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棚卸資産とは?評価方法と期末の仕訳、物販なしの一人法人の判定表

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最終更新:2026年10月19日

棚卸資産とは、商品・製品・仕掛品・原材料・貯蔵中の消耗品のように、期末に「棚卸し」をして残っている分を数えるべき資産のことです。法人税法2条20号と所得税法2条1項16号が定義を置き、範囲は政令で決まっています。結論から書くと、物を仕入れて売らない一人法人(マーケ支援・コンサル・ライターなど)には、棚卸資産は原則ほぼ関係ありません。気にするのは、期末に納品前の受託案件があるときと、物の商品を扱うときの2つです。評価方法を税務署に届け出なければ、法定評価方法の最終仕入原価法で評価します。この記事はe-Gov法令検索の条文と国税庁の手続案内・通達・決算の手引きで確認できた範囲で、最終更新日時点の制度にもとづいて書いています。

棚卸資産とは?結論から

棚卸資産は「売るため、または作るために持っていて、期末に数えて金額を確定させる資産」で、売れた分だけがその期の売上原価になります。一人法人・個人事業主が自分に関係あるかは、何を売っているかでほぼ決まります。判定を表にします。

事業のかたち 棚卸資産の出番 期末に確かめること
マーケ支援・コンサル・ライターなど、物を仕入れて売らない 原則ほぼなし 未使用の消耗品が例年より増えていないか、納品前の受託案件がないか
受託制作で、期末に納品前の案件に外注費などがかかっている 仕掛品になり得る 引渡し前の案件にかかった費用を拾う(下の手順の例2)
PDFやテンプレートなど、データだけを売る 数える物の在庫がない。データを棚卸資産とする国税庁の説明は見当たらない 販売用ソフトウエアの原本は、耐用年数表で減価償却資産の扱い
冊子・グッズなど、物を作る・仕入れて売る 商品・製品として本番 実地棚卸しと評価方法の選択
事務用品や会社案内の印刷物を毎年ほぼ同じ量買う 貯蔵品だが、買った期の経費にする扱いが認められている 毎期同じ処理を続ける(法人税基本通達2-2-15)

表の上2行に当てはまる人は、評価方法を細かく比べるより先に「仕掛中の案件があるか」を確かめるほうが、決算の数字に効きます。

制度・要件・届出の期限──範囲と評価方法

棚卸資産の範囲は、法人なら法人税法施行令(e-Gov法令検索)10条、個人事業主なら所得税法施行令3条が、同じ7つの区分で定めています。有価証券は含まれません(法人税法2条20号)。

政令の区分 一人法人で当てはまりそうな例(例)
商品又は製品(副産物・作業くずを含む) 仕入れて売る雑貨、自社で刷って売る冊子
半製品 途中まで作って、そのままでも売れる状態のもの
仕掛品(半成工事を含む) 期末時点で完成・引渡し前の受託制作
主要原材料・補助原材料 製品を作るために仕入れた材料
消耗品で貯蔵中のもの まだ使っていない事務用品・包装材料(一般に「貯蔵品」と呼ぶ)
前各号に準ずるもの 個別に判断。この記事では例を挙げません

期末の棚卸資産の金額は、届け出た評価方法で計算します。選べる方法は法人税法施行令28条(個人は所得税法施行令99条)に並んでいて、原価法の6つと低価法です。

評価方法 期末の単価の決め方 使える人
個別法 一つずつの実際の取得価額。大量に仕入れる規格品には選べない 法人・個人
先入先出法 期末に近い時期に仕入れた分から残っているとみなす 法人・個人
総平均法 期首の在庫と期中の仕入れを合わせた平均単価 法人・個人
移動平均法 仕入れのたびに平均単価を改定する 法人・個人
最終仕入原価法(法定評価方法) 期末に最も近い時期に仕入れたものの単価 法人・個人。届出がなければこれ
売価還元法 期末の売価の総額に原価の率を掛ける 法人・個人
低価法 原価法の金額と期末の価額の低いほう 法人。個人は青色申告の承認を受けている人だけ

届出の期限と、出さなかったときの扱いは次のとおりです。法人は国税庁の手続案内「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」、個人は「A1-17 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続」と条文で確認しました。評価方法は、事業の種類ごと・資産の区分ごとに選びます(法人税法施行令29条1項、所得税法施行令100条1項)。

場面 法人 個人事業主
出す書類 棚卸資産の評価方法の届出書 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
最初の届出の期限 設立第1期の確定申告書の提出期限まで(仮決算の中間申告書を出すならその期限まで。施行令29条2項) 事業を開始した日の属する年分の確定申告期限まで(施行令100条2項)
届け出なかったとき 最終仕入原価法による原価法(施行令31条1項) 最終仕入原価法による原価法(施行令102条1項)
あとで変えるとき 新しい方法を採用する事業年度開始の日の前日までに承認申請書(施行令30条2項) 新しい方法を採用する年の3月15日までに承認申請書(施行令101条2項)

