結論から書きます。プロセスエコノミーとは、完成した商品ではなく、それを作る過程そのものに価値を見出し、収益につなげる考え方です。できあがったものを売るのが当たり前だった時代に、まだ完成していない途中の姿にこそ人が惹かれる、という逆転が起きています。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年、生活者の行動を見てきました。この言葉は、実業家のけんすう(古川健介)さんが生み出した造語です。マーケティングの現場にいる人間として、なぜこの発想がいま効くのかを、仕組みから整理します。
プロセスエコノミーとは何か
プロセスエコノミーとは、完成品という結果ではなく、それができるまでの過程を見せ、その過程に人を巻き込み、収益化する仕組みです。従来の、完成したものだけを売る考え方は、これに対してアウトプットエコノミーと呼ばれます。
身近な例で言うと、アニメや映画のメイキング映像、組み立てを楽しむプラモデル、そして育てる過程そのものが面白いゲーム。どれも、完成した結果より、そこに至る道のりのほうを、人が味わっています。プラモデルは、完成品が欲しいだけなら買う必要はありません。作る時間を買っているのです。
なぜいま、過程に価値が生まれるのか
過程が売れるようになった理由は、三つあります。
ひとつめは、完成品で差がつかなくなったことです。モノの品質が全体に上がり、どれを選んでも大きく外さない時代になりました。機能や品質で差別化しきれないとき、人は「誰が、どんな思いで、どう作ったか」という過程に目を向けます。差がつくのは、結果ではなく物語のほうになりました。
ふたつめは、応援したいという気持ちが、消費の動機になったことです。途中から見ていると、人は自然にその挑戦を応援したくなります。完成を一緒に見届けたい、という気持ちが、財布を開かせます。とくに、まだ無名の作り手が這い上がっていく過程には、強い引力があります。この応援消費は、いまの消費の大きな流れのひとつです。
みっつめは、過程を発信する手段が、誰の手にもあることです。SNSやライブ配信で、作る様子をそのまま届けられるようになりました。かつては完成品しか世に出せなかったものが、いまは途中経過そのものをコンテンツにできます。この技術的な下地が、プロセスエコノミーを可能にしました。人が自ら語り出す構造については、ファンエコノミーの記事にも書きました。
過程を見せることの、本当の効き目
けんすうさんは、プロセスエコノミーの本質を二つ挙げています。ぼくの言葉で補いながら紹介します。
ひとつは、過程を見せること自体が、宣伝になることです。完成してから広告を打つより、作っている最中から見てもらうほうが、はるかに深く届きます。途中から見ている人は、完成する頃にはもう当事者です。買う前から、その物語に参加している。これは、あとから広告費で買う認知とは、質が違います。
もうひとつは、完成を待たずに収益を得られることです。完成品を売るまで一円も入らないのが従来のやり方でした。過程を売れれば、作っている最中からお金が回り始めます。これは、使える予算そのものを変える力を持ちます。応援してくれる人がいるから、より良いものを作れる、という循環が生まれます。
ただし、過程を見せれば売れるわけではない
逆のことも、正直に書いておきます。過程を垂れ流せば人が集まる、というものではありません。ここを勘違いすると、うまくいきません。
人が応援したくなるのは、そこに向かう目的地と、越えるべき困難が見えているときです。ただの作業風景は、物語になりません。何を目指し、いま何に苦しんでいて、それをどう乗り越えようとしているのか。その筋書きが伝わって初めて、過程は応援したくなる物語に変わります。
もうひとつ、過程を見せることは、失敗も見せることです。うまくいかない姿まで含めて開くから、人は本物だと感じます。いいところだけを切り取った過程は、すぐに演出だと見抜かれます。作り込まない正直さが要る、という点は、BeRealの記事で書いた、盛らないことの価値ともつながります。
よくある質問
プロセスエコノミーとは何ですか
完成した商品ではなく、それができるまでの過程に価値を見出し、収益につなげる考え方です。実業家のけんすう氏による造語で、完成品を売る従来のアウトプットエコノミーと対比されます。メイキング映像やプラモデル、育てる過程を楽しむゲームなどが代表例です。
なぜいまプロセスエコノミーが注目されているのですか
完成品の品質で差がつきにくくなり、誰がどんな思いで作ったかという物語に価値が移ったこと、途中から見た人が応援したくなる応援消費が広がったこと、そしてSNSやライブ配信で過程をそのまま発信できるようになったこと。この三つが重なったためです。
プロセスエコノミーは、どんなビジネスで使えますか
ものづくり、クリエイティブ、店舗の立ち上げ、商品開発など、完成までに時間がかかるものと相性が良いです。規模は問いません。むしろ小さな事業や個人のほうが、作り手の顔と物語が見えやすく、応援を集めやすい面があります。目的地と困難が伝わる筋書きを描けるかが鍵です。
プロセスエコノミーで失敗しないために気をつけることは何ですか
過程をただ垂れ流さないことです。人が応援するのは、目指す先と越えるべき困難が見えているときで、単なる作業風景は物語になりません。また、うまくいかない姿まで正直に見せることが信頼を生みます。いいところだけを切り取った過程は、演出だと見抜かれてしまいます。
まとめ
プロセスエコノミーとは、完成品という結果ではなく、そこに至る過程を価値に変える考え方です。品質で差がつかない時代に、人は「どう作られたか」という物語にお金を払うようになりました。過程を見せることは宣伝になり、完成を待たずに収益を生み、応援の循環を作ります。
ただし、過程は見せれば売れるものではありません。目的地と困難が見える筋書きと、失敗まで開く正直さがあって初めて、過程は応援したくなる物語になります。売るのは、まだ完成していない未来を、一緒に見届けたいという気持ちです。
人が何に心を動かし、なぜ応援したくなるのか。その仕組みは推し活経済の記事にもまとめています。あわせて読んでもらえたらと思います。