最終更新:2026年10月19日
一人法人がインボイス登録をするべきかは、「取引先が仕入税額控除にインボイスを必要とする会社か」と「自社がもともと消費税の課税事業者か」の2つで決まります。取引先が一般課税の会社中心なら登録しない不利は年々大きくなり、取引先が消費者中心なら登録を急ぐ理由は小さくなります。2026年10月からは、免税事業者からの仕入れを取引先が控除できる割合が80%から70%に下がり、法人の2割特例も2026年9月30日を含む事業年度が最後になります。この記事では、国税庁のインボイス特設サイト・タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)・財務省の令和8年度税制改正の大綱の概要で確認できた範囲だけを使って、判定表、登録する・しないの手取りの比べ方(架空の例)、登録の手順と効力が生じる日を整理します。内容は最終更新日時点の制度にもとづいています。
一人法人のインボイス登録の判断とは?結論から
一人法人のインボイス登録の判断は、取引先の種類と自社の売上規模の掛け合わせで、ほぼ結論が出ます。登録は義務ではなく任意ですが、登録しないと取引先は自社への支払いにかかる消費税を全額は控除できません(国税庁 No.6498)。判定を表にします。
| 取引先 \ 自社の状況 | すでに課税事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円超など) | 免税事業者(設立1・2期目、基準期間の課税売上高が1,000万円以下など) |
|---|---|---|
| BtoB中心(取引先が一般課税の会社) | 登録しても消費税の納税額は基本的に変わらない。登録しない理由はほとんどない | 判断の中心。登録しないと取引先の控除が減り、その負担が価格交渉や発注先の見直しにつながりやすい |
| BtoB中心(取引先が簡易課税・2割特例・3割特例) | 同上 | 取引先の計算は売上税額から行うのでインボイスの保存は不要。登録しない影響は小さいが、取引先の計算方法は変わり得る |
| BtoC中心(取引先が消費者) | 登録は任意。消費者への交付義務はない | 登録を急ぐ理由は小さい。登録すると納税義務が生じる |
取引先が消費者や免税事業者だけなら、インボイスを交付する義務自体がありません。国税庁のインボイスQ&A(問10)も、顧客が消費者のみの場合は必ずしも適格請求書を交付する必要はないとしています。迷うのは、BtoBで、しかも自社がまだ免税事業者という組み合わせだけです。
制度・要件と登録の手順──2割特例・3割特例・経過措置の期限
インボイスまわりの経過措置は、令和8年度税制改正で期限と割合が変わりました。国税庁の令和8年度税制改正特集と財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要で確認した、最終更新日時点の内容を表にします。
| 制度 | 内容 | 適用される期間 |
|---|---|---|
| 免税事業者等からの仕入れの経過措置(取引先側) | インボイスのない仕入れでも、仕入税額相当額の一定割合を控除できる | 2023年10月1日〜2026年9月30日は80%、2026年10月1日〜2028年9月30日は70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%、2030年10月1日〜2031年9月30日は30%。2031年10月1日以後は控除できない |
| 同・控除の上限 | 一の免税事業者等からの課税仕入れが年(事業年度)で税込1億円を超える部分には使えない(改正前は10億円) | 2026年10月1日以後に開始する課税期間から |
| 2割特例(自社側) | インボイス登録で免税事業者から課税事業者になった人が、納付税額を売上税額の2割にできる | 2023年10月1日〜2026年9月30日の日の属する課税期間(法人・個人とも) |
| 3割特例(自社側) | 同じく納付税額を売上税額の3割にできる | 個人事業者の2027年分・2028年分だけ。法人は使えない |
| 免税事業者の登録の経過措置 | 課税事業者選択届出書なしで、登録希望日から登録を受けられる | 2029年9月30日の日の属する課税期間まで |
| 少額特例(取引先側) | 基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者は、税込1万円未満の課税仕入れを帳簿だけで控除できる | 2023年10月1日〜2029年9月30日 |
経過措置の割合と期間は、国税庁のインボイス制度に関するQ&A(令和8年5月改訂)の問113、2割特例は問114、3割特例は問114-2、少額特例は問111でも同じ内容を確認しました。
登録の手順は次のとおりです。
- 自社が今、課税事業者か免税事業者かを確かめる:設立1期目・2期目は基準期間がないので原則免税ですが、期首の資本金が1,000万円以上なら課税事業者です(No.6503)。2期目は、原則として1期目の開始の日以後6か月(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者です。この判定は給与等支払額の合計額に代えることもできます(No.6501)。
- 登録申請書を出す:e-Taxソフト(WEB版)か、郵送で各国税局の業務センター(インボイス登録センター)に出します。e-Taxにはマイナンバーカードなどの電子証明書と利用者識別番号が要ります(国税庁 登録申請手続)。
