最終更新:2026年10月12日
ターゲティングとは、セグメンテーションで分けた市場のかたまりの中から、自社が狙う相手を選ぶことです。マーケティングの基本であるSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の真ん中の工程にあたります。選び方の型は大きく無差別型・差別化型・集中型の3つで、選ぶときの評価基準としては日本では「6R」がよく使われます。結論を先に書くと、ターゲティングは届ける範囲を狭める作業ではありません。誰に向けて企画を作るのかを決める作業です。全員を狙った企画は、結局誰にも届かない。その理由と、6Rの表、選ぶときの手順までまとめました。
ターゲティングとは?意味と3つの型の一覧
ターゲティングとは、分けた市場の中から「この人たちに向けて商品と言葉を作る」と決める工程です。決め方には、市場全体をひとつとして扱うか、複数のかたまりにそれぞれ向き合うか、ひとつのかたまりに絞るかの3つの型があります。
3つの型と、向いている場面を表にしました。
| 型 | やり方 | 向いている場面 | 落とし穴 |
|---|---|---|---|
| 無差別型(マス・マーケティング) | 市場を分けずに、ひとつの商品とメッセージで全体に向き合う | 塩や水のように、人による違いが小さい日用品 | 違いのある市場でやると、どのかたまりにも中途半端になる |
| 差別化型 | 複数のかたまりを選び、それぞれに商品やメッセージを作り分ける | 体力のある大手が、複数の層を同時に取りにいくとき | 作り分けるほど手間と費用が増える |
| 集中型(ニッチ) | ひとつのかたまりに資源を集める | 小さな会社や新規事業、個人のビジネス | そのかたまりが縮むと一緒に沈む |
| 個別型(ワン・トゥ・ワン) | 一人ひとりや地域ごとに合わせる | データで顧客を個別に把握できる通販やアプリ | データと運用の負担が大きい |
教科書では3つの型として紹介されることが多く、4つ目の個別型は「マイクロ・マーケティング」として別枠で扱われることもあります。どの型が正しいかではなく、自社の体力と市場の性質で選ぶものです。
小さな事業ほど集中型が基本になります。資源の少ない側が一点に絞って戦う考え方は、ランチェスター戦略の弱者の戦略5原則の「一点集中」とほぼ同じ発想です。体力が足りない側が差別化型を真似ると、どのかたまりにも届かないまま予算が尽きます。
ターゲットを選ぶ6Rとは?評価基準の一覧と出どころ
6Rとは、狙うかたまりを評価するための6つの基準で、すべての英語の頭文字がRであることからそう呼ばれています。分けたかたまりの候補を並べ、6つの観点で点をつけて比べるための物差しです。
| 6R | 意味 | 確かめる問い |
|---|---|---|
| Realistic Scale(有効な規模) | 売上や利益が成り立つだけの大きさがあるか | このかたまりだけで事業が回るか |
| Rate of Growth(成長性) | これから大きくなるか、縮むか | 3年後もこのかたまりは残っているか |
| Rival(競合) | 強い競合がすでに押さえていないか | ここで自社が選ばれる理由はあるか |
| Rank(優先順位・波及効果) | ほかの層に広がる起点になるか | この人たちが使うと、まわりも動くか |
| Reach(到達可能性) | その人たちに広告や営業が実際に届くか | どの媒体や場所で会えるか |
| Response(測定可能性) | 打ち手への反応を測れるか | 効いたかどうかを数字で確かめられるか |
6Rの提唱者は、はっきりしません。日本のマーケティングの入門書や研修で広く使われていますが、ぼくが調べた範囲では、特定の人物や一冊の本にたどれる一次資料は見つかりませんでした。だからこの記事でも、誰が作ったかは断定しません。実務の中で磨かれてきた、チェックリストに近い道具だと受け止めるのが実態に近いと思います。