設立後の届出をまとめて見たい人は、会社設立後の届出一覧にこの届出も並べています。変更は税務署長の承認制で、今の方法を採用してから相当期間が経っていないと却下されることがあります(施行令30条3項)。

手順──期末の棚卸しと仕訳を架空の例で

期末の作業は、数える・単価を決める・売上原価を出す・仕訳する、の4段です。国税庁の「令和7年分 青色申告の決算の手引き(一般用)」は、売上原価を「年初(期首)の棚卸高+年間の仕入高−年末(期末)の棚卸高」で計算すると説明しています。

  1. 期末日に、種類・品質・型ごとに数量を実地に数える(手引きは、忙しければ期末から多少前後した日に数え、期末日現在に引き直す方法も認めています)
  2. 届け出た評価方法(届出がなければ最終仕入原価法)で期末の単価を決める
  3. 期首棚卸高+当期仕入高−期末棚卸高で売上原価を出す
  4. 期首の在庫を仕入に戻し、期末の在庫を資産に振り替える仕訳を入れる

例1(すべて架空の数字):手帳を仕入れて売る架空の一人法人A合同会社。期首の在庫は100冊(単価1,200円・120,000円)、期中に3回仕入れて当期仕入高は1,800,000円、1冊2,500円で1,000冊売れて売上高は2,500,000円、期末に数えると500冊残っていました。

仕入れ(例) 数量 単価 金額
期首の在庫 100冊 1,200円 120,000円
6月の仕入れ 500冊 1,200円 600,000円
10月の仕入れ 500冊 1,300円 650,000円
2月の仕入れ(期末に最も近い) 400冊 1,375円 550,000円
合計 1,500冊 ― 1,920,000円

同じ500冊でも、評価方法で期末の金額と利益が変わります。

評価方法(例) 期末棚卸高の計算 売上原価 売上総利益
最終仕入原価法 500冊×1,375円=687,500円 1,920,000−687,500=1,232,500円 1,267,500円
先入先出法 2月の400冊550,000円+10月の100冊130,000円=680,000円 1,240,000円 1,260,000円
総平均法 1,920,000円÷1,500冊=1,280円、500冊×1,280円=640,000円 1,280,000円 1,220,000円

検算すると、どの方法でも「期末棚卸高+売上原価」は1,920,000円で、売上総利益は2,500,000円から売上原価を引いた額になっています。この例のように仕入単価が上がり続けている局面では、最終仕入原価法の期末棚卸高がいちばん高く、利益もいちばん大きく出ます。最終仕入原価法で期末の仕訳を入れると、一般的な三分法では次の2本です(勘定科目名は法令で決まっていないので、会計ソフトの科目名に読み替えてください)。

仕訳(例) 借方 貸方
期首の在庫を費用に戻す 仕入 120,000円 繰越商品 120,000円
期末の在庫を資産に移す 繰越商品 687,500円 仕入 687,500円

仕入の残高は1,800,000+120,000−687,500=1,232,500円で、上の表の売上原価と一致します。

例2(すべて架空の数字):3月決算の一人法人B合同会社が、LP制作を受託しました。納品は4月で、3月までに外注のデザイナーへの外注費300,000円が確定しています。法人税基本通達2-1-21の7は、請負の収益を原則として目的物を引き渡した日(物の引渡しが要らないものは役務の全部を完了した日)の事業年度に計上するとしています。国税庁の平成30年の通達の趣旨説明は、この原則で計上する場合、期末にまだ仕掛中のものにかかった費用は、引渡しの事業年度まで仮勘定で資産に計上して繰り延べると説明しています。

時点(例) 借方 貸方
3月末(期末) 仕掛品 300,000円 外注費 300,000円
4月の納品時 外注費 300,000円 仕掛品 300,000円

3月期のPLから外注費300,000円が消え、4月期に売上と外注費が同じ期にそろいます。同じ通達は、一定の要件を満たす請負なら進み具合に応じて収益を計上する方法も認めていて、その場合はこの振替の形になりません。成果に対して報酬を払う準委任の契約も同様に扱う、と注書きにあります。

一人法人・マーケターの読みどころ

物を売らない一人法人が見落としやすいのは、評価方法より「仕掛中の案件」と「期末をまたぐ外注費」です。例2の振替を忘れると、引渡し前の案件の費用だけが先の期に落ち、ある期は利益が小さく、次の期は大きく見えます。

ぼくの会社は、中小・スタートアップとのプロジェクトが中心の一人法人です(tiny合同会社を一人で設立してわかったこと)。会計ソフトの月次の損益を見ながら翌月の案件受注を判断していて、帳簿付けは想定より手間がかかるとも書きました(freeeとマネーフォワードの比較)。月次の損益で受注を決めるなら、期末をまたぐ制作案件の費用がどの月・どの期に落ちるかは、判断の前提になります。

