最終更新:2026年10月12日
STP分析とは、市場を分け(Segmentation)、狙う相手を選び(Targeting)、その相手の頭の中での置き場所を決める(Positioning)という3段の順番で、マーケティング戦略の「誰に・何として」を決めるフレームワークです。フィリップ・コトラーの教科書で定番になりました。結論を先に書くと、STP分析のいちばんの使い道は、企画の会議で「いま誰の話をしているのか」が迷子になっていないかを確かめる検算です。この記事では、3段の一覧表と読み方、出どころ、3C・4P・ペルソナとの違いと順番、架空の例を使ったやり方、「STPは古い」という論点への答えまでまとめました。
STP分析とは?3段の一覧と読み方
STP分析は、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの頭文字をとった言葉で、読み方は「エス・ティー・ピー」です。3つの段階はそれぞれ別の問いに答えていて、前の段の答えが次の段の材料になります。
| 段階 | 英語 | 答える問い | 決めること |
|---|---|---|---|
| S:セグメンテーション | Segmentation | 市場には、どんな「かたまり」があるか | 分ける基準(地理・人口統計・心理・行動など)と、かたまりの一覧 |
| T:ターゲティング | Targeting | そのうち、どのかたまりに向き合うか | 狙う相手と、狙わない相手 |
| P:ポジショニング | Positioning | 選んだ相手の頭の中で、何として覚えてもらうか | 比べられる相手と、選ばれる理由の一言 |
この表で見てほしいのは、3つの段の主語がすべて「選んだ相手」にそろっていることです。セグメンテーションは相手の候補を並べる作業、ターゲティングは相手を一人に近づける作業、ポジショニングはその相手から見た自社の姿を決める作業です。どの段でも、話の中心にいるのは自社ではなく生活者です。
セグメンテーションの変数やターゲティングの評価基準は、それぞれだけで1本の記事になるくらい中身があります。分け方の4つの変数はセグメンテーションとは?4つの変数と例に、狙う相手の選び方と6Rはターゲティングとは?意味と6R・3つの型にまとめました。この記事ではそこには深入りせず、3段をつなげて使うときの順番と、つなぎ目で起きる失敗に絞って書きます。
STP分析の出どころ──コトラーのR-STP-MM-I-C
STP分析を3段の流れとして体系にしたのは、マーケティング学者のフィリップ・コトラー(Philip Kotler)です。コトラーは、調査から管理までのマーケティングの手順を「R-STP-MM-I-C」という一本の流れで示し、STPをその中心に置きました。
R-STP-MM-I-Cは、リサーチ(R)、STP、マーケティング・ミックス(MM、いわゆる4P)、実行(I)、管理(C)の順番を表します。日本語で読める本では、ダイヤモンド社から2000年に出た「コトラーの戦略的マーケティング」がこの流れを扱っています。この並びから分かるのは、STPが「調べた後、4Pを決める前」に置かれていることです。STPを飛ばして4Pに入ると、誰に向けた価格なのか、誰に届ける広告なのかが決まらないまま手段だけが増えていきます。
3つの段の部品は、もともと別々の場所で生まれました。市場セグメンテーションは、ウェンデル・スミス(Wendell R. Smith)が1956年に Journal of Marketing に発表した論文で示した考え方とされています。ポジショニングは、ジャック・トラウト(Jack Trout)とアル・ライズ(Al Ries)が広告業界誌で唱え、1981年の著書で広めた言葉です。コトラーはこうした部品を、順番のある一つの手順に組み立てました。
ただ、「STP」という3文字の並びを最初に使ったのが誰なのかは、ぼくが確認できた範囲でははっきりしませんでした。コトラーが提唱者として紹介されることが多いのは、この手順を教科書で広めたのがコトラーだからです。言葉の誕生日にこだわるより、3段の順番に意味がある道具として受け取るのが実態に近いと思います。
