最終更新:2026年10月19日
履歴事項全部証明書とは、法務局が発行する会社の「登記事項証明書」のうち、いま有効な登記に加えて直近数年のあいだに消された登記まで載せた証明書のことで、昔「登記簿謄本」と呼ばれていたものにあたります。登記簿が紙からコンピュータに移ったので正式な名前が変わっただけで、銀行や取引先に「登記簿謄本を出してください」と言われたら、ふつうは履歴事項全部証明書を取れば足ります。この記事では、4種類ある登記事項証明書の違い、窓口・郵送・オンラインの取り方と手数料を、法務省と法務局の公式ページで確認できた範囲で整理し、一人で会社を作った人がどの場面で求められるかまで書きます。制度と手数料は、最終更新日時点の公式ページに沿って書いています。
履歴事項全部証明書とは?登記簿謄本との違いを結論から
履歴事項全部証明書と登記簿謄本は、呼び名が違うだけで、実務ではほぼ同じものを指します。法務局は履歴事項証明書を「従前の登記の謄本に相当するもの」と説明していて、コンピュータ化された登記簿の内容を証明する書面は、登記事項証明書という名前で発行されます。
要点を先に表にしておきます。
| 項目 | 答え |
|---|---|
| 正式な名前 | 登記事項証明書(そのうちの履歴事項証明書の「全部事項」版) |
| 登記簿謄本との関係 | 紙の登記簿の時代の呼び名。コンピュータ化された登記簿では登記事項証明書になった |
| 載っていること | 商号・本店・目的・資本金・役員など、いま有効な登記と、請求日の3年前の日が属する年の1月1日以降に抹消された事項 |
| 誰が取れるか | 手数料を納めれば誰でも(自分の会社でなくても取れる) |
| 手数料(1通) | 窓口・郵送600円/オンライン請求で郵送受取520円/オンライン請求で窓口受取490円 |
| 取り方 | 登記所の窓口、郵送、登記・供託オンライン申請システムの3つ |
「全部」は、登記記録のすべての区を載せるという意味です。一部の区だけを選んで載せたものは一部事項証明書と呼ばれ、こちらが昔の「抄本」にあたります。熊本地方法務局の案内でも、全部事項証明書に「謄本」、一部事項証明書に「抄本」と括弧書きで添えられています。つまり、名前の長さに惑わされず「履歴」「全部」の2語を見れば、何が載っている書類かが分かります。
登記事項証明書の4種類と手数料(法務局で確認)
会社の登記事項証明書は、現在事項・履歴事項・閉鎖事項・代表者事項の4種類に分かれます。法務局のよくあるご質問(商業・法人登記関係)に4種類の定義が載っているので、それを一人法人の目線で読み替えると次のようになります。
| 種類 | 載っていること(法務局の説明の要約) | 使う場面の目安 |
|---|---|---|
| 現在事項証明書 | いま有効な登記事項、会社成立の年月日、役員の就任年月日、商号・本店の直前の変更 | 提出先から「現在事項」と指定されたとき |
| 履歴事項証明書 | 現在事項の内容に加えて、請求日の3年前の日が属する年の1月1日から請求日までに抹消された事項 | 「登記簿謄本」と言われたとき。迷ったときの第一候補 |
| 閉鎖事項証明書 | 閉鎖した登記記録に記録されている事項 | 提出先から閉鎖された記録を求められたときだけ |
| 代表者事項証明書 | 会社の代表者の代表権に関する事項で、いま有効なもの(資格証明書の代わりになる) | 代表者が誰かだけを示せばよいとき |
3年前の1月1日という線は、具体的な日付で考えると分かりやすくなります。2026年10月19日に請求するなら、2023年1月1日以降に消された登記まで載る計算です。2023年1月1日以降に設立した会社なら、設立から今日までに本店を移した、事業目的を足した、といった変更はすべてこの範囲に入るので、履歴事項証明書1枚で会社の経緯をひととおり示せます。
手数料は、法務省の登記手数料についてのページで確認しました。令和7年4月1日からの金額です。
| 証明書 | 書面請求(窓口・郵送) | オンライン請求・送付 | オンライン請求・窓口交付 |
|---|---|---|---|
| 登記事項証明書(4種類とも) | 600円 | 520円 | 490円 |
| 会社の印鑑証明書(参考) | 500円 | 450円 | 420円 |
1通が50枚を超えると、50枚ごとに100円が加算されます。一人法人の登記事項証明書がそこまで厚くなることはまずありません。書面請求の手数料は収入印紙で納め、オンライン請求ではインターネットバンキングや電子納付に対応したATMで納めます。
