最終更新:2026年10月19日
一人法人で自宅を社宅にする方法は、いま住んでいる賃貸の契約を会社名義に切り替え、会社が借りた家を役員である自分に貸す形にすることです。そのうえで、国税庁の式で計算した「賃貸料相当額」以上の家賃を自分から会社に払えば、給与として課税されません。負担割合は家賃の何割と決まっているわけではなく、建物の床面積と固定資産税の課税標準額で決まります。この記事は、役員社宅の計算式・切り替えの手順・否認されやすいパターンを、一人社長の立場で整理したものです。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立しました。一人で法人を作るということでは、法人にすると社宅なども経費の対象になると書いています。ただ、社宅は家賃を会社に払わせれば済む話ではなく、税と社会保険で別々の物差しがあります。2026年10月19日時点の制度で書いています。
自宅を社宅にする方法とは?結論から
役員社宅は、会社が借りた(または持っている)住宅を役員に貸し、役員から賃貸料相当額以上の家賃を受け取る仕組みです。国税庁のタックスアンサー No.2600「役員に社宅などを貸したとき」をもとに、要点を表にしました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約の名義 | 会社が家主と契約する(本人が契約したまま会社が家賃を負担すると、社宅の貸与とは認められず給与として課税) |
| 役員が払う家賃 | 1か月あたりの賃貸料相当額以上なら、給与として課税されない |
| 賃貸料相当額の決まり方 | 小規模な住宅かどうか、自社所有か借上げかで計算式が変わる |
| 払う家賃が足りないとき | 賃貸料相当額との差額が給与として課税される |
| 豪華社宅 | 計算式は使えず、通常支払うべき使用料(時価)が賃貸料相当額になる |
| 社会保険 | 住宅の貸与は現物給与として報酬に含まれ、厚生労働大臣が定める価額で別に計算する |
賃貸料相当額の計算式(制度・要件)
賃貸料相当額の計算は、まず「小規模な住宅」に当たるかどうかで分かれます。No.2600 では、法定耐用年数が30年以下の建物なら床面積132平方メートル以下、30年を超える建物なら99平方メートル以下が小規模な住宅です。国税庁の耐用年数表では、住宅用の木造は22年、鉄筋コンクリート造は47年なので、木造の家は132平方メートル以下、鉄筋コンクリートのマンションは99平方メートル以下が目安になります。
| 区分 | 賃貸料相当額(月額) |
|---|---|
| 小規模な住宅(自社所有・借上げとも) | ①建物の固定資産税の課税標準額×0.2% + ②12円×(建物の総床面積〔平方メートル〕÷3.3平方メートル) + ③敷地の固定資産税の課税標準額×0.22% |
| 小規模でない・自社所有 | (建物の課税標準額×12%〔法定耐用年数30年超の建物は10%〕+敷地の課税標準額×6%)×12分の1 |
| 小規模でない・借上げ | 会社が家主に払う家賃の50%と、上の自社所有の式で出した額の、いずれか多いほう |
| 豪華社宅 | 通常支払うべき使用料に相当する額 |
「役員社宅は家賃の半分を払えばいい」と語られることがありますが、家賃の50%が出てくるのは小規模でない借上げ住宅の場合だけです。小規模な住宅なら、借上げでも上の①〜③の式で計算します。
豪華社宅かどうかは、No.2600 によると床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額・支払賃貸料・内外装の状況などを総合して判定します。240平方メートル以下でも、プールなど一般の住宅にない設備や、役員個人のし好を著しく反映した設備があれば豪華社宅に当たります。
計算の細部は、国税庁の質疑応答事例に答えがあります。マンションの場合は、小規模かどうかの判定も課税標準額も共用部分を含めて計算します(役員に貸与したマンションの共用部分の取扱い)。家賃に含まれるエレベーター保守料などの管理費は、総額で計算して差し支えないとされています(役員に貸与したマンションの管理費)。固定資産税の課税標準額は、原則として固定資産課税台帳に登録された価格で、改訂されたら原則として計算し直します(社宅に係る通常の賃貸料の額を計算する場合の固定資産税の課税標準額)。改訂幅が20%以内なら再計算しなくてよい扱いは、使用人に貸した社宅についてのものです。
法人契約に切り替える手順と計算例
賃貸に住んでいる一人社長の場合、手順は契約の切り替え、課税標準額の入手、賃貸料相当額の計算、毎月の受け取り、社会保険の届出の順です。
