最終更新:2026年10月6日
AISAS(アイサス)とは、Attention(注意)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の5段階で、ネット時代の購買行動を表したモデルです。2004年に電通が提唱しました。その前のAIDMAは1920年代の広告を前提にしたモデルで、2019年に登場したULSSASはSNSのクチコミ(UGC)を起点にしたモデルです。3つの違いを一言でいうと、買い物の起点が「企業の広告」から「生活者の投稿」へ移ったこと。この記事では3つのモデルの変遷を1枚の表にまとめ、出典、実務での使い方、「もう古いのでは?」の疑問への答えまで書いていきます。
AISASとは?AIDMA・AISAS・ULSSASの変遷一覧
AIDMA・AISAS・ULSSASは、どれも「人が商品を知ってから買うまでに、どんな段階を通るか」を並べた購買行動モデルです。違いは、どこから始まり、どこで調べ、買ったあとに何が起きるか。この3点を並べると、100年分の変化が1枚で見えます。
| モデル | 登場 | 段階 | 起点 | 調べる場所 | 買ったあと |
|---|---|---|---|---|---|
| AIDMA(アイドマ) | 1920年代(1924年とされる) | Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動) | 企業の広告 | なし(覚えておく) | そこで終わる |
| AISAS(アイサス) | 2004年 | Attention(注意)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有) | 企業の広告 | 検索エンジン | ブログやレビューで共有する |
| ULSSAS(ウルサス) | 2019年 | UGC(クチコミ)→Like(いいね)→Search1(SNS検索)→Search2(検索エンジン)→Action(行動)→Spread(拡散) | 生活者の投稿 | SNSと検索エンジンの両方 | 拡散が次のUGCになり、輪が回る |
表を縦に読むと、変化は3つあります。1つ目は、AIDMAの「Memory(記憶)」がAISASで「Search(検索)」に置き換わったこと。広告を見た人が店に行くまで覚えておく必要がなくなり、気になったらその場で調べられるようになりました。2つ目は、AISASで買ったあとの「Share(共有)」が加わったこと。購買がゴールではなく、次の誰かの情報源になる段階まで含めたのが、AISASの新しさでした。
3つ目が、ULSSASで起点そのものが入れ替わったことです。AIDMAもAISASも、最初の一歩は企業が出す広告への「注意」でした。ULSSASでは、最初の一歩が生活者の投稿です。誰かのクチコミに「いいね」を押し、SNSの中で調べ、検索エンジンで裏を取り、買って、また投稿する。最後の拡散が次のUGCになるので、ULSSASは一直線のモデルではなく、回り続ける輪として描かれます。
出典と提唱者──AIDMAの原典ははっきりしない部分がある
AISASとULSSASは提唱した組織と年がはっきりしています。AIDMAは、一般にサミュエル・ローランド・ホール(Samuel Roland Hall)が1924年の著書「Retail Advertising and Selling」で示したとされていますが、どこまで原典どおりなのかには、はっきりしない部分があります。
AIDMAの前身にあたるのが、AIDA(Attention→Interest→Desire→Action)です。AIDAは1898年にアメリカのエルモ・ルイス(E. St. Elmo Lewis)が考案したとされ、営業や広告の古典として英語圏でも広く知られています。ホールはそこに、広告を見てから買うまでの時間差を埋める「Memory(記憶)」を足した、と説明されるのが一般的です。
ただ、AIDMAは日本でとりわけ有名になったモデルで、提唱者や出典が明示されないまま引用されることも少なくありません。日本の研究者のあいだでは、AIDMAをめぐる言説とホールの著作との関係を検証する論文も出ています。ぼく自身はホールの原著を確認できていないので、この記事では「ホールが1924年に提唱したとされる」までにとどめます。1920年代のアメリカで、広告実務の中から生まれた考え方である点は、多くの解説で一致しています。
AISASは、電通が2004年に提唱したモデルです。提唱者として知られるのは当時電通の秋山隆平氏で、同じ2004年に秋山隆平・杉山恒太郎の共著「ホリスティック・コミュニケーション」(宣伝会議)が出ています。電通は2005年にAISASを商標登録しています。博報堂に13年いたぼくが電通のモデルを解説するのは少し不思議な気分ですが、AISASが日本の広告業界の共通語になったのは間違いありません。
