最終更新:2026年10月20日
経営セーフティ共済とは、取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったときに、無担保・無保証人・無利子で借入れができる国の共済制度です。正式名称は中小企業倒産防止共済で、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。掛金は月5,000円から20万円、積み立ては総額800万円までで、払った掛金は法人なら損金、個人事業主なら事業所得の必要経費にできます。ただし令和6年(2024年)10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払う掛金は損金にも必要経費にもなりません。この記事は経営セーフティ共済を節税の手段として勧める立場をとらず、中小機構・国税庁・e-Gov法令検索で確認できた範囲で仕組みを整理します。最終更新日時点の制度で書いています。
経営セーフティ共済とは?結論から
経営セーフティ共済は、取引先の倒産による「売掛金の焦げつき」に備えて、借りる権利を積み立てておく制度です。預金のように自由に引き出すものではなく、保険のように保険金が出るものでもありません。要点を表にしました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称・運営 | 中小企業倒産防止共済(愛称が経営セーフティ共済)。中小企業倒産防止共済法に基づき中小機構が運営 |
| 何ができるか | 取引先が倒産し売掛金などの回収が難しくなったとき、共済金の借入れができる |
| 借入れの上限 | 回収困難になった売掛金債権等の額と、掛金総額の10倍(最高8,000万円)の少ないほう |
| 掛金 | 月5,000円〜20万円(5,000円単位)。総額800万円まで |
| 税金 | 掛金は法人は損金、個人事業主は事業所得の必要経費。解約手当金は法人は益金、個人は事業所得の収入金額 |
| 2024年10月からの変更 | 令和6年10月1日以降に解約して再加入すると、解約の日から2年を経過する日までの掛金は損金・必要経費にならない |
出典は中小機構の経営セーフティ共済 制度の概要と掛金のページ、解約手当金の税は中小機構 よくある質問 ID:22です。
経営セーフティ共済の制度・要件・費用(上限と借入の条件)
経営セーフティ共済に入れるのは、引き続き1年以上事業を続けている中小企業者で、借入れには「加入から6か月以上」「6か月分以上の掛金」「倒産から6か月以内の請求」の3つの6か月がかかわります。加入と借入の条件を分けて表にしました。
| 区分 | 要件・金額 | 出典 |
|---|---|---|
| 加入できる人 | 1年以上事業を続けている個人事業主、または引き続き1年以上事業を続けている会社。業種ごとに資本金か従業員数のどちらかが基準以下(サービス業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下)。重複加入はできない | 中小機構 加入資格 |
| 掛金の変更 | 増額は最高20万円まで5,000円単位。減額は最低5,000円までで、一定の理由が必要。掛金総額が掛金月額の40倍以上なら払込みを止められる(掛止め) | 中小機構 掛金 |
| 借入れの要件 | 倒産が加入から6か月以上たってから起きたこと、それまでに6か月分以上の掛金を払っていること、倒産から6か月以内に請求すること | 中小機構 共済金の借入れ |
| 対象になる倒産 | 法的整理・取引停止処分・弁護士等による私的整理の通知など。夜逃げは対象外 | 同上 |
| 借入れの条件 | 無担保・無保証人・無利子。ただし借入額の10分の1に相当する額が払った掛金から差し引かれ、その掛金の権利がなくなる。借入額5,000万円未満は償還期間5年(据置6か月を含む)で54回の均等返済 | 中小機構 共済金の借入条件 |
| 倒産がなくても借りられる枠 | 一時貸付金。解約手当金(機構解約時)の95%が上限、借入期間1年、利息は借入時に前払い。利率は金融情勢で変わる | 中小機構 一時貸付金 |
掛金を損金や必要経費にする根拠は、租税特別措置法28条(個人)と66条の11(法人)です。どちらも2項で、共済契約を解除した後に同じ個人・法人がまた契約した場合、解除の日から2年を経過する日までに払う掛金には特例を使えないと定めています。3項では、確定申告書に明細書を付けないと特例を使えないとしています(e-Gov法令検索 租税特別措置法)。法人のこの改正は令和6年10月1日以後の解除から適用され、2年の間に払った掛金は支出したときに損金にならず資産として計上します(国税庁 令和6年度 法人税関係法令の改正の概要)。中小機構も個人・法人の両方について同じ内容を案内しています(中小機構 税制の特例に関する内容の変更について)。
