最終更新:2026年10月18日
CRMマーケターとは、すでに買ってくれた顧客との関係を育てて、2回目の購入や継続利用を増やし、既存顧客からの売上を伸ばす職種です。広告やSEOで新しい顧客を集める担当が「入口」を受け持つとすれば、CRMマーケターは「入ったあと」を受け持ちます。扱う数字はF2転換率・リテンション率・LTV、使う道具はMAやCRMのツールです。結論から言うと、この職種の腕は配信の本数ではなく、誰に何を送らないかの判断に出ます。この記事では、仕事内容と指標、経歴とスキル、似た職種との違い、出典のある年収、求人の見方までを順に書きます。
CRMマーケターとは?仕事内容と役割の一覧
CRMマーケターは、顧客ごとの購買や利用の記録をもとに、次の一回につながる連絡を、相手と時期を選んで届ける仕事です。メール、LINE、アプリの通知、DMなどの手段を組み合わせますが、仕事の中心は手段ではなく「誰に、いつ」の設計にあります。
CRM(顧客関係管理)という考え方そのものと、SFAやMAとの違いはCRMのマーケティングでの意味とSFA・MAとの違いで書いたので、ここではそれを仕事として回す人の側に絞ります。
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 1日の仕事 | 前日の配信結果の確認/配信する顧客の抽出(セグメントづくり)/メールやLINEの文面と配信シナリオの作成/ABテストの設計と結果の読み取り/休眠した顧客を呼び戻す施策の企画/定例での数字の報告 |
| 扱う指標 | F2転換率(2回目を買った人の割合)、リテンション率(継続率)、LTV(顧客生涯価値)、解約率、購入頻度と客単価、配信のクリック率と配信停止率 |
| 使う道具 | CRM、MA(マーケティングオートメーション)、メール配信の仕組み、LINE公式アカウント、アプリのプッシュ通知、BIツールやSQL、アンケート |
| 関わる部署 | EC・サービスの運営、商品企画、カスタマーサポート、新規獲得の広告担当、データ分析やエンジニア、法務(配信の同意と個人情報) |
CRMマーケターの仕事は、顧客がどの段階にいるかで打ち手が変わります。典型的な分け方を並べました。
| 顧客の段階 | よくある打ち手 | 見る数字 |
|---|---|---|
| 初回購入の直後 | 使い方や楽しみ方を伝え、2回目までの間を埋める | F2転換率、2回目までの日数 |
| 定着 | 買い替えや補充の時期に合わせて知らせる | リテンション率、購入頻度 |
| 優良顧客 | 先行案内や会員の特典で、特別扱いを感じてもらう | 客単価、LTV |
| 離れかけ・休眠 | 離れた理由を聞く、戻るきっかけを渡す | 休眠からの復帰率、解約率 |
2回目の購入の数え方はF2転換率の計算方法と目安の考え方で、続けて使う人の割合はリテンション率の計算方法とN日後継続率の見方で、一人の顧客がもたらす売上の総額はLTVの意味と計算式で、顧客をどう分けるかはRFM分析のやり方とセグメント別の打ち手で詳しく書きました。
指標の読み方で一つ気をつけたいのが、メールの開封率です。アップル(Apple)はiPhoneのメールアプリに「メールプライバシー保護」という機能を設けていて、オンにすると、送ったメールが開かれたかどうかを送信者が確認できなくなると説明しています(Appleサポート「iPhoneでメールプライバシー保護を使用する」)。開封率だけで良し悪しを決めず、クリックや購入まで見て判断するのが今の前提です。
独立してから月額のサービスを自分で運営していると、新しい申し込みの数より先に、すでに使っている人が翌月も残っているかの数字のほうが気になるようになりました。新規の数字は広告を止めればすぐ落ちて分かりやすいのに、既存の数字はゆっくり減るので、気づくのが遅れる。CRMマーケターを専任で置く会社があるのは、このゆっくりした減り方を見張る人が必要だからだと思います。
CRMマーケターになる人の経歴とスキル
CRMマーケターには、メールやLINEの運用担当、ECの運営、広告運用、データ分析、カスタマーサポートなど、顧客の数字か顧客そのものに近い仕事から移ってくる人が多くいます。入口によって、強い部分と後から身につける部分が変わります。
| 入口 | そのまま生きる経験 | あとから埋めやすい部分 |
|---|---|---|
| 新卒 | ECやアプリの事業会社のマーケティングに配属され、メルマガやLINEの運用から始める | 売上全体の中で既存顧客がどれだけを占めるかを見る視点 |
| 営業から | 既存の取引先と関係を続ける感覚、相手の時期を読む力 | 一人ずつではなく、数千人単位でまとめて動かす設計 |
| 制作・ディレクターから | メールやLPの文面とデザイン、配信までの段取り | データの抽出と効果の検証 |
| 広告代理店から | 運用型広告の数字の読み方、テストを回す習慣 | 獲得した後の顧客と、月単位・年単位で付き合う時間軸 |
