最終更新:2026年10月17日
リテンション率とは、ある時点で使い始めた顧客やユーザーのうち、一定期間がたったあとも使い続けている人の割合のことで、継続率とも呼ばれます。基本の計算方法は「(期末の顧客数−期間中の新規顧客数)÷ 期首の顧客数 × 100」、アプリなら「N日後に戻ってきたユーザー数 ÷ その日に使い始めたユーザー数 × 100」です。結論から言えば、リテンション率は集客の成績ではなく、商品が「また使う理由」を渡せたかどうかの成績です。似た言葉のNRR(ネットレベニューリテンション)が「売上がいくら残り、増えたか」を数えるのに対し、リテンション率は「人が何人残ったか」を数えます。計算方法と例、日次で見るN日後リテンションの数え方、出典を確かめられた目安、実務での使い方まで順に書いていきます。
リテンション率とは?計算方法と種類の一覧
リテンション率とは、始めにいた人を100としたとき、期間のあとに何人が残っているかを表す割合です。月額のサービスでは「契約が続いている人」、アプリでは「もう一度開いた人」を残った人として数えるのが一般的です。
同じリテンション率でも、何を「残った」と数えるかで計算方法が分かれます。代表的な種類を一覧にしました。表の数字はすべて説明のための架空の例です。
| 種類 | 計算式 | 計算の例(数字は架空) | 向いている商品 |
|---|---|---|---|
| 顧客リテンション率(期間の継続率) | (期末の顧客数−期間中の新規顧客数)÷ 期首の顧客数 × 100 | 期首500人、期中の新規80人、期末540人 →(540−80)÷ 500 = 92% | 月額・年額の契約があるサービス |
| N日後リテンション(日次・クラシック) | N日目ちょうどに戻ってきた人数 ÷ その日に使い始めた人数 × 100 | 10月1日に1,000人が使い始め、7日目に150人が開いた → 15% | アプリ・Webサービス・ゲーム |
| ローリングリテンション | N日目以降に一度でも戻ってきた人数 ÷ その日に使い始めた人数 × 100 | 同じ1,000人のうち、7日目以降に一度でも開いた人が230人 → 23% | 毎日は使わない商品(家計簿・旅行・不動産など) |
| 期間リテンション(ブラケット) | 決めた期間(例:8〜14日目)に一度でも戻ってきた人数 ÷ 使い始めた人数 × 100 | 8〜14日目に一度でも開いた人が190人 → 19% | 週に1回程度使う商品 |
いちばん上の式で新規顧客を引くのは、期間中に入ってきた人を「残った人」に混ぜないためです。期首500人で期末540人なら、人数だけ見ると増えています。でも、そのうち80人は新しく来た人なので、期首の500人のうち残ったのは460人です。リテンション率は、新しく来た人の勢いで見えなくなる「去った人」を見えるようにする数字です。
アプリのN日後リテンションは、使い始めた日ごとに人を束ねて、日数を追って並べると読みやすくなります。架空の例で並べると、次のようになります。
| 例(架空):10月1日に使い始めた1,000人 | 戻ってきた人数 | N日後リテンション |
|---|---|---|
| 1日後(翌日) | 300人 | 30% |
| 7日後 | 150人 | 15% |
| 14日後 | 110人 | 11% |
| 30日後 | 80人 | 8% |
多くの商品で、リテンション率は使い始めの数日で大きく下がり、そのあとはなだらかになります。下がり方が平らになる高さが、その商品を「生活の一部にした人」の割合だと考えると、数字の読み方がぶれません。使い始めた時期ごとに束ねて並べる表の読み方は、コホート分析とは?意味とコホート表の見方、GA4・エクセルでのやり方に詳しく書いています。
リテンション率の出どころと目安──公開データで確かめられる数字
リテンション(retention)は「保持・維持」を意味する英語で、リテンション率を特定の誰かが提唱したという一次出典は見当たりません。会員制の事業や通信、ソフトウェアの月額課金、スマートフォンアプリの計測と、顧客が使い続けることで成り立つ事業のなかで、それぞれの数え方が育ってきた言葉です。
目安についても、業種をまたいで使える一つの相場はありません。ここでは、調査会社や投資会社の公開ページで数字と条件を確かめられたものだけを並べます。
| 対象 | 指標 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 日本のゲームアプリ(2025年) | インストール1日後の継続率 | 25%(APACの対象国で最も高い水準) | Adjust「ゲームアプリインサイトレポート 2026」 |
| 日本のEコマースアプリ(2025年版レポート) | インストール1日後の継続率 | 16.4%(世界平均13%) | Adjust「ショッピングアプリインサイトレポート:2025年版」 |
