最終更新:2026年10月20日
国民健康保険と任意継続を比べると、独立1年目は任意継続のほうが安くなりやすく、2年目以降は所得しだいで国民健康保険が逆転します。任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額で決まり、協会けんぽでは令和8年度の上限が32万円です。国民健康保険の保険料は前年の所得と加入する人数で決まるので、会社員だった前年の所得が高い人ほど1年目が重くなり、家族が多いほど差が開きます。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立したマーケターです。独立したときの健康保険の全体(3つの選択肢と期限)は独立したら保険証はどうなるかの記事に任せ、この記事は任意継続と国民健康保険(以下、国保)のどちらにするかを、協会けんぽと東京都新宿区の令和8年度の数字で試算することに絞ります。2026年10月20日時点の制度で書いています。
国民健康保険と任意継続の比較とは?結論から
比べるべきなのは保険料の金額より先に、保険料の決まり方の違いです。任意継続は「退職時の給料」で、国保は「前年の所得」と「加入する人数」で決まるので、同じ人でも年によって有利な側が入れ替わります。
| 比べる点 | 任意継続(協会けんぽ) | 国民健康保険(市区町村) |
|---|---|---|
| 保険料の決まり方 | 退職時の標準報酬月額×住んでいる都道府県の保険料率。標準報酬月額は令和8年度32万円が上限 | 前年の所得に料率をかける所得割と、加入者1人ごとの均等割の合計。料率は市区町村ごとに違う |
| 負担のしかた | 在職中の会社負担分も含めて全額を自分で払う | 全額を自分の世帯で払う |
| 家族 | 被扶養者の保険料負担はない | 扶養の考え方がなく、加入する家族の人数分だけ均等割が増える |
| 期間 | 最長2年。申し出ればその前にやめられる | 期間の制限はない |
| 加入の条件と期限 | 退職日まで継続して2か月以上の被保険者期間があり、退職日の翌日から20日以内に申し出る | 加入の事実が発生してから14日以内に届け出る(新宿区の場合) |
| 傷病手当金 | 任意継続中に発生した病気・ケガでは支給されない(在職中から続けて受けている場合を除く) | 市区町村が条例で定めた場合に支給できる任意の給付 |
出典は協会けんぽ「任意継続」、新宿区「国民健康保険の届出について」、国民健康保険法第58条第2項(e-Gov法令検索)です。傷病手当金はどちらの制度でも、独立後に新しくかかった病気には基本的に頼れないと考えておくのが安全です。
保険料の決まり方と令和8年度の料率
任意継続は「標準報酬月額×料率」の1本の式で、国保は4つの区分をそれぞれ計算して足します。どちらも令和8年度の数字で確認します。
任意継続の保険料(協会けんぽ・東京都)
任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額に、住んでいる都道府県の保険料率(子ども・子育て支援金率を含む)をかけた額です。40歳から64歳までの人は介護保険料が加わります。退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた場合は、32万円で計算します(協会けんぽ「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について」)。
| 項目(令和8年度・東京都) | 率・金額 |
|---|---|
| 健康保険料率 | 9.85%(令和7年度は9.91%) |
| 子ども・子育て支援金率 | 0.23%(令和8年4月分から・全国一律) |
| 介護保険料率(40〜64歳) | 1.62%(全国一律) |
| 上限で計算した月額(39歳以下) | 32万円×10.08%=32,256円 |
| 上限で計算した月額(40〜64歳) | 32万円×11.70%=37,440円 |
料率は協会けんぽ「令和8年度の協会けんぽの保険料率」で確認しました。任意継続の人は令和8年4月分から新しい料率になります。保険料は原則2年間変わりませんが、料率や上限が変わった年度は金額も変わります。
国民健康保険の保険料(東京都新宿区)
国保の料率は自治体ごとに違うので、ここでは新宿区の令和8年度だけを例にします。住んでいる市区町村の数字は、各自治体の案内で確認してください。
| 区分(新宿区・令和8年度) | 所得割 | 均等割 | 賦課限度額 |
|---|---|---|---|
| 医療分 | 算定基礎額×7.51% | 47,600円×加入者数 | 67万円 |
| 支援金分 | 算定基礎額×2.80% | 17,600円×加入者数 | 26万円 |
| 介護分(40〜64歳) | 40〜64歳の算定基礎額×2.43% | 17,800円×40〜64歳の加入者数 | 17万円 |
