最終更新:2026年7月18日
シェア・オブ・ボイス(SOV)とは、あるカテゴリの広告出稿量やメディア露出の全体量のうち、自ブランドが占める割合のことです。日本語では「広告出稿シェア」と訳されます。この記事では、SOVの計算式、市場シェア(SOM)やESOVとの関係、なぜSOVがブランドの成長を左右するのか、そしてデジタル時代にこの概念がどこまで広がっているのかまでを、広告会社のメディアプランニング現場にいた視点でまとめます。
シェア・オブ・ボイス(SOV)とは?意味と計算式
シェア・オブ・ボイス(SOV)とは、カテゴリ全体の広告出稿量に占める自ブランドの割合です。計算式はシンプルで、「自社の広告出稿量 ÷ カテゴリ全体の広告出稿量」で求めます。テレビならGRP(延べ視聴率)、デジタルならインプレッションや広告費など、対象とする指標を揃えたうえで比率を出します。
SOVを理解するときに一緒に覚えておきたいのが、市場シェアを表すSOM(シェア・オブ・マーケット)と、その差分であるESOV(エクセス・シェア・オブ・ボイス)です。3つの関係を表にまとめました。
| 指標 | 読み方 | 意味 | 計算式 |
|---|---|---|---|
| SOV | シェア・オブ・ボイス | カテゴリ全体の広告出稿量に占める自社の割合 | 自社の広告出稿量 ÷ カテゴリ全体の広告出稿量 |
| SOM | シェア・オブ・マーケット | 市場全体の売上に占める自社の割合(市場シェア) | 自社の売上 ÷ 市場全体の売上 |
| ESOV | エクセス・シェア・オブ・ボイス | SOVが市場シェアをどれだけ上回っているか | SOV − SOM |
ポイントは、SOVを単体の数字として眺めるのではなく、自分たちの市場シェア(SOM)と並べて見るところにあります。市場シェアが10%のブランドが、広告の声のシェアも10%なら、声と実力が釣り合った状態です。もし声のシェアを15%まで引き上げれば、ESOVはプラス5ポイントになります。この「実力より少し大きな声を出している状態」が、次の成長の燃料になる、という考え方がSOVの土台にあります。
なぜSOVが重要か──「SOVがSOMを上回るブランドは成長する」
SOVが注目されるのは、「SOV(声のシェア)がSOM(市場シェア)を上回っているブランドは、その後に市場シェアを伸ばしやすい」という経験則が、長年の広告データの分析で繰り返し観察されてきたからです。逆に、声のシェアが市場シェアを下回り続けるブランドは、じわじわとシェアを削られていく傾向があります。
この関係を体系的に示したのが、レス・ビネ(Les Binet)とピーター・フィールド(Peter Field)です。二人はIPA(英国広告業協会)が蓄積してきた広告効果のデータベースを分析し、ESOVがプラスのブランドほど市場シェアが成長しやすいという傾向を報告しました。まとまった形で読めるのは、二人の共著「The Long and the Short of It」(2013年)です。長期のブランド構築と短期の販売促進のバランスを論じた本で、ESOVはその中心的な指標として登場します。
さかのぼると、SOVと市場シェアの関係そのものは、ジョン・フィリップ・ジョーンズ(John Philip Jones)が1990年前後に行った先行研究でも指摘されていました。ビネとフィールドは、その古典的な知見を膨大なデータで裏づけ直した、という位置づけになります。ぼくがこの考え方を大切にしているのは、「広告をどれだけ打つべきか」という問いに、感覚ではなく相対的な基準を与えてくれるからです。自分たちの出稿量が多いか少ないかは、絶対額では判断できません。競合を含めたカテゴリ全体の中での位置でしか測れない、というのがSOVの効いているところです。
博報堂のメディアプランニング現場でSOVをどう使っていたか
広告会社のメディアプランニングの現場では、SOVは「自分たちの声が、競合の声にかき消されていないか」を確かめる物差しとして日常的に使われます。ぼくが博報堂でメディアプランニングに関わっていたときも、キャンペーンの設計を始める前に、まずカテゴリ全体の出稿状況を眺めるところから入ることが多かったです。
やっていたのは、競合各社の出稿量を推計して、自分たちのSOVが今どのくらいの位置にあるかを把握することでした。季節性の強いカテゴリだと、競合が一斉に出稿を強める山場があります。その時期に自分たちの声が相対的にしぼんでいると、同じ予算を使っても届き方が変わってしまう。だから「いつ、どのくらいの声を出すか」を、絶対的な予算ではなく、カテゴリ内の相対値で設計していました。
もう一つ現場で意識していたのは、SOVを予算配分の共通言語として使うことです。クライアントと出稿量を議論するとき、「もっと出しましょう」では話が前に進みません。でも「今のSOVは市場シェアを下回っていて、このままだと声で負ける」という形にすると、投資の必要性が構造として共有できます。SOVは、感覚的になりがちなメディア投資の議論を、根拠のある会話に変えてくれる道具でした。この「なぜその欲求や判断が動くのか」を構造で捉える発想は、LF8(ライフフォース8)とは?人間の8つの欲求一覧と使い方で書いた考え方とも地続きだと思っています。
