最終更新:2026年10月12日
パーチェスファネルとは、生活者が商品を知ってから買うまでの段階を「認知→興味・関心→比較・検討→購入」と並べ、段階が進むごとに人数が減っていく様子を漏斗(ファネル)の形で表した図です。結論を先に書くと、パーチェスファネルは売れる道のりを描くための図ではありません。どの段で人がいちばん減っているかを特定するための検算の道具です。この記事では、ファネルの段階の一覧と見る数字、出どころ、購入後まで描くダブルファネル(インフルエンスファネル)との違い、架空の数字を使った読み方の手順、「ファネルはもう古い」という声への答えまで書いていきます。
パーチェスファネルとは?段階と見る数字の一覧
パーチェスファネルとは、購入までの段階ごとに「そこまで進んだ人数」を数え、上から下へ細っていく漏斗として並べたものです。段階の名前や数は会社や本によって少しずつ違いますが、実務ではおおむね次の4段に集約できます。
| 段階 | 生活者の状態 | 見る数字の例 | 次の段へ進まない典型的な理由 |
|---|---|---|---|
| 認知 | 商品やブランドの名前を知っている | 広告の到達人数、助成想起率 | 知ってはいるが、自分に関係があると思っていない |
| 興味・関心 | 自分ごととして気になり、詳しく知ろうとする | 指名検索の数、サイトや商品ページの訪問者数 | 知りたいことがページに見当たらない |
| 比較・検討 | ほかの候補と並べて、選ぶ理由を探している | 料金ページの閲覧、カート投入、資料請求、問い合わせ | 選ぶ理由が一言で分からない、不安が残る |
| 購入 | お金を払って手に入れる | 購入数、購入率 | 手続きが面倒、支払い方法が合わない |
表のいちばん右の列が、ファネルを描く意味のほとんどを占めています。漏斗の形は「人は段を進むごとに減る」という当たり前の事実を見せているだけです。知りたいのはその先で、どの段の、どんな理由で、いちばん多くの人が抜けているのか。段階の名前を並べた図はどこにでもありますが、段ごとの数字と抜ける理由までそろえて、はじめて道具として使えるようになります。抜けた人の割合の測り方と、どこから直すかの選び方は離脱率とは?計算方法と直帰率との違い・改善する場所の選び方にまとめました。
もう一つ押さえておきたいのは、ファネルが「生活者の頭の中」ではなく「売り手の手元の集計」だということです。生活者は認知の段にいる自覚も、比較の段にいる自覚もありません。ファネルは、ばらばらに動く人の行動を、売り手が数えやすいように箱に分けた表です。だから箱の分け方を誤ると、数字は取れても、どこを直せばいいのかが見えなくなります。
パーチェスファネルの出どころ──1924年説と、はっきりしない部分
購入までの段階を漏斗の形と結びつけたのは、ウィリアム・W・タウンゼント(William W. Townsend)の1924年の著書「Bond Salesmanship」が最初だとされています。ただ、ぼくは原著を確認できていないので、この記事では「そう説明されることが多い」までにとどめます。
段階の並びそのものは、もっと古くからあります。1898年にアメリカのエルモ・ルイス(E. St. Elmo Lewis)が示したとされるAIDA(Attention→Interest→Desire→Action)がその源流で、日本でよく知られるAIDMAも同じ系譜にあります。タウンゼントの本は債券のセールスマン向けの実務書で、広い関心を一つの購買に絞り込んでいく営業の過程を、漏斗のたとえで説明したと紹介されています。段階のモデルに「人数が絞られていく形」を与えたのが、ファネルという呼び方の始まりだと考えるとつながります。
その後、ファネルは広告や営業の現場で「パーチェスファネル」「セールスファネル」「マーケティングファネル」とさまざまな名前で使われるようになりました。一方向に細っていく形への疑問も出ています。マッキンゼーは2009年の論文「The consumer decision journey」(McKinsey Quarterly)で、生活者の購買は漏斗のように一直線に候補を絞り込むのではなく、検討の途中で候補が増えたり、購入後の体験が次の検討につながったりする輪の形をしている、と論じました。
購入後の段まで描くダブルファネルやインフルエンスファネルについては、提唱者や初出をぼくが確認した範囲では特定できませんでした。日本のマーケティングの解説では広く使われている言葉ですが、「誰々が提唱した」と断定できる一次資料にはたどりつけていません。この記事でも提唱者は書かず、考え方の中身だけを扱います。
ダブルファネル・インフルエンスファネル・購買行動モデルとの違い
