最終更新:2026年10月12日
ブランドロイヤルティとは、生活者が特定のブランドを繰り返し選び続ける度合いのことです。同じ店で同じ銘柄を手に取り続ける「行動」と、そのブランドが好きで信頼しているという「気持ち」の二つの面があり、マーケティングでは前者を行動的ロイヤルティ、後者を態度的ロイヤルティと呼び分けます。表記は「ロイヤリティ」と書かれることもありますが、意味は同じです。実務でロイヤルティを見る意味は、熱狂的なファンを増やすことより先に、選び続けてくれていた人が離れていく穴をふさぐことにあります。新しい人を連れてくるより、今いる人の離脱を止めるほうが安くつくことが多いからです。この記事では、ロイヤルティの2つの面と4つの型、出典、ダブルジョパディの法則との関係、そして実務での使い方まで書いていきます。
ブランドロイヤルティとは?行動的・態度的ロイヤルティの違い一覧
ブランドロイヤルティは、「繰り返し買っているか」という行動の面と、「好きで信頼しているか」という態度の面の二つで成り立っています。どちらか一方だけを見ると、ロイヤルティを読み違えます。
二つの違いは、次の表のとおりです。
| 種類 | 見ているもの | 測り方の例 | 強み | 見落としやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 行動的ロイヤルティ | 実際に繰り返し買っているか | リピート率、購入頻度、継続期間、カテゴリー内での購入シェア | 購買データで客観的に測れる。売上に直結する | 惰性や「他に選択肢がない」だけの購入も含まれる |
| 態度的ロイヤルティ | 好意や信頼、人に薦めたい気持ちがあるか | 好意度、推奨意向、「なくなったら困るか」の調査 | 離れにくさや、口コミの起点になるかが分かる | 好きと答えても、実際には買っていないことがある |
たとえば、職場の近くにそのコンビニしかないから毎日寄っている人は、行動的ロイヤルティは高くても、態度的ロイヤルティは高くありません。もっと便利な店ができた瞬間に、あっさり移っていきます。反対に、あるブランドの服が大好きでも、値段が高くて年に一度しか買えない人は、態度は強く行動は弱い状態です。
ロイヤルティを「好き」という気持ちだけで語ると、売上につながらない好意を過大に見積もります。「リピート率」という行動だけで語ると、条件が変われば一気に崩れる惰性を、本物の支持と勘違いします。二つの面を重ねて見ることが、ロイヤルティを正しく読む出発点です。
ブランドロイヤルティの出典──行動と態度を重ねた4つの型
ロイヤルティを行動と態度の二つで捉える考え方は、1970年代のマーケティング研究から始まり、1994年に「4つの型」として整理されました。現在の実務で使われている枠組みは、ほぼこの流れの上にあります。
出発点になったのは、心理学者のジェイコブ・ジャコビー(Jacob Jacoby)とデビッド・カイナー(David Kyner)が1973年に学術誌「Journal of Marketing Research」に発表した論文で、繰り返し買う行動だけではロイヤルティとは呼べず、そこに心理的な選好が伴っている必要がある、と論じました。この考えを発展させて、アラン・ディック(Alan Dick)とクナル・バス(Kunal Basu)が1994年に「Journal of the Academy of Marketing Science」で示したのが、態度の強さと再購買の多さを掛け合わせた4つの型です。
| 型 | 態度(好意・信頼) | 行動(繰り返し買う) | 状態の例 | 打ち手の方向 |
|---|---|---|---|---|
| 真のロイヤルティ | 強い | 多い | 好きで、実際に選び続けている | 裏切らない。期待を下回る変更をしない |
| 潜在的ロイヤルティ | 強い | 少ない | 好きだが、値段・距離・在庫のせいで買えていない | 買えない理由(売り場・価格・導線)を取り除く |
| 見せかけのロイヤルティ | 弱い | 多い | 惰性、ポイント、乗り換えの面倒さで買い続けている | 離脱の予備軍として、不満の芽を先につぶす |
| ロイヤルティなし | 弱い | 少ない | たまたま買った、気分で選んだ | ロイヤルティより、まず思い出してもらう施策 |
この表で実務的にいちばん大事なのは、「見せかけのロイヤルティ」の段です。リピート率の数字だけを見ていると、この層は真のロイヤルティと区別がつきません。でも、乗り換えの手間が下がったり、競合が少し良い条件を出したりした瞬間に、まとめて抜けていく層です。数字が良いうちに気づけるかどうかで、その後の守り方が変わります。
