最終更新:2026年10月12日
セグメンテーションとは、市場をニーズや行動の似た人の「意味のあるかたまり」に分けることです。マーケティングでは、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の最初の段階にあたります。結論を先に書くと、良いセグメンテーションかどうかの基準はひとつだけで、分けた基準によって打ち手が変わるかどうかです。打ち手が変わらない分類は、どれだけ細かくても意味がありません。この記事では、地理・人口統計・心理・行動の4つの変数の一覧表、言葉の出どころ、架空の例を使った分け方の手順、ターゲティングやペルソナとの違い、実務での失敗しやすい点までまとめました。
セグメンテーションとは?4つの変数の一覧と例
セグメンテーションで市場を分けるときの切り口は、一般に地理的変数・人口統計的変数・心理的変数・行動変数の4つに整理されます。フィリップ・コトラーの教科書で広まった分け方で、どの変数を使うかによって見えてくる「かたまり」が変わります。
| 変数 | 英語 | 分ける軸の例 | 打ち手が変わる場面の例 |
|---|---|---|---|
| 地理的変数 | Geographic | 国・地域・都市規模・気候・人口密度 | 寒い地域と暖かい地域で売る時期や商品を変える |
| 人口統計的変数(人口動態変数) | Demographic | 年齢・性別・世帯構成・所得・職業・ライフステージ | 子どもが生まれた世帯にだけ容量の大きい商品を案内する |
| 心理的変数 | Psychographic | 価値観・ライフスタイル・関心・性格 | 同じ40代でも「手間を減らしたい人」と「手間を楽しみたい人」で訴求を分ける |
| 行動変数 | Behavioral | 購入頻度・使う場面・求める便益・ロイヤルティ・使用量 | 初めて買った人と毎月買う人で、届けるメッセージを変える |
上の2つは外から見える属性で、データが集めやすいぶん、どの会社も同じ分け方になりがちです。下の2つは心理や行動から分けるので集めにくいけれど、打ち手との距離が近いという特徴があります。属性で分けて手が止まったら、心理や行動で分け直す。実務ではこの往復がよく起きます。属性と心理の分け方の違いは、デモグラフィックとサイコグラフィックの違いで詳しく比べています。
ちなみに「セグメンテーション」は画像処理やAIの分野でも使われる言葉で、そちらは画像を領域ごとに切り分ける技術を指します。この記事で扱うのは、マーケティングでの市場の分け方のほうです。
セグメンテーションの出どころ──1956年のウェンデル・スミス
マーケティングの用語としての「市場セグメンテーション」は、ウェンデル・スミス(Wendell R. Smith)が1956年7月に Journal of Marketing に発表した論文「Product Differentiation and Market Segmentation as Alternative Marketing Strategies」で提示したものとされています。この論文は、同じ市場に向き合う2つの戦略を対比しました。
ひとつは製品差別化で、自社の製品に合わせて人の好みのほうを寄せていくやり方です。もうひとつが市場セグメンテーションで、市場の中にある異なるニーズのかたまりを見つけて、製品や売り方のほうをそれぞれに合わせていくやり方です。需要に合わせて供給を調整する、という向きの違いが、この言葉のいちばん大事な出発点だとぼくは思っています。つまりセグメンテーションは、最初から「打ち手を変えるため」に生まれた考え方です。
その後、フィリップ・コトラーがこの考え方をSTPの最初の段階として位置づけ、4つの変数で整理したことで、教科書の定番になりました。セグメンテーションで分け、ターゲティングで狙うかたまりを選び、ポジショニングでそのかたまりの頭の中の置き場所を決める。STP全体の流れの中で、セグメンテーションは「選ぶための地図」をつくる役目を持っています。
セグメンテーションのやり方──架空の例で分けてみる
セグメンテーションのやり方は、「目的を決める→変数の候補を出す→分ける→かたまりごとの打ち手を書く→打ち手が変わらないかたまりを統合する」の5段階です。最後の統合の手順を入れるのが、実務で効く分け方にするコツです。
ここでは、コーヒー豆の定期便を売っている小さなネットショップという架空の例で考えます。人数や割合は出さず、分け方の考え方だけを見てください。まず年齢と性別で分けてみると、「30代女性」「40代男性」のようなかたまりができます。でも、そのかたまりごとに何を変えるかを書こうとすると、手が止まります。30代女性と40代男性で、同じ豆を違う言葉で売る理由が見つからないからです。
そこで、行動と心理の変数で分け直してみます。
| かたまり(架空の例) | 分けた変数 | そのかたまりへの打ち手 |
|---|---|---|
| 朝の一杯を習慣にしたい人 | 使う場面(行動) | 手間の少ない挽き方と、毎朝飲みきれる量の定期便を案内する |
| 産地や焙煎の違いを楽しみたい人 | 求める便益(心理) | 毎回違う豆が届くプランと、飲み比べの解説をつける |
| 贈り物として探している人 | 購入目的(行動) | 包装とメッセージカードを用意し、単発購入の導線を短くする |
| 一度買って止まっている人 | 購入回数(行動) | 2回目に試しやすい少量の豆を案内する |
こうすると、かたまりごとに打ち手が違うことがはっきりします。ここまで来て初めて、どのかたまりを狙うかというターゲティングの判断ができるようになります。逆に、書き出した打ち手が隣のかたまりとほとんど同じなら、その2つは統合していい。細かく分けることより、打ち手の違う単位で分けることを優先します。
ターゲティング・ペルソナ・RFM分析との違い
