最終更新:2026年10月17日
ツァイガルニク効果とは、やり終えたことより、途中で中断されたことのほうがよく記憶に残るとされる心理の現象です。1927年に心理学者のブルーマ・ツァイガルニクが発表した実験が原典で、マーケティングでは「続きはWebで」の広告、進捗バー、連載やSNS投稿の冒頭の引きなど、「続きが気になる」仕掛けの説明によく使われます。ただ、結論から言えば、記憶が良くなる部分は2025年のメタ分析で再現されていません。確かめられているのは、中断したことに人が戻ってくる傾向のほうです。原典の実験、再現性の議論、関連する効果との違い、広告での使い方と2026年時点の線引きまで順に整理します。
ツァイガルニク効果とは?意味とマーケティングでの使われ方の一覧
ツァイガルニク効果とは、人は完了した作業より未完了の作業のほうを覚えている、という主張を指す言葉です。ゼイガルニク効果と表記されることもあり、英語ではZeigarnik effectと書きます。ドラマが「つづく」で終わると翌週まで気になる、読みかけの本の続きが頭に残る、といった日常の感覚とよく重なるので、広く知られるようになりました。
マーケティングの現場では、この効果は「わざと未完了を作って、続きを見に来てもらう」設計の根拠として語られます。代表的な使われ方を並べると、次のようになります。
| 仕掛け | 作っている未完了 | 誠実な使い方 | 釣りになる使い方 |
|---|---|---|---|
| 「続きはWebで」の広告 | テレビCMや交通広告で話を途中で止める | 続きの先に、CMより深い情報や体験を用意する | 続きの先が、同じ内容の繰り返しや別商品の案内になっている |
| 進捗バー・チェックリスト | 登録や設定を「あと少し」の状態で見せる | 残りの手順を正確に示し、途中で保存できるようにする | 「あと1ステップ」と見せて、実際には手順を足していく |
| 連載・シリーズもの | 1回で終わらせず、次回に問いを残す | 各回に持ち帰れる答えを入れたうえで、次の問いを置く | 毎回の中身を薄くして、続きでしか答えを出さない |
| SNS投稿の冒頭 | 最初の1〜2行で問いや意外な結論を見せる | 本文の中で、冒頭の問いにきちんと答える | 冒頭で煽って、答えをリンク先や有料部分に隠す |
表を見ると分かるとおり、どの仕掛けにも「誠実な使い方」と「釣り」の二通りがあります。境目は、作った未完了を最後に閉じてあげるかどうかです。この点は、原典の実験を読むともっとはっきりします。
原典──1927年のツァイガルニクの実験と、再現できなかった研究
ツァイガルニク効果の原典は、ブルーマ・ツァイガルニク(Bluma Zeigarnik)が1927年に学術誌プシコロギッシェ・フォルシュング(Psychologische Forschung)第9巻に発表した論文「Das Behalten erledigter und unerledigter Handlungen」(完了した行為と未完了の行為の記憶)です。師であるクルト・レヴィン(Kurt Lewin)が編集した行為と感情の心理学の研究シリーズの一本として、ベルリン大学の心理学研究所でまとめられました。
論文によると、実験は1924〜1926年に行われ、学生や教師、子どもを含む164人に個別の実験をしています。参加者には18〜22個の小さな作業を一つずつ出し、そのうち半分は終わる前に実験者が中断する。最後に「どんな作業をやりましたか」と尋ね、思い出された未完了の作業と完了した作業の数を比べました。原典で確認できた結果と、その後の検証を並べると次のとおりです。
| 研究 | 何を調べたか | 結果 |
|---|---|---|
| ツァイガルニク(1927年) | 中断された作業と完了した作業の思い出しやすさ | 主な実験で、思い出された未完了作業と完了作業の比は平均1.9。32人中26人で未完了のほうが多く思い出された |
| オフシアンキナ(1928年) | 中断された作業に、自分から戻るかどうか | 機会があると、言われなくても中断した作業を再開する傾向を報告 |
| ギベリーニとマイヤーのメタ分析(2025年) | 中断作業の想起と再開について、その後の研究をまとめて再計算 | 想起の比は37〜38本の論文の加重平均で0.99で、記憶の差は見られず。再開率は21本の論文で約67%と、偶然の50%を上回った |
