最終更新:2026年10月12日
SWOT分析とは、自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)と、外部環境の機会(Opportunities)・脅威(Threats)の4つを書き出して、戦略を考える材料を整理するフレームワークです。結論を先に書くと、SWOT分析は4つのマスを埋めた時点ではまだ何も始まっていません。並べて終わりにせず、強みと機会、弱みと脅威のように掛け合わせて打ち手に変えるところまでがSWOT分析です。その掛け合わせの型がクロスSWOTです。この記事では、4つの要素の一覧表、はっきりしない出どころ、やり方の手順と架空の例、クロスSWOTの4つの戦略、「時代遅れ」と言われる理由までまとめました。
SWOT分析とは?4つの要素の一覧と意味
SWOT分析は、「内部か外部か」と「プラスかマイナスか」の2つの軸で情報を4つに仕分ける枠組みです。強みと弱みは自社の中にあって自分で変えられるもの、機会と脅威は自社の外にあって自分では変えられないもの、と分けるのが基本の約束です。
| 要素 | 英語 | 内部/外部 | この欄で答える問い | 書く内容の例 |
|---|---|---|---|---|
| 強み | Strengths | 内部・プラス | 顧客に選ばれる理由になっている、自社の持ち物は何か | 技術、人材、顧客との関係、評判、立地 |
| 弱み | Weaknesses | 内部・マイナス | 選ばれない理由になっている、自社の欠けている所は何か | 人手、資金、知名度、販路、仕組みの古さ |
| 機会 | Opportunities | 外部・プラス | 自社に追い風になる、外の変化は何か | 生活者の行動の変化、法改正、新しい技術、競合の撤退 |
| 脅威 | Threats | 外部・マイナス | 自社に向かい風になる、外の変化は何か | 新規参入、代替手段の登場、原材料の値上がり、人口の減少 |
いちばん多い書き損じは、内部と外部の取り違えです。「新サービスを始める」は機会ではなく自社の行動ですし、「SNSに強い」は機会ではなく強みです。機会の欄に書いてよいのは、自社が何もしなくても起きている外の変化だけ。この線を守らないと、あとで掛け合わせる段階で、何と何を掛けているのかがわからなくなります。
もう一つの書き損じは、同じ事実の置き場所に迷うことです。たとえば「社員が少ない」は、意思決定の速さという意味では強みで、人手の足りなさという意味では弱みです。こういうときは無理にどちらかに決めず、両方の欄に「何に対して強いのか、弱いのか」を添えて書くほうが、あとの掛け合わせで使える材料になります。
SWOT分析の出どころ──提唱者ははっきりしない
SWOT分析は世界中で使われているのに、誰がいつ考え出したのかははっきりしていません。いくつかの説があり、どれも決め手となる一次資料が見当たらない、というのが正確なところです。
よく紹介されるのは、1960年代に米国のスタンフォード研究所(SRI)の研究プロジェクトで生まれたという説です。このプロジェクトに関わったアルバート・ハンフリー(Albert Humphrey)が後年そう語ったことが広まりのきっかけですが、当時の報告書でSWOTという枠組みが示されたことを裏づける資料は確認されていません。
もう一つは、ハーバード・ビジネス・スクールの経営方針(ビジネスポリシー)の授業から生まれたという説です。1965年に出た教科書「Business Policy: Text and Cases」で、企業の内部の力と外部の機会・脅威を照らし合わせて戦略を考える枠組みが示されており、これがSWOTの原型だとする研究者もいます。ただ、この時点で「SWOT」という4文字の呼び名が使われていたかどうかは、はっきりしません。
出どころがはっきりしているのは、むしろ掛け合わせのほうです。1982年に経営学者のハインツ・ワイリック(Heinz Weihrich)が学術誌「Long Range Planning」に発表した論文で、4つの要素を掛け合わせて戦略を導く「TOWSマトリクス」を示しました。日本でクロスSWOTと呼ばれているものは、このTOWSマトリクスとほぼ同じ考え方です。並べるだけの分析に対して、掛け合わせる手順を後から足した。この順番に、SWOT分析の弱点と使い方の両方が表れているとぼくは思っています。