3C・4P・ペルソナとの違いと順番
STP分析は、3Cの後、4Pの前に使うフレームワークです。3Cで市場と競合と自社の状況を見て、STPで「誰に・何として」を決め、4Pで具体的な打ち手に落とす。この順番を押さえておくと、フレームワーク同士の役割の重なりで迷わなくなります。
| フレームワーク | 見るもの | STPとの関係 |
|---|---|---|
| 3C分析 | 市場・顧客、競合、自社の状況 | STPの前に使う。分けるための材料と、勝てそうな場所の見当をつける |
| STP分析 | 誰に向き合い、何として覚えてもらうか | 戦略の中心。ここで決めた相手が、後ろの判断すべての主語になる |
| 4P(マーケティング・ミックス) | 製品・価格・流通・販促 | STPの後に使う。決めた相手とポジションに合わせて打ち手をそろえる |
| ペルソナ | 狙う相手を一人の人物として描いたもの | ターゲティングの結果を、チームで共有できる顔にする道具 |
よく聞かれるのが「STPと4Pはどちらが先か」です。答えはSTPが先です。4Pは売る側が決める4つの要素なので、誰に売るかが決まっていないと、どの要素も決めようがありません。価格ひとつとっても、学生に向けるのか、経費で買う会社員に向けるのかで、正解が変わります。
ペルソナとの関係も混同されやすいところです。ターゲットは「この条件にあてはまるかたまり」、ペルソナは「そのかたまりを代表する一人」です。ペルソナを物語の主役として扱う考え方はペルソナキャスティングとはにまとめています。ポジショニングで決める「選ばれる理由の一言」は、USPとは?マーケティングでの意味と作り方で書いた、その商品だけが言える売りと地続きです。
STP分析のやり方と例──「誰の話か」を検算する
STP分析のやり方は、「目的を決める→分ける→選ぶ→置き場所を一言で書く→主語がそろっているか確かめる」の5段階です。最後の確かめの段を入れるかどうかで、STPが資料の飾りで終わるか、判断の道具になるかが分かれます。
ここでは、手づくりのグラノーラを通販で売っている小さなお店という架空の例で考えます。人数や売上の数字は出さず、考え方の流れだけを見てください。
| 段階 | 架空の例での答え | 検算の問い |
|---|---|---|
| S:分ける | 「朝食を手早く済ませたい人」「おやつを体にいいものに変えたい人」「贈り物を探している人」に分かれる | かたまりごとに、打ち手が変わるか |
| T:選ぶ | 「おやつを体にいいものに変えたい人」に絞る。贈り物需要は追わない | 選ばなかった相手を、言葉にして書けるか |
| P:置き場所を決める | スナック菓子と比べられる棚で、「罪悪感のないおやつ」として覚えてもらう | 比べられる相手は、生活者が実際に迷う相手か |
この例でいちばん効いているのは、Pの段で比べられる相手が「他社のグラノーラ」から「スナック菓子」に変わったことです。朝食の棚に置けば、比べられるのは食パンやシリアルになります。おやつの棚に置けば、比べられるのはポテトチップスやチョコレートです。同じ商品でも、どの相手を選んだかで、戦う棚がまるごと変わります。STPの3段は、この一連の判断を順番どおりに並べたものです。
そして5段目の確かめです。ぼくが広告会社にいた頃、長い会議の途中で話の主語がずれていく場面を何度も見てきました。最初は「おやつを変えたい人」の話をしていたのに、いつのまにか「せっかくなら朝食需要も」「贈り物にも使えるように」と、別のかたまりの要望が混ざってくる。一つひとつはもっともらしいので、誰も止めません。その結果、全員の意見を入れた企画は、誰に向けた話なのか分からないものになります。
だからぼくは、STPを「最初に一度つくる資料」ではなく、会議の途中で何度も戻る基準として使うのがいいと思っています。新しい案が出たら「それはTで選んだ相手の話か」と一度だけ問う。違うなら、その案は捨てるか、別の企画として切り出す。これだけで、議論が広がりすぎるのを防げます。
