最終更新:2026年10月20日
小規模企業共済とは、個人事業主や小さな会社の役員が、廃業や退職のときに受け取るお金を自分で積み立てる、国の機関(中小機構)が運営する「経営者のための退職金制度」です。掛金は月1,000円から70,000円の範囲で決められ、払った全額が小規模企業共済等掛金控除として所得から差し引けます。ただし、一人法人の社長が入る場合でも、掛金は会社の経費(損金)にはならず、役員個人の所得控除になります。会社として加入することもできません。共済金の額と税金は、廃業・解散・退任・解約のどれで受け取るかで変わり、加入から20年(240か月)未満で任意に解約すると、戻る額は払った掛金を下回ります。この記事では、中小機構と国税庁の公式ページで確認できた範囲で、加入資格・掛金・解約・貸付と税金の扱いを整理します。会社から払う役員退職金の計算は役員退職金の計算方法と税金、役員のiDeCoは法人役員のiDeCo上限に任せます。最終更新日時点の制度で書いています。
小規模企業共済とは?結論から
小規模企業共済は、掛金を払う時点では所得控除で税金が軽くなり、事業をやめるときに退職所得などとして受け取る、経営者個人のための積立の制度です。会社の制度ではなく、個人が自分の所得から掛金を払う制度だという点が、すべての論点の出発点になります。要点を表にしました。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 運営 | 小規模企業共済法に基づき、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営 | 中小機構「制度の概要」 |
| 入れる人 | 小規模企業の個人事業主とその共同経営者、会社等の役員 | 中小機構「加入資格」 |
| 掛金 | 月1,000円〜70,000円(500円単位)。加入後も増額・減額できる | 中小機構「小規模企業共済の掛金」 |
| 掛金の税金 | 全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から控除。事業上の損金・必要経費には算入できない | |
| 受け取り | 廃業・退職時に受け取る。一括は退職所得、分割は公的年金等の雑所得の扱い | 中小機構「共済金等請求・解約」 |
| 任意解約 | いつでもできる。解約手当金は掛金の80%〜120%で、240か月未満なら掛金合計を下回る | |
| 貸付 | 納付した掛金の範囲内で事業資金などを借りられる | 中小機構「共済契約者貸付」 |
控除の根拠は、国税庁のタックスアンサーNo.1135 小規模企業共済等掛金控除(令和8年4月1日現在法令等)です。納税者が中小機構と結んだ共済契約の掛金を払った場合に、その年に払った全額を所得税の所得控除として差し引けると書かれています。
小規模企業共済の加入資格・掛金・税金(制度・要件・費用)
小規模企業共済に入れるかどうかは、業種ごとの「常時使用する従業員」の人数と、個人事業主・会社等の役員としての実態で決まり、会社の資本金の額は条件になりません(中小機構FAQ ID:746)。
| 主たる事業の業種 | 常時使用する従業員の数 |
|---|---|
| 建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業、サービス業のうち宿泊業・娯楽業など | 20人以下 |
| 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
「常時使用する従業員」は加入時点の正社員の数で、役員や家族従業員、パート、アルバイトは数えません。加入後に従業員が増えても契約は続けられます。次の人は加入できないと中小機構は案内しています(加入資格)。
- 会社員など、法人や個人事業主と常時雇用関係にある人
- 相談役・顧問など、実質的な経営者でも商業登記簿に役員として登記されていない人
- 合同会社・合資会社・合名会社で業務執行権のない社員、使用人兼務役員
掛金は、本人の個人名義の預金口座から毎月18日に口座振替で払います。月払いのほか、年1回の年払い、年2回の半年払いも選べます。会社名義や屋号付きの口座は指定できません(中小機構FAQ ID:39)。