ダブルファネルとは、購入までを描くパーチェスファネルの下に、購入後の広がりを描くインフルエンスファネルをつなげた、砂時計のような形の図です。パーチェスファネルが「買うまで」で止まるのに対して、ダブルファネルは「買ったあと、次の誰かに届くまで」を同じ図に入れます。
| 概念 | 描く範囲 | 形 | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
| パーチェスファネル | 認知から購入まで | 下に向かって細る漏斗 | 購入までのどの段で人が減っているかを特定する |
| インフルエンスファネル | 購入後の継続・紹介・発信 | 下に向かって広がる逆さの漏斗 | 買った人が次の誰かを連れてくるかを見る |
| ダブルファネル | 認知から購入、購入後の広がりまで | 二つをつないだ砂時計 | 獲得と継続・紹介を一枚で見て、予算の偏りに気づく |
| 購買行動モデル(AIDMA・AISASなど) | 生活者一般の心理や行動の段階 | 段階の並び(人数は持たない) | 広告やコミュニケーションの役割を分ける |
| カスタマージャーニーマップ | 特定の生活者の行動・思考・感情・接点 | 横に流れる表 | つまずく段と感情の谷を見つける |
購買行動モデルとファネルは、同じ段階の名前を使うので混同されがちです。違いは、人数を持つかどうか。AIDMAやAISASは「生活者はこういう段階を通る」という型で、ファネルは「その段階に、いま何人いるか」という数です。モデルの変遷や出典はAISASとは?AIDMA・ULSSASとの違いと購買行動モデルの変遷一覧にまとめました。型で段階の区切りを借りて、ファネルで人数を数える、という順番で使うと噛み合います。
カスタマージャーニーマップとの関係も、役割で分けると見通しがよくなります。ファネルは「どの段で何人減ったか」という量を教えてくれますが、「なぜ減ったか」は教えてくれません。その理由を、生活者の行動や感情の線から探るのがジャーニーマップです。描き方はカスタマージャーニーとは?マップの作り方と例、項目の一覧表で解説に書いています。ファネルで場所を特定し、ジャーニーで理由を探す。この二段構えにすると、数字の議論と生活者の議論が分断されません。
ダブルファネルの下半分、つまり購入後の段で最初に見る数字の一つが、初めて買った人が2回目も買ってくれるかどうかです。これはF2転換率とは?計算方法と平均・目安の考え方で詳しく扱いました。
実務での使い方──どこで人が減っているかを特定する検算
パーチェスファネルを実務で使う目的は一つで、人がいちばん減っている一か所を見つけることです。全段をまんべんなく改善しようとすると、予算も手間も薄まって、どの段も少しずつしか良くなりません。いちばん細い一か所を直すほうが、全体の購入数は大きく動きます。
ぼくが使うときの手順は、次の5つです。
- 段階を、自社の商品で実際に数えられる単位で区切る(教科書の段階名に合わせるより、取れる数字に合わせる)
- 各段の人数を、同じ期間・同じ対象でそろえて並べる
- 人数そのものではなく、前の段から次の段へ進んだ割合(通過率)を計算する
- 通過率がいちばん低い段を「詰まっている段」とみなし、抜ける理由を実際のページや声で確かめる
- 打ち手はその段に絞り、直したら同じ条件でもう一度数える
数字の読み方を、架空の例で見ておきます。オンラインで売る商品を想定した、説明のための仮の数字です。
| 段階 | 人数(例・架空) | 前の段からの通過率(例) |
|---|---|---|
| 認知(広告の到達) | 100,000人 | ── |
| 興味・関心(商品ページの訪問) | 5,000人 | 5% |
| 比較・検討(カート投入) | 1,500人 | 30% |
| 購入 | 300人 | 20% |
人数だけを見ると、認知から興味の段で9万5,000人も減っているので、ここが問題に見えます。でも、広告を見た人の大半がページを訪れないのは、どの商品でも起きることです。この段の通過率が他社や過去と比べて低いかどうかは、比べる基準を持っていないと判断できません。それに対して、カートに入れた人の8割が買わずに去っているのは、買う直前まで来た人を逃しているということです。送料の表示が遅い、会員登録を求められる、支払い方法が少ない。理由がページの中にある可能性が高く、直せば効きやすい段だと読めます。
ここで大事なのは、「人数がいちばん減っている段」と「直すべき段」は一致しないことがある、という点です。上の段ほど人数が大きいので、減り方も大きく見えます。通過率で比べたうえで「その段の減り方は、商品の性質上しかたのないものか、こちらの不手際か」を分けて考える。ファネルを検算の道具として使うときの要は、この見極めにあります。
