最終更新:2026年10月20日
屋号とは、個人事業主が事業で名乗る名前のことです。登記をしなくても使え、開業届や確定申告書の「屋号」欄に書けば税務の書類にも載ります。会社の名前である商号は登記が必須で、「合同会社」などの文字を入れなければなりませんが、屋号は付けるかどうかも自由です。屋号付きの口座は金融機関ごとに条件が違い、開業届の控えや確定申告書など、屋号が書かれた書類で確認する金融機関があります。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立したので、自分で決めたのは屋号ではなく会社の商号でした。この記事では、個人事業主として名前を付けたい人に向けて、屋号と商号の違い、屋号付き口座の作り方、決め方の確認先を、e-Gov法令検索・国税庁・法務局・金融機関の公式ページで確認できた範囲で整理しました。合同会社と株式会社の選び方は合同会社と株式会社の違いに任せ、ここでは個人の名前の付け方に絞ります。2026年10月20日時点の制度で書いています。
屋号とは?結論から
屋号は「登記しない事業の名前」で、商号は「法律に根拠がある名前」です。商法や所得税法に「屋号」を定義した条文はなく、法律で扱われるのは商号のほうです。
| 比べる点 | 屋号(個人事業主) | 個人の商号登記 | 会社の商号 |
|---|---|---|---|
| 使う人 | 個人事業主なら誰でも | 商人にあたる個人(商法4条) | 株式会社・合同会社など |
| 根拠 | 定義する条文はない。開業届や確定申告書の様式に欄がある | 商法11条(氏名その他の名称を商号にでき、登記もできる) | 会社法6条 |
| 登記 | しない | 任意で法務局に登記できる | 設立登記で必ず登記する |
| 付けるかどうか | 自由 | 自由 | 必須 |
| 入れなければならない文字 | なし | なし | 株式会社・合同会社など会社の種類 |
| 使ってはいけない文字 | 会社と誤認されるおそれのある文字(会社法7条) | 同左 | 他の種類の会社と誤認される文字(会社法6条3項) |
| 費用 | なし | 登録免許税3万円 | 設立登記の費用に含まれる |
個人の商号登記は、札幌法務局の商号登記申請書の記載例で確認しました。登記の事由は「商号新設」、登録免許税は3万円で、申請書のほかに印鑑届が要ります。記載例には「営業の種類」が商法4条・501条・502条の商行為にあたるものでなければならないと注記されているので、事業の内容によっては登記できません。同じ所在場所で他人がすでに登記した商号と同じ商号は登記できません(商業登記法27条)。
屋号を書く場所と、使える場面
屋号は、税務署に出す書類と、取引で使う書類の両方に書けます。どこに書いても届出や費用は要りませんが、口座とインボイスは書類の書き方に条件があります。
| 場面 | 屋号の扱い | 出典 |
|---|---|---|
| 開業届 | 様式に「屋号」の欄がある。所得税法施行規則98条の記載事項には入っていない | 国税庁 A1-5、所得税法施行規則98条 |
| 確定申告書 | 第一表(令和7年分以降用)に「屋号」の欄がある | 国税庁 確定申告書第一表 |
| インボイス(適格請求書) | 電話番号などで発行する事業者を特定できれば、氏名の代わりに屋号を書いてもよい。登録番号は必須 | 国税庁 インボイスQ&A 問21-2 |
| インボイスの公表サイト | 個人事業者は、申出書を出すと主たる屋号を公表できる | 国税庁 公表サイト「登録番号に関する情報」 |
| 屋号付きの口座 | 金融機関ごとに条件と書類が違う(次の表) | 各金融機関の公式ページ |
インボイスは、公表サイトで登録番号を検索しても、屋号は申出をしなければ表示されません。取引先が登録番号を確かめたときに名前が食い違って見えないよう、屋号で請求書を出す人は、公表の申出をしておくか、請求書に氏名も並べて書いておくと確認が早く済みます。申出書は、e-Taxソフト(WEB版)でも作成できます。インボイスの記載項目そのものは適格請求書の記載事項にまとめています。
屋号の決め方の手順と、確認する場所
屋号は自由に付けられますが、使えない文字と、ぶつかってはいけない他人の権利があります。決める順番は、候補を出す、使えない文字を外す、商標を調べる、ネット上の空きを見る、の4つです。
- 候補を出す:事業の内容が伝わる名前か、自分の名前を生かした名前かを決めます。名刺・請求書・口座に何年も書く前提で考えます
- 使えない文字を外す:会社でない者は、会社と誤認されるおそれのある文字を名前に使えません(会社法7条)。業法で使える人が限られる文字もあり、たとえば銀行でない者は名称に銀行であることを示す文字を使えません(銀行法6条2項)
- 商標を調べる:特許情報プラットフォームJ-PlatPatの商標検索で、同じ名前や読みの似た名前が、自分と同じか似た商品・サービスで登録されていないかを見ます
- ネット上の空きを見る:同じ文字列のドメインやSNSのアカウント名が空いているか、検索したときに別の事業と混ざらないかを確かめます
商標を調べる理由は、商標権の範囲が広いからです。商標権者は指定商品・指定役務について登録商標を使う権利を専有し(商標法25条)、似た商標を似た商品・サービスに使う行為も侵害とみなされます(商標法37条)。また、不正の目的で他の商人や会社と誤認されるおそれのある名称を使うことは、商法12条と会社法8条で禁じられています。
| 確認すること | 確認する場所 | 見落としたときに困ること |
|---|---|---|
| 会社と誤認される文字がないか | 会社法7条 | 名前を付け直すことになる |
