最終更新:2026年10月12日
NPSとは、「この商品やサービスを、友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」という一つの質問に0〜10点で答えてもらい、推奨者の割合から批判者の割合を引いて出す顧客推奨度の指標です。計算方法はシンプルで、9〜10点を推奨者、7〜8点を中立者、0〜6点を批判者に分け、「推奨者%−批判者%」で−100〜+100のスコアを出します。満足度より実際の行動に近い数字として使われますが、結論から言えば、NPSは点数そのものより、その点数をつけた理由を読むための指標です。推奨者・中立者・批判者の一覧表、計算の例、平均や目安の考え方、実務での読み方まで順に整理します。
NPSとは?推奨者・中立者・批判者の一覧と計算方法
NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは、0〜10点の11段階で推奨意向を聞き、回答者を3つのグループに分けて「推奨者の割合−批判者の割合」で算出するスコアです。満点は+100、最低は−100で、0を上回れば薦める人のほうが多い状態を意味します。
3つのグループの分け方と、それぞれの意味は次のとおりです。
| グループ | 点数 | どんな人か | NPSの計算での扱い |
|---|---|---|---|
| 推奨者(プロモーター) | 9〜10点 | 自分から人に薦め、繰り返し買ってくれる熱心な支持者 | 割合をプラスとして数える |
| 中立者(パッシブ) | 7〜8点 | 不満はないが、もっと良い条件があれば乗り換える人 | 計算には入れない(母数には含む) |
| 批判者(デトラクター) | 0〜6点 | 不満を抱え、場合によっては悪い評判を広げる人 | 割合をマイナスとして数える |
計算式は「NPS=推奨者の割合(%)−批判者の割合(%)」です。例として、架空のサービスで200人が回答し、推奨者が70人(35%)、中立者が80人(40%)、批判者が50人(25%)だったとします。このときのNPSは35−25で+10です。中立者の40%は式に出てきませんが、母数の200人には入っているので、中立者が増えると推奨者と批判者の割合がどちらも薄まり、スコアは0に近づきます。
平均点ではない点に注意が必要です。全員が8点をつけた場合、平均点は8点で悪くないように見えますが、全員が中立者なのでNPSは0になります。7点や8点を「まあまあ良い」と受け取る感覚と、NPSの見方はここで大きくずれます。「8点の人は、薦めるほどではない人」と読むのがNPSの考え方です。
Excelで集計するなら、回答の列に対してCOUNTIFで9以上の件数と6以下の件数を数え、それぞれを回答数で割って引き算するだけで出せます。専用のツールがなくても計算できるのは、NPSが広まった理由の一つだと思います。
NPSの出典──ライクヘルドの2003年の論文
NPSの出典は、コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのフレデリック・ライクヘルド(Frederick F. Reichheld)が2003年12月にハーバード・ビジネス・レビューに発表した論文「The One Number You Need to Grow」です。邦題にすれば「成長に必要な、ただ一つの数字」。長い顧客満足度調査をやめて、一つの質問だけで成長を予測できると主張した論文でした。
ライクヘルドはもともと顧客ロイヤルティの研究で知られた人で、「どの質問への答えが、実際の購買や紹介の行動といちばん結びつくか」を調べた結果として、推奨意向の質問にたどり着いたと説明しています。満足しているかどうかではなく、自分の評判をかけて人に薦めるかどうか。他人に薦めるという行為には、自分の信用が乗っています。だから、満足度よりも本音に近い答えが出やすい、という考え方です。
その後、ライクヘルドは2006年に著書「The Ultimate Question」を出し、NPSを測るだけでなく、理由を聞いて現場の改善につなげる運用の仕組みとして体系化しました。2021年には同誌に「Net Promoter 3.0」を発表し、推奨や紹介から生まれた売上の伸びを測る「獲得成長率(Earned Growth Rate)」という考え方を加えています。NPSはベイン・アンド・カンパニーらの登録商標です。
