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役員退職金の計算方法と税金|功績倍率の式を一人社長向けに整理

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最終更新:2026年10月19日

役員退職金の計算方法でよく使われるのは、「最終月額報酬×役員の在任年数×功績倍率」で目安を出す功績倍率法です。ただし国税庁の公式ページに「この倍率なら認められる」と示した数字はなく、会社の経費(損金)にできるのは、在任期間や退職の事情、同業で同規模の会社の支給状況から見て相当な額までです。受け取る側は退職所得として、退職所得控除を引いた残りの2分の1に課税されるのが原則ですが、役員としての在任が5年以下だと2分の1にはなりません。この記事では、一人社長が自分の退職金を考えるときに押さえる式と税金を、国税庁などの公式ページで確かめながら整理します。内容は最終更新日(2026年10月19日)時点の制度で書いています。

役員退職金とは?結論から

役員退職金とは、会社が退任する役員に払う退職給与のことで、一人法人では社長である自分が、自分の会社から受け取るお金になります。払う側の会社では「相当な額なら損金」、受け取る側の個人では「退職所得として優遇された計算」。この2つの税金のルールが同時にかかります。

論点 結論 確認した出典
会社の経費にできる額 業務に従事した期間・退職の事情・同業類似法人の支給状況などに照らして相当な額まで。超える部分は損金にならない 法人税法34条2項・法人税法施行令70条2号
計算方法の目安 最終月額報酬×在任年数×功績倍率(功績倍率法)。倍率の公式な数字はない 国税不服審判所 公表裁決
経費にする時期 原則は株主総会の決議等で額が確定した事業年度。実際に払った事業年度に損金経理する方法も認められる 国税庁 No.5208
受け取る側の税金 (退職金−退職所得控除額)×1/2が退職所得。他の所得と分けて課税 国税庁 No.1420
在任5年以下の役員 特定役員退職手当等として、1/2の計算がない 国税庁 No.1420

この表で一人社長がいちばん注意したいのは、2行目と5行目です。倍率に正解の数字がないこと、そして会社を作って5年以内に退任すると税金の計算が大きく変わること。この2つを知らずに金額を決めると、会社側と個人側の両方で想定が外れます。

役員退職金の制度・要件・税金(公式で確認した表)

役員退職金の制度は、会社側の「損金にできる額と時期」と、受け取る側の「退職所得の計算」の2つに分けて確認すると整理しやすくなります。以下は、2026年10月19日に公式ページを開いて確認した内容です。

項目 内容 出典
損金にならない部分 退職した役員に払った退職給与の額が、その役員の業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給の状況等に照らして相当と認められる金額を超える場合の、その超える部分 法人税法34条2項・法人税法施行令70条2号
損金算入の時期 原則は、株主総会の決議等で退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度。実際に支払った事業年度に損金経理した場合は、その年度でもよい 国税庁 No.5208 役員の退職金の損金算入時期
分掌変更の場合 常勤から非常勤になった、給与がおおむね50%以上減ったなど、実質的に退職したのと同じ事情なら退職金として扱える。ただし代表権がある場合や、経営上主要な地位を占めている場合は除かれる 国税庁 No.5203
株式会社の決め方 取締役の報酬等(職務執行の対価として受ける財産上の利益)は、定款に定めがなければ株主総会の決議で定める 会社法361条
退職所得の計算 (収入金額−退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額。原則として他の所得と分離して課税 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき
退職所得控除額 勤続20年以下は40万円×勤続年数(80万円に満たないときは80万円)。20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)。1年未満の端数は1年に切り上げ
特定役員退職手当等 役員等勤続年数が5年以下の人が受け取る、その期間に対応する退職金は、1/2の計算がない
源泉徴収 支払う会社が所得税等を源泉徴収し、原則として翌月10日までに納める。「退職所得の受給に関する申告書」の提出がなければ、支払額の20.42%を源泉徴収し、本人が確定申告で精算する 国税庁 No.2732
住民税 退職金の支払を受けるときに特別徴収される。税率は一律で市民税6%・県民税4%(横浜市の案内) 横浜市 退職所得の課税の特例

会社側のルールで押さえたいのは、法令が「いくらまで」を数字で決めていない点です。判断の材料として挙がっているのは、在任期間、退職の事情、そして同業で同規模の会社がどう払っているか。つまり、自分の会社の中だけで計算が完結しない仕組みになっています。

受け取る側では、前年以前に別の退職金を受け取ったことがある場合や、同じ年に2か所以上から退職金を受け取る場合に、退職所得控除額の計算が変わることがあります(国税庁 No.1420)。会社員時代の退職金やiDeCoの一時金を受け取る時期が近い人は、その組み合わせも含めて確認してください。