ULSSASは、SNSマーケティング支援のホットリンクが提唱したモデルです。2019年8月に同社の執行役員CMO(当時)だった飯髙悠太氏の著書「僕らはSNSでモノを買う」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が出て、広く知られるようになりました。同社の書籍発売時のプレスリリースでは、ULSSASを「UGC→Like→Search1→Search2→Action→Spread」の一連のユーザー行動として説明しています。
AIDMA・AISAS・ULSSASの違いと、SIPS・DECAXとの関係
3つのモデルの違いは、どれが正しいかではなく、どんなメディア環境を前提にしているかの違いです。AIDMAはマス広告と店頭、AISASは検索エンジン、ULSSASはSNSを前提にしています。そのあいだを埋めるモデルとして、SIPSやDECAXもあります。
| モデル | 登場 | 提唱 | 段階 | 入口 |
|---|---|---|---|---|
| AIDA | 1898年(とされる) | エルモ・ルイス | Attention→Interest→Desire→Action | 広告・営業 |
| SIPS | 2011年 | 電通「サトナオ・オープン・ラボ」 | Sympathize(共感)→Identify(確認)→Participate(参加)→Share&Spread(共有・拡散) | 共感 |
| DECAX | 2015年 | 電通デジタル・ホールディングス(内藤敦之氏) | Discovery(発見)→Engage(つながる)→Check(確認)→Action(行動)→eXperience(体験共有) | 発見 |
SIPSは2011年1月に電通のニュースリリース(SIPS発表資料)で発表されたモデルで、ソーシャルメディアでは「共感された情報しか広がりにくい」ことを入口に置いています。AISASとULSSASの中間にあって、「起点が広告から人へ移り始めた」時期のモデルと読むと、流れがつながります。DECAXは、生活者が自分でコンテンツを見つけるところから始まる、コンテンツマーケティング時代のモデルです。
実務では、モデルの各段階を別の概念と組み合わせると解像度が上がります。たとえばAIDMAのMemoryは、買う場面で頭に浮かぶブランドの候補に入れるかどうかの話で、エボークトセット(想起集合)とは?意味と純粋想起・助成想起の違いで書いた想起の考え方とそのまま重なります。ULSSASの起点になるUGCは、一人の発信者より無数の普通の人の投稿が市場を動かす構造で、モブマーケティングとは|一人のインフルエンサーより、名もなき群衆が市場を動かす理由で扱ったテーマの土台にあたります。AttentionやUGCの入口がなぜ年々狭くなっているのかは、アテンションエコノミーとは|人の「注目」が、最も高く売れる時代の歩き方が背景の説明になると思います。Actionのあと、初めて買った人が2回目も買ってくれるかどうかは、F2転換率の計算方法と目安で見る数字です。
実務での使い方──モデルは「どこで詰まっているか」を探す地図
購買行動モデルは、施策を並べるためのチェックリストではなく、生活者がどの段階で止まっているかを探すための地図です。全段階を均等に埋めようとすると、予算も言葉も薄まります。詰まっている1段を見つけて、そこに集中するのが実務での使い方です。段階の地図には生活者がそもそも何を片付けたくて買うのかは描かれていないので、その問いはジョブ理論(JTBD)の要約と事例で補うと噛み合います。
ぼくが使うときの手順は、だいたい次のとおりです。
- 商材の検討期間で、使うモデルを選ぶ(店頭で衝動的に買われるものはAIDMA寄り、調べてから買われるものはAISAS、クチコミで選ばれるものはULSSAS)
- 各段階に、実際に測れる数字を1つずつ当てる(Attentionなら広告の到達、Searchなら指名検索の数、Shareなら購入者の投稿数など)
- 前の段階から次の段階への落ち方がいちばん大きいところを、詰まっている段とみなす
- その段で生活者が何を見て、何に引っかかっているのかを、実際の検索結果やSNSの投稿で確かめる
- 施策はその1段に絞り、ほかの段は現状維持にする
博報堂でTVCMとWEBの統合キャンペーンに関わっていた頃、ぼくらの関心はいつも「CMを見た人が、次に何を検索するか」でした。当時の業界では、CMの終わりに検索窓とキーワードを映す表現もよく見られました。AISASのSearchを、広告の側から設計しにいく発想です。CMでどれだけ注目を集めても、検索した先に答えがなければ、そこで止まる。モデルの価値は、この「止まる場所」を会議の全員で同じ図の上に指させることにあると思っています。
失敗しやすい点も書いておきます。いちばん多いのは、新しいモデルが出るたびに、古いモデルを捨ててしまうことです。ULSSASが出たからといって、テレビCMで知られる商材の多くの購買行動が、いきなり全部UGC起点になるわけではありません。もう一つは、BtoBに消費財向けのモデルをそのまま当てはめることです。アクセンチュアでBtoBマーケに携わっていた実感として、BtoBの購買は一人ではなく複数の関係者で進むので、「誰の、どの段階か」まで分けて考えないと、モデルが現実に合いません。