- 貸主・管理会社に法人契約にできるか聞く:名義変更で済むか、新しい契約になるかは物件ごとに違います
- 会社名義で賃貸借契約を結び、家賃を会社の口座から払う:会社が払う家賃は会社の費用になり、役員から受け取る家賃は会社の収入として記帳します
- 建物と敷地の固定資産税の課税標準額を入手する:貸主に聞くのが早道です。東京23区なら、賃料を払っている借主は都税事務所で評価証明を申請でき、法人も賃貸借契約書などを持って申請できます(東京都主税局「賃借人・地上権者等」・1件目400円)。23区以外は市町村の窓口です
- 賃貸料相当額を計算し、毎月役員から受け取る:役員報酬から差し引くか、役員が会社の口座に振り込みます。決め方を社内のルールとして書面にしておくと、後から説明しやすくなります
- 社会保険の報酬に現物給与を足す:社宅の分を報酬月額に含めて届け出ます(下の例3)
ここからは架空の数字で計算します。どれも「例」で、実在の物件や本人の住まいの数字ではありません。
例1:小規模な住宅(借上げ)。東京都の鉄筋コンクリート造マンションで、専有面積55平方メートル、共用部分のあん分を足した床面積60平方メートル。会社が払う家賃は月18万円、建物の課税標準額600万円、敷地の課税標準額400万円とします。
| 計算 | 金額 |
|---|---|
| ①600万円×0.2% | 12,000円 |
| ②12円×(60÷3.3) | 218.18円 |
| ③400万円×0.22% | 8,800円 |
| 賃貸料相当額(①+②+③) | 21,018.18円(約21,018円) |
例1では、役員が毎月約21,018円以上を会社に払えば、給与として課税されません。月1万円しか払わないなら、差額の約11,018円が毎月の給与として課税されます。家賃18万円の50%(9万円)とは別の数字になる点が、小規模な住宅の特徴です。
例2:小規模でない住宅(借上げ)。木造一戸建てで床面積150平方メートル、家賃月30万円、建物の課税標準額800万円、敷地の課税標準額1,200万円とします。自社所有の式は(800万円×12%+1,200万円×6%)÷12=(96万円+72万円)÷12=14万円です。家賃の50%は15万円なので、多いほうの15万円が賃貸料相当額になります。
例3:社会保険の現物給与(例1の続き)。日本年金機構の全国現物給与価額一覧表では、住宅の価額が令和8年10月1日から総面積1平方メートルあたりの額に変わり、東京都は1,330円です。総面積は台所や浴室を含めた床面積の合計で、共同で使う部分は除きます。家賃を徴収している場合は、価額から徴収額を引いた額が現物給与になります。
| 計算(協会けんぽ東京支部・令和8年度の保険料額表で例示) | 社宅なし | 社宅あり |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 300,000円 | 300,000円 |
| 現物給与(1,330円×55平方メートル−徴収額21,018円) | 0円 | 52,132円 |
| 報酬月額 | 300,000円 | 352,132円 |
| 標準報酬月額 | 300,000円 | 360,000円 |
| 健康保険料+子ども・子育て支援金+厚生年金保険料(会社負担と本人負担の合計・介護保険第2号に該当しない場合) | 85,140円 | 102,168円 |
保険料の額は、協会けんぽの令和8年3月分からの保険料額表(東京支部)の等級から出しました(子ども・子育て支援金は令和8年4月分から)。例3では、税の上では賃貸料相当額を払っていて課税がなくても、社会保険の上では会社負担と本人負担を合わせて毎月17,028円の保険料増になります。日本年金機構の同じ資料には、現物給与の価額の変更は固定的賃金の変動に当たり、月額変更届が必要になる場合があるとも書かれています。健康保険組合に入っている会社は、組合の規約で別の定めがあることがあります。
一人社長の判断ポイント
一人社長が見るべきなのは、税と社会保険の2本の物差しを同時に当てたときの差し引きです。税は国税庁の賃貸料相当額、社会保険は厚生労働大臣が定める現物給与の価額で、同じ社宅でも計算の元がまったく違います。
2つ目は役員報酬との関係です。役員から受け取る家賃が賃貸料相当額に届かない場合、差額は役員への経済的な利益として扱われます。国税庁の法人税基本通達9-2-9・9-2-11では、居住用の家屋を低い家賃で提供した場合の差額は経済的な利益に当たり、毎月著しく変動しなければ、継続的に供与される経済的な利益として定期同額給与の範囲に入るとしています(No.5211 役員に対する給与)。期の途中で社宅を始めたりやめたりする場合の扱いは、税理士に確認してから動くのが安全です。役員報酬そのものの決め方は一人法人の役員報酬の決め方に書きました。
