最終更新:2026年10月19日
家事按分(かじあんぶん)とは、家賃・電気代・通信費のように仕事と生活の両方にかかる支出を、業務に使った部分だけ必要経費にするための分け方のことです。根拠は所得税法45条と所得税法施行令96条で、主に自宅で働く個人事業主の考え方です。割合に法律で決まった数字はなく、面積・時間・使用量など、説明できる基準で決めます。法人にはこの考え方がそのまま当てはまらず、会社の契約か役員個人の契約かで分けます。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立しました。確定申告の流れを書いた記事では、自宅兼事務所の家賃は仕事に使っている面積や時間の割合で分け、割合の根拠を自分で説明できることが大事だと書いています。この記事は、その根拠の作り方を、条文・割合の決め方・仕訳・否認されたときの扱いまで整理したものです。2026年10月19日時点の制度で書いています。
家事按分とは?結論から
家事按分は、家事関連費(生活と業務の両方にかかわる支出)のうち、業務に必要だった部分を区分して必要経費にする手続きです。国税庁のタックスアンサー No.2210「必要経費の知識」は、店舗併用住宅の家賃や水道光熱費を家事関連費の例に挙げ、取引の記録などにもとづいて業務上直接必要だったことが明らかに区分できる金額に限って必要経費になるとしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | かじあんぶん |
| 使う人 | 事業所得・不動産所得・雑所得などがある個人(主に個人事業主) |
| 根拠 | 所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条・所得税基本通達45-1、45-2 |
| よく按分する支出 | 家賃、電気・ガス・水道、スマホ・インターネット、持ち家の固定資産税や減価償却費、車の費用 |
| 割合 | 法律で決まった数字はない。業務の内容や資産の利用状況などを総合して判定する |
| 残すもの | 割合の根拠(面積・時間・使用量など)と、帳簿の記録 |
| 法人の場合 | 按分ではなく、会社の契約か役員個人の契約かで分ける。役員個人の費用を会社が負担すると、役員への給与として扱われる |
家事按分の制度・要件(所得税法45条・施行令96条)
家事按分のルールは、原則と例外の2段でできています。所得税法45条1項1号が「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」を必要経費に入れないと定め、所得税法施行令96条がその例外を2つ置いています。按分して必要経費にできるのは、この例外に当たる部分だけです。
| 区分 | 必要経費にできる部分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 白色申告者を含むすべての人 | 主たる部分が業務の遂行上必要で、かつ、その必要な部分を明らかに区分できる場合の、その部分 | 施行令96条1号 |
| 青色申告者 | 上に加えて、取引の記録などにもとづいて業務の遂行上直接必要だったことが明らかにされる部分(不動産所得・事業所得・山林所得が対象) | 施行令96条2号 |
| 「主たる部分」の判定 | 業務に必要な部分が50%を超えるかどうかで判定する。50%以下でも、必要な部分を明らかに区分できれば必要経費にしてよい | 所得税基本通達45-2 |
| 判定の材料 | 業務の内容、経費の内容、家族や使用人の構成、店舗併用の家屋などの利用状況を総合して判定する | 所得税基本通達45-1 |
「業務の割合が50%以下だと経費にできない」と語られることがありますが、所得税基本通達45-2の後半は、50%以下でも必要な部分を明らかに区分できれば必要経費に入れて差し支えないとしています。境目になるのは50%を超えるかどうかより、区分できるかどうかです。
区分の根拠は、帳簿と書類で示します。白色申告者にも記帳と保存の義務があり、No.2080では、取引の年月日・相手方の名称・金額などを帳簿に書き、帳簿は7年、領収書などの書類は5年保存するとしています。青色申告者の帳簿書類は、No.2070で原則7年です。
按分とは別に、そもそも必要経費にならない家賃もあります。No.2210 は、生計を一にする配偶者その他の親族に払う家賃は必要経費にならず、受け取った側も所得として扱わないとしています。親と同居して家賃を渡している場合、その家賃を按分して経費にすることはできません。ただし、生計を一にする父の建物を業務に使っている子が、その建物の固定資産税を負担している場合は、その固定資産税が子の必要経費になります。
消費税の課税事業者なら、仕入税額控除も事業に使う部分だけです。消費税法基本通達11-1-4は、個人事業者が事業と家事の両方に使う資産を取得した場合、使用率や使用面積割合などの合理的な基準で事業分を計算するとしています。
割合の決め方と仕訳(手順と計算例)
割合は、支出ごとに「その費用が何に比例して増えるか」で基準を選ぶと、あとから説明しやすくなります。下の表はよく使われる基準の例で、法令がこの基準を指定しているわけではありません。
| 支出 | 基準の例 | 根拠として残すもの |
|---|---|---|