例で控除の効き方を計算します(数字はすべて架空の例です)。課税される所得金額が400万円の人が、掛金を月3万円(年36万円)にしたとします。控除後の課税所得は364万円で、所得税の税率は20%のまま変わりません(国税庁 No.2260 所得税の税率)。所得税は36万円×20%=72,000円、復興特別所得税(2.1%)が1,512円、住民税の所得割(標準税率10%で、課税所得は同じと仮定)が36,000円軽くなり、合計で年109,512円です。中小機構の節税額の目安表(令和6年10月現在の税率)でも、課税所得400万円・掛金月3万円は109,500円となっていて、計算と合います。軽くなるのは税金であって、36万円は手元から出ていきます。
共済金・解約手当金・貸付の比べ方
小規模企業共済で受け取る額は、「なぜやめるのか」という請求事由で決まります。廃業や会社の解散で受け取る共済金Aがいちばん高く、自己都合の任意解約で受け取る解約手当金がいちばん低く設計されています。請求事由を立場ごとに分けました。
| 受け取るお金 | 個人事業主 | 会社等の役員 |
|---|---|---|
| 共済金A | 個人事業の廃業、本人の死亡 | 会社等の解散(破産を含む) |
| 共済金B | 65歳以上で180か月以上払った人の老齢給付 | 疾病・負傷による退任、65歳以上での退任、本人の死亡、老齢給付 |
| 準共済金 | 法人成りした結果、加入資格がなくなった場合など | 解散や疾病・負傷によらず、65歳未満で退任した場合 |
| 解約手当金 | 任意解約、12か月以上の滞納による機構解約など | 任意解約、機構解約 |
中小機構が示している掛金月額1万円の例で、受け取れる額を並べます(共済金等請求・解約)。共済金A・B・準共済金は政令で決まった基本共済金の額で、運用収入に応じた付加共済金がある年はそれが加算されます。
| 掛金を払った年数 | 掛金合計 | 共済金A | 準共済金 | 解約手当金(掛金に対する割合) |
|---|---|---|---|---|
| 5年 | 600,000円 | 621,400円 | 600,000円 | 480,000円(80%) |
| 10年 | 1,200,000円 | 1,290,600円 | 1,200,000円 | 1,020,000円(85%) |
| 15年 | 1,800,000円 | 2,011,000円 | 1,800,000円 | 1,665,000円(92.5%) |
| 20年 | 2,400,000円 | 2,786,400円 | 2,419,500円 | 2,400,000円(100%) |
受け取り方は一括・分割・併用の3つです。分割と併用は、共済金AかBで、死亡が理由ではなく、請求事由が起きた日に60歳以上で、分割なら共済金が300万円以上(併用なら330万円以上)の場合に選べます。税金の扱いは、共済金(死亡を除く)と準共済金の一括受け取りが退職所得、分割が公的年金等の雑所得、65歳未満の任意解約と機構解約が一時所得、65歳以上の任意解約と法人成りに伴う解約手当金が退職所得です。退職所得の扱いになる場合は、中小機構が所定の税額を源泉徴収します(中小機構「制度のしおり」令和8年6月改訂版)。
例で、同じ10年でも出口によって手取りが変わる様子を計算します(数字はすべて架空の例です)。60歳未満の一人法人の社長が掛金を月3万円で10年払い(掛金合計360万円)、同じ年にほかの退職金はないとします。金額は上の月1万円の例を3倍し、付加共済金は含めていません。
- 会社を解散して共済金Aを一括で受け取る:3,871,800円。退職所得控除は40万円×10年=400万円(国税庁 No.1420)で、受取額を上回るので退職所得は0円です
- 会社を続けたまま社長を退任し、準共済金を一括で受け取る:3,600,000円。同じく退職所得控除400万円の範囲内で、退職所得は0円です
- 会社も役員も続けたまま任意解約する:3,060,000円。一時所得として、306万円から特別控除の50万円を引いた256万円の半分、128万円がほかの所得に足されて課税されます(国税庁 No.1490)。払った掛金はこの計算で差し引けません(中小機構FAQ ID:262)