役員退職金の計算方法──功績倍率法の式と計算例

役員退職金の計算方法は、まず功績倍率法の式で会社が払う額の目安を出し、次にその額を受け取ったときの税金を退職所得の式で計算します。この2段階に分けると迷いません。以下の数字はすべて説明用の架空の例で、おすすめの額ではありません。

1段目:功績倍率法の式

国税不服審判所の公表裁決では、同業類似法人の役員退職給与の支給事例から功績倍率の平均を求め、それに退職する役員の最終報酬月額と勤務年数を掛けて相当な額を出す方法を「平均功績倍率法」と説明しています(国税不服審判所 令和5年12月14日裁決)。式にすると次のとおりです。

要素 中身 例
最終月額報酬 役員を退任する直前の役員報酬の月額 50万円
在任年数 役員として勤務した年数 20年
功績倍率 同業類似法人の支給事例から求める倍率。公式に定められた数字はない (会社ごとに異なる)
目安の額 最終月額報酬×在任年数×功績倍率 50万円×20年=1,000万円に功績倍率を掛けた額

この記事では倍率の数字を書きません。同じ裁決の中でも、比べる同業類似法人をどう選ぶかで平均の倍率が変わることが争点になっていて、「この倍率なら安全」という公式の線は見当たらないからです。倍率の数字を見かけたら、それが誰の、どの事例から出た数字なのかを先に確かめてください。

2段目:受け取るときの税金(例)

税金の計算例は、功績倍率とは切り離して、退職金の額を例として置きます。国税庁 No.1420 の式と、国税庁 No.2260 所得税の速算表で計算し、所得税には復興特別所得税(×102.1%)を含めています。

項目 例1:在任20年・退職金1,200万円 例2:在任4年・退職金500万円
退職所得控除額 40万円×20年=800万円 40万円×4年=160万円
区分 一般の退職金(1/2あり) 特定役員退職手当等(1/2なし)
退職所得の金額 (1,200万円−800万円)×1/2=200万円 500万円−160万円=340万円
所得税等 (200万円×10%−9万7,500円)×102.1%=10万4,652円 (340万円×20%−42万7,500円)×102.1%=25万7,802円
住民税(横浜市の案内の税率) 200万円×10%=20万円 340万円×10%=34万円
税引き後の手取り 1,169万5,348円 440万2,198円

例1の検算です。退職所得200万円は速算表の「195万円から329万9,000円」の段なので税率10%・控除額9万7,500円で、20万円−9万7,500円=10万2,500円、これに102.1%を掛けて10万4,652円(1円未満切り捨て)。住民税20万円と合わせて30万4,652円を1,200万円から引くと1,169万5,348円になります。

例2は在任が5年以下なので1/2の計算がありません。もし1/2が使えたとすると退職所得は170万円で、所得税等は(170万円×5%)×102.1%=8万6,785円です。同じ500万円でも、在任年数だけで所得税等が約3倍になります。例2の手取りは、所得税等25万7,802円と住民税34万円の合計59万7,802円を500万円から引いた額です。役員等勤続年数は1年未満の端数を1年に切り上げるので、在任が5年を少しでも超えると6年として数えます。

一人社長の判断ポイント

一人社長が役員退職金を考えるときの判断ポイントは、退職金を「いつか払う大きな経費」ではなく、「役員報酬の決め方と会社に残す現金の延長線にあるもの」として見ることです。式の3つの要素のうち2つ(最終月額報酬と在任年数)は、日々の経営の結果で決まります。

会社員のころ、ぼくにとって給与は「もらうもの」でした。博報堂とアクセンチュアで働いたあと40歳でtiny合同会社を一人で作り、それが「自分で決めるもの」に変わったことは「一人法人の役員報酬の決め方」に書きました。退職金も同じで、一人法人では払う側も受け取る側も自分です。そのうえで、判断ポイントを4つに分けます。

  1. 本当に退任できるかを先に考える:退職金として扱えるのは、原則として実際に退職した場合です。分掌変更で退職金を払う道もありますが、国税庁 No.5203 では代表権を持つ場合や経営上主要な地位にある場合は除かれています。役員が自分一人の会社で、退任後も代表として会社を動かすなら、この例外に当てはまりやすくなります
  2. 最終月額報酬は役員報酬の決め方とつながっている:式の起点が退任直前の月額なので、役員報酬をどう決めてきたかがそのまま退職金の目安に響きます。役員報酬は期首から3か月以内に決めて1年間変えないのが原則で、退任の直前に都合よく動かせるものではありません(国税庁 No.5211)
  3. 在任5年の線を意識する:会社を作って5年以内に退任すると、受け取る側の1/2の計算がなくなります。早期に会社を畳む可能性があるなら、退職金で受け取る前提の資金計画は組み直したほうが安全です
  4. 払うための現金をどこに置くか:退職金は損金になっても、払う時点で会社に現金がなければ払えません。ぼくは役員報酬の記事で、報酬の数か月分は会社に残しておくほうが安心だと書きました。退職金の原資も、会社に残すお金の延長として考えます

