です。B社の会社負担額は、国税庁No.2603の事例1(3泊4日・旅行費用15万円のうち使用者負担7万円・参加割合100%)と同じ水準にしています。

ケース(例) 判定 会社の損金 社長個人
A社:社員のいない一人社長の会社。社長1人の2泊3日の旅行代20万円を会社が負担し、福利厚生費で処理 役員だけで行う旅行なのでレクリエーション旅行に当たらず、役員への経済的な利益(給与)。一回限りの支出で定期同額給与ではない 20万円が損金不算入 20万円が給与として所得税・住民税の対象
B社:社長と従業員2人の会社。3人全員が参加する3泊4日の旅行で、会社負担は1人7万円 4泊5日以内・参加割合100%・少額不追求の範囲で、原則として給与にしない 7万円×3人=21万円を費用にできる 課税なし

A社の判定は順番に3段階です。

  1. 所得税で給与になるか:No.2603は「役員だけで行う旅行」を従業員レクリエーション旅行に当たらないとし、所得税基本通達36-30も役員だけを対象とする行事を課税しない扱いから外しています。
  2. 法人税で役員給与になるか:所得税で課税される経済的利益なので、法人税基本通達9-2-10の「給与としない」扱いには当たりません。法人税法34条4項により、役員給与に含まれます。
  3. 損金になるか:法人税基本通達9-2-11は、毎月おおむね一定の経済的利益を定期同額給与に含めていますが、一回限りの旅行代はこれに当たりません。事前確定届出給与でもないので、20万円は損金不算入です。

検算すると、A社は会社の損金0円・社長の給与20万円、B社は会社の損金21万円・個人の課税0円です。A社は「会社で払ったのに会社の経費にならず、個人には税金がかかる」形になり、会社と個人の両方で税負担が生じます。

一人法人・個人事業主の判断ポイント

福利厚生費の通達は「使用者が役員や使用人に与える経済的利益」の話なので、一人法人と個人事業主では、そもそも問題の形が違います。一人法人では「社長への給与にならないか」、個人事業主本人では「家事上の経費にならないか」が論点です。

論点 一人法人 個人事業主
本人(社長・事業主)のための支出 役員への経済的な利益として、給与課税と損金不算入の問題になる(法人税基本通達 9-2-9) 本人は給与を受け取る立場ではないので、通達の「給与にしない」扱いの対象外。家事上の経費は必要経費に入らない(所得税法 第45条)
従業員を雇った場合 全員を対象にすれば、通達の条件で給与にしない扱いになり得る 従業員への福利厚生は、法人と同じ通達(36-29・36-30など)の条件で判定
出張の日当 出張旅費規程を作れば、役員にも日当を支給できる 事業主本人に日当は払えない(旅費の記事で解説)
住まい 役員社宅として、賃料相当額を受け取る形で会社が負担できる 自宅兼事務所なら、業務部分を家事按分する(所得税法施行令 第96条)

個人事業主の本人の健康診断などを直接扱った国税庁のページは、最終更新日時点で見つけられませんでした。所得税法45条の原則から、本人の生活のための支出は必要経費にならないと考えるのが基本で、迷うものは税理士に確認してください。

出張の日当については、旅費の線引きの記事で、個人事業主は自分に日当を払えず、一人法人なら出張旅費規程で日当を出せることを「法人化のメリットとして、もっと知られていい話」と書きました。福利厚生費は、その逆の構造です。日当は「出張した役職員全員に同じ規程を当てる」形を作れますが、健康診断や旅行は、社員がいない限り「全員」が自分しかいません。

一人で法人を作るということでは、法人化してから大変だと感じたのは社会保険の手続きと毎月の支払いだったと書きました。社会保険料の会社負担分は、社長一人の会社でも法律にもとづく負担なので、福利厚生費とは別の「法定福利費」として整理されます。報酬額と保険料の関係は役員報酬と社会保険料の計算にまとめています。

一人社長が判断するときの目安を挙げます。

  • 「全員」を数えてから考える:対象者が社長1人なら、健康診断・旅行・行事は「役員だけが対象」と重なります。従業員を雇っている場合も、人間ドックの質疑応答事例のように、対象者の全員が実際に受けられる制度になっていることが前提です。
  • 規程と額を先に決める:慶弔金は雇用契約や規程にもとづくことが前提です。後から額を決める形は、社会通念上相当かどうかを説明しにくくなります。
  • 給与にするなら、給与のルールで決める:社長への支払いを損金にしたいなら、毎月の役員報酬(定期同額給与)か、事前に届け出た賞与(事前確定届出給与)の形で決めるのが筋です。定期同額給与の要件は定期同額給与とはにまとめています。