メタ分析は、ロマン・ギベリーニ(Romain Ghibellini)とベアト・マイヤー(Beat Meier)が2025年にヒューマニティーズ・アンド・ソーシャル・サイエンシズ・コミュニケーションズで発表した「Interruption, recall and resumption」です。結論は、中断した作業を再開する傾向(オフシアンキナ効果)は一般的に見られるものの、未完了の作業をよく覚えているという意味のツァイガルニク効果には普遍的な妥当性がない、というものでした。著者たちは、実験者の権威や作業への入れ込みといった条件がそろったときにだけ現れる効果で、そうした条件は昔の実験室のほうが多かったのではないか、と考察しています。
もう一つ、よく語られる逸話にも触れておきます。ベルリンのカフェで、給仕が支払い前の注文だけを細かく覚えていたことが研究のきっかけになった、という話です。有名な話ですが、1927年の論文本文の中には見当たらず、一次出典は確認できませんでした。
オフシアンキナ効果・好奇心のギャップ・FOMOとの違い
マーケティングで「ツァイガルニク効果」と呼ばれているものの多くは、実際には未完了を覚えている効果ではなく、未完了を終わらせに戻る傾向か、知らないことを知りたくなる好奇心のほうです。似た言葉を並べると、違いが見えてきます。
| 概念 | 何が起きるか | 研究の裏づけ |
|---|---|---|
| ツァイガルニク効果 | 中断されたことのほうをよく覚えている | 原典は強い効果を報告したが、メタ分析では再現されていない |
| オフシアンキナ効果 | 中断されたことに、自分から戻って終わらせたくなる | メタ分析でも一貫して確認されている |
| 好奇心の情報ギャップ | 知っていることと知りたいことの差に気づくと、埋めたくなる | ジョージ・ローウェンスタイン(George Loewenstein)が1994年にサイコロジカル・ブレティンで提唱 |
| FOMO | 自分だけが機会を逃すかもしれないと焦る | 未完了ではなく、取り残される不安が動機 |
「続きが気になる」という感覚の正体は、記憶の強さより、閉じたい気持ちの強さだと考えるほうが研究と合っています。FOMOとの違いも大事で、ツァイガルニク型の仕掛けは「途中で止まっている自分」を、FOMOは「置いていかれる自分」を動機にしています。FOMOの使い方と煽りの線引きはFOMOとは?意味と読み方、マーケティングでの使い方と煽りの線引きにまとめました。
実務にとって示唆が大きいのは、E・J・マシカンポ(E. J. Masicampo)とロイ・バウマイスター(Roy F. Baumeister)が2011年にジャーナル・オブ・パーソナリティ・アンド・ソーシャル・サイコロジーで発表した研究です。未完了の目標は関係のない作業中にも頭に浮かんで集中を邪魔しますが、その目標について具体的な計画を書いてもらうだけで、こうした影響が消えたと報告されています。人の頭を占めているのは「終わっていないこと」そのものより、「いつ、どう終わらせるか決まっていないこと」なのかもしれません。
実務での使い方──「続きはWebで」・進捗バー・連載・SNSの冒頭
ツァイガルニク効果を実務で使うときの原則は、未完了を作ることより、相手がそれを自分で終わらせたくなる状態を作ることです。研究で確かめられているのが「戻ってくる傾向」の側である以上、設計の焦点も、戻ってきたときに何が待っているかに置くほうが確実です。
| 場面 | 未完了の置き方 | 戻ってきたときに必要なもの |
|---|---|---|
| テレビCM・交通広告 | 物語や問いを途中で止め、検索語や特設サイトに誘う | CMでは見せきれなかった答えや体験 |
| 会員登録・初期設定 | 進捗バーで残りの手順を見せる | 途中保存と、完了したときの具体的な見返り |
| 連載・メールマガジン | 各回の最後に次の問いを置く | 前回の問いへの答えから始まる構成 |
| SNS投稿 | 冒頭の1〜2行で問い、意外な結論、途中の状況を見せる | 本文の中で冒頭の問いを閉じること |
広告会社にいた頃、テレビCMの最後を検索窓や特設サイトへの案内で締める作りは、定番の一つでした。この形が効くのは、CMの15秒や30秒では語りきれない答えが、本当にその先にあるときです。続きの先がCMと同じ内容の繰り返しだと、人は一度は来てくれても、次の「続きはWebで」には反応しなくなります。未完了で呼び込めるのは一回目までで、二回目以降は続きの中身が呼んでいます。体験の終わり方が次の来訪を左右する話はピークエンドの法則に書きました。