| 世界のマーケットプレイスアプリ(2025年版レポート) | インストール1日後の継続率 | 25%(Eコマースアプリの中で最も高い) | 同上 |
| BtoB SaaS(資金調達の目安) | 顧客数で見た継続率(ロゴリテンション) | 85%超で良い、90%超でより良い、95%以上で最良 | ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ「State of the Cloud 2023」 |
アプリの数字は、計測ツールを提供するAdjustが自社で計測したアプリのデータを集計したものです。ゲームアプリの数字は2026年5月15日のプレスリリース(対象期間は2024年1月〜2026年1月)、Eコマースアプリの数字は、対象期間の明記はありませんが2025年8月29日のプレスリリースで確認できます。BtoB SaaSの目安は、ベンチャー投資会社ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ(Bessemer Venture Partners)のState of the Cloud 2023にあり、事業の段階や顧客層によって上下しうると添えられています。
反対に、出典が見当たらなかった目安もあります。30日後リテンションの業種別の水準は、2025年以降のデータで条件まで確かめられる公開ページを、ぼくは見つけられませんでした。サブスクリプションやECの月次の継続率についても、業種と価格帯をそろえた日本の相場は見当たりません。「30日後に何%残れば合格」という数字はよく語られますが、どのデータのどの数え方なのかが分からない数字は、自社の判断の基準にはしないほうが安全です。
表の数字からも分かるとおり、同じ1日後の継続率でも、ゲームとEコマースでは10ポイント近く違います。比べる相手は他社の平均ではなく、同じ数え方で計算した自社の過去の数字です。
リテンション率とチャーンレート・F2転換率・NRRの違い
リテンション率は、残った人の側から数えた指標です。同じ「続いているか」を見る指標でも、数える向き・単位・対象が違うと、名前と意味が変わります。
| 指標 | 数えるもの | リテンション率との関係 |
|---|---|---|
| チャーンレート(解約率) | 期間中に離れた人の割合 | 裏返しの関係。リテンション率92%なら解約率は8% |
| F2転換率 | 初回購入者のうち2回目を買った人の割合 | 「1回目から2回目」だけを切り出した、買い切りの商品のリテンション |
| NRR(売上継続率) | 既存顧客の売上が残り、増えた割合 | 人数ではなく金額で見る。人が減っても売上が増えることがある |
| DAU・MAU | 日ごと・月ごとに使った人の数 | 新規と既存が混ざった人数。リテンション率は始めた時期をそろえて見る |
| LTV(顧客生涯価値) | 顧客一人が関係の続くあいだにもたらす売上や粗利 | リテンション率が高いほど継続期間が延び、LTVが大きくなる |
いちばん近いのはチャーンレートです。リテンション率とチャーンレートは同じ現象を表と裏から見た数字で、どちらか一方が分かればもう一方も決まります。解約率の計算方法や年間への換算はチャーンレートとは?解約率の計算方法と目安、顧客・収益チャーンの違いに任せて、この記事では「残った人」をどう数えるかに絞ります。
買い切りの商品で、定期的な契約がない場合は、リテンション率のかわりに「2回目を買ったか」を見るのが実務的です。その数え方と、出典のある平均が見当たらない理由はF2転換率とは?計算方法と平均・目安の考え方、上げる打ち手を解説で書きました。
DAUやMAUとの違いも押さえておきたい点です。広告で新しい人をたくさん連れてくれば、DAUは増えます。でも、その裏で前の月に来た人がほとんど戻っていなければ、穴の開いたバケツに水を注いでいるだけです。リテンション率は、始めた時期をそろえることで、その穴の大きさを見せてくれます。
実務でどう使うか──「戻ってきた」の定義から決める
リテンション率を実務で使うときに最初に決めるべきなのは、計算式より先に「何をしたら残ったと数えるか」です。アプリを開いただけか、検索を1回したか、記録を1件つけたか。この定義で、同じ商品でも数字は大きく変わります。
- 商品の価値が届いた瞬間を一つ決める。家計簿アプリなら「記録をつけた」、業務ツールなら「チームで1件のタスクを動かした」など、開いただけでは数えない定義にします
- 使われる頻度に合わせて、数え方を選ぶ。毎日使う商品はN日後、週に1回の商品は期間リテンション、たまに使う商品はローリングで見ます
- 使い始めた時期ごとに束ねて追う。全体の平均にすると、新しく入った人の数で数字が上下して、良くなったのか悪くなったのかが分かりません
