結論から書きます。アテンションエコノミーとは、人の注目(アテンション)そのものが、希少な価値として取引される経済のことです。情報が無限にあふれる一方で、人が一日に使える関心の量は限られています。だから、あふれる情報の側ではなく、足りない関心の側に、値段がつくようになりました。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年、生活者の行動を見てきました。広告は、もともと人の注目を扱う仕事です。その現場にいた人間として、この経済の仕組みと、そこで飲み込まれないための構えを整理します。
アテンションエコノミーとは何か
アテンションエコノミーとは、人々の注目や関心を、希少な資源とみなして奪い合う経済の仕組みです。もともとは、情報が増えれば増えるほど、それを受け取る人の注意が相対的に不足していく、という指摘から生まれた考え方です。
分かりやすいのは、無料のサービスです。SNSも動画も、多くは無料で使えます。ではなぜ成り立つのか。ユーザーの注目時間が、広告として売られているからです。私たちは、お金を払っていない代わりに、自分の関心を差し出しています。無料で使えるものほど、実は自分の注目を対価に払っている、と考えると見え方が変わります。
なぜ、注目がこれほど高く売れるのか
注目が最大の資源になった理由は、三つあります。
ひとつめは、情報が無限になったことです。誰もが発信できるようになり、コンテンツの量は爆発しました。ものが希少なら、ものに値段がつきます。でも情報が無限にあふれると、希少なのは情報ではなく、それを受け取る側の関心のほうになります。足りないものに、値段がつく。いま足りないのは、人の注目です。
ふたつめは、注目が、そのままお金に換算できるようになったことです。表示回数、再生数、滞在時間。人の関心は、細かく計測され、そのまま広告収入に変わります。注目を集めることが、直接に収益になる。この換金の回路がはっきりしたことで、注目の奪い合いが激しくなりました。
みっつめは、注目を奪う技術が高度になったことです。次々と流れてくる動画、通知、おすすめ。人の注意を引きつけ、離させない設計が、あらゆるサービスに組み込まれています。人が自ら夢中になる仕組みについては、BeRealの記事にも書きました。同じ原理が、注目を奪う方向にも使われています。
アテンションエコノミーの、暗い側面
ここは正直に書きます。この経済には、無視できない副作用があります。注目を集めることが目的になると、内容の質より、目を引くことが優先されるからです。
過激な見出し、煽るような表現、真偽より刺激。正しさよりも、目立つことが得をする構造が生まれます。落ち着いた良質な情報より、感情を揺さぶる極端な情報のほうが、注目を集めてしまう。これが、いまのネット空間がしばしば荒れる理由のひとつです。注目という通貨は、しばしば節度を犠牲にして稼がれます。
受け手の側にも、負担がかかります。四方八方から関心を奪い合われ続けると、人は疲れます。自分が本当に見たいものを、静かに選ぶ余裕が奪われていく。この疲れへの揺り戻しが、盛らない発信や、静かな豊かさへの共感といった、逆の流れも生んでいます。奪い合いが激しくなるほど、そこから降りる価値も高まる、という構図です。
飲み込まれないために、作り手ができること
では、この経済とどう付き合うか。マーケティングをする側、発信する側の構えを書きます。
大事なのは、注目を集めることと、信頼を築くことを、分けて考えることです。煽れば、注目は一時的に集まります。でも、煽って集めた注目は、煽り続けないと維持できません。そして、煽りに慣れた相手は、いずれ離れます。短期の注目と、長く続く信頼は、まったく別の資産です。
ぼくが大事だと思うのは、注目を入口にしつつ、その先で信頼に変えることです。目を引くのは最初のきっかけでよくて、そこで得た関心を、中身の質で信頼に育てる。注目だけを追い続けると、消耗戦になります。集めた注目を何に変えるのかまで設計して、初めてこの経済で長く生き残れます。この考え方は、注目を売り切りにしないプロセスエコノミーの記事とも通じます。
よくある質問
アテンションエコノミーとは何ですか
人の注目や関心を、希少な資源とみなして取引する経済の仕組みです。情報が無限にあふれる一方で、人が使える関心の量は限られているため、あふれる情報ではなく、足りない関心のほうに価値がつくようになりました。無料のSNSや動画は、ユーザーの注目時間を広告として売ることで成り立っています。
なぜアテンションエコノミーが成立するのですか
情報が無限になり、希少なのが情報ではなく受け手の関心になったこと、注目が表示回数や滞在時間として計測され直接お金に換算できるようになったこと、そして人の注意を引きつけ離さない技術が高度になったこと。この三つが重なって、注目が最大の資源になりました。
アテンションエコノミーの問題点は何ですか
注目を集めること自体が目的になると、内容の質より目を引くことが優先される点です。過激な見出しや煽る表現が得をしやすく、正しさより目立つことが有利になります。受け手も関心を奪い合われ続けて疲れ、本当に見たいものを静かに選ぶ余裕が失われがちです。
アテンションエコノミーと、どう付き合えばいいですか
作り手の側は、注目を集めることと信頼を築くことを分けて考えることが大切です。煽って集めた注目は煽り続けないと維持できず、消耗戦になります。注目を入口にしつつ、その先で中身の質を通じて信頼に変える設計が、長く生き残る鍵になります。
まとめ
アテンションエコノミーとは、あふれる情報の中で、希少になった人の注目が、最も高く売れる時代の仕組みです。無料で使えるサービスの多くは、私たちの関心を対価に成り立っています。注目が直接お金に変わるからこそ、その奪い合いは激しくなり、質より刺激が優先されるという副作用も生みました。
この経済で消耗しないために、作り手が持つべき構えは一つです。注目は入口であって、ゴールではない。集めた関心を、中身の質で信頼に変えられるか。そこまで設計できた人だけが、注目の奪い合いから一歩抜け出せます。奪うのではなく、選ばれる。その差が、これからいっそう大きくなります。
人の関心がどう動き、何に価値が移っていくのか。その流れはファンエコノミーの記事にもまとめています。あわせて読んでもらえたらと思います。