ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳でtiny合同会社を設立しました。法人にはしましたが、社員はいません。一人法人は、実質フリーランスです。好きな人と、好きな時間に会い、自分の責任と裁量で生きていく。独立してよかったと、いまでも思っています。
ただ、正直に書いておきたいことがあります。仕事がなくて不安な時期がありました。その不安との付き合い方として、ぼくがやっていることを書きます。
暇なのではなく、先が見えない
独立して怖いのは、忙しさではありません。いま手を動かす仕事はあるのに、三か月後に何があるか分からない、という状態です。会社員のときは、来月も再来月も仕事があることが前提でした。その前提が消えると、目の前の仕事に集中しているつもりでも、頭のどこかがずっと先を探しています。
厄介なのは、この不安が判断を歪めることです。安く受けてしまう。合わない相手と組んでしまう。断るべき仕事を断れない。不安な状態で交渉すると、ほぼ確実に足元を見られます。相手が悪いのではありません。こちらが焦っていることは、伝わってしまうものです。
独立してすぐは、これが読めませんでした。売上が落ちた月に、いま思えば受けなくてよかった仕事を受けています。そのときは、埋めることしか考えていませんでした。
案件紹介サービスに、複数登録している
いまぼくがやっているのは、単純なことです。フリーコンサルの案件紹介サービスに、複数登録してあります。アクセンチュアに在籍していたので、この領域の案件は相性がいい。登録しておくと、条件に合う案件がメールで届きます。
そして、今も、メールに溜まる案件を時々眺めています。
応募するために見ているわけではありません。実際、そこから参画した案件ばかりというわけでもない。それでも見ているのは、意味があるからです。
眺めるという行為が、安全装置になっている
ここがこの記事で書きたかったことです。案件を眺めることは、いつでも戻れると確認する作業です。
月に何百万円の単価で、こういう仕事が動いている。自分の経歴なら、たぶんこのあたりに入れる。それが分かっているだけで、仕事がない三か月が、詰みではなく空白になります。詰みだと思うと焦りますが、空白だと思えば埋め方を考えられます。
この感覚は、貯金に少し似ています。使わなくても、あるだけで判断が変わる。選択肢は、行使しなくても効いています。むしろ行使しないでいられることのほうが価値かもしれません。
だから登録は、仕事を取るための行動というより、不安に判断を歪められないための行動だと考えています。焦って安く受ける一件を防げるなら、それだけで元は取れます。
独立後の現実についてはtiny合同会社を立ち上げて気づいた独立後の現実にも書きました。あわせて読んでもらえたらと思います。
コンサル系の経歴があるなら、案件の相場を見ておく
コンサルティングファーム出身であれば、フリーコンサルの案件紹介サービスは登録しておいて損がありません。単価のレンジが、事業会社の業務委託とはっきり違うからです。自分の値段の上限を知らないまま独立すると、安いほうの相場だけを見て値付けしてしまいます。
ランサーズプロフェッショナルエージェントは、以前POD(プロフェッショナルズ・オン・デマンド)という名前だったサービスです。上場企業のランサーズが運営していて、この領域では15年以上の実績があります。戦略、DX、新規事業、PMOあたりの案件が中心で、月100万円から250万円クラスのレンジが並びます。総合系・IT系・戦略系のファーム出身者と相性がいい構成です。
領域で分かれているサービスもあります。IT・SAP寄りならIT Consultant Bank、
戦略案件に寄せるならStrategy Consultant Bankという選択肢があります。![]()
複数登録する理由は、比較するためです。一社だけだと、提示された条件が高いのか安いのか判断できません。同じ経歴に対して複数から声がかかると、自分の相場が見えてきます。これは会社員の転職活動と同じ構造です。
エンジニアの場合は、探す場所が違う
ここまではコンサル系の話でした。エンジニアとして独立している場合は、案件が集まる場所が変わります。
案件をまとめて検索したいならフリーランスボードがあります。複数のエージェントの案件を横断で見られるので、相場を掴む用途に向いています。