ダブルジョパディの法則との関係──ロイヤルティは成長のエンジンではない
ブランドロイヤルティを語るときに外せないのが、「ロイヤルティを高めれば、小さいブランドでも大きく育つ」という通説への反論です。多くの市場の購買データでは、ロイヤルティはシェアを押し上げる原因というより、シェアが大きいことに付いてくる結果として現れます。
この規則性はダブルジョパディの法則と呼ばれ、シェアの小さいブランドは顧客数が少ないうえに、顧客あたりのロイヤルティまで低くなりやすい、という経験則です。詳しい中身はダブルジョパディの法則とは?意味とロイヤルティ神話への示唆に書いたので、ここでは結論だけ置きます。ブランドの大小を分けているのは、顧客一人ひとりの愛着の深さより、どれだけ多くの人に買われているかのほうです。
では、ロイヤルティに意味はないのか。ここで役割を分けて考えると、すっきりします。成長のエンジンは、新しい買い手に届いて思い出してもらうこと(浸透率)。ロイヤルティは、そのエンジンが運んできた買い手を、穴の空いたバケツからこぼさないための栓です。エンジンと栓は、どちらが偉いかを比べるものではありません。エンジンを回しても栓が抜けていれば、水はたまらない。栓をいくら締めても、水を注がなければバケツは満ちない。それだけの関係です。
離脱を止めることの経済的な重みについては、よく引用される研究があります。フレデリック・ライクヘルド(Frederick Reichheld)とアール・サッサー(W. Earl Sasser Jr.)が1990年に「ハーバード・ビジネス・レビュー」に発表した論文「Zero Defections: Quality Comes to Services」では、調べたサービス業の事例で、顧客の離反を5%減らすと利益が25〜85%増えたと報告されています。業種や時代を選ぶ数字なので、そのまま自社に当てはめるのは危険です。ただ、「離脱を少し減らすだけで利益が大きく動く」という向き自体は、ぼくの実感とも合っています。ちなみに「新規獲得のコストは既存顧客の維持の5倍」という、いわゆる1:5の法則もよく紹介されますが、こちらは確かな一次出典をたどれませんでした。根拠として使うなら、上の論文のように出どころがはっきりしたものを選んだほうが安全です。
実務での使い方──「まず離脱を止める」ための検算
ロイヤルティを実務で使うときの問いは、「ファンをどう増やすか」より先に、「選び続けてくれていた人は、どこで、なぜ離れているか」です。新しい人を連れてくる施策に予算を足す前に、この問いで手元の数字を検算します。
自分で月額のサービスを運営する側になってから、この順番の大切さを身にしみて感じるようになりました。新しく申し込んでくれる人が増えると、それだけで安心してしまいます。でも、同じ月に同じくらいの人が静かに解約していれば、手元に残る人数はほとんど変わりません。広告や発信に力を入れているのに伸びないとき、原因は入口ではなく出口にあることが少なくありません。出口の大きさはチャーンレート(解約率)で測れます。
離脱を止めるための検算は、次の順番で進めます。
- どの段階で抜けているかを特定する。初回購入のあと2回目に来ないのか、何度か買ったあとで止まるのかで、打ち手はまったく違います
- 抜けた人の「型」を見立てる。見せかけのロイヤルティ(惰性・ポイント目当て)が抜けたのか、真のロイヤルティだった人が抜けたのかを分けます
- 真のロイヤルティ層が抜けているなら、商品・価格・対応のどこかで期待を裏切った可能性を最優先で疑う
- 見せかけの層が抜けているなら、競合の条件や乗り換えのしやすさの変化を確かめる
- 最後に、離脱を止めた効果を、顧客一人あたりが生む価値の変化として確かめる
いちばん離脱が起きやすいのは、初回購入から2回目までのあいだです。この区間の見方はF2転換率とは?計算方法と平均・目安の考え方、上げる打ち手を解説に、離脱を止めた効果を金額で見る方法はLTVとは?マーケティングでの意味と計算式3種、CACとの関係を解説にまとめています。ロイヤルティは態度や気持ちの言葉で語られがちですが、検算するときは、この二つの数字に落としておくと議論がぶれません。気持ちの側の離れ方を早めに見つけたいなら、人に薦めたいかを聞くNPS(ネット・プロモーター・スコア)を並べておくと役に立ちます。
