最終更新:2026年10月12日
チャーンレートとは、一定期間のあいだに離れていった顧客や売上の割合のことで、日本語では解約率と呼ばれます。基本の計算方法は「期間中に解約した顧客数 ÷ 期間のはじめの顧客数 × 100」。結論から言えば、チャーンレートは事業の成績表である前に、獲得に予算を足す前に見るべき「穴の大きさ」を示す数字です。穴が開いたまま新規の獲得を増やしても、手元に残る顧客はほとんど増えません。この記事では、顧客チャーンと収益チャーンの違い、計算式と年間への換算、目安の出どころ、実務での使い方と2026年の日本での注意点まで書いていきます。
チャーンレートとは?解約率の計算方法と種類の一覧
チャーンレートには、離れた「顧客の人数」で測る顧客チャーンと、失った「売上の金額」で測る収益チャーンの二つがあります。同じ月の同じ解約でも、どちらで測るかで見える景色がまるで違います。
代表的な3つの測り方を、計算式と例で並べました。表の数字はすべて説明のための架空の例です。
| 種類 | 計算式 | 計算の例(数字は架空) | わかること |
|---|---|---|---|
| 顧客チャーンレート | 期間中に解約した顧客数 ÷ 期首の顧客数 × 100 | 期首200人のうち6人が解約 → 3% | 何人に選ばれなくなったか |
| グロス収益チャーンレート | (解約で失った月額売上+ダウングレードで減った売上)÷ 期首の月額売上 × 100 | 期首の月額売上100万円、解約で2万円・プラン変更で1万円減 → 3% | 既存の売上がどれだけ削られたか |
| ネット収益チャーンレート | (失った売上 − 既存顧客のアップグレードなどで増えた売上)÷ 期首の月額売上 × 100 | 上の例でアップグレードが4万円あれば(3万円 − 4万円)÷ 100万円 → −1% | 既存顧客だけで売上が減っているか増えているか |
ネット収益チャーンがマイナスになる状態は「ネガティブチャーン」と呼ばれます。解約はあっても、残った顧客の利用拡大や上位プランへの移行がそれを上回り、新規を一人も獲得しなくても売上が増えていく状態です。既存顧客の売上を伸ばす打ち手の整理は、クロスセルとアップセルの違いと使い方に書きました。
分母は「期首の顧客数」に固定するのが基本です。月の途中で入って同じ月に辞めた人を分母にも分子にも入れると、新規が多い月ほど解約率が低く見えてしまいます。期首にいた人が期末までに何人離れたかを数える、という形にそろえておくと、月ごとの比較がぶれません。
チャーンレートの出典と目安──「月2%」はSaaS投資家の経験則
チャーン(churn)という言葉を、特定の誰かが提唱したという一次出典は見当たりません。英語のchurnはかき回す、攪拌するという意味の言葉で、通信や会員制サービスのように顧客が入れ替わり続ける事業で、解約や乗り換えを指して使われるようになりました。いつ誰が最初に使ったかは、はっきりしません。
目安として日本でもよく引かれるのが、ベンチャー投資会社マトリックス・パートナーズのデイヴィッド・スコック(David Skok)がブログに書いたSaaS Metrics 2.0です。スコックは、ネット収益チャーンが月2%を超えると問題のサインだとしていて、月2%は年に直すとおよそ22%にあたると書いています。ネガティブチャーンを実現できれば成長の形が大きく変わることも、同じ記事で数字のモデルを使って説明しています。
同じ記事には、顧客チャーンと収益チャーンがずれる例も載っています。顧客の数では10%が解約していても、抜けたのが小口の顧客ばかりなら、収益チャーンは3.4%ほどにとどまる、という例です。スコックはどちらの数字も全体像をつかむのに必要だとしています。