原資の準備の方法としては小規模企業共済がよく挙がりますが、中小機構のよくある質問では、掛金は小規模企業共済等掛金控除として個人の所得から控除するもので、事業上の損金や必要経費にはならないと説明されています(中小機構 小規模企業共済 よくある質問 ID:65)。会社の退職金とは別の、社長個人の制度です。詳しい比べ方は別の記事で書く予定です。

株式会社と合同会社では、退職金を決める手続きの形も違います。株式会社は定款に定めがなければ株主総会の決議、合同会社は定款の定めに従って社員の同意で決め、どちらも書面に残します。会社の形の違いは「合同会社と株式会社の違い」にまとめています。

役員退職金でよくある間違いと注意点

役員退職金でいちばん多い間違いは、ネットで見かけた倍率をそのまま自分の会社に当てはめて、額を先に決めてしまうことです。相当かどうかは、同業類似法人の支給状況や退職の事情と並べて判断されます。

  • 倍率の数字を「公式の基準」と思い込む:法人税法施行令70条2号が示すのは判断の材料で、倍率の数字ではありません。裁決では比べる法人の選び方そのものが争われています
  • 退任後も実質的に経営を続ける:分掌変更で退職金を払っても、代表権を持ち続けたり、経営上主要な地位にいたりすると、退職金として扱われません(国税庁 No.5203)。退職金として扱われなければ、定期同額給与などの損金にできる形に当てはまらない限り、損金になりません(国税庁 No.5211)
  • 決議前に未払金で計上して損金にする:額が確定する事業年度より前に、内定した額を未払金に計上しても、その時点では損金になりません(国税庁 No.5208)
  • 「退職所得の受給に関する申告書」を出し忘れる:提出がないと支払額の20.42%が源泉徴収され、本人が確定申告で精算することになります。一人法人では、出す人も受け取る人も自分です
  • 源泉徴収と住民税の特別徴収を忘れる:払う会社が所得税等を源泉徴収し、原則として翌月10日までに納めます(国税庁 No.2732)。住民税も支払時に特別徴収されます

この記事は最終更新日時点の制度で書いています。税率や計算方法は改正されることがあるので、手続きの前に出典のページで最新の内容を確認してください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。とくに退職金の額は、同業類似法人の事例と照らす必要があり、自分だけで決めきれる種類の判断ではありません。ぼく自身、判断できない税務は税理士に聞くと決めてから、バックオフィスへの不安がかなり減りました。相談先の選び方は「いい税理士とは何か」にまとめています。

役員退職金に関するよくある質問

役員退職金について、検索でよく一緒に調べられている「功績倍率」「相場」「税金」「計算方法」の疑問に、公式の資料で確認できた範囲で答えます。

役員退職金の功績倍率は何倍が相場ですか?

国税庁の公式ページには、相場や上限としての倍率の数字は示されていません。法人税法施行令70条2号は、在任期間・退職の事情・同業類似法人の支給状況などに照らして相当かどうかを判断するとしています。国税不服審判所の裁決では同業類似法人の事例から平均の倍率を求めていて、比べる法人の選び方で倍率が変わるため、自分の会社の数字は税理士と確認してください。

役員退職金の計算方法を教えてください。

功績倍率法では「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で目安を出します。例として最終月額報酬50万円・在任20年なら、1,000万円に功績倍率を掛けた額です。ただし会社の損金にできるのは相当と認められる額までで、超える部分は損金になりません。

役員退職金にかかる税金はいくらですか?

受け取る側は、(退職金−退職所得控除額)×1/2を退職所得として、他の所得と分けて課税されます。例として在任20年・退職金1,200万円なら、退職所得は200万円で、所得税等は10万4,652円です。住民税も支払時に特別徴収され、横浜市の案内では税率は合計10%です。

会社を作って5年以内に退任すると、退職金の税金は変わりますか?

変わります。役員等勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金は特定役員退職手当等にあたり、退職所得の1/2の計算がありません。勤続年数は1年未満の端数を1年に切り上げるので、在任が5年を少しでも超えれば6年として数えます。

おわりに──役員退職金は最後に決める額ではなく、毎年の役員報酬が少しずつ決めている額

役員退職金は、辞めるときに計算するものではありません。毎年の役員報酬と、会社に残してきた現金が、その額を先に決めています。

式の3つの要素のうち、功績倍率だけは公式の答えがなく、残りの2つは自分の経営の結果です。だから今日やることは1つだけです。自分の会社の設立日を確かめて、役員としての在任が5年を超える日をカレンダーに入れておいてください。退職金の税金がいちばん大きく変わる線は、その日にあります。

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