| 子ども・子育て支援金分 | 算定基礎額×0.27% | 1,873円×18歳以上の加入者数 | 3万円 |
算定基礎額は、令和7年中の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた金額です。未就学児の均等割は5割減額されます(新宿区「保険料の計算方法について」)。子ども・子育て支援金分は令和8年度から加わった区分です。
倒産・解雇・雇止めなどで離職し、雇用保険の特定受給資格者か特定理由離職者と認められた65歳未満の人は、前年の給与所得を100分の30として国保料を計算する軽減があります。期間は離職日の翌日の属する月から、その年度の翌年度末までで、届出が必要です(新宿区「非自発的失業者の国民健康保険料の軽減について」)。この軽減に当てはまる人は、比較の結果が大きく変わります。
架空の年収で保険料をシミュレーションする(例)
同じ年収でも、家族の人数で1年目の差は約26万円から約41万円まで広がります。以下はすべて説明用の架空の数字で、区の実際の端数処理は省いた概算です。
| 前提(例) | 内容 |
|---|---|
| 住所・年齢 | 東京都新宿区・本人45歳 |
| 退職 | 令和8年3月31日に自己都合で退職し、個人事業主として独立(非自発的失業者の軽減なし) |
| 令和7年の給与収入 | 700万円(給与以外の所得なし) |
| 退職時の標準報酬月額 | 50万円(任意継続では上限の32万円で計算) |
| 家族 | A=単身、B=配偶者43歳(所得なし・被扶養者の要件を満たす)と子ども10歳 |
| 比べる期間 | 令和8年4月から令和9年3月までの12か月 |
国保の算定基礎額を先に出します。令和7年分の給与所得控除は、収入660万円超850万円以下なら「収入×10%+110万円」なので、700万円×10%+110万円=180万円です(国税庁 No.1410 給与所得控除)。給与所得は700万円-180万円=520万円、算定基礎額は520万円-43万円=477万円になります。
| 1年目(令和8年度) | A:単身 | B:3人家族 |
|---|---|---|
| 国保 医療分 | 405,827円 | 501,027円 |
| 国保 支援金分 | 151,160円 | 186,360円 |
| 国保 介護分 | 133,711円 | 151,511円 |
| 国保 子ども・子育て支援金分 | 14,752円 | 16,625円 |
| 国保 年額 | 705,450円 | 855,523円 |
| 任意継続 年額 | 449,280円 | 449,280円 |
| 差 | 任意継続が256,170円安い | 任意継続が406,243円安い |
検算します。Aの医療分は477万円×7.51%=358,227円に均等割47,600円を足して405,827円です。同じように支援金分は133,560円+17,600円、介護分は115,911円+17,800円、子ども・子育て支援金分は12,879円+1,873円です。Bは所得割が同じで、均等割が医療分と支援金分で3人分、介護分は40〜64歳の2人分、子ども・子育て支援金分は18歳以上の2人分になります。どの区分も賦課限度額には届いていません。任意継続は32万円×11.70%=37,440円を12か月で449,280円で、家族の人数では変わりません。
2年目は、国保が独立1年目(令和8年中)の所得で計算し直されます。料率が令和8年度と同じと仮定し、算定基礎額が200万円に下がった場合を並べます。
| 2年目(例・算定基礎額200万円) | A:単身 | B:3人家族 |
|---|---|---|
| 国保 年額 | 345,073円 | 495,146円 |
| 任意継続 年額 | 449,280円 | 449,280円 |
| 差 | 国保が104,207円安い | 任意継続が45,866円安い |
Aの国保は、医療分150,200円+47,600円、支援金分56,000円+17,600円、介護分48,600円+17,800円、子ども・子育て支援金分5,400円+1,873円の合計です。単身なら2年目に逆転し、家族がいると2年目も任意継続が残ります。退職時の標準報酬月額が32万円より低い人は、任意継続の保険料もその額で下がります(例:26万円なら40〜64歳で月30,420円)。
個人事業主・一人法人の判断ポイント
任意継続と国保の比較が2年間ずっと意味を持つのは、個人事業主で独立する人です。一人法人の役員として役員報酬を受け取るなら、法人の健康保険に入るまでの「つなぎ」を選ぶだけの話になります。
| 立場 | 退職後に入る健康保険 | 比較が効く期間 | 傷病手当金 |
|---|---|---|---|
| 個人事業主(国保・国民年金=第1号) | 任意継続・国保・家族の扶養から選ぶ | 1年目と2年目。2年目に任意継続をやめて国保へ移ることもできる | 任意継続中の新しい病気では出ない。国保は条例がある場合だけ |