ターゲティングという考え方そのものの出どころは、もう少しはっきりしています。市場を分けて特定の層に向き合う発想は、アメリカのマーケティング学者ウェンデル・スミス(Wendell R. Smith)が1956年に「Journal of Marketing」に発表した論文で、製品差別化と並ぶ戦略として示しました。それを「分ける・選ぶ・位置づける」という3段の流れに整理して広めたのが、フィリップ・コトラーの教科書「マーケティング・マネジメント」です。コトラーの教科書では、かたまりを評価する観点として、規模と成長性、構造的な魅力、自社の目的と資源との相性が挙げられています。6Rは、それを日本の現場向けに細かく言い換えたものとして読むとつながります。
セグメンテーション・ポジショニング・ターゲティング広告との違い
ターゲティングは「選ぶ」工程で、セグメンテーションは「分ける」工程、ポジショニングは「選んだ相手の頭の中でどう位置づけてもらうか」を決める工程です。3つは順番につながっていて、前の工程がぶれると後ろの工程が決まりません。この3つをひと続きの流れとして扱うのがSTP分析です。
よく混ざる言葉を整理しておきます。
| 言葉 | 何を決めるか | ターゲティングとの関係 |
|---|---|---|
| セグメンテーション | 市場をどんな基準で分けるか | ターゲティングの前の工程。分け方が悪いと選びようがない |
| ターゲット | 選ばれた相手そのもの | ターゲティングの結果として決まるもの |
| ポジショニング | 選んだ相手に、どの棚に置いてもらうか | ターゲティングの後の工程。相手が決まらないと棚も決まらない |
| ターゲティング広告 | 広告をどのユーザーに配信するかの設定 | 戦略上のターゲティングを、配信の現場で実行する手段 |
検索すると「ターゲティング広告」の情報が多く出てきますが、あれは広告の配信設定の話です。年齢や興味関心、閲覧履歴で配信先を絞る機能のことで、戦略としてのターゲティングとは階層が違います。戦略で「誰に向けて作るか」を決めずに配信設定だけ細かくしても、広告の中身がその人に向いていなければ反応は返ってきません。
ターゲットを決めたあとに、その人を一人の具体的な人物として描くのがペルソナです。ターゲティングを「狙う」発想のまま突き詰めると、相手を的のように扱いがちになります。そこを裏返して、顧客を物語の主役として扱う考え方はペルソナキャスティングの記事に書きました。選んだあとの描き方は、そちらに任せます。
実務での使い方──全員を狙う企画は誰にも届かない
実務でターゲティングを使うときの検算は、ひとつだけです。全員を狙った企画になっていないかを確かめること。ターゲットの欄に書かれた言葉が広すぎると、その後のコンセプトも表現も媒体も、すべてが決まらなくなります。
広告会社にいた頃、オリエンの資料のターゲット欄に「20〜40代の男女」のような広い言葉が入っていることは珍しくありませんでした。間違いではないけれど、この幅のまま企画に入ると、表現の打ち合わせで必ず手が止まります。20代の独身と40代の子育て中の人では、同じ商品を買う理由も、見ている媒体も違うからです。そういうとき現場では、表現を考える前に「この中で、いちばん最初に買ってくれるのは誰か」を決め直していました。
ぼくが実務でやっている手順は次のとおりです。
- セグメンテーションで分けたかたまりを、候補として3〜5個まで書き出す
- 6Rのうち、自社の状況で外せない基準を先に決める(小さな事業ならReachとRivalが先に効くことが多い)
- 候補ごとに6Rで点をつけ、上位のかたまりを1つだけ選ぶ
- 選んだ相手に向けて、コンセプトを一行で書いてみる
- 一行が書けなければ、かたまりが広すぎるか、分け方が悪いと判断してセグメンテーションに戻る
4と5の手順が、ぼくがいちばん大事にしている部分です。ターゲティングがうまくできたかどうかは、6Rの点数ではなく、その相手に向けた一行が書けるかどうかで分かります。一行が書けないのは、まだ相手を選びきれていない証拠です。
法人向けの商売でも、同じことが起きます。BtoBでは「製造業の大企業」のように業種と規模で相手を選びがちですが、実際に資料を読んで社内で動くのは、情報システム部門なのか、経営企画なのか、現場の責任者なのかで、響く言葉がまったく違います。会社を選んだだけではターゲティングは終わっていない、と考えたほうが打ち手は決まりやすくなります。