デジタル商品は、確認できた範囲だけ書きます。棚卸資産は「棚卸しをすべきもの」として政令が範囲を決めていて、ダウンロード販売のデータそのものを棚卸資産とする説明は、国税庁の資料では見つけられませんでした。一方、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第三は、ソフトウエアのうち「複写して販売するための原本」を耐用年数3年の無形減価償却資産にしています。販売用のソフトウエアを作ったときの扱いは減価償却とはの考え方に近く、PDFやテンプレートがここに当たるかは税理士に確認してください。

事務用品や会社案内のような広告宣伝用印刷物は、毎期おおむね一定数量を買って経常的に使うものなら、買った期の損金にする処理を続けることが認められています(法人税基本通達2-2-15、個人は所得税基本通達37-30の3)。10万円未満の備品の扱いは少額減価償却資産と一括償却資産の違いに任せます。

マーケの目で見ると、棚卸資産は「売上原価に入るのは売れた分だけ」という一点でマーケの指標とつながります。貢献利益と限界利益で売上から引く原価は、仕入れた額ではなく売れた分の原価です。キャンペーンに向けて在庫を多めに仕入れても、その期の利益は売れた分しか動かず、現金だけが先に出ていきます。1件あたりの粗利を土台にするユニットエコノミクスも、期末在庫の数え方や評価方法がずれれば粗利ごとずれます。取引先や転職先の決算書を読むときは、一般的には、売上の伸びより棚卸資産の伸びが速くないかを見ると、売れ残りを抱えていないかの手がかりになります。

よくある間違いと注意点

いちばん多い間違いは、期末に残った在庫や仕掛中の費用まで、買った期の経費にしたままにすることです。売れていない分は売上原価にならないので、期末に数えて資産に振り替えます。

  • 届出を出していないのに先入先出法で計算する:届出がなければ最終仕入原価法です。選んだ方法で評価しなかった場合も、原則は法定評価方法になります(法人税法29条1項・施行令31条)
  • 売れ残りを自分の判断で評価損にする:法人が評価損を損金にできるのは、災害で著しく損傷した、著しく陳腐化したなどの事実があるときです(法人税法33条2項・施行令68条1項1号)。個人は手引きに、通常の価額で売れない破損品や棚ざらし品を処分可能価額で評価できると書かれています
  • 個人事業主が低価法を選ぶ:青色申告の承認を受けていなければ選べません(所得税法施行令99条1項)
  • インボイス登録の年に在庫を持っている:免税事業者が課税事業者になる前日に持っている棚卸資産のうち、免税期間中に仕入れた分は、明細を記録した書類を保存すれば仕入税額の計算に入れられます(国税庁No.6491)。免税事業者の判定は免税事業者とはに書いています

国税庁のタックスアンサーには、棚卸資産の評価方法そのものを扱う項目が見当たらなかったので、この記事は条文・手続案内・通達・決算の手引きで確認しています。内容は最終更新日時点の制度にもとづいています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。棚卸資産と仕掛品の線引きは、まず顧問の税理士に聞くのが早道で、ぼくは税理士ドットコムで今の税理士を見つけました(税理士ドットコムの仕組みと税理士の探し方)。

棚卸資産に関するよくある質問

棚卸しとは何をすることですか?

期末日に、商品や消耗品などを種類・品質・型ごとに実地に数え、期末の在庫の金額を確定させる作業です。国税庁の決算の手引きは、数えたときのメモなどの原始記録を棚卸表と一緒に保存するよう案内しています。この金額を使って、売上原価を「期首棚卸高+当期仕入高−期末棚卸高」で計算します。

棚卸資産の評価方法の届出を出さないとどうなりますか?

法定評価方法である最終仕入原価法による原価法で評価します(法人税法施行令31条、所得税法施行令102条)。期末に最も近い時期に仕入れた単価に期末の数量を掛ける方法です。届出の期限は、法人なら設立第1期の確定申告書の提出期限、個人なら事業を始めた年分の確定申告期限です。

期末の棚卸しはどう仕訳しますか?

一般的な三分法では、期首の在庫を「仕入/繰越商品」で費用に戻し、期末の在庫を「繰越商品/仕入」で資産に移します。仕入の残高が、その期の売上原価になります。受託制作で引渡し前の案件があれば、かかった費用を「仕掛品」に振り替える形になります。

物販をしない一人法人でも棚卸しは必要ですか?

仕入れて売る物がなければ、商品の棚卸しは原則ほぼ要りません。それでも、期末に納品前の受託案件があればその費用は仕掛品になり得ますし、未使用の消耗品が例年より大きく増えていれば確認が要ります。迷ったら、期末の時点で引渡し前の案件があるかを先に確かめてください。

おわりに──棚卸資産は、売れていない分を来期に送るための箱

棚卸資産は在庫管理の言葉に見えて、実際は「まだ売れていない分の費用を、売れる期まで送る箱」です。物を売らない一人法人なら箱はほぼ空で、評価方法を届け出なくても最終仕入原価法が自動で決まります。決算前に決めることは一つだけで、期末をまたぐ案件の費用を、今期に落とすか来期に送るかです。

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