SWOT分析のやり方──外部から書く手順と例
SWOT分析のやり方は、目的を決める→外部(機会・脅威)を書く→内部(強み・弱み)を書く→掛け合わせる、の4段階です。外部から書くのは、外の変化を先に見ておくと、それに対して意味のある強みと弱みだけを選べるからです。
| 手順 | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 1. 目的を決める | 何を決めるためのSWOTかを一文で書く(例:来年度に伸ばす事業を一つ選ぶ) | 目的がないと、何でも書けてしまい4つのマスが膨らむ |
| 2. 機会・脅威を書く | 生活者・競合・社会の変化のうち、目的に関係するものだけを書く | 自社の行動や願望を機会に書いてしまう |
| 3. 強み・弱みを書く | 手順2の変化に照らして、効く持ち物と足りない所を書く | 顧客から見て意味のない自慢を強みに書いてしまう |
| 4. 掛け合わせる | クロスSWOTで4種類の打ち手を書き、目的に合うものを選ぶ | ここを飛ばして4マスで終わる |
手順2の材料は、ゼロから考えるより、ほかのフレームワークから持ってくると速くなります。社会や技術の大きな変化はPEST分析から、生活者と競合の動きは3C分析から拾うと、機会と脅威の欄が思いつきの羅列になりにくくなります。
架空の例で流してみます。駅前で長く続いている、個人経営の小さな学習塾を考えます(以下はすべて説明のための架空の設定です)。目的は「来年度に力を入れる講座を一つ決める」です。
機会には、オンラインで授業を受けることに保護者が慣れたこと、近くに新しいマンションが建って子育て世帯が増えたこと。脅威には、大手の塾チェーンが隣の駅に出てきたこと、映像授業のアプリが安く使えるようになったこと。強みには、卒業生の兄弟や近所の紹介で生徒が来ること、講師が一人ひとりの答案を細かく見られること。弱みには、講師が二人しかいないこと、夜の時間帯しか教室を開けられないことを書きます。
ここまでで終わると、この塾は「強みも弱みもあって、追い風も向かい風もある」という、当たり前の結論しか手に入りません。掛け合わせて初めて、打ち手が見えてきます。
クロスSWOTとは?4つの掛け合わせで打ち手に変える
クロスSWOTとは、強み・弱みと機会・脅威を掛け合わせて、4種類の戦略の候補を出す方法です。並べた情報を打ち手に変える工程で、SWOT分析で本当に頭を使うのはここからです。
| 掛け合わせ | 考える問い | 学習塾の例(架空) |
|---|---|---|
| 強み×機会(SO戦略) | 強みで追い風をどう取りにいくか | 答案を細かく見る強みを、新しく越してきた子育て世帯向けの個別の学習相談として打ち出す |
| 強み×脅威(ST戦略) | 強みで向かい風をどうかわすか | 映像授業アプリの利用者に向けて、アプリで解いた問題の答案を見る「添削だけの講座」を用意する |
| 弱み×機会(WO戦略) | 追い風に乗るために、弱みをどう補うか | 夜しか開けられない弱みを、保護者が慣れたオンライン面談で昼の時間に補う |
| 弱み×脅威(WT戦略) | 最悪の事態を避けるために、何をやめるか | 大手と正面から競う集団授業の講座を縮小し、二人の講師の時間を個別指導に寄せる |
表を見るとわかるとおり、掛け合わせの段階では、同じ強みが別のマスで何度も使われます。それで構いません。クロスSWOTの目的は4つのマスを均等に埋めることではなく、打ち手の候補をできるだけ多く出して、手順1の目的に合うものを選ぶことです。この例なら、SO戦略とST戦略はどちらも「答案を見る力」を軸にしているので、来年度に伸ばす講座は「添削と個別相談」に絞る、という判断ができます。
弱み×脅威のマスは、軽く扱われがちですが、小さな事業ほど大事になります。WT戦略の答えは多くの場合「やめること」で、限られた人手と時間を一か所に寄せる判断につながります。競合と同じ土俵で戦わない考え方は、ランチェスター戦略とは?弱者の戦略5原則と小さな事業での使い方とよく噛み合います。
実務での使い方と「時代遅れ」と言われる理由
実務でのSWOT分析は、4つのマスを埋めることではなく、掛け合わせて打ち手に変えたかどうかで出来が決まります。「SWOT分析は時代遅れ」と言われる理由のほとんどは、並べて終わる使い方にあります。
