結論から書きます。年末調整は、立場によって、関係あるかないかがはっきり分かれます。会社員は会社がやってくれます。フリーランス(個人事業主)は、自分に対しては不要ですが、人を雇えばやる側に回ります。そして一人法人は、自分で自分を年末調整します。同じ独立でも、法人か個人かで扱いがまるで違います。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳でtiny合同会社を設立しました。会社員のあいだ、年末調整は毎年やってくる紙を書くだけの作業でした。独立して初めて、これが誰かの仕事だったと気づきました。当時ほしかった整理を書きます。
年末調整とは何か
年末調整とは、給与から毎月天引きされている所得税の過不足を、年末に精算する手続きです。会社は、社員に給料を払うとき、あらかじめ概算の所得税を差し引いて国に納めています。これを源泉徴収といいます。ただしこの概算は、その人の生命保険料控除や扶養の状況までは反映していません。そこで年末に、実際の控除を当てはめて正しい税額を計算し直し、多く取りすぎていれば戻し、足りなければ追加で徴収します。これが年末調整です。
大事なのは、年末調整が給与を払う側(会社)が、給与をもらう人のために行う手続きだということです。ここを押さえておくと、独立後に自分がどの立場になるのかが見えてきます。
会社員が確定申告しなくていいのは、これのおかげ
会社員の多くが確定申告をしなくていいのは、年末調整が確定申告の代わりをしているからです。会社が、社員一人ひとりの税額を計算して精算まで済ませてくれる。だから社員は、保険料の控除証明書を出すくらいで、あとは会社に任せておけば完了します。
言い換えると、会社員は税金の手続きを会社に外注している状態です。ぼくもそうでした。毎年秋に配られる用紙に、生命保険の控除額を書いて出す。それだけで、税金のことは終わっていました。誰がどう計算しているのか、考えたこともありませんでした。
独立するというのは、この外注先を失うということでもあります。
フリーランス(個人事業主)に、年末調整はあるのか
結論は、自分自身に対しては、ありません。フリーランスの収入は事業所得であって、給与ではないからです。年末調整は給与に対する手続きなので、そもそも対象外です。フリーランスは、年末調整の代わりに確定申告で一年分の税額を自分で計算します。ここが会社員との最大の違いです。
確定申告そのもののやり方はフリーランスの確定申告 完全ガイドにまとめました。
ただし、フリーランスでも年末調整が関わってくる場面があります。ふたつあります。
ひとつは、給与収入もある場合です。フリーランスをしながらアルバイトや会社勤めもしていると、その給与のぶんは勤務先で年末調整されます。そのうえで、事業所得とあわせて確定申告する形になります。給与を受け取っている以上、そちらは年末調整の対象になる、ということです。
もうひとつは、人を雇った場合です。従業員やアルバイトに給料を払うようになると、今度は自分が年末調整をする側になります。雇った人のために、源泉徴収をして、年末に精算する。かつて会社が自分にしてくれていたことを、今度は自分がやる番になるわけです。ここは見落としやすいので注意してください。
一人法人は、自分で自分を年末調整する
いちばんややこしいのが、ぼくのような一人法人です。先に言い切ると、一人社長は、自分に対して年末調整が必要です。
理由は、法人と社長が別人格だからです。法人が、社長であるぼくに役員報酬を払う。この役員報酬は、税務上は給与にあたります。給与である以上、源泉徴収の対象で、年末調整の対象にもなります。つまり、会社(法人)としてのぼくが、社員(社長)としてのぼくのために、年末調整をするという構図です。一人二役です。
独立して法人を作ると、この「する側」と「される側」が同じ人の中に同居します。会社員のときは会社がやってくれて、フリーランスなら自分には不要だったものが、一人法人になると自分でやらなければならない。いちばん手間が増える立場です。法人化の全体像は一人で法人を作るということにも書きました。