もうひとつ、法務省の登記情報提供サービスの利用料金等一覧によると、インターネットで登記の内容を画面で見られる「登記情報提供サービス」は、商業・法人の登記記録の全部の情報が1件330円(令和8年4月1日から)です。ただし法務局は、このサービスでは登記事項証明書は交付されないと明記しています。安く見られる代わりに、提出用の証明書にはなりません。
取得方法の比べ方──窓口・郵送・オンライン
3つの取り方のうち、急ぎでなく手数料を少しでも抑えたいならオンライン請求、今日中に手元に欲しいなら窓口が向いています。法務局の案内によると、他の登記所の管轄の会社でも、最寄りの登記所で請求して受け取れます。
| 取り方 | 手数料(1通) | 納め方 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 登記所の窓口 | 600円 | 収入印紙を交付申請書に貼る | 近くに登記所があり、その場で受け取りたい人 |
| 郵送で請求 | 600円+返信用の切手代 | 収入印紙を交付申請書に貼って同封 | パソコンでの手続きを避けたい人 |
| オンライン請求・郵送で受取 | 520円 | インターネットバンキング等で電子納付 | 自宅や事務所で完結させたい人 |
| オンライン請求・窓口で受取 | 490円 | 同上 | 先に請求しておき、登記所や法務局証明サービスセンターで受け取りたい人 |
計算の例を出しておきます。法人口座の申し込み、補助金の申請、新しい取引先との契約で1通ずつ、合わせて3通が必要になったとします(数字は説明のための例です)。窓口だと600円×3通で1,800円、オンライン請求で郵送なら520円×3通で1,560円、オンライン請求で窓口受取なら490円×3通で1,470円です。差は数百円なので、金額よりも「どこで受け取るか」で選んで構いません。
オンライン請求は、法務省のオンラインによる登記事項証明書及び印鑑証明書の交付請求について(商業・法人関係)によると、次の順番で進みます。
- 登記・供託オンライン申請システムで申請者情報を登録する(最初の1回だけ)
- ブラウザで使える「かんたん登記・供託申請」で、会社の商号・本店と、証明書の種類・通数を入力する
- 請求情報を送信する(登記事項証明書の請求に電子署名は要らない)
- 発行された納付情報をもとに、インターネットバンキングや電子納付対応のATMで手数料を納める
- 郵送を選んだ場合は、入力した送付先に証明書が届く。窓口受領を選んだ場合は、指定した登記所で受け取る
注意したいのは、オンラインで請求しても証明書が電子データで届くわけではない点です。受け取りはあくまで紙で、郵送か窓口になります。誰でも請求できる書類なので委任状の仕組みもなく、代理で請求するときは備考欄に書き添える運用になっています。
一人で会社を作る人の判断ポイント
一人法人にとって、履歴事項全部証明書は「会社がたしかに存在し、代表者が誰か」を外に示すための書類です。設立直後に求められやすいのは、法人口座の開設、取引先との契約、補助金や助成金の申請の3つで、どれも提出先によって要るかどうかが変わります。
法人口座については、銀行ごとの差が大きいところです。ぼくが経費用の口座として使っているGMOあおぞらネット銀行は、2026年8月時点の公式の案内で、法人口座の申し込みに登記簿謄本と印鑑証明書の取得が不要でした(詳しくはGMOあおぞらネット銀行の法人口座の記事に書いています)。それでも開設までには数日かかりましたし、口座を作ったときに聞かれたのは住所ではなく「何の仕事で、誰からお金をもらうのか」でした。審査で見られるのは書類の枚数より事業の中身で、事業内容を1〜2行で言い切れるようにしておくほうが効きます。ほかの銀行で証明書の提出を求められるかどうかは、申し込む前に各行の案内で確かめてください。
もうひとつ、一人法人だからこそ考えておきたいのが、この証明書は誰でも取れることです。法務局の説明どおり、手数料を払えば第三者でも取得できます(商業登記法第10条第1項)。そして合同会社の場合、会社法第914条で「合同会社を代表する社員の氏名又は名称及び住所」が登記事項になっています。自宅を本店にして一人で合同会社を作ると、本店所在地と代表社員の住所の両方に自宅が載ることになります。
株式会社には、2024年10月1日から「代表取締役等住所非表示措置」という制度ができました。法務省の代表取締役等住所非表示措置についてによると、一定の要件を満たして申し出れば、登記事項証明書などで代表取締役等の住所の一部を表示しないようにできます。ただし対象は株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人で、法務省自身も、融資を受けるときに不都合が出るなどの影響があり得るので慎重に検討するよう呼びかけています。
