マーケの目

フジロックとサマソニは、なぜ客層が分かれたのか|同じ夏フェスでブランドが違う理由

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フジロックとサマソニの客層を分けたのは、音楽ではなく「立地」だった

フジロックとサマーソニックは、どちらも日本を代表する夏フェスです。出演するアーティストも一部は重なります。それなのに、行く人の顔ぶれははっきり分かれます。

結論から書きます。2つを分けているのは音楽ではなく、立地です。そして立地の違いが「どこまでの不便を許せるか」という選別装置になり、その結果として客層が分かれました。ブランドは提供するもので決まると思われがちですが、この2つを並べると逆のことが見えます。ブランドは、何を我慢してもらうかで決まっています

ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年、生活者とブランドの関係づくりを仕事にしてきました。先日フジロックはなぜ毎年行きたくなるのかという記事を書きましたが、今回はその続編として、対になるサマソニと並べて考えます。ポジショニングの話として、これほど教材になる組み合わせもそうありません。

フジロックとサマソニは、どこが違うのか

フジロックとサマソニの違いは、会場が「山の中」か「駅から徒歩圏」かに集約されます。そこから、滞在日数・宿泊の要否・会場内の移動距離まで、体験のほぼ全部が枝分かれしていきます。まず事実を並べます。2026年の開催情報です。

フジロック サマーソニック
会場 苗場スキー場(新潟県湯沢町) 東京=ZOZOマリンスタジアム+幕張メッセ/大阪=万博記念公園
時期 7月末 8月14〜16日
アクセス 東京から新幹線とバスで約3時間 海浜幕張駅から徒歩7〜15分
宿泊 キャンプまたは近隣の宿。会場に籠る 日帰りできる。都市のホテルも使える
会場内の移動 山道を歩く。奥のステージまで片道40分以上 スタジアムと屋内展示場。空調のある場所がある
参加の単位 3日間の滞在が前提になりやすい 1日だけ選んで参加できる

サマソニ2026は公式サイトによれば東京会場が8月14日から16日、開場9時・開演11時。ヘッドライナーはAdo、ラルク・アン・シエル、ザ・ストロークスの3組で、今年は25周年のアニバーサリーイヤーにあたります。チケットは東京の1日券が21,000円、3日券が59,000円、大阪の1日券が19,000円です(開催情報・価格は2026年8月1日時点のものです)。

並べてみると、音楽の話が1行も出てきません。違いのほとんどが、体の置き場所の話です

分かれ目は「雑さの許容度」にある

この2つを行き来している人ならすぐ分かると思いますが、決定的な差は快適さではなく、雑さをどこまで受け入れられるかにあります。

フジロックの3日間には、計画どおりにいかないことが大量に起こります。雨が降れば足元は泥になる。目当てのアーティストを観るために山道を40分歩き、着いたら人が多すぎて後ろから眺めることになる。トイレは並ぶ。電波も万全ではない。この「思いどおりにならなさ」ごと楽しめる人だけが残ります

サマソニは逆です。駅から歩いて7分、屋内なら空調があり、終わったら電車で帰れる。翌日は普通に仕事ができる。予定に組み込める形をしています。1日だけ参加して、目当てを観て帰るという使い方が成立する。

ここで大事なのは、どちらが優れているかではありません。受け入れられる雑さの量は、その人が何を求めて行くかで変わります。翌日に外せない仕事がある時期、体力に自信がない時期。そういうときにフジロックは選びにくく、サマソニは選べる。逆に、日常から完全に切り離された時間が欲しい人には、駅から7分では足りません。

客層が分かれたというより、それぞれの装置が、それぞれに耐えられる人を選び続けた結果だと思っています。

ぼくがフジロックに息子を連れていく理由

ここは一般論ではなく、自分の話を書きます。

ぼくは息子が3歳の頃から、毎年フジロックに行っています。小さい子どもがいるならサマソニのほうが向いている、と普通は考えるところです。移動が短く、日帰りができて、空調のある場所がある。条件だけ並べれば、答えははっきりしています。それでも苗場を選び続けているのは、あの3日間で起きることが、他で代替できないからです。

ぼくにとってフジロックは、アーティストを観に行く場所ではありません。自然の中で、音楽に身を委ねる体験をしに行く場所です。誰が出るかを調べる前に、今年も行くことが決まっている。山の音と、風と、遠くから流れてくる音楽。その中にただ座っている時間が目的になっています。

そして毎年、不思議なことが起こります。フジロックのあと、息子との遊びが楽しくなる。何かを教えたわけでも、特別なイベントをこなしたわけでもありません。ただ一緒に山にいて、同じ音を聴いて、時間を持て余しただけです。それなのに、帰ってきてからの日常の遊びの手触りが変わっている。

たぶん、あの3日間には効率が入り込む隙がありません。移動に時間がかかり、思いどおりに動けず、待つ時間が大量にある。その「持て余し」が、親子のあいだに何かを作っている気がします。タイパの正体という記事にも書きましたが、時間を測られない時間にしか生まれないものが、確かにあります。

だから、雑さの許容度は年齢や家族構成では決まらないのだと思っています。決めているのは、そこで何を受け取っているかのほうです。

不便は、コミュニティの濃度を守る装置になる

フジロックの記事でも書いたことですが、不便には副産物があります。選別機能です。

気軽に行けない場所には、それでも行きたい人しか来ません。3時間かけて山に入り、雨に濡れる覚悟をしてきた人ばかりが集まると、その場の空気は自然と揃います。フジロックが「世界一クリーンなフェス」と呼ばれ、観客の質が語られるのは、この選別が効いているからです。