この例では、解散のときと解約のときで、受け取る額に約81万円の差が出て、税金のかかり方も変わります。退職所得控除の年数は共済契約期間をもとにし、掛金を止めていた掛止め期間は含めません(制度のしおり)。同じ年に会社からの役員退職金も受け取る場合は、退職所得控除の計算が異なることがあります(No.1420)。
貸付は、共済金を受け取る前に、払った掛金の範囲内でお金を借りる仕組みです。一般貸付の限度額は納付済みの掛金合計の7〜9割(納付月数によって変わる)で、10万円以上2,000万円以下の範囲で5万円単位です(中小機構FAQ ID:168)。担保と保証人は要りません。2026年10月20日時点の利率は一般貸付が年1.5%、緊急経営安定・傷病災害時・創業転業時など6種類の特別貸付が年0.9%で、返済が遅れると年14.6%の延滞利子がかかります(共済契約者貸付)。解約するときに返していない分があれば、解約手当金から差し引かれます。
個人事業主・一人法人の判断ポイント
小規模企業共済は、個人事業主も一人法人の役員も入れますが、どちらの場合も掛金は事業の経費にならず、本人の所得控除になります。一人法人の社長の場合、掛金は会社ではなく役員個人が払い、会社の損金にはなりません。立場ごとの違いを表にしました。
| 項目 | 個人事業主(国民健康保険・国民年金) | 一人法人の役員(健康保険・厚生年金) |
|---|---|---|
| 加入の条件 | 開業届を出し、事業所得で確定申告をしている。給与所得を得ていない | 役員として登記され、事業に従事している。合同会社は業務執行社員として登記された社員 |
| 掛金を払う口座 | 本人の個人名義の口座(屋号付き口座は不可) | 役員本人の個人名義の口座(会社名義の口座は不可) |
| 掛金の税金 | 小規模企業共済等掛金控除(確定申告)。必要経費にはならない | 役員個人の小規模企業共済等掛金控除(年末調整か確定申告)。会社の損金にはならない |
| 共済金Aになる場面 | 個人事業の廃業 | 会社の解散 |
| 法人成りしたとき | 役員として加入条件を満たせば、1年以内の手続きで掛金納付月数を引き継げる | ― |
掛金が経費にならないことは、中小機構のFAQに「事業上の損金または必要経費には算入できません」と明記されています(中小機構FAQ ID:65)。小規模企業共済は会社として加入できず、個人が自らの所得から掛金を払い込む制度だとも説明されています(ID:818)。国税庁 No.1135でも、この掛金は納税者本人の所得税の所得控除として扱われ、給与所得者は年末調整の保険料控除申告書で控除できます。合同会社の登記事項に「業務を執行する社員の氏名」が入ることは会社法914条で、一人で作った合同会社の社長は、履歴事項全部証明書で自分が業務執行社員として登記されているかを確かめておくと、加入の手続きで迷いません(中小機構FAQ ID:859)。
個人事業主として入っていた人が法人成りして役員になった場合は、事由が起きてから1年以内に新しい加入資格があれば、同一人通算の手続きでそれまでの納付月数を引き継げます(中小機構FAQ ID:515)。法人成りの時期の考え方は法人成りのタイミングにまとめています。
iDeCoの掛金も同じ小規模企業共済等掛金控除の対象ですが、iDeCoの資産は原則60歳まで引き出せず、厚生年金に入る一人法人の社長の上限は2026年12月分の掛金から月62,000円です(iDeCo公式「制度改正について」)。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立し、代表として健康保険・厚生年金に入りました。登記のあとすぐに取引が始まったので、しばらく入金先が個人口座になり、帳簿が複雑になりました(tiny合同会社を設立してわかったこと)。一人法人は、会社のお金と自分のお金の境目が最初からあいまいになりやすい形です。小規模企業共済の掛金は、その境目の「自分の側」から出ていくお金です。もう一つ、独立して最初に痛感したのは、売上より先に手元の現金がどれだけ残るかが生命線になることでした(独立するとき、iDeCoはどうすればいいのか)。20年未満で解約すると元本を割る制度に月いくら入れるかは、控除の額より先に、役員報酬を受け取ったあとの手元の現金で決めるものだと思います。