ただ、月2%という目安は、月額課金のソフトウェア企業を見るための投資家の経験則です。動画や食品の定期便のように生活者向けのサブスクリプションと、企業向けの年間契約では、解約の起き方がまるで違います。業種や価格帯をそろえた、出典のはっきりした日本の解約率の相場は、ぼくが調べた範囲では見当たりませんでした。比べる相手は他社の平均ではなく、同じ数え方で計算した自社の過去の数字です。
チャーンレートと継続率・LTVとの違いと関係
チャーンレートは、継続率やLTVと同じ現象を別の角度から見た数字です。どれか一つを動かせば、ほかも一緒に動きます。
| 指標 | 意味 | チャーンレートとの関係 |
|---|---|---|
| 継続率(リテンションレート) | 期首の顧客のうち、期末まで残った割合 | 顧客チャーンレートの裏返し。継続率97%なら解約率3% |
| 売上継続率(NRR) | 期首の顧客からの売上が、期末にどれだけ残り、増えたか | ネット収益チャーンの裏返し。ネット収益チャーン−1%ならNRRは101% |
| 平均継続期間 | 顧客が平均して何か月続くか | 月間解約率の逆数。解約率3%なら約33か月 |
| LTV(顧客生涯価値) | 顧客一人が関係の続く間にもたらす粗利 | サブスクでは「月額 × 粗利率 ÷ 月間解約率」で計算され、解約率が分母になる |
| 離脱率 | Webサイトやファネルの途中で離れた割合 | 言葉は似ているが、契約の解約ではなく閲覧や手続きの途中離脱を指す |
この表でいちばん効いてくるのは、LTVの分母に解約率が入っていることです。月間解約率が4%から2%に下がると、平均継続期間は25か月から50か月に延び、LTVは単純計算で2倍になります。獲得の効率をどれだけ磨いても、なかなか2倍にはなりません。LTVの3つの計算式はLTVとは?計算式3種とCACとの関係で、離れていく顧客の「行動」と「気持ち」を分けて見る考え方はブランドロイヤルティの行動的・態度的の違いで詳しく書いています。
実務でどう使うか──獲得を増やす前に、穴を塞ぐ
チャーンレートを実務で使うときの順番は、獲得の予算を足す前に、まず解約率を見ることです。解約率が高いまま新規を増やすと、入ってくる人と出ていく人が釣り合ったところで顧客数は頭打ちになり、獲得の費用だけが毎月かかり続けます。
穴の場所を探すときは、次の手順で数字を分けていきます。2番目の、入会した月ごとに分けて追う見方はコホート分析とは?意味とコホート表の見方、GA4・エクセルでのやり方で詳しく書いています。
- 顧客チャーンと収益チャーンを両方出す。人数では小さな解約でも、大口の顧客が抜けていれば売上の穴は大きくなります
- 入会した月ごとに分けて、何か月目に解約が集中しているかを見る。使い始めの1〜2か月に集中しているなら、期待と実際の体験がずれています
- 解約を「自分で決めた解約」と「本人が決めていない解約」に分ける。カードの有効期限切れや決済の失敗による解約は、商品への不満とは別の穴です
- 自分で決めた解約には、理由を聞く。選択式の理由のほかに、一行だけ自由に書ける欄を置いておくと、選択肢にない理由が見えてきます
- 穴を一つ塞いだら、同じ数え方で翌月の解約率を確かめる。数え方を途中で変えると、効いたのかどうかが分からなくなります
月額のサービスを売る側に立つと見落としやすいのが、3番目の区別です。解約の数字を見ると、つい「何が気に入らなかったのか」と考え込みたくなります。でも、中には辞めるつもりのなかった人が、決済の手続きでつまずいて外れているだけのこともある。この種類の穴は、商品をいくら良くしても塞がりません。決済の失敗を知らせる案内や、カードを更新しやすい導線のほうが効きます。
年間の解約率を出すときにも、つまずきやすい点があります。月間解約率を12倍しても、年間解約率にはなりません。毎月、残った顧客のうちの一定割合が抜けていくので、正しくは「1 −(1 − 月間解約率)の12乗」で計算します。月間2%なら、1 − 0.98の12乗でおよそ21.5%です。12倍の24%と比べると小さな差に見えますが、月間解約率が高い事業ほどこのずれは大きくなります。