SNS投稿の冒頭の設計も同じ構造です。冒頭の1〜2行で問いを開くと、本文を読んでもらえる確率は上がります。でも、開いた問いを本文の中で閉じないまま終えると、読み手には「釣られた」という感覚だけが残ります。開いた問いは、その投稿の中で必ず閉じる。続きを別の投稿やリンク先に回すなら、ここまでで一つ答えを渡してから次の問いを置く。この順番を守るだけで、引きの強さと信頼は両立できます。読み手が文章を「読まない・信じない・行動しない」三つの壁の考え方は3つのNOTとは?コピーライティングの3つの壁で解説しています。
もう一つの注意点は、未完了が効くのは、相手がその話に関心を持っているときに限られることです。メタ分析の考察でも、作業への入れ込みが効果を左右する条件として挙げられています。興味のない話を途中で止められても、人は戻ってきません。未完了の仕掛けを考える前に、そもそも続きを知りたいと思ってもらえる話になっているかを確かめるのが先です。
日本市場・2026年時点での注意点──「続き」で釣らない
ツァイガルニク型の仕掛けが法律の問題になるのは、続きの先に隠した条件が表示全体の印象と食い違うときや、続きが広告であることを隠したときです。日本では主に景品表示法の有利誤認とステルスマーケティング規制が関わります。
景品表示法は、価格などの取引条件を実際より著しく有利だと誤認させる表示を有利誤認として禁じています(消費者庁「有利誤認とは」)。「無料で続きを読む」と見せて、続きの先でしか有料の条件が分からない作りは、この有利誤認にあたるおそれがあります。考え方と事例は優良誤認と有利誤認の違いとは?景品表示法の事例と課徴金で詳しく整理しました。
連載形式の投稿やタイアップ記事では、2023年10月1日からステルスマーケティングが景品表示法違反になっています(消費者庁「ステルスマーケティング」)。続きものの体験談として投稿しながら、最終回で初めて広告だと分かる作りは、広告であることを隠した表示になりえます。対象と表記の書き方はステマ規制をわかりやすく解説にまとめています。
画面の設計では、心理的な誘導で契約に導く「ダークパターン」への対応が、消費者庁のデジタル取引・特定商取引法等検討会で論点になっています。2026年9月には中間取りまとめに関する意見募集が行われました。「あと1ステップ」と表示しながら手順を足していく進捗バーは、未完了を閉じたい気持ちを事実と違う表示で利用するもので、今後の規律の対象になりうる典型です。
ツァイガルニク効果に関するよくある質問
ツァイガルニク効果の身近な例にはどんなものがありますか?
ドラマが「つづく」で終わると翌週まで気になる、読みかけの本の続きが頭に残る、スマートフォンの未読の印を消したくなる、といった場面がよく例に挙がります。広告では「続きはWebで」のCMや、登録画面の進捗バー、連載の次回予告などです。ただし研究で確かめられているのは、記憶に残ることより、終わらせに戻りたくなる傾向のほうです。
ツァイガルニク効果は嘘だと言われるのは本当ですか?
嘘と言い切るのは言いすぎですが、原典ほど強い効果は再現されていません。2025年のメタ分析では、未完了の作業と完了した作業の思い出しやすさにほとんど差がありませんでした。ただ、中断した作業を再開する傾向は約67%と安定して確認されています。
ツァイガルニク効果は恋愛で使えますか?
連絡をわざと途中で切ると相手の頭から離れなくなる、といった恋愛テクニックとして紹介されることがありますが、研究が扱ってきたのは実験室で出された作業の記憶です。人の関係に当てはめた検証は原典にはなく、記憶の効果そのものも再現が難しいことが分かっています。相手を不安にさせて気を引く使い方は、信頼を削るだけだと思います。
「続きが気になる」心理は何と呼ばれていますか?
一般にはツァイガルニク効果と呼ばれますが、研究に照らすと、中断したことに戻りたくなるオフシアンキナ効果や、知識の空白を埋めたくなる好奇心の情報ギャップのほうが近い説明です。続きが気になるのは、覚えているからというより、閉じたいからです。だから続きの先に答えがあることが、何より大切になります。
おわりに──人は未完了を覚えているのではなく、終わらせに戻ってくる
ツァイガルニク効果は、100年近く「未完了は記憶に残る」という法則として語られてきました。でも数十本の研究を並べ直してみると、残っていたのは記憶の強さではなく、終わらせたいという気持ちのほうでした。この違いは、仕掛けを作る側にとって小さくありません。
未完了を作れば覚えてもらえる、と考えると、話を途中で止めることばかりがうまくなります。終わらせに戻ってきてくれる、と考えると、戻ってきた人に何を渡すかを考えるようになる。続きはWebでも、進捗バーも、連載も、評価されるのはいつも続きのほうです。
続きが気になる仕掛けは、記憶に残す技術ではない。戻ってきたくなる約束。