小規模企業共済のよくある間違いと注意点
小規模企業共済でいちばん多い誤解は、掛金を会社や事業の経費にできると考えることで、次に多いのが、いつ解約しても払った分は戻ると考えることです。公式の説明から、申し込む前に確かめておく点を並べます。
- 会社のお金で払う:掛金は本人の個人名義の口座からしか払えず、損金にも必要経費にもなりません
- 短い期間で解約する:240か月(20年)未満の任意解約は掛金合計を下回り、12か月未満で解約すると掛け捨てです。共済金A・Bも、納付月数が6か月未満なら受け取れません(中小機構FAQ ID:238)
- 掛金を途中で増やす:納付月数は掛金500円を1口とした区分ごとに数えるので、加入期間が240か月以上でも、増額した分の月数が足りなければ解約手当金が掛金合計を下回ることがあります
- 解約手当金を申告し忘れる:65歳未満の任意解約と機構解約は、解約の年の一時所得として確定申告が必要です(中小機構FAQ ID:328)
- 年末に駆け込む:オンラインで申し込むと初回の掛金請求が翌々月になるため、令和8年分の控除に間に合わせるには10月中の手続きが必要です(中小機構のお知らせ 2026年10月16日)。窓口での現金による掛金の納付は2026年12月末で終わり、2027年1月から原則として口座振替に統一される予定です(同 2026年9月10日)
- 資格を確かめずに入る:加入後に資格がなかったと分かると契約時にさかのぼって取り消され、掛金は返されますが、控除を受けていた分は修正申告が必要です
- 貸付を気軽に使う:貸付は借金で、利息がかかり、返済が遅れれば延滞利子がかかります
この記事は、最終更新日時点の中小機構・国税庁・e-Gov法令検索で確認できた制度で書いています。利率や手続きは変わるので、申し込む前に中小機構の案内で確かめてください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
小規模企業共済に関するよくある質問
一人法人の社長も小規模企業共済に入れますか?掛金は会社の経費になりますか?
役員として登記され事業に従事していれば入れます。合同会社は業務執行社員として登記されている社員が対象です。掛金は役員本人の個人名義の口座から払い、会社の損金にはならず、役員個人の小規模企業共済等掛金控除になります。会社として加入することはできません。
小規模企業共済を解約するといくら戻りますか?
任意解約の解約手当金は、納付月数に応じて掛金合計の80%〜120%です。中小機構の掛金月額1万円の例では、10年で掛金120万円に対して102万円で、240か月(20年)未満なら掛金合計を下回ります。12か月未満の解約は掛け捨てで、65歳未満の任意解約は一時所得として申告します。
小規模企業共済の貸付はいくらまで借りられますか?
一般貸付は、納付した掛金合計の7〜9割(納付月数で変わる)が限度で、10万円以上2,000万円以下の範囲で5万円単位です。担保と保証人は要りません。2026年10月20日時点の利率は一般貸付が年1.5%、特別貸付が年0.9%で、返済が遅れると年14.6%の延滞利子がかかります。
小規模企業共済の掛金はいくらから、iDeCoと併用できますか?
掛金は月1,000円から70,000円まで、500円単位で決められ、加入後も増やしたり減らしたりできます。iDeCoとは別の制度で、併用でき、どちらの掛金も小規模企業共済等掛金控除の対象です。小規模企業共済は退職金、iDeCoは年金という違いがあり、小規模企業共済はいつでも解約できます。
おわりに──小規模企業共済は、節税の箱ではなく、やめ方で受取額が変わる自分の退職金
小規模企業共済は、掛金が全額控除になるので節税の制度として語られがちです。でも掛金は会社の経費ではなく自分のお金で、受け取る額と税金は、廃業・解散・退任・解約のどれでやめるかで決まります。入る前に決めるべきことは、今年いくら控除できるかではなく、どんな形で事業をやめるときに受け取るお金にするかです。