- 下がり方が平らになる時点を探す。平らになる高さを上げる打ち手と、そこまでに落ちる人を減らす打ち手は別物です
- 打ち手を一つ変えたら、変えたあとに始めた人の数字だけを比べる。前後の人を混ぜると、効いたかどうかが分からなくなります
自分で月額のサービスを運営する側に立つと、いちばん気になるのは使い始めの数日です。申し込みのときに思い描いていた使い方と、実際に触ってみた最初の体験がずれると、人は理由を言わずに静かに来なくなります。だから、最初の一週間のどこで手が止まっているかを見ることが、あとから解約の理由を聞くよりも早く効きます。使い始めの時期を設計する仕事は、カスタマーサクセスのオンボーディングにあたります。
リテンション率は、ファネルのどこを直すかを決める道具としても使えます。獲得・活性化・継続・紹介・収益の5段階で指標を置く考え方はAARRRモデルとは?5段階ごとの指標と施策の一覧表で整理していますが、継続の段が弱いまま獲得を増やしても、残る人数はほとんど増えません。
日本市場・2026年時点でのリテンション率の注意点
2026年の日本でリテンション率を読むときにまず気をつけたいのは、海外の平均と比べると見誤りやすいことです。Adjustの公開データでは、日本のEコマースアプリの1日後の継続率は世界平均を上回り、ゲームアプリでもAPACで最も高い水準でした。日本のユーザーを相手にする商品が、海外の平均を見て「うちは高い」と安心すると、伸びしろを見落とします。
次に、通知やポイントで戻らせた数字と、価値を感じて戻ってきた数字を分けることです。プッシュ通知を増やせば、翌日に開く人は増えます。でも、通知が多すぎると通知を切られたり、アプリそのものを消されたりして、30日後の数字はかえって下がることがあります。前の章で「開いただけでは数えない定義」をすすめたのは、この見かけの数字に振り回されないためです。
月額のサービスでは、解約の手続きをわかりにくくしてリテンション率を上げる方法は避けるべきです。2022年6月1日に施行された改正特定商取引法では、通信販売の申し込みの最終確認画面に、契約の期間や解約の条件などをわかりやすく表示することが義務づけられました(消費者庁の案内ページ)。出口をふさいで残した人は、残っているのではなく、出られないだけです。
最後に、計測の仕組みが変わると数字の連続性が切れることです。プライバシー保護の流れのなかで、アプリやWebの計測は端末やブラウザの設定に左右されやすくなっています。計測ツールや同意の取り方を変えた月は、リテンション率の推移に線を引いておき、その前後をそのまま比べないようにしておくと読み違えません。
リテンション率に関するよくある質問
リテンション率の計算方法を教えてください。
月額のサービスなら「(期末の顧客数−期間中の新規顧客数)÷ 期首の顧客数 × 100」で計算します。アプリのN日後リテンションなら「N日目に戻ってきたユーザー数 ÷ その日に使い始めたユーザー数 × 100」です。どちらも、期間中に新しく来た人を残った人に混ぜないことが要点です。
リテンション率の目安はどのくらいですか?
業種をまたいで使える一つの相場はありません。Adjustの公開データでは、2025年の日本のゲームアプリの1日後の継続率は25%、2025年版のレポートで日本のEコマースアプリは16.4%でした。30日後の業種別の水準は、条件まで確かめられる公開データが見当たらないので、自社の過去の数字と同じ数え方で比べるのが確実です。
リテンション率とチャーンレートの違いは何ですか?
リテンション率は残った人の割合、チャーンレートは離れた人の割合で、同じ現象を表と裏から見た数字です。同じ期間・同じ数え方なら、二つを足すと100%になります。売上の金額で残り具合を見たい場合は、NRR(売上継続率)を使います。
日次のリテンション率とローリングリテンションはどう違いますか?
日次(クラシック)のリテンションは、N日目ちょうどに戻ってきた人だけを数えます。ローリングリテンションは、N日目以降に一度でも戻ってきた人を数えるので、必ず日次より高い数字になります。毎日は使わない商品では、ローリングや期間で数えるほうが実態に近づきます。
おわりに──リテンション率は、集めた人数ではなく、戻る理由を渡せた人数
集客の数字は、毎日目に入ります。今日は何人が登録したか、広告からいくつ申し込みがあったか。増えていれば安心できる数字です。
でも、その人たちが翌週も来ているかどうかは、こちらから見に行かないと分かりません。来なくなった人は、理由を告げずに静かにいなくなるからです。登録の画面で約束したことが、最初の数日で届いたかどうか。リテンション率が答えているのは、その一点です。
リテンション率は、集めた人数ではなく、戻る理由を渡せた人数。
新しい人を連れてくる方法を考える前に、一度、先月始めた人がいま何人残っているかを数えてみてほしいと思います。そこで見える穴を一つ塞ぐほうが、広告を一つ増やすより確かに事業を太くしてくれます。