担当者に伴走してほしいタイプなら、フリコンのように、専任のコンシェルジュがつく形のサービスもあります。エンジニア中心ですが、PMOやデザイナーの案件も扱っています。at-engineerも同じくITフリーランス向けです。
ちなみに、さきほど挙げたランサーズプロフェッショナルエージェントには、エンジニア版にあたるランサーズテックエージェントがあります。同じ運営元が、コンサル向けとエンジニア向けを別サービスとして分けているということです。この分け方自体が、案件の性質が違うことを示しています。コンサル案件は課題設定から入るぶん単価が高く、エンジニア案件は稼働と成果物が明確なぶん継続しやすい。どちらが上ということではなく、収入の安定の作り方が違います。
どれを使うにしても、考え方は同じです。一社に絞らず、届く案件の幅で相場を測る。それだけで値付けの精度が変わります。
登録しておくことの、地味な副作用
もうひとつ、書いておきたいことがあります。案件情報を見ていると、市場がいま何を欲しがっているかが分かります。
去年と今年で、募集されている役割は変わっています。生成AI関連の案件が増え、データ基盤の整備を求める案件が増えました。これは、自分の看板をどこに寄せるかの判断材料になります。営業されている側にいるだけで、市場調査ができているようなものです。
独立すると、自分から情報を取りに行かないと何も入ってきません。届く案件を眺めるのは、その中では最も労力の低い情報収集だと思います。
ただし、案件紹介だけに頼らない
最後に、逆のことも書いておきます。案件紹介サービスは、独立後の仕事の取り方としては一本の柱でしかありません。
ぼくの仕事の多くは、実際には人からの紹介で来ています。前職の同僚、取引先だった人、飲みに行っていた相手。独立してわかった人脈が全ての現実に書いたとおりです。案件紹介サービスは、その紹介が途切れたときの受け皿として置いてある、という位置づけが正確だと思います。
そして、入金の遅れで資金が回らなくなる問題は、案件を取れば解決するわけではありません。ここは別の備えが要ります。資金ショートしかけたときの話に書きました。
独立前にやっておくことの全体像はマーケターが独立・開業前にやることリストにまとめてあります。
よくある質問
フリーコンサルの案件紹介サービスは、登録するとしつこく連絡が来ますか
サービスによりますが、多くはメールでの案件配信が中心です。面談を設定するかどうかは自分で選べます。ぼくは複数登録していますが、届いたものを眺めて、気になったときだけ返信するという使い方をしています。
コンサルファーム出身でなくても登録できますか
サービスによります。戦略・総合系ファーム出身者を想定した案件が中心のところが多いため、事業会社のみの経歴だと紹介できる案件が限られる場合があります。事業会社での実務経験を活かすなら、PMOや事業企画寄りの案件を扱うサービスを選ぶほうが合います。
フリーコンサル案件の単価はどのくらいですか
領域と稼働日数によりますが、戦略・DX・PMOあたりでは月100万円から250万円のレンジの案件が見られます。稼働が週3日などに減れば、その分下がります。常駐か非常駐かでも変わるため、提示条件は稼働前提とセットで確認してください。
複数のサービスに登録しても問題ありませんか
問題ありません。むしろ複数登録が前提だと考えたほうがいいです。一社だけだと、提示された条件が相場に対して高いのか安いのか判断できません。同じ経歴に対して複数から反応をもらうことで、自分の値段が見えてきます。
仕事が途切れたときは、まず何をすべきですか
焦って安く受けないことが第一です。そのうえで、過去に一緒に仕事をした人に近況を伝えるのがいちばん早いです。案件紹介サービスは並行して動かしておくと、選択肢がある状態で交渉できます。
まとめ
独立して困るのは、仕事がないことそのものより、仕事がないときに正しい判断ができなくなることです。焦った状態で値付けをすると、その一件だけでなく、次の交渉の基準まで下がります。
案件紹介サービスに登録しておくのは、その焦りを外から抑える仕組みです。使わなくてもかまいません。いつでも戻れると知っていることが、いまの仕事を強気で選べる根拠になります。
ぼくはいまも、届いた案件をときどき眺めています。応募することはあまりありません。それでも、眺めるのをやめようとは思っていません。