失敗しやすいのは、ロイヤルティ施策をポイントや会員ランクの厚みと同じものだと考えることです。ポイントを厚くすると、行動的ロイヤルティの数字はすぐに上がります。でも、それで増えるのは多くの場合「見せかけ」の層で、条件の良い競合が現れれば一緒に流れていきます。ポイントは離脱を遅らせる道具にはなっても、好きになってもらう理由にはなりにくい。表の「態度」の列を動かせているかを、いつも並べて確かめておきたいところです。
日本市場・2026年時点での注意点──ポイント経済圏と「見せかけ」の膨張
2026年の日本でブランドロイヤルティを見るときに気をつけたいのは、ポイント経済圏や定期購入の仕組みによって、「見せかけのロイヤルティ」が以前よりずっと見えにくくなっていることです。行動の数字だけが良く見える環境が整っているぶん、態度の裏づけを確かめる手間を省けなくなっています。
決済や買い物のたびに同じ系列のポイントがたまる生活が当たり前になると、生活者がある店やサービスを選び続ける理由は、そのブランドへの好意より「ポイントがまとまるから」であることが増えます。定期便やサブスクリプションも同じで、解約の手続きが面倒なだけで続いている人を、リピート率は区別してくれません。購買データの上では同じ「継続」でも、中身はまったく違います。
解約や退会をわざと分かりにくくして離脱を止める設計にも、触れておきます。数字の上では一時的に離脱が減りますが、それはロイヤルティではなく、出口をふさいでいるだけです。こうした設計は生活者の不信を買いやすく、規制の面でも、2022年6月施行の改正特定商取引法で、通信販売の申込みの最終確認画面に契約期間や解約の条件などを表示することが義務づけられました(消費者庁)。離脱を止めるとは、出口を隠すことではなく、出ていく理由を減らすことです。
BtoBの現場でも、構造は変わりません。長期契約や切り替えコストの高さで継続している取引先は、見せかけのロイヤルティの典型です。契約更新の時期に競合の提案が入った瞬間、それまでの継続年数は何の守りにもなりません。継続している理由が「満足しているから」なのか「替えるのが面倒だから」なのかを、更新の前に確かめておく価値があります。
ブランドロイヤルティに関するよくある質問
ロイヤルティとロイヤリティはどちらが正しいですか?
どちらも英語のloyalty(忠誠・愛着)をカタカナにしたもので、意味は同じです。マーケティングの専門書では「ロイヤルティ」と書かれることが多いのですが、検索では「ロイヤリティ」で調べる人もかなりいます。なお、特許や商標の使用料を指すroyaltyも「ロイヤリティ」と書かれるので、文脈で区別が必要です。
ブランドロイヤルティと顧客ロイヤルティの違いは何ですか?
ブランドロイヤルティは特定のブランドに向けた愛着や継続購入を、顧客ロイヤルティは特定の企業や店、サービスとの関係の深さを指して使われることが多い言葉です。ただ、実務では厳密に区別されないことも多く、どちらも行動と態度の二つの面で測るという考え方は共通しています。社内で使うときは、どちらの意味で使っているかを最初にそろえておくと混乱しません。
ブランドロイヤルティはどうやって測りますか?
行動の面はリピート率や購入頻度、継続期間といった購買データで、態度の面は好意度や「人に薦めたいか」を聞く調査で測ります。人に薦めたいかを数値化した指標としてはNPS(ネット・プロモーター・スコア)がよく使われます。大事なのは片方だけで判断しないことで、行動と態度を並べると、見せかけのロイヤルティや潜在的なファンが見えてきます。
ブランドロイヤルティを高める施策にはどんなものがありますか?
期待を裏切らない品質と対応を続けることが土台で、その上に、買えない理由を取り除くこと、初回から2回目への橋渡しを丁寧にすることが続きます。ポイントや会員ランクは行動の数字を上げやすい反面、条件で集まった人は条件で離れていきます。施策を選ぶときは、行動の数字だけでなく、好意や信頼という態度の面が動いているかを一緒に確かめることをおすすめします。
おわりに──ロイヤルティは、育てるものではなく漏らさないもの
ブランドロイヤルティという言葉には、熱狂的なファンや、何があっても離れない顧客のイメージがついて回ります。だから「ロイヤルティを高めよう」という話は、つい新しい特典や会員制度のアイデア出しに向かいがちです。
でも、ロイヤルティの本当の仕事は、もっと地味なところにあります。せっかく選んでくれた人が、気づかないうちにこぼれていく穴を見つけて、ふさぐこと。ロイヤルティは、育てるものではなく、漏らさないものです。新しい人を呼ぶ施策を考える前に、今いる人がどこから出ていっているのかを一度見ておく。その順番を守るだけで、同じ予算でもずいぶん手元に残るものが変わってくると思います。