| 家賃(賃貸) | 床面積(仕事に使う部屋÷住まい全体) | 間取り図、賃貸借契約書 |
| 持ち家の固定資産税・減価償却費 | 床面積 | 図面、課税明細書 |
| 電気代 | 仕事部屋の面積×仕事の時間の割合、または機器ごとの使用量 | 面積と作業時間の記録 |
| スマホ・インターネット | 使用時間や日数の割合、通話明細 | 稼働日の記録、通話明細 |
| ガス・水道 | 業務で使う実態があるときだけ(事務作業が中心なら説明しにくい) | 業務で使っている内容の記録 |
| 車(個人事業主) | 走行距離の割合 | 運行の記録 |
手順は次の5つです。
- 仕事と生活の両方に使っている支出を書き出す:家賃・光熱費・通信費など、1つの契約に両方が混ざっているものを拾います
- 支出ごとに基準を選び、割合を計算する:面積・時間・使用量のうち、その費用の増え方にいちばん近いものを選びます
- 根拠を年ごとに残す:間取り図、作業時間の記録、明細などを、計算メモと一緒に保存します
- 帳簿に業務分だけ必要経費として記帳する:仕訳は下の例のとおりです
- 使い方が変わったら割合を見直す:引っ越し、仕事部屋の変更、働く時間の変化があった年は計算し直します
ここからは架空の数字で計算します。どれも「例」で、実在の住まいや本人の数字ではありません。
例1:家賃。住まい全体が60平方メートル、仕事専用の部屋が12平方メートル、家賃は月12万円とします。割合は12÷60=20%で、業務分は月24,000円、年288,000円です。残りの月96,000円は家事分で、必要経費になりません。
例2:電気代。月12,000円で、仕事部屋の面積割合は例1と同じ20%とします。1日のうち起きている16時間のうち、仕事をしている時間が8時間(2分の1)なら、12,000円×20%×2分の1=1,200円が業務分です。パソコンや照明など仕事の機器の電力が大きい場合は、使用量で計算したほうが実態に近くなることもあります。
仕訳は、払うたびに按分する方法と、期中は全額を経費に入れて年末にまとめて振り替える方法があります。例1の家賃で書くと次のとおりです。
| 場面(例1の家賃) | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 事業用の口座から12万円を払い、払うたびに按分する | 地代家賃 24,000円/事業主貸 96,000円 | 普通預金 120,000円 |
| 個人の口座から払い、業務分だけを帳簿に入れる | 地代家賃 24,000円 | 事業主借 24,000円 |
| 期中は全額(年1,440,000円)を地代家賃に入れ、年末に家事分80%を振り替える | 事業主貸 1,152,000円 | 地代家賃 1,152,000円 |
どの方法でも、1年の地代家賃は288,000円(1,440,000円−1,152,000円)になります。地代家賃・水道光熱費・通信費・事業主貸・事業主借は、個人事業主の帳簿でよく使われる科目名の例です。勘定科目の名前は法令で決まっていないので、どの科目を使うかは自分で選べます。大事なのは、毎年同じ科目と同じ方法で処理する継続性です。会計ソフトの選び方はfreeeとマネーフォワードの比較に書きました。
一人法人・個人事業主の判断ポイント
家事按分は、個人の所得を計算するときのルールです。所得税法45条は居住者(個人)が払う家事関連費についての規定で、法人は同じ支出を「会社の業務のための費用か、役員個人の費用か」で分けて考えます。
| 論点 | 個人事業主 | 一人法人 |
|---|---|---|
| 考え方 | 1つの支出を業務分と家事分に按分する | 契約の名義と目的で、会社の費用か役員個人の費用かを分ける |
| 自宅の家賃 | 仕事に使う面積の割合で按分する | 会社が借りて役員に貸す社宅にし、賃貸料相当額を役員から受け取る |
| 電気・通信 | 面積・時間・明細で按分する | 会社名義の契約は会社の費用。役員個人の契約を会社が負担すると、役員への給与の扱いになり得る |
| 私用分を経費に入れた場合 | 必要経費から外れ、修正申告や更正の対象になる | 役員の個人的費用の負担は、経済的な利益として役員給与になる |
| 主な根拠 | 所得税法45条・施行令96条・所得税基本通達45-1、45-2 | 法人税基本通達9-2-9・No.2600 |
法人の側の根拠は、法人税基本通達9-2-9です。役員のために個人的費用を負担した場合のその費用の額は、役員に給与を払ったのと同じ経済的効果がある「経済的な利益」として挙げられています。経済的な利益が定期同額給与に入るのは毎月おおむね一定のものなので(同9-2-11)、扱いによっては損金にならないことがあります。役員給与の基本は定期同額給与とはに書きました。
自宅を仕事場にしている一人社長が家賃を会社の費用にしたいなら、按分ではなく社宅の形を考えます。国税庁のNo.2600「役員に社宅などを貸したとき」は、役員から賃貸料相当額を受け取っていれば給与として課税しない一方、入居者が直接契約している家賃を会社が負担する形は社宅の貸与と認められず給与として課税されるとしています。計算式と切り替えの手順は自宅を社宅にする方法(一人法人)にまとめました。持ち家の一部を会社に貸す場合は、会社から受け取る家賃が自分の不動産所得になるので(No.1370)、税理士と相談してから決めてください。