失敗しやすいのは、上の段を広げれば下も比例して増えると思い込むことです。広告会社にいた頃、議論の重心はどうしても認知の段に寄りがちでした。予算と人がいちばん集まるのがそこだからです。でも、比較の段で選ぶ理由が伝わっていないまま認知を広げても、漏斗の口が大きくなるだけで、細い場所はそのまま残ります。ファネルを一枚描いて通過率を並べると、「いま広げるべきは口なのか、途中の細いところなのか」を、会議の全員が同じ数字で話せるようになります。
2026年時点の注意点──「ファネルは古い」への答え
「ファネルは古い」という声には、半分は当たっていて、半分は外れていると答えます。生活者の動きが一直線ではなくなった、という指摘は当たっています。でも、だからファネルが使えなくなった、という結論は外れています。ファネルはもともと、生活者の道のりの絵ではなく、売り手が人数を数えるための表だからです。
当たっている半分から書きます。2026年の生活者は、SNSのおすすめで偶然知った商品を、比較の段を飛ばしてその場で買うことがあります。逆に、比較の途中で生成AIに聞いて候補が増え、興味の段に戻ることもあります。段を飛ばす、戻る、何度も行き来する。上から下へきれいに流れる漏斗の絵は、こうした動きを描けません。マッキンゼーが2009年に輪の形を示したのも、この一直線の前提への疑問からでした。
それでも、段ごとに人数を数えて、どこで減っているかを見るという使い方は古くなっていません。道のりが複雑になったぶん、むしろ「結局どこで抜けているのか」を数字で押さえる道具の価値は上がっていると思います。気をつけたいのは二つです。一つは、段を飛ばして買う人がいる商品では、段ごとの通過率が実態より低く出たり高く出たりすること。もう一つは、最近の検索結果やAIの回答の中で比較が完結し、自社のサイトに来る前に勝負がついているケースがあることです。サイトの数字だけでファネルを組むと、見えない段で起きている減り方を見落とします。
BtoBの現場では、もう一つ別の難しさがあります。法人の購買は、情報を集める担当者、比べて稟議を書く人、最後に決める人が別々です。一人の生活者が漏斗を下りていくのではなく、何人もの検討が途中で合流します。このときファネルを一本で描くと、決裁の段で起きている減り方が、担当者の比較の段に紛れて見えなくなります。人数を数える単位を「人」ではなく「案件」にする、段ごとに誰の判断かを書き添える、といった工夫が必要になります。比較の段に入る前の見込み客を時間をかけて育てる考え方は、リードナーチャリングとは?手法一覧とリードジェネレーションとの違いで書いています。
パーチェスファネルに関するよくある質問
パーチェスファネルとマーケティングファネルは同じ意味ですか?
ほぼ同じ意味で使われることが多いです。厳密に分けるなら、パーチェスファネルは購入までの段階を指し、マーケティングファネルは購入後の継続や紹介まで含めた全体を指す使い方がよく見られます。言葉の違いより、自社のファネルがどこからどこまでを描いているかを、関係者のあいだでそろえておくことのほうが大切だと思います。
ダブルファネルとは何ですか?
購入までを描くパーチェスファネルの下に、購入後の継続・紹介・発信を描くインフルエンスファネルをつなげた、砂時計の形の図です。買った人が次の誰かを連れてくるところまでを一枚で見られるので、獲得にばかり予算が偏っていないかに気づきやすくなります。提唱者ははっきりせず、実務の中で広まった考え方です。
ファネルの通過率の平均や目安はありますか?
業種や商品、段の区切り方によって大きく変わるため、出典を示せる共通の目安は見当たりません。他社の数字と比べるより、同じ区切り方で自社の過去の数字と比べるほうが確実です。段の区切り方が違う数字どうしを比べると、良し悪しを読み違えます。
ファネルは衝動買いやSNS経由の購入にも使えますか?
使えますが、段を飛ばして買う人がいる前提で読む必要があります。比較の段を通らずに買う人が多い商品では、比較の段の人数が少なく出ても、それが問題とは限りません。段の人数だけでなく、購入した人がどの段を通ってきたかもあわせて見ると、読み違いが減ります。
おわりに──ファネルは売れる道ではなく、売れない場所を指さす図
パーチェスファネルは、漏斗の形がきれいに描けたからといって、何かが分かる図ではありません。段ごとの人数を並べ、通過率で比べ、いちばん細い一か所を見つけたときに、はじめて仕事をしてくれます。
人が途中で減るのは、どんな商品でも起きることです。困るのは、減っていることではなく、どこで減っているのかを誰も指させない状態のほう。会議が「もっと認知を」「もっと広告を」で回り始めたら、一度ファネルを描いて、漏斗のどこが細いのかを全員で確かめてみてほしいと思います。
ファネルは、売れる道のりを描く図ではない。売れない場所を指さす図です。