押さえておきたいのは、提唱者自身が「数字を出して終わり」の使い方を想定していなかった点です。NPSの本体は、点数のあとに続く「その点数をつけた理由は何ですか」という自由回答のほうにあります。
NPSと顧客満足度(CS)の違い・使い分け
NPSと顧客満足度の違いは、満足度が「いまの気持ち」を聞くのに対して、NPSは「人に薦めるという行動の見込み」を聞く点にあります。満足していても薦めない人はたくさんいます。その差を拾えるのがNPSです。
| 観点 | 顧客満足度(CS) | NPS |
|---|---|---|
| 聞くこと | どのくらい満足しているか | 友人や同僚に薦める可能性はどのくらいか |
| 尺度 | 5段階や7段階が多い | 0〜10点の11段階 |
| 出てくる数字 | 平均点や「満足」の割合 | 推奨者%−批判者%(−100〜+100) |
| わかること | 個別の体験への評価 | 継続や紹介につながる関係の強さ |
| 弱いところ | 満足でも離れる人を見落としやすい | なぜその点数なのかは、理由を聞かないとわからない |
どちらか一方を選ぶものではありません。満足度は「どの体験が良かったか、悪かったか」を細かく見るのに向き、NPSは「関係として続きそうか」を一つの数字で追うのに向いています。NPSが上がらない理由を探すときに、満足度の項目別の結果が手がかりになる、という組み合わせ方が実務では使いやすいと思います。
測るタイミングでも種類が分かれます。年に一度など定期的に関係全体を聞くものをリレーショナルNPS、購入や問い合わせの直後に聞くものをトランザクショナルNPSと呼び分けます。従業員に「この職場を知人に薦めるか」を聞くeNPSという派生もあります。
推奨者は繰り返し買い、人を連れてくるので、NPSは顧客生涯価値と関係の深い指標です。生涯価値の計算の仕方はLTVとは?マーケティングでの意味と計算式3種、CACとの関係で詳しく書いています。ただ、ロイヤルティの高い顧客を育てれば伸びる、という考えには反論もあります。熱心なファンの数より、買う人の数がブランドの大きさを決めるという研究についてはダブルジョパディの法則とロイヤルティ神話にまとめているので、NPSに期待しすぎないための材料として読んでもらえると思います。
NPSを実務でどう使うか──数字だけ見ず、理由を読む
NPSを実務で使うときにいちばん効くのは、スコアを追うことではなく、推奨者と批判者それぞれの「理由」を読み分けることです。満足度より行動に近い数字ですが、数字が教えてくれるのは「どこを読めばいいか」までで、「何を直せばいいか」は理由の欄にしか書いてありません。
BtoBの現場では、満足度調査の結果は悪くないのに契約が更新されない、という話がめずらしくありませんでした。担当者は満足していても、社内で上司や他部署に「これはいい」と薦めるほどではない。NPSの質問は、まさにその「薦めるほどではない」層を中立者として浮かび上がらせます。点数を見て安心するのではなく、7点や8点をつけた人が何を物足りなく感じているのかを読みにいく。ぼくは、NPSを使う価値の半分以上はそこにあると思っています。更新されずに離れていく顧客の割合をどう測るかは、チャーンレートとは?解約率の計算方法と目安、顧客・収益チャーンの違いで書いています。
読み方の手順は、次の順番で進めると迷いにくくなります。
- まず、推奨者・中立者・批判者の3グループに分けて、自由回答の理由を別々に並べる
- 批判者の理由から、繰り返し出てくる不満を拾う(ここは「直すべきこと」の候補)
- 推奨者の理由から、人に薦める決め手になっている言葉を拾う(ここは「伸ばすべきこと」と、広告や営業で使う言葉の候補)
- 中立者の理由から、「あと一歩」で推奨者になれなかった点を拾う
- 最後に、全体のスコアの推移を見て、手を打った後に動いたかを確かめる
失敗しやすいのは、スコアそのものを目標や評価に組み込んでしまうことです。点数が担当者の評価に直結すると、回答を頼むときに「10点をお願いします」と添えたり、満足していそうな顧客にだけ調査を送ったりといった歪みが生まれます。数字は上がっても、顧客との関係は何も変わっていない。NPSを目標にした瞬間、NPSは測りたいものを測れなくなります。
もう一つは、推奨者の言葉を読まずに批判者の対応だけに追われることです。不満をつぶす作業は大切ですが、それだけでは「不満のない普通のサービス」に近づくだけかもしれません。推奨者が何に価値を感じて人に話しているのか。その言葉は、生活者が自分で選んだ、いちばん伝わる言い方でもあります。アンケートの点数と自由回答を組み合わせて読む考え方は定量調査と定性調査の違いと使い分けとも重なります。