| カスタマーサポートから | 顧客がどこでつまずき、何で離れるかの生の声 | 配信ツールの操作と数字の検証 |
| 未経験(異業種)から | 前の業界での接客や販売の経験 | まずEC運営やメール配信の補助で、ツールと数字に触れる |
必要なスキルを、なくては始まらないものと、あると強いものに分けました。
| 区分 | スキル | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 必須 | 顧客データを条件で切り分けて比べる力(表計算ソフトで足りる段階から) | 「誰に送るか」が決まらないと何も始まらない |
| 必須 | 仮説を立てて、一度に一か所だけ変えて試す力 | 配信の改善は、ほとんどがテストの積み重ね |
| 必須 | 件名と本文を短く書く力 | 読まれなければ、どんな設計も届かない |
| 必須 | 配信の同意と個人情報のルールの基本 | 一度の配信ミスが、顧客の信頼を一気に削る |
| あると強い | SQLとBIツール | 分析担当を待たずに、自分で数字を出せる |
| あると強い | 統計の基礎(有意差の考え方) | 偶然の差を成果と読み違えない |
| あると強い | 商品と売り場の知識 | 補充の時期や組み合わせの提案に説得力が出る |
配信のルールは、法律の話でもあります。総務省は、広告や宣伝のメールについて、特定電子メール法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)で、取引関係にある相手などの例外を除き、あらかじめ同意した相手にしか送れない「オプトイン方式」をとっていること、同意の記録を残す義務があること、送信者の名前と受信拒否の連絡先を表示する義務があることを説明しています(総務省「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」)。CRMマーケターは、このルールを現場でいちばん具体的に守る立場にいます。
CRMマーケターと似た職種との違い
CRMマーケターは、すでに関係のある顧客を、まとめて、仕組みで動かす職種です。新しい顧客を集める広告運用とも、一社ずつ付き添うカスタマーサクセスとも、数字を出すことが本業のデータアナリストとも、動かす相手と動かし方が違います。
| 観点 | 広告運用(新規獲得) | CRMマーケター | カスタマーサクセス | データアナリスト |
|---|---|---|---|---|
| 相手 | まだ買っていない人 | 一度買った人、使っている人 | 契約した顧客(主にBtoB) | 社内の意思決定者 |
| 動かし方 | 広告の配信と入札 | メール、LINE、通知などでまとめて、時期を選んで | 担当者が一社ずつ付き添う | 分析とレポート |
| 主な数字 | 獲得単価、広告費用対効果 | F2転換率、リテンション率、LTV | 解約率、更新率、既存顧客からの売上 | 分析の正確さと、意思決定への貢献 |
| 失敗しやすい形 | 買う気のない人まで安く集める | 送りすぎて配信停止が増える | 問い合わせ対応だけで一日が終わる | 数字は出るが、誰も動かない |
BtoBのSaaSでは、CRMマーケターと似た仕事を、カスタマーサクセスや、見込み客を育てるナーチャリングの担当が受け持つこともあります。一社ずつ付き添う仕事の中身はカスタマーサクセスの仕事内容とサポート・営業との違いで、見込み客を育てる考え方はリードナーチャリングの手法一覧で書いています。道具の側から見たいなら、MA(マーケティングオートメーション)の機能一覧と導入の失敗が近い話です。
CRMマーケターの年収と市場価値
CRMマーケターという職種だけを集計した公的な年収統計は見当たりません。近い職種の公開データで、おおよその位置をつかむことになります。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)には「CRMマーケター」の項目がなく、近いのは「Webマーケティング(ネット広告・販売促進)」です。仕事の説明には、アクセス解析の結果を踏まえてメールマガジンやSNS、リターゲティング広告などを使い、リピーターの獲得やサイトの改善を行うことが書かれています。その統計データでは、賃金(年収)が全国で736.8万円です(令和7年賃金構造基本統計調査を加工して作成)。ただし、この数字は職業分類の「企画・調査事務員」などに対応する統計で、その職業だけの数字ではないとページに注記があります(job tag「Webマーケティング(ネット広告・販売促進)」)。
求人サービスの公開統計では、dodaの職種別平均年収で「マーケティング」が550万円、「Webマーケティング」が471万円です。2024年9月〜2025年8月末にdodaに登録した20〜65歳の正社員、約60万件の有効回答をもとにした支給額の数字です(doda「平均年収ランキング(職種・職業別)」)。dodaの区分にもCRMの職種はありません。