「AISASは古い」「ULSSASは古い」への答え──2026年の日本市場で
AISASもULSSASも、段階の中身は古くなっています。でも、骨組みは古くなっていません。古くなったのは「どこで調べるか」の部分で、「調べてから買い、買ったら誰かに伝わる」という構造は2026年もそのまま生きています。
まず環境の変化を数字で押さえておきます。電通の「2025年 日本の広告費」によると、2025年の総広告費は8兆623億円で、インターネット広告費は4兆459億円。構成比は50.2%と、初めて総広告費の半分を超えました。AISASが生まれた2004年は、検索連動型広告が広がり始めた頃です。広告の主戦場そのものが、20年でここまで動いています。
その中で変わったのは、まずSearchの中身です。AISASのSearchは検索エンジンを想定していましたが、今はInstagramやTikTokの中で調べる人もいれば、生成AIに「おすすめは?」と聞いて答えをもらう人もいます。ULSSASがSearch1(SNS)とSearch2(検索エンジン)を分けたのは2019年の時点で鋭い整理でしたが、2026年には、ここにAIでの検索が3つ目の調べ方として加わっていると考えたほうが実態に近いと思います。AIの回答は、ネット上の情報やクチコミを材料にして作られます。だからUGCを起点にするULSSASの考え方は、AI検索の時代にむしろ効いてくる面があります。
もう一つの変化は、Likeの位置です。ULSSASが生まれた頃は、Twitter(現X)のようにフォローや「いいね」を通じて情報が届く場が中心でした。今はおすすめのフィードが主流になり、フォローしていない人の投稿が、いきなり目の前に流れてきます。Likeを経ずにUGCからそのまま調べる人も多いはずです。段階の順番は、モデルの図ほどきれいには並ばなくなっています。
だから「ULSSASは古いか」と聞かれたら、ぼくは「段階の名前は更新が必要だけれど、起点がUGCにあるという発見は古くなっていない」と答えます。AIDMAも同じで、店頭で目に入ったものを買うような場面では、今でもAIDMAのほうが現実をうまく説明します。モデルは新しいものに乗り換えるものではなく、商材と場面に合わせて持ち替えるものです。
AIDMA・AISAS・ULSSASに関するよくある質問
AIDMAとAISASの違いは何ですか?
いちばんの違いは、AIDMAのMemory(記憶)がAISASではSearch(検索)に置き換わり、最後にShare(共有)が加わったことです。AIDMAは広告を見てから店に行くまで覚えておく前提のモデルで、AISASは気になったらその場で検索し、買ったあとにネットで共有する前提のモデルです。前提にしているメディア環境が違います。
ULSSASはもう古いですか?
段階の中身は更新が必要ですが、骨組みは今も有効です。2019年当時と比べて、おすすめのフィードやAIでの検索が広がり、Likeを経ずに調べる人や、SNSでも検索エンジンでもなくAIに聞く人が増えました。それでも、買い物の起点が生活者の投稿にあるという発見は、2026年もそのまま使えます。
AISASは誰が提唱したモデルですか?
電通が2004年に提唱したモデルで、提唱者として知られるのは当時電通の秋山隆平氏です。電通は2005年にAISASを商標登録しています。ネットでの検索と共有を購買行動に組み込んだモデルとして、日本の広告業界で広く使われるようになりました。
BtoBではどのモデルを使えばいいですか?
検討期間が長く、買う前に必ず調べられる商材が多いので、AISASを土台にするのが扱いやすいと思います。ただしBtoBの購買は複数の関係者で進むので、担当者・上長・決裁者それぞれがどの段階にいるかを分けて考える必要があります。同業者のクチコミや導入事例が強く効く分野なら、ULSSASの考え方も組み合わせられます。
おわりに──企業が話しかける順番から、生活者が話し合う順番へ
AIDMAは、企業が話しかける順番。ULSSASは、生活者どうしが話し合う順番。
100年分の購買行動モデルを並べてみて、ぼくがいちばん大事だと思う変化はこれです。モデルの名前は、これからも新しく生まれては古いと言われていくと思います。でも、それはモデルが間違っていたからではなく、生活者が調べる場所が引っ越しただけ。検索窓がSNSに移り、AIに移っても、人が誰かの言葉を確かめてから買うことは変わりません。
だからモデルを覚えるより、自分の商材のお客さんが今どこで調べ、誰の言葉で背中を押されているのかを、一度自分の目で見に行ってほしいと思います。図の上の矢印より、検索結果とタイムラインのほうが、いつも少しだけ先を行っています。使い方で迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。