サマソニは、入口を広く取っています。都市型で、1日から参加できて、日帰りできる。だから初めての人が入ってきやすい。フェスに行ったことがない人の最初の1回になりやすいのは、明らかにサマソニのほうです。

ここはトレードオフです。入口を広げれば新しい人が入り、狭めれば濃度が上がる。両方は取れません。2つのフェスは、その反対側をそれぞれ選び切っています。

ライバルがいることで、市場が広がった

この2つが近い時期に生まれているのは、偶然ではないと思っています。フジロックが1997年、サマソニが2000年。日本の夏フェス市場は、この2つがそれぞれ違う方向に振り切ったことで、面として広がりました。

もしフジロックだけだったら、夏フェスは「体力と覚悟のある人の趣味」のままだったはずです。もしサマソニだけだったら、都市のイベントのひとつで終わっていたかもしれません。両極があることで、そのあいだのどこかに自分の居場所を見つけられる人が増えました

この構造はGLAYとラルクはなぜ、同時に売れて、今も続いているのかで書いた話とまったく同じです。似た者どうしが潰し合うのではなく、対極に立つことでカテゴリーそのものを大きくする。市場が育つときは、だいたいこの形をしています。

マーケターがここから持ち帰れること

この2つのフェスから持ち帰れる原則は一つです。ポジショニングは「何を提供するか」ではなく、「何を我慢してもらうか」で決まります

ポジショニングを考えるとき、ぼくたちはつい提供物から始めます。機能、価格、体験。でもこの2つを並べると、差がついているのはそこではありませんでした。

  • フジロックが我慢させるもの:移動時間、天候、体力、日常からの切断
  • サマソニが我慢させるもの:非日常感の薄さ、都市の生活音、翌日への地続き感

そして面白いのは、我慢させているものが、そのままブランドの中身になっていることです。フジロックは移動と天候を我慢させるからこそ「帰る場所」になり、サマソニは非日常感を諦めさせるからこそ「行きやすさ」を手に入れました。

だから商品を設計するとき、こう問い直せると思います。この商品を選んだ人は、何を諦めることになるのか。そこが曖昧なままだと、誰にとっても中途半端になります。全部を良くしようとした瞬間、選ぶ理由が消えるからです。

捨てるものを決めるのは怖い作業です。ぼくも提案の場で機能を削る案を出すときは、いまだに少し緊張します。でも、捨てたものの形が、そのままブランドの輪郭になる。差別化を置く場所の話にも書きましたが、差別化は足し算ではなく、引き算の位置を決めることだと思っています。

よくある質問

フジロックとサマソニは、結局どこが違うのですか

いちばんの違いは立地と、そこから生まれる「不便の量」です。フジロックは新潟県湯沢町の苗場スキー場で開かれ、東京から新幹線とバスで約3時間、会場内も山道を歩きます。サマソニは海浜幕張駅から徒歩7〜15分の都市型で、日帰りができます。この差が「どこまでの不便を許せる人か」という選別装置として働き、客層を分けました。出演アーティストの傾向より、体の置き場所の違いのほうが大きく効いています。

初めて夏フェスに行くなら、どちらがいいですか

翌日に予定があるならサマソニ、フェスそのものを体験したいならフジロックだと思います。サマソニは1日から参加できて日帰りもできるので、合わなかったときの損失が小さい。フジロックは3日間の滞在が前提になりやすく、初回のハードルは高い代わりに、記憶の残り方が違います。

子ども連れでも行けますか

行けます。ぼくは息子が3歳の頃から毎年フジロックに連れていっています。条件だけを比べればサマソニのほうが向いているのは確かで、移動が短く日帰りもできます。ただ、子連れで山に入ることの価値は、快適さの計算とは別のところにあります。移動や待ち時間で持て余す時間そのものが、親子で過ごす中身になるからです。無理のない計画と、雨具・防寒の準備は前提になります。

出演アーティストは重なりますか

年によって一部重なります。海外アーティストの来日時期が夏に集中するためです。ただ、選ばれる理由はラインナップだけでは決まっていません。同じアーティストが出ていても、山で観るのと都市で観るのでは体験が別物になります。

サマソニ2026はいつ、どこで開催されますか

2026年8月14日から16日の3日間です。東京会場はZOZOマリンスタジアムと幕張メッセ、大阪会場は万博記念公園。東京会場の最寄りは海浜幕張駅で、幕張メッセまで徒歩7分、ZOZOマリンスタジアムまで徒歩15分です。開場は9時、開演は11時と公式に案内されています。今年は25周年にあたり、ヘッドライナーはAdo、ラルク・アン・シエル、ザ・ストロークスの3組です。

どちらのほうが集客は多いのですか

単純比較は難しいところです。フジロックは2025年に3日間で延べ12万2,000人が来場していますが、サマソニは東京と大阪の2都市開催で、数え方の前提が違います。規模の大小より、それぞれが違う客層を掴んでいることのほうが、この記事の主題としては本質だと考えています。

おわりに

同じ夏に、同じような音楽が鳴っていて、それでも行く人が違う。この現象を眺めていると、ブランドというものが何でできているのかが、少しはっきりします。

提供する価値ではなく、引き受けてもらう不便。ブランドの個性は、たぶんそちら側に宿ります。

山で泥だらけになる3日間と、駅から7分で帰れる1日。どちらを選ぶかは、その人が今、何を諦められるかの表明でもあるのだと思います。

ぼくは今年も、息子と苗場にいました。諦めたものの分だけ、受け取っているものがある。そう思える場所を持てたことは、たぶん幸運なことです。

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