デジタル時代のSOV──検索・SNS・AI検索へ拡張する概念
SOVはもともとマス広告の出稿量を測る概念でしたが、デジタル時代に入って、その考え方は広告以外の領域へどんどん広がっています。共通しているのは「カテゴリ全体の中で、自ブランドがどれだけの割合の声を占めているか」という視点で、対象がテレビや新聞から検索やSNSに置き換わっただけ、という捉え方です。
たとえば検索領域では、あるキーワード群の検索結果や検索広告のうち、自社がどれだけ露出を取れているかを「検索SOV」として測ります。SNSでは、あるトピックに関する投稿や言及の総量のうち、自ブランドに関する言及がどのくらいの割合を占めるかを「ソーシャルでのシェア・オブ・ボイス」として見ます。ここでは有料の出稿量だけでなく、生活者が自発的に生み出す言及の量も勘定に入ってくるのが、マス時代との違いです。
ここ数年は、生成AIによる検索や回答の中で、自ブランドがどれだけ言及されるかという「AI検索での言及シェア」まで、SOVの発想で語られるようになってきました。人がAIに「おすすめは?」と尋ねたとき、その答えに自分たちの名前が入っているか。これは声のシェアの新しい戦場だと思っています。マーケターの思考をこうした環境変化にどう合わせていくかは、マーケターの思考をアップデートするでも触れているので、あわせて読むと立体的になると思います。測る場所が増えても、「相対的な存在感で勝負が決まる」というSOVの本質は変わっていません。
SOVを実務に取り入れる最初のステップ
SOVを実務に取り入れるとき、最初にやるべきなのは、いきなり全カテゴリの出稿量を集めることではありません。まず「自分たちが戦っているカテゴリの範囲」を、自分の言葉で定義することです。ここが曖昧なままだと、分母がぶれてSOVの数字が意味を持たなくなります。
範囲を決めたら、次に主要な競合を数社に絞って、それぞれの露出量を、手に入る指標で構いませんので並べてみます。広告費でも、検索での露出でも、SNSでの言及数でも、揃えられるものからで大丈夫です。そのうえで、自分たちのSOVを出し、市場シェア(SOM)と見比べます。SOVがSOMを上回っていれば投資が効いている状態、下回っていれば声で負けはじめているサイン、という読み方です。
大事なのは、精緻な数字を一発で出そうとしないことだと思います。ぼくが現場で見てきた限り、SOVは小数点以下の正確さよりも、「上回っているか、下回っているか」という方向感のほうがずっと実務に効きます。まずはざっくりでも自分たちの立ち位置を数字にしてみる。それだけで、次に打つ広告の量と時期の判断が、感覚から構造に変わっていきます。
SOV(シェア・オブ・ボイス)に関するよくある質問
SOVとSOMの違いは何ですか?
SOV(シェア・オブ・ボイス)はカテゴリ全体の広告出稿量に占める自社の割合、SOM(シェア・オブ・マーケット)は市場全体の売上に占める自社の割合、つまり市場シェアです。SOVが「声の大きさのシェア」だとすれば、SOMは「実際の売れ行きのシェア」にあたります。この二つを比べることに意味があり、声のシェアが市場シェアを上回っているほど、その後の成長余地が大きいと考えられています。
ESOVとは何ですか?
ESOV(エクセス・シェア・オブ・ボイス)とは、SOVからSOM(市場シェア)を引いた差分のことです。声のシェアが市場シェアをどれだけ上回っているかを表します。ESOVがプラスのブランドは市場シェアを伸ばしやすいという傾向を、レス・ビネとピーター・フィールドがIPAのデータ分析で示し、「The Long and the Short of It」(2013年)で広く知られるようになりました。
SOVはデジタル広告でも使えますか?
使えます。テレビのGRPが手元になくても、デジタル広告のインプレッションや広告費、検索での露出、SNSでの言及数など、揃えられる指標でカテゴリ内の割合を出せば、それがそのままSOVになります。むしろデジタルは競合を含めたデータが取りやすいので、検索SOVやソーシャルでのシェア・オブ・ボイスといった形で、マス広告よりも細かく測れる場面が増えています。
個人や中小企業にSOVは関係ありますか?
関係あります。SOVは巨額の広告費を前提にした指標に見えますが、本質は「自分が戦う土俵の中で、どれだけの存在感を占めているか」という相対的な発想です。カテゴリを狭く定義すれば、個人や中小企業でも自分のSOVは測れます。小さな市場で声のシェアを取りにいく、という戦い方は、予算の少ないプレイヤーほど効いてくると思っています。
おわりに──声の大きさは、絶対額では測れない
SOVがぼくの中で長く残っている理由は、「どれだけ広告を出すべきか」という問いに、絶対額ではない答え方を教えてくれたからです。いくら使ったかではなく、カテゴリ全体の中でどれだけの声を占めているか。その相対的な視点を持てるかどうかで、同じ予算の効き方がまるで変わります。
測る場所は、テレビからデジタルへ、そしてAIが答える場所へと移り続けています。でも、「自分たちの声が、競合の声にかき消されていないか」を問い続けるという中身は、どの時代でも同じだと思っています。まずは自分のカテゴリを定義して、ざっくりでもSOVを数字にしてみるところから始めてもらえたら嬉しいです。