ひとつ補足すると、役員報酬が年2,000万円を超える場合は、年末調整ではなく確定申告になります。ただ、独立初期の一人法人でここに当てはまる人は多くないはずです。多くの一人社長は、年末調整の対象と考えておけば大きく外しません。
一人法人が、年末に実際にやること
役員報酬を0円にしていない限り、一人法人には年末から年始にかけていくつかの提出義務があります。金額が小さくても、ゼロでも、書類の提出自体は必要になるものがあります。
- 源泉徴収票:役員報酬の額と源泉徴収した税額をまとめた書類です。自分の分を作成します
- 法定調書合計表:誰にいくら払ったかを税務署に報告する書類です。役員報酬が少額でも、0円でも、提出は必須です。期限は翌年1月31日で、遅れるとペナルティの対象になり得ます
- 給与支払報告書:住んでいる市区町村に提出します。住民税の計算に使われます
- 源泉所得税の納付書:源泉徴収した所得税を納めるための書類です。納める額がゼロでも、提出が必要な場合があります
正直に書くと、これを独立一年目に自力で完璧にやるのは、なかなか骨が折れます。ぼくは、この手続きまわりで最初に「税理士に頼むべきか」を真剣に考えました。会計ソフトの給与機能を使えば書類の作成自体はできますが、提出先や期限が複数に分かれるので、抜けが怖い領域です。会計ソフトの選び方はfreeeとマネーフォワードの比較記事にまとめています。
判断に自信が持てないなら、税理士に一度相談しておくと確実です。税理士ドットコムは無料で相談先を探せます。年末調整や法定調書のような、毎年決まって発生するのに手順が細かい作業は、最初に型を作ってもらうと、翌年以降がぐっと楽になります。いい税理士の見分け方はいい税理士とは何かに書きました。
よくある質問
フリーランスに年末調整は必要ですか
自分自身に対しては必要ありません。フリーランスの収入は事業所得で、給与ではないためです。年末調整の代わりに、確定申告で一年分の税額を自分で計算します。ただし、給与収入もある場合はその分が勤務先で年末調整され、従業員を雇っている場合は自分が従業員のために年末調整をする側になります。
一人社長でも年末調整は必要ですか
必要です。法人から受け取る役員報酬は税務上の給与にあたるため、源泉徴収と年末調整の対象になります。法人としての自分が、社長としての自分のために手続きをする形です。役員報酬が0円の場合でも、法定調書合計表などの提出は必要になります。
年末調整と確定申告は何が違いますか
年末調整は、給与を払う側が、給与をもらう人のために所得税を精算する手続きです。確定申告は、納税者本人が一年分の所得と税額を自分で計算して申告する手続きです。会社員は年末調整で完結することが多く、フリーランスは確定申告で完結します。一人法人は、自分への年末調整と、必要に応じた確定申告の両方が関わります。
役員報酬を0円にすれば、年末調整はしなくていいですか
役員報酬が0円なら、その人への年末調整という意味では手続きは発生しません。ただし法人としては、法定調書合計表など、支払いがなくても提出が求められる書類があります。0円だから何もしなくていい、とはならない点に注意してください。
年末調整の書類は、自分で作れますか
会計ソフトの給与計算機能を使えば、源泉徴収票や法定調書といった書類の作成自体は可能です。ただし提出先が税務署と市区町村に分かれ、期限も決まっているため、抜けが起きやすい領域です。独立初期は、税理士に一度型を作ってもらうと、翌年以降を自分で回しやすくなります。
まとめ
年末調整は、独立すると立場ごとに扱いが大きく変わります。会社員は会社に任せておけばよく、フリーランスは自分には不要でも人を雇えばやる側になり、一人法人は自分で自分を年末調整します。
会社員のときに何気なく書いていたあの紙は、誰かが引き受けてくれていた仕事でした。独立するというのは、それを自分の手に取り戻すということでもあります。手間ではありますが、自分の税金がどう決まっているのかを、初めて自分の目で見られるようになるとも言えます。
独立前に押さえておくことの全体像はマーケターが独立・開業前にやることリストに、独立後の保険の扱いは独立したら保険証はどうなるのかにまとめてあります。