3つ目は持ち家の場合です。自分名義の家を会社が借りて社宅にすると、会社が払う家賃は自分の不動産所得になり(国税庁 No.1370)、確定申告の対象になります。家賃の額の決め方や住宅ローン控除への影響など、賃貸より論点がずっと増えるので、持ち家での社宅化は必ず税理士と相談してください。
ぼくは一人で合同会社を設立した話で、独立前に生活費と会社の固定費を分けておくことを書きました。社宅は、その線をあえて重ねる制度です。家賃は生活費の一部です。それを会社の帳簿に入れる以上、契約書・計算の根拠・毎月の受け取りの記録を、会社の書類としてそろえておく必要があります。
よくある間違いと注意点
否認されやすいのは、形が社宅になっていないケースです。No.2600 は、現金で支給する住宅手当や、入居者が直接契約している場合の家賃負担は社宅の貸与とは認められず、給与として課税されるとしています。
- 本人契約のまま会社が家賃を払う:社宅ではなく給与です。先に法人契約へ切り替えます
- 住宅手当として現金で渡す:これも給与として課税されます
- 役員から家賃を受け取っていない:無償で貸すと、賃貸料相当額の全額が給与として課税されます
- 「家賃の50%」を小規模な住宅に当てはめる:小規模な住宅は課税標準額から計算します。逆に、小規模でない借上げ住宅で式の額だけを取ると、家賃の50%を下回る場合があります
- マンションの共用部分を入れずに判定する:小規模かどうかも課税標準額も、共用部分を含めて計算します
- 課税標準額が改訂されても計算し直さない:役員の社宅は、改訂されたら原則として計算し直します
- 広すぎる・設備が特殊な家を社宅にする:豪華社宅に当たると、計算式ではなく時価が基準になります
- 社会保険の現物給与を届け出ない:税の計算とは別に、報酬月額に現物給与を含めます
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。計算式や現物給与の価額は改正で変わることがあるので、使う前に国税庁と日本年金機構のページで確かめてください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
自宅を社宅にする方法に関するよくある質問
役員社宅の負担割合は、家賃の何割にすればいいですか?
決まった割合はありません。国税庁 No.2600 では、役員が払う家賃が賃貸料相当額以上なら給与として課税されないとしています。小規模な住宅なら固定資産税の課税標準額と床面積から計算し、小規模でない借上げ住宅なら家賃の50%と自社所有の式の額のいずれか多いほうになります。
賃貸料相当額の計算に使う固定資産税の課税標準額は、どうやって調べますか?
まず貸主に確認します。国税庁の質疑応答事例では、課税標準額は原則として固定資産課税台帳に登録された価格とされています。東京23区の場合、賃料を払っている借主は都税事務所で評価証明を申請でき、法人が借主なら賃貸借契約書などを持って申請します。23区以外は市町村の窓口で確認してください。
一人法人で、いま住んでいる賃貸を社宅にできますか?
契約を会社名義に切り替えられれば、社宅にできます。本人が契約したまま会社が家賃を負担する形は、社宅の貸与とは認められず給与として課税されます。名義変更で済むか新しい契約になるかは物件ごとに違うので、貸主や管理会社に確認してください。
役員社宅にすると、社会保険料は変わりますか?
変わることがあります。住宅の貸与は現物給与として報酬に含まれ、厚生労働大臣が定める価額から役員が払う家賃を引いた額が報酬月額に足されます。東京都の住宅の価額は、令和8年10月1日から総面積1平方メートルあたり1,330円です。足した結果、標準報酬月額の等級が上がれば保険料も上がります。
おわりに──社宅は、家賃を会社に払わせる制度ではなく、家賃を会社と分ける制度
自宅を社宅にすると、家賃の大半を会社が負担するように見えます。実際には、役員は賃貸料相当額を会社に払い続け、その額は国税庁の式で決まり、社会保険では別の価額が報酬に足されます。社宅は家賃を会社に払わせる制度ではなく、決められた式で家賃を会社と自分に分ける制度です。
今日やることは、いまの住まいの床面積と構造を賃貸借契約書で確かめて、小規模な住宅に当たるかどうかを判定することです。そこが決まれば、次に集める数字は課税標準額の2つだけです。