| 一人法人の役員(役員報酬あり・協会けんぽ・厚生年金=第2号) | 法人の健康保険に加入する。任意継続は他の健康保険に入ると資格を失い、国保は脱退の届出をする | 退職日から法人の社会保険に入るまでの期間だけ | 協会けんぽの制度がある。報酬を受けられない場合に支給されるので、役員報酬を払い続けている間は対象外になり得る |
| 一人法人の役員(役員報酬0円) | 法人の健康保険の被保険者になれないので、任意継続か国保 | 個人事業主と同じ | 個人事業主と同じ |
傷病手当金の要件は協会けんぽ「傷病手当金」で確認しました。法人を作ったあとの社会保険の届出は社会保険の新規適用届の記事に、役員報酬ごとの保険料は役員報酬と社会保険料の計算の記事にまとめています。
ぼくは独立のとき、任意継続と国保を電卓で並べて比べました(退職後の国民年金の免除の記事に書いた話です)。独立準備でいちばん焦ったのも、この保険証まわりでした。その後は法人で社会保険に入り、国保より保障は厚くなった一方で、法人化してからいちばん大変だと感じたのは社会保険の手続きと毎月の支払いでした(一人法人を作った話)。法人を作る予定がある人は、つなぎの期間が何か月あるかを先に数えると、比べる手間そのものが小さくなります。
個人事業主で2年目に乗り換えるときは、順番に注意します。任意継続を申し出てやめる場合、資格を失うのは申出日の翌月1日で、申出書は喪失を希望する月の前月中に出します(協会けんぽ「任意継続被保険者資格喪失申出書」)。そのあと14日以内に国保の加入を届け出ます。2年目の国保料は独立1年目の所得で決まるので、確定申告を終えたあと、区の早見表で試算してから決めるのが確実です。
よくある間違いと注意点
いちばん取り返しがつかないのは、任意継続の20日の期限を過ぎることです。国保はあとからでも入れますが、任意継続は期限を過ぎると選べなくなります。
- 20日を退職日から数える:起点は退職日の翌日です。20日目が土日・祝日なら翌営業日、郵送なら20日以内に必着です
- 任意継続は「在職中の2倍」とだけ覚える:標準報酬月額は32万円で頭打ちになり、住んでいる都道府県が変わると2倍にならないこともあります
- 任意継続の保険料を納め忘れる:納付期限までに納めないと資格を失います。納付書なら毎月10日までです
- 国保の均等割を忘れる:所得がない家族にも、医療分と支援金分の均等割がかかります
- 非自発的な離職なのに軽減を届け出ない:会社都合などで離職した人は、ハローワークの書類を持って国保の窓口で届け出ます
- 例の自治体の数字をそのまま使う:国保の料率と限度額は市区町村ごと・年度ごとに違います
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。保険料の実額は、加入する協会けんぽの支部と住んでいる市区町村が決めます。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。税理士の探し方はいい税理士の見分け方と探し方にまとめています。
国民健康保険と任意継続の比較に関するよくある質問
退職後は国民健康保険と任意継続のどちらが安いですか?
人によって逆転します。前年の給与が高い人や家族が多い人は、1年目は任意継続が安くなりやすいです。独立後に所得が下がる単身の人は、2年目に国民健康保険のほうが安くなることがあります。協会けんぽの支部と市区町村の両方に金額を聞いて比べてください。
任意継続の保険料の上限はいくらですか?
協会けんぽの令和8年度は、標準報酬月額32万円が上限です。東京都の場合、40歳から64歳の人は32万円×11.70%で月37,440円、39歳以下の人は32万円×10.08%で月32,256円です。退職時の標準報酬月額が32万円より低ければ、その額で計算します。
任意継続から国民健康保険へ途中で切り替えられますか?
切り替えられます。任意継続は申し出ればやめられ、資格を失うのは申出日の翌月1日です。申出書は喪失を希望する月の前月中に出し、そのあと14日以内に市区町村で国民健康保険の加入を届け出ます。
保険料のシミュレーションはどこでできますか?
国民健康保険は、市区町村が公開している保険料の計算方法や早見表で試算できます。新宿区は令和8年度の概算早見表を公開しています。任意継続は、退職時の標準報酬月額に都道府県の料率をかけて自分で計算でき、正確な額は協会けんぽの支部で確認できます。
おわりに──任意継続は「去年の給料」、国保は「去年の所得」で値段が決まる
任意継続と国保は、どちらが得かを一度決めて終わる比較ではありません。任意継続は退職時の給料で2年間ほぼ固定され、国保は毎年、前の年の所得で値段が変わります。だから比べるのは2回です。退職する前に1回、独立1年目の確定申告を終えたあとにもう1回。
今日やることは1つです。給与明細で自分の標準報酬月額を確かめ、住んでいる市区町村の国保の早見表に前年の所得を当てはめてください。2つの数字が並べば、20日の期限の前に答えが出ます。