| 業法で制限された文字がないか | 銀行法など、その業種の法律 | 名前を付け直すことになる |
| 他人の登録商標とぶつからないか | J-PlatPat | 使用をやめるよう求められるおそれ(商標法36条の差止請求) |
| ドメイン・SNSの空き | 各サービスの検索 | 名前とURLがそろわない |
| 口座に登録できる表記か | 口座を作る金融機関の案内 | 書類と違う表記は登録されないことがある |
個人事業主・副業の人の判断ポイント
屋号を付けるかどうかは、「その名前を書類に書き続けるか」で決めると迷いません。口座・請求書・名刺に屋号を出すなら付ける価値があり、氏名だけで取引が回るなら付けなくても困りません。
付けるなら、屋号付き口座の条件を先に見ておくと順番を間違えません。3つの金融機関の公式ページで確認した条件は次のとおりです。
| 金融機関 | 確認できた条件・書類 |
|---|---|
| ゆうちょ銀行 | 屋号等で個人事業を営んでいるか、事業の所得が一定額以上(給与所得がある人は20万円以上、ない人は48万円以上)が申込みの条件。開業届の控え(または開業届出済証明書)、事業を営む事実の確認書類、確定申告書などの財務の書類、事業内容の資料と印章が要る |
| みずほ銀行 | 営業性個人(屋号付き個人など)の口座は、法人口座を開設できる店舗で手続きし、インターネットからは申し込めない。営業事実の確認書類として開業届の控えや確定申告書などを挙げている |
| 楽天銀行 | 開業届・確定申告書第一表などのうち1つのコピーを送る。登録できる屋号は、その資料に書かれた屋号だけ。e-Taxで出した場合は受信通知も必要 |
3社とも、屋号は自己申告ではなく書類で確かめる仕組みです。口座に載せたい表記は、開業届を出す時点で決めておくと二度手間になりません。副業で屋号を付ける場合も同じで、勤め先の就業規則の副業規定は名前を決める前に確かめておきたいところです。
ぼくは独立したとき、事業用の口座とクレジットカードを作り、事業の支払いはすべてそこを通すようにしました(確定申告ガイドに書いた体験)。反対に、法人口座の開設はもっと早く動くべきでした。登記が終わってすぐに取引が始まり、入金先がしばらく個人口座になって、帳簿が複雑になったからです(一人法人の設立記)。名前と口座は、仕事が始まる前にそろえておくものでした。法人の口座はGMOあおぞらネット銀行の法人口座の記事にまとめています。
名前の決め方では、会社名を決めた段階で、同じ文字列のドメインが空いているかを登記より先に確かめました。会社名は見積書にも請求書にも名刺にも入り、何年も名乗り続ける名前だからです(一人で合同会社を設立した記事)。屋号も、書類に書き続ける名前という点では同じです。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、屋号を登記した名前だと思うことです。屋号は届け出る義務も登記の義務もなく、付けただけで商標のような権利が生まれるわけでもありません。
- 屋号を付ければ名前が守られると思う:屋号として使っているだけでは商標権にはなりません。商標登録は先に出願した人が優先される仕組み(商標法8条)で、他人の登録商標とぶつかれば、その範囲では使えなくなるおそれがあります
- 「◯◯カンパニー合同会社」のような屋号を付ける:会社でない者は、会社と誤認される文字を使えません
- 屋号がないと開業届を出せないと思う:屋号は施行規則98条の記載事項に入っていません
- 口座で好きな表記を名乗れると思う:楽天銀行のように、書類に書かれた屋号だけを登録する金融機関があります
- インボイスに屋号だけを書く:電話番号などで事業者を特定できる形にし、登録番号は必ず書きます
- 屋号を変えたのに書類を放置する:口座・公表サイト・請求書の表記がずれます。口座は各金融機関の変更手続き、公表サイトは公表(変更)申出書で直します
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。商標を登録するかどうかや、他人の商標とぶつかるかの判断は、弁理士に相談する領域です。
屋号に関するよくある質問
屋号と商号の違いは何ですか?
屋号は個人事業主が事業で名乗る名前で、登記はしません。商号は法律に根拠がある名前で、会社は商号を必ず登記し、会社の種類を名前に入れます。個人も商人にあたれば、商号を法務局に登記できます(登録免許税3万円)。
個人事業主に屋号は必要ですか?
必須ではありません。開業届の様式に欄はありますが、所得税法施行規則98条の記載事項には入っていません。口座や請求書に事業の名前を出したいなら付ける価値があり、氏名だけで取引が回るなら付けなくても困りません。
屋号付きの口座はどうやって作りますか?
金融機関ごとに条件が違います。ゆうちょ銀行・みずほ銀行・楽天銀行は、開業届の控えや確定申告書など、屋号と事業の実態がわかる書類を求めています。楽天銀行は、資料に書かれた屋号だけを登録すると案内しています。
屋号を決めるとき、法人との違いで気をつけることは?
会社でない者は、会社と誤認されるおそれのある文字を名前に使えません(会社法7条)。あわせて、J-PlatPatで他人の登録商標とぶつからないかを確かめておきます。将来法人にするなら、その名前を商号にしても通るかも見ておくと安心です。
おわりに──屋号は登記した日ではなく、書類に書き続けた日から名前になる
屋号には、登記も届出も要りません。だからこそ、名前になるかどうかは、開業届・口座・請求書・名刺にどれだけ同じ表記で書き続けるかで決まります。決める前に、使えない文字と他人の商標だけは確かめる。それが済んだら、あとは書類の表記をそろえるだけです。
今日やることは1つです。屋号の候補を1つ書き出して、J-PlatPatの商標検索にかけてください。