ぼくは一人で法人を作るということで、法人にすると経費にできるものの考え方が変わると書きました。旅費の線引きを書いた記事でも、按分は「攻める技術」ではなく「守る技術」だと書いています。個人でも法人でも、生活と仕事の両方に触れる支出は、線を引いた根拠を残してはじめて経費として守れます。
よくある間違いと注意点(バレるとどうなるか)
家事按分でつまずくのは、割合そのものより、根拠が残っていないケースです。税務調査で説明できない部分は必要経費から外れ、増えた税金に加算税と延滞税が加わります。
- 根拠なく「とりあえず5割」にする:割合の理由を説明できないと、区分できているとは言えません
- 生活にも使う部屋を全額にする:リビングの一角で仕事をしているなら、面積と時間の両方で考えます
- 生計を一にする親族に払う家賃を経費にする:No.2210 で必要経費にならないとされています
- 年によって基準を変える:同じ使い方なら同じ基準で続けるほうが、説明が一貫します
- 働き方が変わっても割合を見直さない:引っ越しや仕事部屋の変更があった年は計算し直します
- 法人で、役員個人の契約の家賃や光熱費を会社が払う:役員の個人的費用の負担として、役員給与の扱いになります
否認された場合の扱いは、国税庁のNo.2026「確定申告を間違えたとき」と国税通則法68条で決まっています。修正申告をすると、新たに納める税金に次の加算税がかかります。
| タイミング・状況 | 加算税 |
|---|---|
| 税務署からの調査の事前通知の前に、自主的に修正申告をした | 過少申告加算税はかからない |
| 事前通知の後、調査による更正を予知する前に修正申告をした | 新たに納める税金の5%(当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%) |
| 調査を受けた後に修正申告をした、または更正を受けた | 新たに納める税金の10%(同じく超える部分は15%) |
| 事実の隠蔽・仮装にもとづいて申告していた | 過少申告加算税に代えて重加算税35% |
| 調査で帳簿を提示しない、または売上の記載が本来の2分の1未満(令和5年分以降) | 過少申告加算税に10%を加算(3分の2未満なら5%を加算) |
| すべての場合 | 納付の日までの延滞税 |
架空の例で計算すると、調査を受けた後の修正申告で新たに納める税金が10万円なら、過少申告加算税は10万円×10%=1万円です(隠蔽・仮装がない場合)。これに延滞税が加わります。No.2026 は、誤りに気づいたらできるだけ早く修正申告をするよう案内しています。割合を見直して多すぎたと分かったら、調査を待たずに直すのがいちばん負担の小さい道です。
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。条文や通達、加算税の割合は改正で変わることがあるので、使う前に国税庁とe-Govのページで確かめてください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
家事按分に関するよくある質問
家事按分の割合は、何割までなら認められますか?
法律で決まった上限や目安の割合はありません。所得税基本通達45-1は、業務の内容や資産の利用状況などを総合して判定するとしています。面積・時間・使用量など、その割合になる理由を説明できることが条件で、説明できない部分は必要経費になりません。
家事按分はバレますか?バレたらどうなりますか?
税務調査で根拠を説明できない部分は否認され、修正申告や更正で差額の税金を納めます。調査を受けた後の修正申告なら過少申告加算税が原則10%、隠蔽・仮装があれば重加算税35%がかかり、延滞税も加わります。調査の事前通知の前に自主的に修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません。
家事按分の仕訳はどうすればいいですか?
業務分を地代家賃や水道光熱費などの経費の科目に、家事分を事業主貸に分けるのがよく使われる例です。個人の口座から払った業務分は、事業主借を相手科目にして計上します。払うたびに按分しても、年末にまとめて振り替えてもかまいませんが、科目名は法令で決まっていないので、毎年同じ科目と方法で続けてください。
法人でも家事按分はできますか?
家事按分は所得税法の個人の必要経費のルールで、法人は同じ形では使いません。法人は会社名義の契約かどうかで会社の費用かを分け、自宅を使うなら社宅にして賃貸料相当額を受け取る形を考えます。役員個人の費用を会社が負担すると、役員への給与として扱われます。
おわりに──家事按分の割合は、決める数字ではなく、説明する数字
家事按分は、経費を増やすための技術に見えます。実際の条文は逆で、家事関連費は原則として必要経費にならず、業務分を明らかに区分できたときだけ例外として認められます。按分の割合は「何割にするか」を決める数字ではなく、「なぜその割合なのか」を説明する数字です。
今日やることは、間取り図を出して仕事に使っている部屋の面積を測り、住まい全体に対する割合を計算することです。家賃の割合が決まれば、電気代も通信費も同じ考え方で説明できます。