この指摘は昔からあります。1997年にテリー・ヒル(Terry Hill)とロイ・ウェストブルック(Roy Westbrook)が学術誌「Long Range Planning」に発表した論文「SWOT Analysis: It’s Time for a Product Recall」は、SWOT分析を行った企業を調べ、その結果がその後の戦略づくりでほとんど使われていなかったことを報告しました。題名のとおり、「製品回収が必要だ」とまで書かれています。SWOTそのものが壊れているのではなく、書いたあとに誰も使っていなかったことへの指摘です。
BtoBの現場では、提案資料の前半にSWOTの4マスがきれいに埋まっていて、後半の施策のページとどこにもつながっていない資料をよく見ました。4マスが埋まると、分析した手応えが生まれてしまう。その手応えが、掛け合わせの手前で手を止めさせます。ぼくが提出前に確かめているのは、施策のそれぞれについて「これはSWOTのどのマスとどのマスを掛けた結果か」を指させるかどうかです。指させない施策は、分析とは関係なく思いつきで出てきたものかもしれません。
もう一つの落とし穴は、強みの欄に顧客と関係のない自慢が並ぶことです。「歴史がある」「品質が高い」は、顧客がそれを選ぶ理由になっているときだけ強みです。その強みが本当に顧客に効いているかは、競合が同じことを言えないかで確かめられます。強みを一言に磨いて検査する方法はUSPとは?マーケティングでの意味と作り方を3つの検査で解説にまとめました。
2026年のいまSWOT分析を使うときに気をつけたいのは、機会と脅威の賞味期限が短くなっていることです。生成AIのサービスや検索のしくみは、半年もたたずに前提が変わります。一度作ったSWOTを一年使い回すのではなく、目的が変わるたび、外部の大きな変化があるたびに書き直す。使い捨てのメモとして軽く扱うほうが、いまの市場には合っていると思います。書き直すたびに打ち手の評価も変わるので、追いかける数字の置き方はKPIとKGIの違いとは?KAI・OKRも含めて1枚の比較表でわかりやすく解説とあわせて考えるとつながりやすくなります。
SWOT分析に関するよくある質問
SWOT分析の機会と強みはどう見分けますか?
自社の中にあって自分で変えられるものが強み、自社の外にあって自分では変えられないものが機会です。「SNSの運用が得意」は強み、「生活者がSNSで店を探すようになった」は機会になります。迷ったら、自社が何もしなくてもそれが起きているかどうかで判断すると、取り違えが減ります。
クロスSWOTとは何ですか?
強み・弱みと機会・脅威を掛け合わせて、4種類の戦略の候補を出す方法です。強み×機会、強み×脅威、弱み×機会、弱み×脅威の4つの組み合わせで、それぞれ打ち手を考えます。1982年にハインツ・ワイリックが示したTOWSマトリクスとほぼ同じ考え方で、並べただけのSWOTを打ち手に変える工程にあたります。
SWOT分析は時代遅れですか?
枠組みそのものは時代遅れではありません。時代遅れと言われる理由の多くは、4つのマスを埋めて終わり、打ち手につながっていない使い方にあります。掛け合わせて打ち手まで落とし、外部の変化が起きるたびに書き直すなら、2026年のいまでも十分に使えます。
SWOT分析は個人にも使えますか?
使えます。転職や独立のように、自分の持ち物と外の環境を照らし合わせて決めたい場面では、自分の得意・不得意を強み・弱みに、業界や働き方の変化を機会・脅威に書くと整理しやすくなります。ただ、個人の場合も並べて終わりにせず、「この得意を、この変化にどう使うか」と掛け合わせるところまで進めることが大事です。
おわりに──並べたら、掛け合わせる
SWOT分析は、自社の現状を棚卸しするための道具だと思われがちです。でも、4つのマスがきれいに埋まった瞬間は、まだ材料がそろっただけ。強みを機会にぶつけ、弱みを脅威の前でどう守るかを考えたときに、初めて打ち手が出てきます。
埋めたマスの数ではなく、掛け合わせから生まれた打ち手の数で、SWOTの出来を測る。それだけで、この古い枠組みはいまでも十分に働いてくれます。
並べただけのSWOTは診断書。掛け合わせて初めて、処方箋になる。