最終更新:2026年10月20日
フリーランスの請求書は、宛名・発行者・請求日・取引内容・金額と消費税・支払期日・振込先の7つを書けば形になります。そのうえで、インボイスに登録しているかどうかで登録番号と税率ごとの消費税額の書き方が変わり、源泉徴収の対象になる報酬かどうかで「差し引く税額」の行が増えます。この記事では、登録あり・なし×源泉あり・なしの4パターンの記載例(架空の会社と金額)と、交通費・立替金・振込手数料・支払期日の書き方を、国税庁と公正取引委員会の公式ページで確認できた範囲で整理します。受け取る側(フリーランス・一人法人)と、支払う側(発注者)の両方から見ていきます。
フリーランスの請求書の書き方とは?結論から
フリーランスの請求書は、「何の仕事に、いくらを、いつまでに、どこへ払ってほしいか」を相手の経理が迷わず処理できる形で書く書類です。法律で決まった様式はありませんが、インボイス制度・源泉徴収・フリーランス法の3つが、書く項目と金額の出し方に関わります。先に、書く項目を表にします。
| 項目 | 書き方の例(架空) | 関わる制度 |
|---|---|---|
| 宛名 | 株式会社ためし商事 御中 | インボイスの記載事項(受け取る事業者の名称) |
| 発行者・登録番号 | 合同会社みほん企画 登録番号 T+13桁の数字(未登録なら書かない) | インボイス |
| 請求日・取引年月日 | 請求日2026年10月31日/2026年10月1日〜10月31日分 | インボイス |
| 取引内容 | バナーデザイン制作(10月分・5点) | インボイス・源泉徴収(報酬の種類の判断に使われる) |
| 金額・消費税 | 10%対象の合計と消費税額を分けて書く | インボイス・源泉徴収(税抜で計算できるか) |
| 源泉徴収税額 | 源泉所得税(10.21%)−20,420円 | 源泉徴収(対象の報酬のときだけ) |
| 支払期日・振込先 | 2026年11月30日/事業用口座の銀行名・支店名・口座番号・名義 | 契約・フリーランス法(支払期日の定め) |
適格請求書の6つの記載事項そのものの説明は、適格請求書の記載事項と記載例の記事に任せます。この記事は、フリーランスの請求書で迷いやすい源泉徴収・未登録・交通費・振込手数料に絞ります。制度は最終更新日時点の公式ページで書いています。
制度・要件(源泉徴収・インボイス・フリーランス法)
請求書の書き方に関わる要件は、どれも「誰に払うか」「何の報酬か」で分かれます。国税庁と公正取引委員会、e-Gov法令検索で確認した内容を表にしました。
| 論点 | 確認できた内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 源泉徴収が必要な報酬 | 個人(居住者)に払う原稿・さし絵・デザインの報酬、講演料、弁護士・税理士などの報酬、モデルの報酬など。法人に払う報酬は、馬主である法人への競馬の賞金を除いて対象外 | No.2792・所得税法204条 |
| 税率 | 支払金額100万円以下は10.21%、100万円超はその超える部分が20.42%(100万円超のときは(支払金額−100万円)×20.42%+102,100円)。1円未満は切り捨て | No.2795 |
| 消費税の扱い | 原則は消費税を含めた金額が対象。請求書等で報酬と消費税等の額が明確に分かれていれば、報酬の額だけを対象にしてよい。インボイス制度の開始後も変わらず、請求書はインボイスでなくてもよい | No.2792・インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収 |
| 交通費・宿泊費 | 報酬と一緒に払う旅費などは原則として報酬に含まれる。支払う側が交通機関やホテルに直接払った通常必要な範囲の費用は含めなくてよい | No.2792・No.2795 |
| インボイス未登録の請求書 | 適格請求書は出せないが、請求書や領収書は従来どおり出せる。登録番号に似た英数字や他人の番号を書くことは禁止(罰則あり)。消費税相当額を書いても、適格請求書と誤認されるものでなければ基本的に罰則の対象ではない | インボイスQ&A 問26-2 |
| 支払期日 | 従業員を使う発注者などがフリーランス(従業員のいない個人・一人法人)に業務委託をしたら、給付を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める。請求書が出ていないことは遅れの理由にならない | フリーランス法2条・4条・公取委Q&A Q58 |
| 振込手数料 | 合意の有無にかかわらず、振込手数料をフリーランスに負担させて報酬から差し引くことは報酬の減額にあたる。取適法(旧下請法・2026年1月1日施行)の取引でも同じ扱い | 公取委Q&A Q30・Q78・取適法Q&A Q99 |