BtoBの現場では、この主語のずれがもっと起きやすくなります。使う人・選ぶ人・お金を出す人が別々のことが多く、「誰に」を決めないまま資料をつくると、現場向けの説明と決裁者向けの説明が一枚の中で混ざってしまいます。STPの「T」を、会社単位ではなく「その会社の中の誰か」まで下ろして決めておくと、メッセージがぶれにくくなります。
小さな会社や個人の事業ほど、このTの判断は効きます。資源が限られている側が狙う相手を絞って一点に集中する考え方は、ランチェスター戦略の弱者の戦略5原則とも重なります。
STP分析は古い?2026年に使うときの注意点
STP分析は古くなったわけではありません。ただし2026年の時点で使うなら、「ターゲットを絞る」と「売る相手を絞る」を分けて考える必要があります。ここを混同すると、STPは役に立たないという結論に引っぱられます。
「ターゲットを絞るな」という議論の代表が、バイロン・シャープ(Byron Sharp)の「ブランディングの科学」(朝日新聞出版)です。売上を伸ばすには、ロイヤルな少数より、そのカテゴリーを買う幅広い人に思い出してもらうことが大事だ、という主張です。この考え方はメンタルアベイラビリティとは?意味とCEPで詳しく書いています。
この議論とSTPは、ぼくの見方では両立します。シャープが否定しているのは「買ってくれる相手を一部の人だけに限ること」で、STPで決めるのは「企画を考えるときに、誰の頭の中を想像するか」です。設計の主語を一人に絞ることと、届ける範囲を広く取ることは、別の判断です。広く届けたいからこそ、どんな場面で思い出してほしいかを具体的な一人で考える。そう整理すると、STPは2026年でも十分に使えます。
もう一つの注意点は、デジタル広告のターゲティング機能とSTPのターゲティングを同じものだと思わないことです。広告の管理画面で年齢や興味関心を選ぶのは配信の設定で、STPのTは戦略の判断です。配信の設定を細かくしても、戦略の「誰に」が決まっていなければ、細かく分けた配信先のどこにも響かない広告ができあがります。
STP分析に関するよくある質問
STP分析は何の略で、何と読みますか?
Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字をとった略で、「エス・ティー・ピー」と読みます。市場を分け、狙う相手を選び、その相手の頭の中での置き場所を決める、という3段の順番を表しています。
STP分析と4Pはどちらを先にやりますか?
STP分析が先です。4Pは製品・価格・流通・販促という売る側が決める要素なので、誰に向けて決めるのかが先に決まっていないと判断できません。コトラーの示したR-STP-MM-I-Cの流れでも、STPはマーケティング・ミックス(4P)の前に置かれています。
STP分析と3C分析の違いは何ですか?
3C分析は市場・競合・自社の状況を把握するための分析で、STP分析はその材料を使って「誰に・何として」を決めるための手順です。3Cが現状の地図づくり、STPが地図の上で行き先を決める作業と考えると分かりやすいと思います。順番としては3Cの後にSTPを使います。
STP分析は小さな会社や個人でも使えますか?
使えます。むしろ資源が限られている小さな事業ほど、狙う相手を絞るTの判断が効きます。大がかりな調査がなくても、「選んだ相手」と「選ばなかった相手」をそれぞれ一行で書けるかどうかを確かめるだけで、企画の主語がぶれにくくなります。
おわりに──企画がぶれるのではない、主語が迷子になっているだけ
STP分析は、市場をきれいに分けて資料を整えるための道具ではありません。企画の主語を一人に戻すための検算です。会議の途中で案が増えていくとき、価格や広告の議論が噛み合わないとき、たいていは打ち手が悪いのではなく、それぞれが別の人を思い浮かべて話しています。
企画がぶれるのではない。主語が迷子になっているだけ。
だからSTPは、最初に一度つくって終わりにせず、迷ったら何度でも戻る場所として手元に置いておくのがいいと思います。「いま、誰の話をしていますか」と一度だけ問う習慣が、どんなフレームワークよりも企画を守ってくれる気がしています。