- いつから登録を受けるかを書く:免税事業者は、提出日から15日以降の「登録希望日」を書けば、その日から登録を受けられます。設立したばかりの法人は、事業を開始した課税期間の末日までに「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を書いて出せば、初日(設立日)に登録を受けたものとみなされます(Q&A問7・問11)。
- 通知を待つ:登録されると登録番号が通知され、国税庁の公表サイトに載ります。法人の登録番号は「T+法人番号13桁」です。番号の仕組みは法人番号とはで整理しました。
- 請求書と申告方法を切り替える:登録日以後の取引から、課税事業者の取引先に求められたら適格請求書を交付します。申告は一般課税か簡易課税か、2割特例が残っている期間ならそれも含めて選びます。
登録の効力は、通知を受けた日ではなく、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(登録日)から生じます(Q&A問5)。免税事業者の登録希望日より登録が遅れた場合も、登録希望日に登録を受けたものとみなされます(同問7)。
手取りの比べ方──登録する・しないの計算例
手取りで比べると、登録しない場合は自社に残るお金が多く見える一方で、その分の負担が取引先に移り、経過措置の割合が下がるたびに取引先の負担が増えていきます。数字はすべて架空の例で、消費税と地方消費税を合わせた10%で概算し、端数処理や法人税への影響は省きます。
例は、取引先がすべて一般課税の会社で、1年間の報酬を税込880万円(うち消費税相当80万円)受け取り、経費のうち課税仕入れが税込110万円(うち消費税10万円)の一人法人です。自社は基準期間の課税売上高1,000万円以下で、登録しなければ免税事業者のままでいられるものとします。登録しない場合も、報酬の額は据え置かれた前提です。
| パターン(例) | 消費税の納付 | 会社に残る額(報酬-経費-納付) | 使える期間 |
|---|---|---|---|
| A 登録しない(免税事業者のまま) | 0円 | 880万円-110万円=770万円 | 取引先の負担は下の表のとおり年々増える |
| B 登録して一般課税 | 80万円-10万円=70万円 | 700万円 | 期限なし |
| C 登録して簡易課税(第5種・みなし仕入率50%) | 80万円-40万円=40万円 | 730万円 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下・届出が必要 |
| D 登録して2割特例 | 80万円×20%=16万円 | 754万円 | 2026年9月30日を含む課税期間まで |
| (参考)個人事業者の3割特例 | 80万円×30%=24万円 | 746万円 | 個人事業者の2027年分・2028年分だけ |
Aを選んだとき、取引先の側では次のように負担が増えます。取引先が支払う税込880万円のうち、仕入税額相当額は880万円×10/110=80万円です。
| 取引先が支払う期間 | 取引先が控除できる割合 | 控除できる額 | 登録している相手と比べた取引先の負担増(例) |
|---|---|---|---|
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% | 56万円 | 24万円 |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% | 40万円 | 40万円 |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% | 24万円 | 56万円 |
| 2031年10月1日以後 | 0% | 0円 | 80万円 |
検算します。BとAの差は70万円で、これは一般課税の納付税額そのものです。Cの40万円は、売上の消費税80万円にみなし仕入率50%を掛けた40万円を引いた残りです。取引先の負担増は、80万円から控除できる額を引いたもので、70%なら80万円-56万円=24万円です。Aの770万円とDの754万円の差16万円は、2割特例の納付額と一致します。
この例で見えるのは、登録しないことで自社に残る40万〜70万円(CやBとの差)が、取引先の負担増24万〜80万円と引き換えになっている構造です。取引先が負担増をそのまま受け入れ続ける保証はありません。法人の場合、Dの2割特例は使えても2026年9月30日を含む今の事業年度までなので、これから登録する一人法人は、その次の期をBとCのどちらにするかで比べるのが現実的です。簡易課税の届出の期限や事業区分の考え方は、国税庁のNo.6505で確認してください。
一人法人・個人事業主の判断ポイント
インボイス登録の判断は、一人法人と個人事業主で使える特例の期間がずれるので、同じ売上でも結論が変わることがあります。違いを表で分けます。
| 論点 | 一人法人 | 個人事業主 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 基準期間 | 原則として前々事業年度 | 前々年 | No.6501 |
| 特定期間 | 原則として前事業年度開始の日以後6か月 | 前年1月1日〜6月30日 | 同上 |
| 設立・開業直後の免税 | 設立1・2期目は基準期間がなく原則免税。期首の資本金1,000万円以上や特定新規設立法人は除く | 開業した年と翌年は基準期間の課税売上高がなく原則免税 | No.6503/No.6531 |
| 2割特例 | 2026年9月30日を含む事業年度まで(例:3月決算なら2027年3月期まで) | 2026年分まで | 令和8年度税制改正特集 |
