マーケの目

広告は「どこに出すか」ではなく「何に乗るか」の時代へ|出稿からコンテンツ出演へ

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結論から書きます。広告は、どこに出すかを競う時代から、何に乗るかを競う時代へ移りました。いい枠を押さえれば勝てた時代は終わり、いまは、人が好きで見ているコンテンツの中に、いかに自然に入り込めるかが勝負になっています。広告は、出稿されるものから、出演するものへ変わりつつあります。

ぼくは博報堂で13年、広告の現場にいました。テレビの枠を押さえ、デジタルのターゲティングを組み、という時代を通ってきた人間として、この変化を三つの段階に分けて整理します。マス、デジタル、そしてコンテンツです。

第一段階:マスの時代──とにかく広く届ける

最初の主役は、テレビをはじめとするマス広告でした。この時代の勝ち筋は、単純です。多くの人が見る枠に、大きく出す。ゴールデンタイムの枠を押さえ、繰り返し流せば、名前が知れ渡りました。

ぼくが広告の仕事を始めた頃も、まだこの発想が色濃く残っていました。どれだけ多くの人の目に触れさせるか。届いた人数が、そのまま成果に近いと信じられていました。もちろん効果はありました。ただ、この方法には弱点があります。見たい人にも、そうでない人にも、同じように届いてしまう。無駄が大きいのです。

第二段階:デジタルの時代──狙って届ける

次に来たのが、デジタル広告です。ここで変わったのは、誰に届けるかを選べるようになったことでした。年齢、地域、興味関心、行動履歴。データをもとに、届けたい人にだけ広告を出せるようになりました。

マスの無駄を減らす、という意味で、これは大きな進歩でした。適切な人に、適切なタイミングで、適切な文脈で届ける。広告は、広くばらまくものから、狙って当てるものへ変わりました。

ただ、この段階にも限界が見えてきました。あまりに精密に追いかけると、人は監視されている気味悪さを覚えます。そして何より、狙って出した広告も、結局は広告として身構えられてしまう。いくら的確でも、これは広告だと分かった瞬間、人の心は少し閉じます。この壁が、次の段階を生みました。

第三段階:コンテンツの時代──何に乗るかで決まる

いま起きているのが、この三つめの変化です。広告が、どの枠に出るかではなく、どのコンテンツに乗るかで効き目が決まるようになりました。

人は、好きな配信者や、いつも見ている番組の中で自然に紹介されたものを、素直に受け取ります。広告だと身構える相手が、コンテンツの一部としてなら、すんなり受け入れる。同じ商品でも、無機質な枠に出るのと、好きな人が楽しそうに語るのとでは、届き方がまるで違います。

これは、広告が「出される」ものから「出演する」ものへ変わった、ということです。ブランドが主役として語るのではなく、コンテンツの世界観の中に、脇役として溶け込む。視聴者は、そのコンテンツごと、広告を受け入れます。好きな番組に出てくるから、その商品にも好意的になる。この地続きの信頼が、いまいちばん強い力を持っています。

この構造は、ペルソナキャスティングの記事で書いた、顧客を主役に据える発想とも通じます。語る主体が、企業からコンテンツの作り手や視聴者へ移っている、という点で同じ流れです。

「何に乗るか」を、どう選ぶか

では、どのコンテンツに乗ればいいのか。ここが実務の勘所です。ポイントは三つあります。

ひとつめは、届く人数より、世界観の相性を見ることです。再生数が多いだけのコンテンツに乗っても、世界観が自社と合っていなければ、浮くだけです。視聴者が違和感を持った瞬間に、逆効果になります。人数の大きさより、空気の合致を優先します。

ふたつめは、作り手と一緒に作ることです。できあがったコンテンツに広告を後付けすると、たいてい取ってつけたように見えます。編集の段階から関わり、そのコンテンツの文脈に馴染む形を一緒に設計するほうが、はるかに自然に届きます。

みっつめは、コントロールを手放す覚悟を持つことです。コンテンツに乗るということは、作り手や視聴者に主導権の一部を預けるということです。すべてを企業が管理しようとすると、あの広告臭さが戻ってきます。任せた部分が、自然さを生みます。この点は、群衆を操ろうとしないことが要点だったモブマーケティングの記事とも共通します。

よくある質問

広告は「どこに出すか」から「何に乗るか」へ、なぜ変わったのですか

デジタル広告で精密に狙えるようになっても、広告だと分かった瞬間に人が身構える壁が残ったためです。一方、好きなコンテンツの中で自然に紹介されたものは、視聴者がそのコンテンツごと受け入れます。枠の良し悪しより、どのコンテンツに溶け込めるかが効き目を左右するようになりました。

コンテンツに乗る広告と、従来のタイアップは違いますか

本質は近いですが、関わり方の深さが違います。従来はできあがった枠に広告を差し込む形が中心でした。いまは編集の段階から作り手と一緒に設計し、コンテンツの世界観に自然に融合させることが重視されます。後付けか、共に作るかの差が、自然さを分けます。

どんなコンテンツに乗ればいいですか

再生数の大きさより、自社との世界観の相性で選ぶのが基本です。視聴者が違和感を持たない空気の合致が最優先です。数字の大きいコンテンツに乗っても、雰囲気が合わなければ浮いてしまい、かえって逆効果になります。

中小企業でもコンテンツに乗る広告はできますか

できます。大規模なテレビ番組に限らず、規模の小さな配信や、地域に根ざしたコンテンツにも、世界観の合う相手はいます。むしろ、作り手との距離が近いぶん、一緒に作り込みやすい面もあります。人数の大小より、相性と作り込みの丁寧さが効きます。

まとめ

広告は、三つの段階を通ってきました。広く届けるマスの時代、狙って当てるデジタルの時代、そしていま、何に乗るかで決まるコンテンツの時代です。枠を押さえれば勝てた時代から、好きなものの中に溶け込めるかどうかの時代へ、勝ち筋が移りました。

広告が「出される」から「出演する」へ変わったいま、問われているのは、いい枠を買う力ではありません。人が好きで見ているものに、いかに自然に馴染めるか。その馴染み方こそが、これからの広告の腕の見せどころです。ブランドが視聴者の好きな世界の一部になれたとき、広告は、いちばん強い効き目を持ちます。

語る主体が企業から生活者へ移る流れは、ファンエコノミーの記事にもまとめています。あわせて読んでもらえたらと思います。

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