最終更新:2026年10月19日
法人成りすると、消費税の納税義務は個人と法人で別々に判定され、個人事業主だった期間の課税売上高は、新しい法人の基準期間の課税売上高に含まれません。そのため資本金1,000万円未満で作った法人は、設立1期目と2期目は原則として免税事業者になります。ただし、インボイスの登録をしている場合、2期目の判定に使う特定期間の売上と給与がどちらも1,000万円を超えた場合などは免税になりません。個人で使っていた登録番号も法人には引き継げず、法人として登録し直します。この記事では、国税庁のタックスアンサー・質疑応答事例・インボイスQ&Aで確認できた範囲で、法人と個人事業主の扱いの違い、法人成りのタイミングの考え方、法人成りの年の消費税の申告までを整理します。制度は最終更新日時点の公式ページに沿って書いています。
法人成りと消費税とは?結論から
法人成りと消費税の関係は、「同じ人が続けている事業でも、税務上は別の事業者として数え直す」の一言でまとまります。国税庁の質疑応答事例は、納税義務の判定は事業者単位で行うので、法人成り前の個人と法人成り後の法人は別々に判断すると説明しています(個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定)。要点を表にしました。
| 論点 | 結論 | 出典 |
|---|---|---|
| 個人時代の売上は法人に引き継がれるか | 引き継がれない。個人事業者だった期間の課税売上高は、法人の基準期間の課税売上高に含まれない | No.6531 |
| 設立1期目・2期目 | 基準期間がないので原則免税。期首の資本金が1,000万円以上の新設法人、特定新規設立法人、インボイス登録をした法人などは免税にならない | No.6503 |
| 法人成りした年の個人 | その年の基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えていれば、個人事業者だった期間は免税にならない | 質疑応答事例 |
| インボイスの登録番号 | 個人の番号は法人で使えない。法人は「T+法人番号」で登録し直し、個人は事業廃止届出書を出すと廃止日の翌日に登録が失効する | インボイスQ&A問14 |
資本金1,000万円の線そのものの考え方は資本金はいくらにする?一人で会社を作る人の決め方と1000万円の線に任せ、この記事は法人成りに伴う消費税の扱いに絞ります。
法人と個人事業主の消費税の違い(制度・要件)
法人成りで消費税の扱いが変わるのは、課税期間と基準期間の数え方が、個人は暦年、法人は事業年度で違うからです。法人と個人事業主で扱いが分かれる論点を、国税庁とe-Gov法令検索で確認して表にしました。
| 論点 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 課税期間 | 1月1日〜12月31日 | 事業年度 |
| 確定申告・納税の期限 | 翌年3月31日 | 課税期間の終了の日の翌日から2か月以内(延長特例を受けている法人は1か月延長) |
| 基準期間 | その年の前々年 | その事業年度の前々事業年度。設立1期目・2期目はない |
| 特定期間 | 前年の1月1日〜6月30日 | 原則として前事業年度開始の日以後6か月。前事業年度が7か月以下だと取り方が変わり、設立1期目が7か月以下なら2期目は特定期間による判定がない |
| 開業・設立直後 | 基準期間の課税売上高がないので原則免税 | 基準期間がないので1期目・2期目は原則免税 |
| 規模による例外 | (相続で事業を承継した場合などの特例はある) | 期首の資本金1,000万円以上の新設法人は免税にならない。課税売上高5億円超などの大きな事業者に株式等の50%超を持たれる特定新規設立法人も免税にならない |
| 2割特例 | 免税事業者がインボイス登録で課税事業者になった場合、2023年10月1日〜2026年9月30日の日を含む課税期間まで使える(法人・個人とも) | |
| 3割特例 | 2027年分・2028年分の課税期間で使える(売上税額の3割を納付) | 対象外(個人事業者のための経過措置) |
出典は、課税期間が消費税法第19条、申告期限がNo.6601 申告と納税、基準期間と特定期間がNo.6501 納税義務の免除と質疑応答事例特定期間の判定、新設法人と特定新規設立法人がNo.6503、2割特例がインボイスQ&A問114、3割特例が問114-2です。特定期間の1,000万円は、課税売上高に代えて給与等の支払額で判定することもできます。課税売上高と給与等支払額のどちらかが1,000万円以下なら、特定期間を理由に課税事業者にはなりません(特定期間の課税売上高による免税事業者の判定)。
3割特例は、国税庁のインボイスQ&Aに2026年4月に追加された個人事業者向けの経過措置で、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間などには使えません(問115-2)。法人に3割特例がないことは、法人成りのタイミングを考えるうえで、2026年10月以降の大きな違いです。