経営セーフティ共済で借りるといくらになるか(例と、小規模企業共済との比べ方)
経営セーフティ共済の借入れは無利子ですが、借りた額の10分の1が掛金から消えるので、実質的なコストは「積み立てた掛金の一部」として払う形になります。架空の数字で計算します。数字はすべて例です。
| 例:前提と計算 | 金額 |
|---|---|
| 掛金月額1万円を30か月払った掛金総額 | 1万円×30か月=30万円 |
| 掛金総額の10倍 | 300万円 |
| 取引先の倒産で回収できなくなった売掛金 | 270万円 |
| 借りられる上限(少ないほう) | 270万円 |
| 掛金から差し引かれる額(借入額の10分の1) | 27万円(残る掛金総額は3万円) |
| 返し方(5,000万円未満は5年・据置6か月を含む54回) | 270万円÷54回=毎回5万円 |
この例では、270万円を無利子で借りられる代わりに、積み立てた30万円のうち27万円の権利がなくなります。借りる額が大きいほど、掛金から消える額も大きくなります。「無利子」の言葉だけで判断せず、10分の1の控除まで含めて見るのが正確です。
名前が似ている小規模企業共済とは、目的も税金の扱いもまったく違います。中小機構は両方に入れると案内しています(中小機構 よくある質問 ID:399)。
| 比べる点 | 経営セーフティ共済 | 小規模企業共済 |
|---|---|---|
| 目的 | 取引先の倒産に備える事業の貸付制度 | 経営者が事業をやめた後の生活に備える退職金制度 |
| 入るのは誰か | 事業者(個人事業主または会社) | 個人事業主や、小規模企業の会社の役員などの個人 |
| 掛金 | 月5,000円〜20万円・総額800万円まで | 月1,000円〜7万円(500円単位) |
| 掛金の税 | 損金(法人)・事業所得の必要経費(個人) | 小規模企業共済等掛金控除(個人の所得控除) |
| 受け取るときの税 | 解約手当金は益金(法人)・事業所得の収入金額(個人) | 一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得の扱い |
小規模企業共済の数字は中小機構の小規模企業共済 制度の概要と加入資格、控除は国税庁 No.1135で確認しました。
個人事業主・一人法人の判断ポイント
経営セーフティ共済は個人事業主も一人法人も入れますが、加入するのは「事業」なので、個人事業主なら事業主本人、一人法人なら会社が契約者になります。健康保険や年金の立場とは関係なく入れる一方で、税の扱いと加入条件の細部が違います。
| 論点 | 個人事業主 | 一人法人 |
|---|---|---|
| 健康保険・年金の立場 | 国民健康保険・国民年金(第1号被保険者) | 健康保険・厚生年金(第2号被保険者) |
| 契約者 | 事業主本人 | 会社(役員個人ではない) |
| 加入の条件 | 1年以上事業を続けていること | 引き続き1年以上事業を続けていること。法人成りして1年未満でも、事業の全部譲渡・役員登記・個人事業からの通算1年以上などの条件を満たせば申し込める |
| 掛金の税 | 事業所得の必要経費。不動産所得などには入れられない。確定申告書に明細書を添付 | 損金。明細書と適用額明細書を確定申告書に添付。勘定科目の指定はない |
| 解約手当金の税 | 事業所得の収入金額 | 益金 |
| 法人成りしたとき | 契約承継申出書を出せば、個人の契約を会社が引き継げる。手続きは承継事由が生じてから3か月以内 | |
法人成りの扱いは中小機構のよくある質問 ID:273・ID:347・ID:332で確認しました。個人事業主の掛金が事業所得に限られる点は、事業所得と雑所得の違いとあわせて読むと整理しやすいです。
ぼくは2019年の秋に、資本金50万円でtiny合同会社を一人で作りました。法人にしたのは、BtoBの取引では個人より法人への発注のほうが相手の社内で通しやすいからです(tiny合同会社を設立してわかったこと)。BtoBで仕事を受けると、請求してから入金されるまでの間は売掛金として相手に預けている状態になります。経営セーフティ共済が守るのは、この売掛金です。売掛金の基本は売掛金とはにまとめています。一人法人が判断するときは、次の3つを順に確かめると迷いにくくなります。
