最終更新:2026年10月12日
ポジショニングとは、生活者の頭の中で、自社の商品を「どの棚」に置いてもらい、その棚の中でどの位置を取るかを決める設計のことです。マーケティングの基本用語で、アル・ライズとジャック・トラウトが1969年から1981年にかけて広めました。結論から言えば、ポジショニングは競合を見て決めるものではなく、生活者が実際に何と比べているかを見て決めるものです。この記事では意味と出典、差別化やUSPとの違い、ポジショニングマップの作り方と軸の決め方、2026年に使うときの注意点まで順に書きます。
ポジショニングとは?マーケティングでの意味と4つの問い
ポジショニングとは、商品そのものを変えることではなく、生活者の頭の中での置かれ方を決めることです。同じ商品でも、何の棚に並べられるかで、比べられる相手も、払ってもらえる値段も変わります。
検索すると看護や介護の「ポジショニング」(体位を整えること)も出てきますが、この記事で扱うのはマーケティングの意味だけです。マーケティングのポジショニングは、次の4つの問いに答えると形になります。
| 問い | 決めること | 答えの例(架空の夜営業ジム) |
|---|---|---|
| 誰の頭の中か | 置いてもらう相手 | 平日21時すぎに仕事が終わる会社員 |
| 何と比べられているか | 棚(比較対象のまとまり) | 他のジムではなく「帰って寝る」「動画を見ながら宅トレ」 |
| その棚で何の一番か | 位置 | 帰り道に寄れて、30分で汗をかいて帰れる場所 |
| なぜそう言えるか | 根拠 | 駅の改札から2分、着替えを置いておけるロッカー |
大事なのは2行目です。ポジショニングの失敗の多くは、3行目の「何の一番か」を考える前に、2行目の棚を取り違えていることから起きます。上の例で、ジムが比べられている相手を近所の他のジムだと思い込むと、マシンの台数や月額の安さで勝負することになります。でも平日夜の会社員が実際に迷っているのは、「今日は行くか、帰って寝るか」です。そこで勝つための言葉は、マシンの台数ではありません。
だからポジショニングは、自社の強みのリストから始めるより、生活者が代わりに選んでいるものの観察から始めたほうが外れにくいと思います。棚が決まれば、その棚の中で取るべき位置は、かなり自然に見えてきます。
出典──アル・ライズとジャック・トラウトの「ポジショニング戦略」
ポジショニングという考え方を広めたのは、米国の広告人アル・ライズ(Al Ries)とジャック・トラウト(Jack Trout)です。トラウトが1969年に業界誌Industrial Marketingへ寄稿した記事が出発点とされ、1972年に二人がAdvertising Age誌で連載し、1981年に書籍「Positioning: The Battle for Your Mind」(McGraw-Hill)にまとめました。
日本語版は「ポジショニング戦略[新版]」として海と月社から出ていて、フィリップ・コトラーが序文を寄せています。二人の主張の芯は、ポジショニングは商品に対して行うものではなく、見込み客の頭の中に対して行うものだ、という一点です。情報があふれる社会では、人の頭は新しい情報を受け入れる余地が小さい。だから新しい棚を作らせようとするより、すでに頭の中にある棚との関係で自分の位置を決めるほうが早い、という考え方です。
二番手が「一番ではないこと」を逆手に取る位置取りや、一番の座が埋まっている棚から離れて新しい棚の一番を名乗る位置取りは、この本で広く知られるようになりました。
ただ、出自には少し注意が必要です。英語圏の研究者のあいだでは、ライズとトラウトは概念を発明したというより、それ以前からあった考え方を言葉にして看板にした、という見方もあります。1950年代のデイヴィッド・オグルヴィ(David Ogilvy)の仕事にすでに同じ発想が見られる、という指摘もあります。「ポジショニングの生みの親」と断定するより、「ポジショニングという言葉を定着させた二人」と書くのが実態に近いと思います。
ポジショニングと差別化・USP・STPの違い
ポジショニングと差別化の違いは、どこを見ているかの違いです。差別化は商品の中にある違いを作ることで、ポジショニングはその違いが生活者の頭の中でどの棚のどこに置かれるかを決めることです。
| 用語 | 答える問い | 見ている場所 |
|---|---|---|