法人成りの手順とタイミング(架空の例で)
法人成りの年の消費税は、個人の最後の課税期間と法人の最初の課税期間を、別々に申告するものとして段取りします。順番を番号付きで並べます。
- 法人の設立日と個人の廃業日を決める:国税庁は、法人が設立されるまでの間の資産の譲渡等や課税仕入れは、原則として個人事業者に帰属するとしています(新規開業者向けFAQ 個人17)。どの取引が個人で、どこから法人かを日付で切れるようにしておきます
- 法人のインボイス登録を申請する:新たに設立した法人は、設立した課税期間の末日までに登録申請書を出せば、設立日にさかのぼって登録を受けられます。登録希望日(提出日から15日以後の日)から登録を受ける方法もあります(新規開業者向けFAQ 個人2・法人2、インボイスQ&A問11)
- 請求書の登録番号を切り替える日を決める:法人の登録番号は「T+法人番号」です。個人の番号とは別なので、取引先に切替日を伝えます
- 事業用資産を法人に引き継ぐなら、先に売買を済ませる:国税庁は、事業用資産を設立した法人に買い取ってもらい、法人にインボイスを交付した後に事業廃止届出書を出す流れで問題ないとしています(新規開業者向けFAQ 個人17)
- 個人の事業廃止届出書を出す:提出すると、事業を廃止した日の翌日に個人の登録が失効します(問14)。提出は、事由が生じたら速やかに行うものとされています(No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合)
- 個人の最後の申告をする:課税事業者だった個人は、廃止の日の属する課税期間の申告が必要です(No.6603)。個人の課税期間は暦年なので、期限は翌年3月31日です
- 法人の最初の申告をする:法人が課税事業者なら、事業年度終了の日の翌日から2か月以内に申告します
タイミングの考え方を、架空の例で確かめます。数字と日付はすべて例です。
| 例の前提と判定 | 内容 |
|---|---|
| 前提 | 個人事業主のAさん。2025年の課税売上高1,200万円、2026年の課税売上高900万円。2027年7月1日に資本金300万円・6月決算の法人を設立し、同日で個人事業を廃止 |
| 個人の2027年分 | 基準期間(2025年)が1,200万円で1,000万円を超えるので、1月1日〜廃業日までの個人の取引は課税。申告期限は2028年3月31日 |
| 法人の1期目(2027年7月〜2028年6月) | 基準期間がなく、資本金も1,000万円未満。インボイス登録をしなければ原則免税(Aさんの個人時代の1,200万円は数えない) |
| 法人の2期目(2028年7月〜2029年6月) | 特定期間(2027年7月〜12月)の課税売上高が例えば600万円なら、1,000万円以下なので特定期間では課税にならない |
| 法人がインボイス登録した場合 | 登録日から課税事業者。1期目は2026年9月30日より後に始まるので2割特例は使えず、3割特例も法人は対象外。一般課税か簡易課税で計算する |
| 個人のまま登録していた場合(比較) | 2027年分は基準期間1,200万円で3割特例は使えない。2028年分は基準期間(2026年)が900万円なので、ほかの要件を満たせば3割特例の対象になり得る |
1期目の長さにも注意が要ります。質疑応答事例では、設立1期目が7か月以下なら、その期間は2期目の判定に使う特定期間に当たらないと説明されています(特定期間の判定)。決算月の決め方と1期目の長さの関係は決算月の決め方|合同会社・一人法人が会社設立で見る4つの判断軸に書いています。
一人法人・個人事業主の判断ポイント
法人成りを消費税だけで決めるのは危うい判断です。取引先がBtoBで登録番号を求めるなら、法人でも登録することになり、「設立から2年は免税」の前提がそもそも成り立たないからです。消費税で見るべき点を、選択肢ごとに並べます。
| 選択肢 | 消費税の扱い | 向いている状況(制度上の目安) |
|---|---|---|
| 個人のままインボイス登録 | 2026年9月30日を含む年までは2割特例、2027年分・2028年分は要件を満たせば3割特例 | BtoBで登録番号が必要で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下 |
| 法人成りして法人でインボイス登録 | 登録日から課税事業者。2026年10月以後に始まる事業年度は2割特例・3割特例とも使えない | BtoBで登録番号が必要で、法人化の理由が消費税以外にある |
| 法人成りして法人は登録しない | 資本金1,000万円未満などの条件を満たせば1期目・2期目は原則免税 | 取引先が登録番号を求めない(BtoCが中心など) |