ぼくも40歳でtiny合同会社を作ったとき、設立書類の本店所在地の欄で数日手が止まりました。いまも、仕事と生活の住所は分けておいたほうが安心だと思っています。本店を自宅にするか、登記に使える住所を別に借りるかは、証明書に何が載るかを知ったうえで、設立書類を作る前に決めておくのが順番です。登記に使える住所の借り方はGMOオフィスサポートとはの記事で書きました。
最後に、自分の会社の登記内容を確かめたいだけなら、証明書を取る必要はありません。登記情報提供サービスなら1件330円で画面上で内容を確認できます。提出用ではないので、確認はこちら、提出は登記事項証明書と使い分けると無駄がありません。設立から届出までの全体の流れは、一人で合同会社を設立したら、驚くほど簡単だったにぼくが踏んだ順番で書いています。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、提出先が指定した種類と違う証明書を取ってしまうことです。現在事項証明書と履歴事項証明書は手数料が同じなので、指定がなく迷ったときは履歴事項証明書を選んでおけば、取り直しになる場面を減らせます。熊本地方法務局の郵送請求の案内にも、提出先に確認したうえで、通常は履歴事項証明書で対応できると思われる、と書かれています。
- 登記情報提供サービスの画面を印刷して提出する:登記事項証明書は交付されないサービスなので、提出用にはなりません。行政機関への電子申請で使う「照会番号」を取る場合は例外で、使えるかどうかは申請先の案内で確認します
- 登記事項要約書を証明書の代わりにする:旭川地方法務局の案内によると、要約書は登記記録の概要を記載した書面で、登記官の証明は付きません。オンラインでは請求できず、管轄の法務局の窓口でしか出ません
- 会社の印鑑証明書と混同する:印鑑証明書は別の書類で、請求できるのは会社の代表者本人(代理人による請求は可)です。書面で請求するときは印鑑カードが要り、オンラインで請求するときは電子証明書が要ります
- 古い証明書を使い回す:「発行から一定期間以内のもの」と期限を決めている提出先があります。期限は法務局ではなく提出先が決めるので、提出先ごとの案内で確認してください
- オンライン請求なら電子データで届くと思い込む:受け取りは紙で、郵送か窓口です。急ぐときは窓口受取を選び、受け取りに行く日を逆算して請求します
この記事は、最終更新日時点の法務省・法務局の公式ページで確認できた制度と手数料で書いています。手数料は改定されることがあるので、請求の前に公式ページで最新の金額を確かめてください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
履歴事項全部証明書に関するよくある質問
履歴事項全部証明書はオンラインで取得できますか?
取得できます。登記・供託オンライン申請システムの「かんたん登記・供託申請」から請求し、インターネットバンキングなどで手数料を納めます。証明書は電子データではなく紙で、郵送(1通520円)か登記所の窓口での受け取り(1通490円)を選びます。最初に申請者情報の登録が必要です。
「登記簿謄本を出して」と言われたら、何を取ればいいですか?
ふつうは履歴事項全部証明書を取れば足ります。法務局は履歴事項証明書を従前の登記の謄本に相当するものと説明しています。提出先が「現在事項」など別の種類を指定している場合は、その指定に従ってください。
自分の会社以外の履歴事項全部証明書も取れますか?
取れます。会社の登記事項証明書は、手数料を納めれば誰でも請求できます(商業登記法第10条第1項)。取引先の商号や本店、代表者を確かめたいときにも使えます。逆に言えば、自分の会社の本店所在地や代表者の情報も、第三者が取得できます。
履歴事項全部証明書の手数料はいくらですか?
令和7年4月1日からの手数料は、窓口や郵送の書面請求で1通600円、オンライン請求で郵送受取なら520円、オンライン請求で窓口受取なら490円です。1通が50枚を超えると50枚ごとに100円が加算されます。改定されることがあるので、請求前に法務省の登記手数料のページで確認してください。
おわりに──決めるのは書類の名前ではなく、出す先
登記簿謄本、登記事項証明書、履歴事項全部証明書。名前が3つあるせいで難しく見えますが、中身は「会社の登記を法務局が証明した紙」の1種類です。4種類のどれを取るかは、提出先が何を確かめたいかで決まり、迷ったら履歴事項全部証明書を選べば大きく外しません。
一人で会社を作った人にとって本当に考えておきたいのは、取り方よりも、この紙に何が載り、誰が見られるかのほうです。本店所在地も、合同会社なら代表社員の住所も、手数料を払えば誰でも読めます。証明書は取り方で迷う書類ではなく、何を載せるかを設立の前に決めておく書類。そう覚えておくと、設立書類の本店所在地の欄で手が止まる時間も短くなると思います。