| ポジショニング | 生活者の頭の中で、何の棚のどこに置かれるか | 生活者の頭の中 |
| 差別化 | 他の選択肢と、何がどう違うか | 商品・サービスの中 |
| USP | なぜ今、ほかではなくこれを買うのか(一行の約束) | 買う理由の言葉 |
| セグメンテーション・ターゲティング | 市場をどう分け、どこを狙うか | 市場の分け方 |
| ブランディング | 決めた位置を、接点すべてで一貫させ続けられるか | 時間の積み重ね |
差別化できていても、その違いが生活者の比べている棚と関係なければ、ポジショニングにはなりません。夜営業ジムのマシンが最新でも、「帰って寝る」と迷っている人の判断には効かない、というのがその例です。
USPとの関係は、順番で考えるとわかりやすいです。ポジショニングで棚と位置を決め、その位置を一行の約束に言い切ったものがUSPになります。USPの3つの条件と作り方はUSPとは?マーケティングでの意味と作り方を3つの検査で解説で詳しく書きました。USPの手前で「求められている」「自社ができる」「競合ができない」の重なりを確かめるなら、バリュープロポジションの3つの円が使えます。そもそも頭の中の候補に入っていなければ、位置を争う以前の話になります。候補に入る仕組みはエボークトセット(想起集合)とは?意味と純粋想起・助成想起の違いにまとめています。
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の中では、ポジショニングは最後の段です。市場の分け方や狙い方の各論はこの記事では深追いしませんが、一つだけ書いておくと、狙う相手が決まらないと棚も決まりません。誰の頭の中の話なのかが曖昧なまま作ったマップは、たいてい社内の誰かの頭の中を描いています。
ポジショニングマップの作り方──軸は生活者の比較対象から決める
ポジショニングマップの作り方で一番大事なのは、軸を自社の得意から選ばず、生活者が比べるときに実際に使っている基準から選ぶことです。マップは自社の居場所を探す道具ではなく、生活者の頭の中の地図を写し取る道具です。
手順は次の5段階です。
| 手順 | やること | 検算の問い |
|---|---|---|
| 1. 比較対象を集める | 「それを買わなかったら、代わりに何をしたか」を聞き、出てきた選択肢を並べる | 同業他社だけで埋まっていないか |
| 2. 選ぶ基準を拾う | 比較対象の中から一つを選んだ理由を、生活者の言葉で書き出す | 社内用語やスペック名になっていないか |
| 3. 軸を2本選ぶ | 基準の中から、互いに独立していて、選択を左右する2本を選ぶ | 片方の軸がもう片方の言い換えになっていないか |
| 4. 置く | 比較対象を、生活者の受け止め方に沿って配置する | 自社の願望で位置をずらしていないか |
| 5. 空白を疑う | 誰もいない場所を見つけたら、なぜ空いているかを調べる | その場所に、本当に欲しい人がいるか |
いちばん多い失敗は、軸が自社都合になることです。たとえば「品質の高さ×価格の安さ」のマップを描くと、どの会社も自分を「高品質で手頃」の右上に置きます。どの会社が描いても同じ絵になるマップは、何も決めていません。自社の技術の名前を軸にするのも同じ失敗で、生活者がその言葉で比べていなければ、マップの上の差は頭の中の差になりません。
2つ目の失敗は、空白を需要だと思い込むことです。マップに空いている場所があると、つい「ここが狙い目」と言いたくなります。でも空白には、欲しい人がいないから空いている空白もあります。手順5で「なぜ空いているのか」を一度疑うだけで、この事故はかなり減ります。
用語集にぼくが書いた使いどころの一行は、「競合ではなく、生活者の比較対象を見て決める」です。博報堂でTVCMやWEBの統合キャンペーンを作っていたころ、オリエン資料の「競合」の欄は、ほとんどの場合同じ業界の会社名で埋まっていました。それ自体は間違いではありません。でも企画を詰めていくと、生活者が実際に迷っている相手は別のカテゴリにいる、ということがよくありました。お菓子が比べられている相手は他社のお菓子だけではなく、同じ棚の飲み物や、スマホを触って過ごす数分間だったりします。
独立してから自分で有料の記事を売っていても、同じことを感じます。比べられているのは他の有料記事より、書店の新書や無料の動画、そして「今日は読まない」という選択のほうです。競合の欄に書く名前を変えるだけで、勝つための言葉が変わります。