日本市場でNPSを使うときの注意点──平均・目安の考え方と「意味ない」論
日本でNPSを使うときに最初に知っておきたいのは、スコアがマイナスになるのはめずらしくないということです。0〜6点がすべて批判者に入る計算なので、強い言い方を避けて真ん中あたりの点をつける回答が多いと、それだけでスコアは下がります。
実際の数字を一つ挙げると、NTTコム オンラインの「NPSベンチマーク調査2025」の電力業界の結果では、東日本部門で1位だった東京ガスのNPSが−33.0、同部門8社の平均は−52.8でした。業界のトップでもマイナスです。業界や国によってスコアの水準は大きく違うので、海外の企業の数字や、別の業界の数字と並べて「平均より上か下か」を見ても、ほとんど意味がありません。
「NPSの平均」「NPSの目安」はよく検索される言葉ですが、業界も聞き方も時期もそろえずに使える目安は、出典のあるものとしては見当たりません。比べるなら、同じ業界で同じ聞き方をしている調査の中での順位か、自社の過去の数字です。ぼくは、他社との比較より、自社の推移を見るほうを先にすすめたいと思っています。
5段階評価で聞いたアンケートをNPSに読み替えたい、という相談もよくあります。NPSは11段階の尺度と、9〜10点・7〜8点・0〜6点という区切りを前提に作られた指標です。5段階の結果を独自に当てはめた数字は、NPSとは別物として扱い、名前も分けておくほうが混乱しません。
「NPSは意味ない」という批判にも、根拠のあるものがあります。代表的なのは、ティモシー・ケイニンガム(Timothy L. Keiningham)らが2007年に学術誌「Journal of Marketing」に発表した研究です。ノルウェーの顧客満足度データを使って検証したところ、NPSが他の満足度指標よりはっきり優れて成長を予測する、という主張は再現できなかったと報告しています。この研究はNPSが役に立たないと言っているのではなく、「たった一つの数字で十分」という言い方には根拠が足りない、と指摘しているものです。NPSは万能の成長予測ではなく、顧客の声を集めて読むための入口の一つ、と位置づけておくのが現実的だと思います。
NPSに関するよくある質問
NPSの計算方法を教えてください
0〜10点で「人に薦める可能性」を聞き、9〜10点を推奨者、7〜8点を中立者、0〜6点を批判者に分けます。NPSは「推奨者の割合(%)−批判者の割合(%)」で、−100から+100の範囲になります。たとえば推奨者35%、批判者25%なら+10です。
NPSの平均や目安はどのくらいですか?
業界や国、聞き方によって水準が大きく違うため、誰にでも当てはまる目安はありません。日本ではマイナスになることもめずらしくなく、NTTコム オンラインの2025年の電力業界の調査では、トップ企業でも−33.0でした。比べるなら同じ条件の業界調査か、自社の過去の推移にします。
5段階評価のアンケートでもNPSは出せますか?
NPSは11段階の尺度と決まった区切りを前提にした指標なので、5段階の結果から出した数字は厳密にはNPSではありません。読み替えた数字を使う場合は、別の指標として名前を分けて扱うほうが混乱しません。NPSとして追うなら、最初から0〜10点で聞くのが確実です。
NPSと顧客満足度はどちらを使えばいいですか?
役割が違うので、併用するのがおすすめです。満足度は個別の体験の良し悪しを細かく見るのに向き、NPSは継続や紹介につながる関係の強さを一つの数字で追うのに向いています。どちらを使う場合でも、点数の理由を自由回答で聞いて読むことが欠かせません。
おわりに──点数は場所を教え、理由は打ち手を教える
NPSは、満足度よりも行動に近い場所を測れる、よくできた指標です。「満足しているか」ではなく「自分の信用をかけて薦めるか」を聞くことで、満足しているのに離れていく人の存在を数字にしてくれます。
でも、数字が教えてくれるのは「どこを読めばいいか」までです。7点の人が何を物足りないと感じたのか、10点の人がどんな言葉で人に薦めているのか。それは理由の欄にしか書いてありません。点数は場所を教え、理由は打ち手を教える。NPSは成績表ではなく、顧客の声を読みにいくための索引です。もし使い方で迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。