なお、国税庁のタックスアンサーには「令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税」と書かれています。2027年以後の支払いに使う税率は、その時点の国税庁の案内で確かめてください。源泉徴収の対象範囲をもっと詳しく知りたい場合は、別の記事で扱う予定です。
記載例と書き方の手順(4パターン・架空の例)
記載例は、報酬と消費税を別の行に分け、源泉徴収税額を最後に差し引く順番で書くと崩れません。ここでは、個人のフリーランスが株式会社ためし商事に、税抜20万円のバナーデザイン制作(源泉徴収の対象になるデザインの報酬)を請求する架空の例で比べます。金額はすべて例です。
| パターン(例) | 報酬(税抜) | 消費税 | 源泉徴収税額 | 振込を依頼する額 |
|---|---|---|---|---|
| ①登録あり×源泉あり | 200,000円 | 10%対象・消費税額20,000円 | −20,420円 | 199,580円 |
| ②登録あり×源泉なし(例:広告運用の代行など源泉の対象外の役務、または一人法人として請求) | 200,000円 | 10%対象・消費税額20,000円 | なし | 220,000円 |
| ③未登録×源泉あり | 200,000円 | 消費税相当額20,000円(登録番号は書かない) | −20,420円 | 199,580円 |
| ④未登録×源泉なし | 200,000円 | 消費税相当額20,000円(登録番号は書かない) | なし | 220,000円 |
検算します。源泉徴収税額は200,000円×10.21%=20,420円で、①と③の振込額は200,000円+20,000円−20,420円=199,580円です。もし報酬と消費税を分けずに「220,000円(税込)」とだけ書くと、源泉徴収の対象が220,000円になり、220,000円×10.21%=22,462円が差し引かれて、振込額は197,538円に下がります。分けて書くかどうかで、手取りが2,042円変わります。
③と④で消費税相当額を上乗せするかどうかは、取引先との価格の取り決めの問題です。国税庁は、免税事業者が仕入れで負担した消費税相当額を取引価格に上乗せして請求することは適正な転嫁で問題ないとしています(問26-2)。一方で、未登録の請求書を受け取った取引先は、2026年10月1日〜2028年9月30日の仕入れについて仕入税額相当額の70%しか控除できません(問113)。値決めの段階で話しておくほうが、請求のたびに揉めずに済みます。登録するかどうかの判断は一人法人のインボイス登録の判断に整理しています。
100万円を超える報酬の例も載せます。税抜120万円のデザイン料なら、(1,200,000円−1,000,000円)×20.42%+102,100円=40,840円+102,100円=142,940円が源泉徴収税額です。
書く手順は次のとおりです。
- 自分の名称と、登録していれば登録番号を型に固定する(未登録なら番号の欄ごと消す)
- 取引内容を、デザイン・原稿・運用代行など役務の中身が分かる言葉で書く
- 報酬を税率ごとに合計し、消費税額(未登録なら消費税相当額)を別の行に書く
- 源泉徴収の対象なら、税抜の報酬に10.21%を掛けた額を「源泉所得税」として差し引く
- 交通費や広告費の立替は、報酬とは別の行に分ける
- 契約で決めた支払期日と、事業用の振込先を書く
5の立替金は、たとえば取引先の代わりに広告費や素材代を払った場合です。国税庁は、立替払をした側から立替金精算書などを受け取り、元の支払先の適格請求書とあわせて保存すれば、取引先が仕入税額控除を受けられるとしています(問94)。立替分は自分の報酬ではないので、報酬の行に混ぜず、領収書の写しを添えて別に書いておくと、相手の経理も自分の帳簿も読みやすくなります。
フリーランス・一人法人の判断ポイント
同じ請求書でも、受け取る側と支払う側では気にするところが違います。独立すると、請求書を出す側にも、外注先に支払う側にもなり得るので、両方の立場で表にしました。
| 論点 | 受注側(フリーランス・一人法人) | 発注側(支払う事業者) |
|---|---|---|
| 源泉徴収 | 個人で受けるデザイン・原稿・講演などは差し引かれる前提で請求額を出す。一人法人として受けるなら原則として対象外 | 個人への対象報酬は差し引いて、原則として支払った月の翌月10日までに納付する。給与の源泉徴収をしていない個人(従業員のいない個人事業主など)が支払う場合は、デザイン料などの源泉徴収義務がない(所得税法204条2項) |
| 消費税の書き方 | 報酬と消費税を分けて書く。分けると源泉徴収の対象が税抜になる | 分けて書かれていれば税抜の報酬で計算してよい |
| 支払期日 | 契約の支払期日を請求書にも書く。発注者がフリーランス法の対象なら60日以内で定める決まり | 給付を受け取った日から60日以内に定め、請求書が届かなくても期日に払う |