だからマップを描く前に、手順1だけは省かないでほしいと思います。比較対象の並びを見れば、自社がどの棚に置かれているかは半分わかります。具体例として、同じ夏フェスでも立地の違いが客層を分けた話は、フジロックとサマソニは、なぜ客層が分かれたのかに書きました。マップの軸に「雑さをどこまで許せるか」を置くと、2つのフェスの位置がはっきり分かれます。
ポジショニングは古い?2026年に使うときの注意点
ポジショニングは古い考え方ではありません。古くなったのは、マップの上で差をつければ頭の中でも差がつく、という楽観のほうです。
「ポジショニングは古い」という声の背景には、バイロン・シャープ(Byron Sharp)の「How Brands Grow」(2010年、日本語版は「ブランディングの科学」)の影響があると思います。シャープは、生活者はブランドの違いをそれほど意識しておらず、差別化より思い出されやすさと見分けやすさが大事だと主張しました。詳しくはメンタルアベイラビリティとは?意味とCEP・実務での高め方で書いています。
ぼくはこれを、ポジショニングの否定ではなく、棚の取り方の修正だと受け止めています。生活者が細かな違いを覚えていないなら、なおさら位置は単純でないと残りません。「何の棚の、何の一番か」を一言で言えない位置取りは、思い出される前に消えてしまいます。シャープの指摘は、位置取りを細かく作り込みすぎることへの警告として読むと、実務で使いやすくなります。
2026年の時点で付け加えるなら、比較対象が人の頭の中だけで決まらなくなった点です。AI検索や比較サイトで「◯◯ おすすめ」と尋ねると、候補はあらかじめ並べられた形で出てきます。その並びに入っていなければ、そもそも比べてもらえません。並べられたときに一言で違いがわかる位置を取っているかどうかが、以前より問われるようになったと感じます。
もう一つは、棚は動くということです。生活者の暮らし方が変わると、比べる相手も変わります。だから一度決めたポジショニングも、年に一度くらいは「いま生活者は、代わりに何を選んでいるか」を聞き直すのがちょうどいいと思います。
ポジショニングに関するよくある質問
ポジショニングとは簡単に言うと何ですか?
生活者の頭の中で、自社の商品を「どの棚」に置いてもらい、その棚でどの位置を取るかを決めることです。商品そのものを変えるのではなく、置かれ方を決めます。1969年から1981年にかけて、アル・ライズとジャック・トラウトが広めました。
ポジショニングマップの軸はどう決めればいいですか?
生活者が実際に比べるときに使っている基準から選びます。「それを買わなかったら代わりに何をしたか」を聞き、選んだ理由を生活者の言葉で集めてから、互いに独立した2本を選ぶのが手順です。「品質×価格」のように、どの会社が描いても自分が右上に来る軸は避けたほうがいいと思います。
ポジショニングと差別化の違いは何ですか?
差別化は商品の中に違いを作ることで、ポジショニングはその違いが生活者の頭の中でどこに置かれるかを決めることです。差別化できていても、生活者が比べている相手と関係のない違いなら、位置取りにはなりません。見ている場所が、商品の中か生活者の頭の中かで分かれます。
リポジショニングとは何ですか?
すでに生活者の頭の中にある位置を、別の位置に置き直すことです。比べられる相手が変わったときや、今の棚で勝ち目がなくなったときに検討します。頭の中の位置は一度できると動きにくいので、商品を変えるより時間がかかることが多いです。
おわりに──場所を取るのではなく、比べられ方を選ぶ
ポジショニングというと、マップの空白を見つけて旗を立てる作業を思い浮かべがちです。でも旗を立てる場所は、こちらの地図ではなく、生活者の頭の中にしかありません。そしてその頭の中では、競合の欄に書いた会社名とは別の相手と、毎日比べられています。
ポジショニングとは、場所を取ることではありません。比べられ方を選ぶことです。
競合の欄を埋める前に、生活者が代わりに選んでいるものを一つ書き出してみる。そこから始めるだけで、マップの軸も、言うべき一行も変わってくると思います。もし自社の棚が見えなくなったら、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で一緒に考えようと思います。