日本市場・2026年時点でのチャーンレートの注意点
2026年の日本でチャーンレートを下げようとするときに、いちばん避けたいのは、解約の手続きをわかりにくくして数字を下げる方法です。数字は一時的に良くなっても、それは顧客が残っているのではなく、出口をふさいでいるだけです。
定期購入をめぐるトラブルが相次いだことを受けて、2022年6月1日に施行された改正特定商取引法では、通信販売の申し込みの最終確認画面に、契約の期間や解約の条件などをわかりやすく表示することが義務づけられました。誤認させる表示で申し込ませた場合には、申し込んだ人が契約を取り消せる可能性もあります(消費者庁の案内ページ)。解約の窓口を隠して下げた解約率は、法律の面でも信頼の面でも、あとから大きな代償になって返ってきます。
もう一つは、年払いのプランが増えると、月ごとの解約率が実態より低く見えることです。年払いの顧客は契約の更新月にしか解約できないので、ほかの11か月は解約率がゼロになります。月払いと年払いが混ざっている事業では、解約率を払い方ごとに分けて、年払いは更新を迎えた顧客のうち何割が更新しなかったかで見るほうが、実態に近づきます。
解約率は低ければ低いほどよい、と考えすぎないことも大切だと思います。合わない顧客を広告で集めれば、解約率は上がります。それは解約の側の問題ではなく、入口で約束した内容と、実際に届けたものがずれている知らせです。解約率を下げる手は、出口ではなく入口の言葉にあることも少なくありません。解約の手前で顧客の気持ちの変化をつかむなら、NPSとは?計算方法と推奨者・批判者の分け方、平均・目安の考え方を解約率と並べて見る方法もあります。
チャーンレートに関するよくある質問
チャーンレートの目安はどのくらいですか?
業種や価格帯をそろえた、出典のはっきりした日本の相場は見当たりません。よく引かれるのは、SaaSの投資家デイヴィッド・スコックの「ネット収益チャーンが月2%を超えたら問題のサイン」という目安ですが、これは月額課金のソフトウェア企業向けの経験則です。自社の過去の数字と、同じ数え方で比べるのが確実です。
年間の解約率はどう計算しますか?
年の初めの顧客のうち、1年間で解約した人数を割り出すのが直接の方法です。月間解約率から換算するなら「1 −(1 − 月間解約率)の12乗」で計算します。月間2%なら年間はおよそ21.5%で、単純に12倍した24%にはなりません。
チャーンレートと離脱率は同じ意味ですか?
違う意味で使われます。チャーンレートは契約や購読をやめた顧客の割合で、離脱率はWebサイトや申し込み手続きの途中で離れた人の割合を指すことが一般的です。どちらも「離れていく割合」なので、社内で使うときはどちらの意味かを最初にそろえておくと混乱しません。
ネガティブチャーンとは何ですか?
解約やダウングレードで失った売上よりも、残った顧客のアップグレードや利用拡大で増えた売上のほうが大きく、ネット収益チャーンがマイナスになる状態です。新規の顧客を獲得しなくても、既存の顧客だけで売上が伸びていきます。上位プランや追加の利用に自然に進める設計がある事業で起きやすい状態です。
おわりに──チャーンレートは、守れなかった約束の数
解約の数字を見ていると、それを顧客側の事情として受け取りたくなります。忙しくなった、お金の余裕がなくなった、ほかのサービスに移った。どれも本当のことかもしれません。
でも、売る側から見ると、解約の一件一件は、入口で伝えたことと、実際に届けたものの差でもあります。広告で約束した便利さ、申し込みの画面で約束した使いやすさ、最初の1か月で感じてもらうはずだった変化。そのどこかが届かなかったとき、顧客は静かに離れていきます。
チャーンレートは、顧客が去った数ではなく、守れなかった約束の数。
獲得の予算を足したくなったときは、その前に一度、先月の解約がどの約束から生まれたのかを数えてみてほしいと思います。新しい人を連れてくるより、そのほうが確かに事業を太くしてくれます。