| 出典 | 区分 | 数字 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| job tag(厚生労働省) | Webマーケティング(ネット広告・販売促進) | 年収736.8万円 | 「企画・調査事務員」などに対応する統計で、その職業だけの数字ではない |
| doda | マーケティング | 平均年収550万円 | dodaの登録者の申告値。母集団が公的統計と違う |
| doda | Webマーケティング | 平均年収471万円 | 同上 |
統計ごとに数字がずれる理由はマーケティング職の年収データを公的統計で整理した記事にまとめました。
市場価値の面では、自社で集めた顧客データを扱える人の値打ちは上がっていく側にあると見ています。外部のデータに頼った広告の狙い撃ちが難しくなるほど、自社の顧客の記録をどう使うかが売上を左右するからです。自社データの種類と集め方はファーストパーティデータとゼロ・サードパーティの違いで書いています。
向いている人・向いていない人、キャリアの次の一手
CRMマーケターに向いているのは、数字の小さな変化から顧客の気持ちを想像するのが好きな人です。反対に、一発で大きな反応を取りにいく仕事に手応えを感じる人には、地味に見えるかもしれません。
| 向いている人 | きつく感じやすい人 |
|---|---|
| 小さな改善を何十回も積み重ねるのが苦にならない | 大きな企画で一気に話題をつくりたい |
| 数字を見て、顧客がなぜそう動いたかを考えるのが好き | データの抽出や確認の作業が続くと集中が切れる |
| 送らない判断ができる | 配信の本数で頑張りを示したくなる |
| 配信の前の確認を細かくできる | 確認より速さを優先しがち |
「CRMマーケター フルリモート」と検索されるのは、この仕事の多くがデータとツールの上で完結するからだと思います。ただ、在宅で働けるかは会社の決まりしだいです。求人を見るときは、勤務形態のほかに、配信の承認を誰が出すか、配信ミスが起きたときの連絡体制、データの抽出を自分でできる権限があるかを面接で聞いておくと、入ってからのずれが小さくなります。権限がないと、在宅でも待ち時間ばかりの仕事になります。
CRMマーケターの先には、売上全体を見るグロースの担当、事業の責任者、データ分析の専門職、MAやCRMの導入を外から支える独立、といった道があります。マーケターの道筋の全体像はマーケターのキャリアパスの整理に、転職エージェントの組み合わせ方はマーケター向け転職エージェントの使い分けにまとめています。
CRMマーケターに関するよくある質問
CRMマーケターとは簡単に言うと何ですか?
一度買ってくれた顧客に、次の一回につながる連絡を、相手と時期を選んで届ける仕事です。メールやLINE、アプリの通知などを使い、2回目の購入や継続利用を増やします。新しい顧客を集める仕事に対して、集めた後の顧客を受け持つ職種です。
CRMマーケターは未経験からなれますか?
なれますが、いきなり戦略を任される形より、メール配信やEC運営の補助から入る形が現実的です。表計算ソフトで顧客データを切り分けて比べられること、件名を何通りか書き分けて試した経験があることは、未経験でも伝えやすい材料になります。接客や販売の経験も、顧客の時期を読む力として話せます。
CRMマーケターはフルリモートで働けますか?
仕事の多くがデータとツールの上で完結するので、在宅と相性のよい職種です。ただ、勤務形態は会社の決まりで決まります。求人を見るときは、勤務形態と合わせて、配信の承認の流れと、データを自分で抽出できる権限があるかを確かめておくと安心です。
CRMマーケターの求人を見るときに何を確認すればいいですか?
評価に使う数字が配信のクリック率なのか、F2転換率やLTVなのかを確かめると、その会社がCRMに何を期待しているかが分かります。使っているツールの名前と、データ担当やエンジニアとの分担も聞いておきたい点です。配信の本数だけを追う職場か、顧客の残り方を追う職場かで、身につくものが変わります。
おわりに──CRMマーケターとは、囲い込む仕事ではなく、戻ってくる理由をつくる仕事
CRMという言葉には、どこか「顧客を逃がさない」響きがあります。ポイントで縛る、解約の手続きを分かりにくくする、毎日のように配信する。どれも短い期間なら数字は残ります。
でも、顧客は縛られていることに気づいた日に離れます。続けて買ってくれる人は、出口がふさがれているからではなく、ここに戻ると少しいいことがあると知っているから戻ってきます。
CRMマーケターとは、囲い込む仕事ではなく、戻ってくる理由をつくる仕事。
次の配信をつくる前に、その一通が届いた顧客が「また来てよかった」と思える理由を一行で書けるか、確かめてみてほしいと思います。書けない一通は、送らないほうが顧客との関係は長く続きます。