| 3割特例 | 使えない | 2027年分・2028年分(基準期間の課税売上高1,000万円以下など) | 同上 |
| 新規開業時に初日から登録 | 設立した課税期間の末日までに申請すれば設立日から | 開業した年の末日までに申請すれば、その年の1月1日から(開業日ではない) | 登録申請手続 |
| e-Taxソフト(WEB版) | パソコンで申請 | 国内の個人事業者はスマホ・タブレットでも申請できる | 同上 |
一人法人は、3割特例がない分、登録後の納税額が個人事業主より早く重くなります。設立直後の免税の期間をどう使うかは資本金の額とも関係し、その線の話は資本金はいくらにするかにまとめました。
ぼくがtiny合同会社を作ったきっかけは、2019年の秋に先輩から言われた「箱だけ作っといて。仕事振るから」でした。一人法人を作った話に書いたとおり、BtoBの取引では発注側に稟議や与信の審査があり、個人への発注より法人への発注のほうが社内を通しやすいと実感しています。取引先が法人格を求める理由が社内の審査なら、請求書の登録番号の有無も同じ審査の中で見られる可能性があります。BtoBで仕事を受ける一人法人にとって、インボイスの登録は税金の話であると同時に、取引の入口の話です。
一方で、登録すると消費税の申告が毎期の仕事に加わります。一人で合同会社を設立した記事で、ぼくは会計ソフトを入れても税務の判断まで自動になるわけではないと書きました。登録するかどうかも、取引先の構成と来期の売上の見込みを並べたうえで、税理士と一緒に決めるのが確実です。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、2割特例や80%控除の情報のまま判断することです。2026年10月1日以後の取引では、取引先が控除できる割合は70%で、法人の2割特例は2026年9月30日を含む事業年度が最後です。ほかの注意点も並べます。
- 登録すればすぐやめられると思う:免税事業者が登録の経過措置で登録を受けた場合、登録日の属する課税期間が2023年10月1日を含まなければ、翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者に戻れません(Q&A問7の注1)。国税庁の登録申請手続のページも、原則として登録を受けた日から2年間は消費税の申告が必要で、登録を取りやめても同様と案内しています。
- 登録の効力を通知の日だと思う:効力は登録簿に登載された日から生じます。通知が届く前でも、登録日以後の取引は適格請求書の対象です(Q&A問5)。
- 法人成りで個人の登録番号を使い続ける:法人の登録番号は「T+法人番号」なので、個人事業主の時代の番号とは別になります。新しく設立した法人として登録申請をし、個人としては事業廃止届出書を出す必要があります(Q&A問11の参考)。
- 免税事業者のままなら取引先は1円も控除できないと思う:経過措置で、2028年9月30日までは70%、その後も段階的に控除できます。ただし一の免税事業者からの仕入れが年1億円を超える部分には使えません。
- 取引先の計算方法を決めつける:取引先が簡易課税や2割特例・3割特例なら、インボイスがなくても取引先の納税額は変わりません。ただし取引先の計算方法は事業年度ごとに変わり得るので、確かめてから判断します。
この記事は、最終更新日時点の制度で、国税庁と財務省のページで確認できた内容だけを書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。相談先の選び方はいい税理士とは何かにまとめています。
一人法人のインボイス登録に関するよくある質問
一人法人のインボイス登録について、一緒に検索されている「するべきか」「取引先」「免税事業者のまま」の疑問に答えます。内容は、最終更新日時点で国税庁と財務省のページで確認できたものだけです。
一人法人はインボイス登録をするべきですか?
取引先が一般課税の会社中心で、自社が免税事業者なら、登録するかどうかが取引条件に直結するので検討の中心になります。すでに課税事業者なら、登録しても納税額は基本的に変わりません。取引先が消費者中心なら、交付義務がないので登録を急ぐ理由は小さくなります。
免税事業者のままだと取引先はどうなりますか?
取引先は、自社への支払いにかかる消費税を全額は控除できません。経過措置により、2026年10月1日から2028年9月30日までは70%、2030年9月30日までは50%、2031年9月30日までは30%を控除でき、2031年10月1日以後は控除できなくなります。
法人も3割特例を使えますか?
使えません。3割特例は、インボイス登録で免税事業者から課税事業者になった個人事業者の2027年分・2028年分だけが対象です。法人が使えたのは2割特例までで、2026年9月30日を含む事業年度が最後です。
インボイス登録の効力はいつから発生しますか?
通知を受けた日ではなく、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(登録日)から発生します。免税事業者は提出日から15日以降の登録希望日を指定でき、設立したばかりの法人は、その課税期間の末日までに申請すれば設立日から登録を受けたものとみなされます。
おわりに──インボイス登録は、税金の損得ではなく取引の入口で決める
登録しないほうが自社の手元に残るお金は多く見えますが、その差額は消えたわけではなく、取引先の負担に移っているだけです。しかもその負担は、2031年10月に向けて段階的に大きくなります。一人法人が決めるのは、残る金額の大小ではなく、どの取引先と、どの条件で仕事を続けたいかです。