簡易課税を使いたい場合は、法人として届出をします。免税事業者が登録を受けて登録日から課税事業者になる場合は、登録を受けた日の属する課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を使えます(No.6505 簡易課税制度)。
ぼくは資本金50万円でtiny合同会社を一人で作りました(tiny合同会社を設立してわかったこと)。資本金で見れば1,000万円の線よりずっと下です。それでも法人にしてから実感したのは、決算の申告が別物になることでした。法人税・消費税・地方税を別々に申告するので、税理士はほぼ必須だと書いています。設立直後の失敗もあります。登記が終わってすぐ取引が始まったので、入金先がしばらく個人口座になり、帳簿が複雑になりました。法人成りの年は、個人の取引と法人の取引を日付で分けるのがいちばん手間のかかるところだと思います。判断できない税務は税理士に聞くことにしてから、バックオフィスへの不安はかなり減りました(いい税理士とは何か)。
よくある間違いと注意点
いちばん多い誤解は「法人成りすれば消費税は2年間払わなくていい」です。免税になるのは、資本金1,000万円未満で、インボイス登録をせず、特定期間の基準や特定新規設立法人などにも当たらない場合に限られます。
- 個人の登録番号を法人の請求書に書く:法人の番号は「T+法人番号」で、個人とは別です。登録番号の仕組みは法人番号とは?13桁の調べ方とインボイスの登録番号との違いで整理しています
- 事業廃止届出書を出し忘れる:個人の登録は、届出書を出すと廃止日の翌日に失効します。出していなくても、税務署長は事業を廃止したと認められる場合に登録を取り消すことができますが、自分で切替日を決めるほうが確実です
- 法人成りした年の個人の申告を忘れる:課税事業者だった個人は、廃止の日の属する課税期間の申告が必要です
- 法人に移さなかった資産を見落とす:廃業で事業用でなくなった車両などは、家事のために使ったものとして譲渡したとみなされ、非課税取引でなければ時価(一般的には未償却残高)を課税標準額に含めます(No.6603)。棚卸資産が残っている間は、一般的に事業を廃止したとは認められない点にも注意が要ります(新規開業者向けFAQ 個人17)
- 高額な設備を買って縛られる:資本金1,000万円以上の新設法人などが、基準期間のない期間に税抜100万円以上の調整対象固定資産を一般課税で仕入れると、原則3年間は免税事業者に戻れず、簡易課税の届出もできません(No.6503)
- 2割特例が法人成り後も続くと思う:2割特例は2026年9月30日の日を含む課税期間までで、3割特例は個人事業者だけです
この記事は、最終更新日時点の国税庁のタックスアンサー、質疑応答事例、インボイスQ&A、e-Gov法令検索で確認できた制度で書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
法人成りと消費税に関するよくある質問
法人成りすると消費税は2年間免除されますか?
資本金1,000万円未満の法人は、設立1期目と2期目に基準期間がないので原則として免税です。ただし、インボイス登録をした場合、2期目の特定期間の課税売上高と給与等支払額がどちらも1,000万円を超えた場合、特定新規設立法人に当たる場合は免税になりません。個人時代の売上は法人の判定に含まれません。
法人成りのタイミングは消費税で見るとどう決まりますか?
見るのは、個人の基準期間(前々年)の課税売上高、法人の1期目の長さと特定期間、取引先がインボイスを求めるか、の3つです。法人で登録するなら、2026年10月以後に始まる事業年度は2割特例も3割特例も使えません。個人のままなら、2027年分と2028年分は要件を満たせば3割特例が使えます。
個人のインボイス登録番号は法人で使えますか?
使えません。法人の登録番号は「T+法人番号」で、法人として登録申請をし直します。設立した課税期間の末日までに申請すれば、設立日にさかのぼって登録を受けられます。個人は事業廃止届出書を出すと、廃止日の翌日に登録が失効します。
法人成りした年は、個人の消費税の申告も必要ですか?
個人が課税事業者だった場合は必要です。廃止の日の属する課税期間(その年の1月1日〜12月31日)について申告し、期限は翌年3月31日です。法人に移さず事業用でなくなった車両などは、時価で譲渡したものとみなされて課税対象になる場合があります。
おわりに──法人成りは、消費税のリセットではなく数え直し
法人成りすると、個人で積み上げた売上は法人の基準期間に入りません。この仕組みだけを見ると、消費税がリセットされるように見えます。でも実際に起きているのは、同じ事業を別の事業者として最初から数え直すことです。
数え直しには、個人の最後の申告、法人の登録のし直し、番号の切替日という3つの区切りが付いてきます。2026年10月からは、法人に移った時点で2割特例も3割特例もなくなります。法人成りのタイミングは、免税の2年を数えるより先に、取引先が登録番号を求めるかどうかで決まると思います。