独立してからは、自分で運営しているブログやnoteでも同じことを感じます。誰にでも読まれそうな記事を書こうとすると、タイトルも冒頭も平凡になって、結局誰の検索にも引っかかりません。読み手を一人に決めたほうが、結果として広く読まれる。ターゲティングは、届け先を減らす作業ではなく、言葉を決めるための作業です。
2026年の注意点──「ターゲットを絞るな」論にどう答えるか
2026年時点でターゲティングを語るなら、「ターゲットを絞るべきではない」という主張を避けて通れません。結論から言うと、この主張とターゲティングは矛盾しません。絞るのは企画の宛先で、届ける範囲ではないからです。
この主張の代表が、オーストラリアのアレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ(Byron Sharp)です。著書「How Brands Grow」(オックスフォード大学出版局・2010年、日本語版は朝日新聞出版「ブランディングの科学」)で、ブランドの成長はロイヤルな一部の顧客よりも、カテゴリーを買う幅広い人に思い出してもらえるかどうかで決まると論じました。少数の熱心な層だけを狙うやり方への強い批判です。思い出してもらう力の考え方はメンタルアベイラビリティとCEPの記事に、ロイヤルティ神話への批判はダブルジョパディの法則の記事にまとめています。
ぼくはこの議論を、ターゲティングの否定ではなく、ターゲティングの誤用への警告として読んでいます。誤用とは、狙った相手以外に広告を見せないように配信先を細かく絞りすぎることです。広告の配信範囲を狭めすぎると、将来の顧客にあたる人まで取りこぼします。でも、企画の宛先を決めることまで否定されているわけではありません。宛先は一人に絞り、届ける範囲はカテゴリーを買う人全体に広げる。この二段で考えると、両方の主張は同じ地図の上に並びます。
もうひとつの論点は、広告の配信技術が進んだことで「ターゲティングは広告プラットフォームの機械に任せればいい」と言われるようになったことです。配信先の調整は確かに機械の得意分野です。ただ、機械が調整できるのは、すでにある広告を誰に見せるかまでです。誰に向けて商品と言葉を作るかは、配信の前に人が決めるしかありません。
ターゲティングに関するよくある質問
ターゲットとターゲティングの違いは何ですか?
ターゲットは選ばれた相手そのもので、ターゲティングは相手を選ぶ工程のことです。セグメンテーションで市場を分け、ターゲティングでその中から狙うかたまりを選び、その結果として決まるのがターゲットです。言葉としては、名詞と動作の違いだと考えると分かりやすいと思います。
6Rは誰が考えたものですか?
提唱者ははっきりしません。日本の入門書や研修で広く使われていますが、特定の人物や一冊の本にたどれる一次資料は見つかりませんでした。考え方の土台としては、コトラーの教科書にある「規模と成長性」「構造的な魅力」「自社の目的と資源」という評価の観点が近く、それを日本の現場向けに細かく言い換えたものとして読むとつながります。
ターゲティングとターゲティング広告は同じですか?
同じではありません。マーケティングのターゲティングは、誰に向けて商品と言葉を作るかを決める戦略の工程です。ターゲティング広告は、年齢や興味関心、閲覧履歴などで広告の配信先を絞る機能のことで、戦略を配信の現場で実行する手段にあたります。
小さな会社や個人はどの型を選べばいいですか?
多くの場合は集中型が基本になります。資源が少ない側が複数のかたまりに作り分けると、どこにも届かないまま予算や時間が尽きやすいからです。まずひとつのかたまりで選ばれる理由を作り、そこから周りに広げていく順番のほうが失敗しにくいと思います。
おわりに──宛先を決めることがターゲティング
ターゲティングは、狙う相手を選んで、それ以外を切り捨てる作業だと思われがちです。でも、実務で使ってきた感覚では少し違います。切り捨てているのは相手ではなく、決めきれない自分の迷いのほうです。全員に向けた企画書は、読んだ人の誰もが「自分のことではない」と感じます。一人に向けた企画書は、なぜかその周りの人まで動かします。
ターゲティングとは、届ける範囲を狭めることではありません。誰に向けて作るかを決めること。届け先は広く、宛先は一人。この順番を逆にしなければ、6Rも3つの型も、迷ったときに戻ってこられる道具になってくれると思います。