旅費の記事では、迷ったら「税務署の人に、この支出の目的を30秒で説明できるか」と自問していると書きました。福利厚生費の場合は、それに「この制度を、社員が入ってきたときにも同じ条件で使わせるか」を足すと、線が引きやすくなると思います。

よくある間違いと注意点

いちばん多い間違いは、「福利厚生規程を作れば、社長一人の会社でも福利厚生費になる」と考えることです。規程があっても、対象が役員だけなら、通達の「役員だけを対象とする場合を除き」に当たります。ほかの注意点も並べます。

  • 給与と扱われたときの影響を軽く見る:給与とされると、会社では損金不算入になり、修正申告や更正で法人税を納め直す場合は原則として納付すべき税額の10%の過少申告加算税がかかります(国税通則法 第65条)。給与として源泉徴収すべき所得税を納めていなければ、不納付加算税(原則10%・同法第67条)の対象にもなります。
  • 旅行の日数と参加割合を見ない:5泊6日以上の旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないとして課税される例がNo.2603に示されています。
  • 不参加者に現金を渡す:自己都合で旅行に参加しなかった人に金銭を払うと、参加者と不参加者の全員に、その金額相当の給与の支給があったものとされます(No.2603)。
  • 食事代を現金で補助する:食事の非課税の扱いは現物支給が前提です。現金での補助は、深夜勤務の夜食代の例外を除き、全額が給与になります(No.2594)。
  • 改正前の数字のまま判断する:食事の現物支給の上限は、2026年4月1日以後に支給する食事から月7,500円です。それより前の支給分は月3,500円で判定します。

この記事は、最終更新日時点の制度で、国税庁と法令のページで確認できた内容だけを書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。相談先の選び方はいい税理士とは何かにまとめています。

福利厚生費(一人社長)に関するよくある質問

一人社長の福利厚生費について、検索で一緒に調べられている「認められる範囲」「健康診断」「慰安旅行」「個人事業主」の疑問に答えます。内容は、最終更新日時点で国税庁と法令のページで確認できたものだけです。

一人社長の健康診断や人間ドックは、福利厚生費になりますか?

国税庁の質疑応答事例は、一定年齢以上の希望者全員を対象に一般的な人間ドック程度の費用を負担する場合は給与にしなくてよい一方、役員だけを対象に負担する場合は課税の問題が生じるとしています。社員のいない会社では対象が社長だけになるので、給与と扱われるおそれがあります。一人社長の会社を直接扱った国税庁のページは見つけられなかったので、税理士に確認してください。

一人社長の慰安旅行は、福利厚生費にできますか?

国税庁のNo.2603は、役員だけで行う旅行を従業員レクリエーション旅行に当たらないとしています。社員のいない会社の社長の旅行は、この「役員だけで行う旅行」に当たり、給与や交際費などとして処理することになります。給与とされた場合、一回限りの支出は定期同額給与ではないので損金になりません。

福利厚生費として認められる範囲の基準は何ですか?

国税庁の通達では、全員を対象にしていること、社会通念上一般的な内容であること、額が多額でないことが共通の考え方です。旅行なら4泊5日以内で参加者が全体の50%以上、食事の現物支給なら本人が半分以上を負担し、会社負担が月7,500円(税抜・2026年4月1日以後の支給分)以下などの具体的な条件があります。

個人事業主は、自分の健康診断を経費にできますか?

個人事業主本人は給与を受け取る立場ではないので、福利厚生費の「給与にしない」扱いはそもそも当てはまりません。所得税法45条は家事上の経費を必要経費に入れないと定めていて、本人の健康診断は生活のための支出と考えるのが基本です。事業主本人の健康診断を直接扱った国税庁のページは見つけられなかったので、迷う場合は税理士に確認してください。

おわりに──一人社長の福利厚生は「全員」が自分しかいないところから始まる

福利厚生費は、社員みんなに同じ条件で開かれているからこそ、給与にならずに済む費用です。一人社長の会社では、その「みんな」が自分だけになり、福利厚生のつもりの支出が自分への給与に変わります。福利厚生費を考える前に、その制度を誰に開いているのかを数えてください。

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