| 振込手数料 | 差し引かれていたら、契約と法律の対象かどうかを確かめる | フリーランス法・取適法の対象取引では、報酬から差し引かない |
振込手数料の扱いには、適用範囲の条件があります。フリーランス法で報酬の減額を禁じているのは、従業員を使う発注者などが1か月以上の業務委託をした場合です(フリーランス法5条・公取委Q&A Q60)。発注する側も従業員のいない個人や一人法人なら、そこは契約の取り決めで決まります。自分が発注する立場になったときも、手数料をどちらが持つかは見積や契約の段階で決めておくほうが安全です。
振込先と支払期日については、ぼくにも失敗があります。tiny合同会社を作ったときは登記後すぐに取引が始まり、しばらく入金先が個人口座になって帳簿が複雑になりました(一人法人の設立の記事)。会社名は、見積書にも請求書にも入って何年も名乗り続ける名前です(一人で合同会社を設立した記事)。請求書を出してから入金は翌月末で、案件によってはそれより後でした。独立2年目には、納品も請求も済んだ入金が3週間止まったことがあります。最初の契約書に支払い遅延の条項を入れていなかったので、今は全ての契約書に入れています(入金が止まったときの記事)。請求書は、契約で決めた期日を相手に思い出してもらう書類でもあります。入金が遅れたときの帳簿の扱いは売掛金とは?の記事にまとめています。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、報酬と消費税を1行の税込金額で書いてしまうことです。源泉徴収の対象が消費税込みの金額になり、手取りが減ります。ほかの注意点も並べます。
- 未登録なのに登録番号の欄を残す:似た英数字や他人の番号を書くことは禁止で、罰則の対象です(問26-2)。型から欄ごと外します
- 交通費を報酬と別に書けば源泉がかからないと思う:報酬と一緒に受け取る旅費は原則として報酬に含まれます。かからないのは、支払う側が交通機関やホテルに直接払った場合です(No.2792)
- 法人なのに源泉徴収を差し引かれている:法人への支払いは原則として対象外です。宛先や請求書の名義が個人になっていないかを確かめます
- 支払期日を書かない:期日が書かれていないと、相手の社内の支払いサイクルに流されます。契約の期日と同じ日付を書きます
- 遅延損害金の取り決めがない:契約で利率を決めていなければ、遅れた分の損害賠償は法定利率によります(民法419条)。法定利率は2026年4月1日〜2029年3月31日も年3%です(法務省)
この記事は、最終更新日時点の国税庁・公正取引委員会・法務省・e-Gov法令検索の公式ページで確認できた制度で書いています。この記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約の判断は弁護士・税理士に確認してください。自分の報酬が源泉徴収の対象になるかなど個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
フリーランスの請求書に関するよくある質問
源泉徴収は請求書に書くべきですか?
書いておくほうが、双方の金額がずれません。報酬と消費税を分け、税抜の報酬に10.21%を掛けた源泉所得税を差し引いた額を振込額として書く形が分かりやすいです。源泉徴収するのは支払う側の義務なので、対象かどうかは取引先とも確かめておきます。
インボイス未登録でも請求書は出せますか?
出せます。適格請求書にはなりませんが、請求書や領収書は従来どおり交付できると国税庁は説明しています。登録番号に似た番号を書くことは禁止です。消費税相当額を上乗せするかどうかは、取引先と価格を決める段階で話しておきます。
交通費は請求書にどう書けばいいですか?
報酬とは別の行に「交通費」と書き、金額の根拠になる明細を添えます。ただし、源泉徴収の対象の報酬と一緒に受け取る交通費は、原則として報酬に含めて源泉徴収されます。支払う側が交通機関に直接払った通常の範囲の費用は含めなくてよいとされています。
振込手数料を差し引かれたら、どうすればいいですか?
まず契約で手数料の負担をどう決めたかを確かめます。発注者がフリーランス法の対象で1か月以上の業務委託なら、合意の有無にかかわらず報酬の減額にあたると公取委は説明しています。相談先として、公取委のページでフリーランス・トラブル110番が案内されています。
おわりに──請求書は、お金の催促ではなく、契約の写し
請求書を「払ってください」とお願いする紙だと思うと、書き方は相手まかせになります。けれど中身を分解すると、取引内容も金額も支払期日も、すでに契約で決めたことの写しです。源泉徴収の行も振込手数料の扱いも、契約と法律がもう決めています。
だから請求書の出来は、書く日ではなく、契約を結ぶ日に決まっていると思います。報酬と消費税を分ける、期日を写す、振込先を事業用にする。この3つを型に固定してしまえば、請求書はもう迷う書類ではありません。