- 売掛金が立つ取引か:一般消費者に対する債権は借入れの対象になりません。BtoCが中心の事業では、制度の本来の役割が働きにくくなります
- 1つの取引先への依存が大きいか:倒産で困るのは、売上の多くを1社に頼っているときです。取引先が分散していれば、借入れより先に手元資金で吸収できる場合もあります
- 掛金を寝かせておけるか:掛金は自由に引き出せず、一部だけの解約もできません(中小機構 よくある質問 ID:97)。設立したばかりの一人法人は、そもそも1年たつまで入れません
経営セーフティ共済のよくある間違いと注意点
経営セーフティ共済でいちばん多い誤解は、「掛金が損金になるから税金が減る」と考えることです。掛金を損金にした分、解約手当金を受け取った年には益金や事業所得の収入になるので、税金が消えるのではなく、かかる時期が動くだけです。
- 解約と再加入を繰り返す前提で考える:令和6年10月1日以降の解約では、解約の日から2年を経過する日までの掛金は損金・必要経費になりません。国税庁の図の例では、X+1年4月1日に解除すると、X+3年3月31日までに払った掛金が損金不算入、X+3年4月1日以後に払った掛金から損金算入に戻ります
- 40か月未満で解約する:任意解約の解約手当金は、12か月未満は0%、12〜23か月は80%で、40か月以上でようやく掛金総額と同じ100%になります(中小機構 解約)
- 明細書を付け忘れる:措置法28条・66条の11の3項により、確定申告書に明細書がないと特例は使えません。個人は「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」、法人は「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」と適用額明細書です
- 前納の扱いを読み違える:前納の期間が1年以内なら払った年分(事業年度)に、1年を超えるなら期間の経過に応じて損金・必要経費にします
- 借入れに審査がないと思う:請求後に取引の事実や被害額の審査があり、少額の請求(50万円と月間総取引額の20%のどちらにも届かない額)や、倒産を予知しながら売掛金を増やした場合などは借りられません
この記事は、最終更新日時点の中小機構・国税庁・e-Gov法令検索で確認できた制度で書いています。民間の解説で見かける「節税効果」の試算は、解約時の課税まで含めないと実態とずれます。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
経営セーフティ共済に関するよくある質問
経営セーフティ共済とは何ですか?
取引先が倒産して売掛金などが回収できなくなったときに、無担保・無保証人・無利子で借入れができる共済制度です。正式名称は中小企業倒産防止共済で、中小機構が運営しています。借入れの上限は、回収困難な売掛金債権等の額と掛金総額の10倍(最高8,000万円)の少ないほうです。
個人事業主も経営セーフティ共済に加入できますか?
1年以上事業を続けていて、従業員数などの要件を満たす個人事業主なら加入できます。掛金は事業所得の必要経費にでき、不動産所得などの必要経費には入れられません。会社員の副業のように事業所得として確定申告していない場合は、加入資格の判断基準に当てはまらない可能性があります。
経営セーフティ共済の掛金の上限と損金の扱いは?
掛金は月5,000円〜20万円で、積み立ては総額800万円までです。法人は損金、個人事業主は事業所得の必要経費にでき、確定申告書に明細書を付けます。令和6年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払う掛金は損金・必要経費になりません。
経営セーフティ共済で借入れをすると何が差し引かれますか?
共済金の借入れは無利子ですが、借入額の10分の1に相当する額が払った掛金から差し引かれ、その分の権利がなくなります。借入額5,000万円未満なら、据置6か月を含む5年・54回の均等返済です。返済が遅れると年14.6%の違約金がかかります。
おわりに──経営セーフティ共済は、税金を減らす箱ではなく、借りる権利を買う制度
経営セーフティ共済は、掛金が損金になる点ばかりが語られます。でも損金にした分は解約したときに益金として戻ってきますし、2024年10月からは解約と再加入の繰り返しにも歯止めがかかりました。残るのは、取引先が倒れた日に、担保も保証人もなしで借りられる権利です。経営セーフティ共済で決めるべきことは、税金がいくら減るかではなく、自分の売掛金にその権利を買う価値があるかどうかです。