セグメンテーションは「市場を分ける」段階で、ターゲティングは「分けたかたまりから狙う相手を選ぶ」段階です。似た言葉と並べると、どこまでがセグメンテーションの仕事なのかがはっきりします。
| 手法 | やること | 出てくるもの |
|---|---|---|
| セグメンテーション | 市場全体を意味のあるかたまりに分ける | かたまりの一覧(地図) |
| ターゲティング | 分けたかたまりから狙う相手を選ぶ | 狙うかたまりと、狙わないかたまり |
| ペルソナ | 狙うかたまりを一人の人物像として描く | チームで共有する顔のある人物 |
| RFM分析 | すでにいる顧客を購買履歴で採点して分ける | 既存顧客のグループと打ち手 |
ペルソナは、セグメンテーションでできたかたまりの中から一人の顔を描く作業です。かたまりのままだと会議で話が抽象的になるので、人物として描いて共有します。顧客を「狙う相手」ではなく物語の主役として配役する考え方はペルソナキャスティングとは何かで書いています。
RFM分析は、行動変数を使ったセグメンテーションの一種と考えると位置づけがわかりやすいと思います。対象がすでに買ってくれた顧客に限られ、最新購入日・購入頻度・購入金額という3つの行動で分けます。既存顧客の分け方を具体的に知りたい場合はRFM分析のやり方とスコアの付け方を読んでもらうと手順がそのまま使えます。
実務での使い方──「分けた基準で打ち手が変わるか」の検算
実務でのセグメンテーションは、市場を分ける作業というより、すでにある分類が本当に打ち手につながっているかを確かめる検算として使うと効きます。問うことはひとつで、分けた基準で打ち手が変わるかどうか。変わらない分類は、資料の上で整って見えるだけです。
博報堂でキャンペーンをつくっていた頃、調査会社から届く分析資料には、年代別・性別のきれいなクロス集計が何十枚も並んでいることがありました。どのグラフも正しいのに、それを見て企画の何が変わるのかを誰も言えない。そういう場面は珍しくありませんでした。分けることが目的になると、分類はどこまでも細かくなり、打ち手は一つも増えません。
アクセンチュアでBtoBのマーケティングに関わっていたときも、似たことを見てきました。BtoBでは業種と企業規模で市場を分けるのが定番です。でも同じ業種・同じ規模でも、新しい仕組みをすでに試したことのある会社と、まだ検討の入口にいる会社では、届けるべき資料がまったく違います。業種という属性より、検討がどこまで進んでいるかという行動のほうが、打ち手を分ける基準として役に立つことが多いと感じていました。
手元の分類を検算するときは、次の3つを確かめると判断しやすいと思います。
- かたまりごとに、商品・価格・言葉・届け方のどれかが具体的に変わるか
- そのかたまりに属する人を、実際に見つけて届けることができるか
- そのかたまりは、打ち手を変える手間に見合う大きさがあるか
2026年のいまは、広告配信やCRMのツールが行動データから自動でかたまりを作ってくれるようになりました。分けること自体はどんどん簡単になっています。でも、ツールが出したかたまりに対して「では何を変えるのか」を決めるのは、いまも人の仕事です。もうひとつ知っておきたいのが、細かく分けすぎることへの批判です。バイロン・シャープは「ブランディングの科学」(朝日新聞出版)で、競合するブランドどうしの購買者の顔ぶれはあまり変わらないことを示し、狭いセグメントに絞りすぎる戦略に疑問を投げかけました。この議論はダブルジョパディの法則とロイヤルティ神話でも扱っています。分けることを否定するのではなく、分けすぎて市場の大半を自分から手放していないかを確かめる視点として持っておくといいと思います。
セグメンテーションに関するよくある質問
セグメンテーションの4つの変数とは何ですか?
地理的変数(地域・気候など)、人口統計的変数(年齢・性別・所得など)、心理的変数(価値観・ライフスタイルなど)、行動変数(購入頻度・使う場面・求める便益など)の4つです。人口統計的変数は人口動態変数と呼ばれることもあります。どれか一つを選ぶのではなく、打ち手が変わる組み合わせを探すために使います。
セグメントはいくつに分ければいいですか?
決まった数はありません。目安は、かたまりごとに違う打ち手を書けるかどうかです。打ち手を書き分けられないかたまりは統合し、書き分けられる単位まで分けます。小さな事業なら、実行できる打ち手の数がそのまま分ける数の上限になると考えると現実的です。
セグメンテーションとターゲティングの違いは何ですか?
セグメンテーションは市場をかたまりに分ける段階で、ターゲティングは分けたかたまりの中から狙う相手を選ぶ段階です。分ける作業と選ぶ作業を混ぜると、最初から狙いたい相手に合わせた都合のいい分け方になりがちです。先に打ち手の違いで市場を分け、そのあとで選ぶ順番を守ると判断がぶれにくくなります。
セグメンテーションはもう古いのですか?
古くはありませんが、使い方は変わってきています。データが増えて分けること自体は簡単になったぶん、分けすぎて市場を狭めてしまう失敗のほうが目立つようになりました。分類の細かさではなく、分けた基準で打ち手が変わるかどうかで判断するなら、2026年のいまでも十分に使える考え方です。
おわりに──市場を分けるのではなく、打ち手を分ける
セグメンテーションとは、市場を分けることではなく、打ち手を分けることです。1956年にこの言葉が生まれたときから、目的は「相手に合わせて売り方を変えること」にありました。分類の表がどれだけきれいでも、そこから何も変わらないなら、それは分析ではなくただの整理整頓です。
手元の資料に年代別や業種別のグラフが並んでいたら、一枚ずつ「このかたまりには何を変えるのか」と書き込んでみてほしいと思います。書けないかたまりは、まとめていい。書けたかたまりだけが、次のターゲティングに進む地図になります。
細かく分けるほど賢く見える。でも、打ち手が分かれたときにだけ、市場は分かれています。