最終更新:2026年10月20日
秘密保持契約(NDA)で受注側が確認すべきなのは、「何が秘密情報にあたるか」「何に使ってよいか」「いつまで守るか」「破ったら何を負うか」「実績として公開できるか」の5点です。NDAは当事者どうしの契約で、不正競争防止法の営業秘密とは守られる範囲も効き方も違います。フリーランスが特に見落としやすいのは、範囲の広さと、ポートフォリオに載せられるかどうかです。
この記事では、受注側が確認する条項の一覧、営業秘密の3つの要件(経済産業省の説明で確認)との関係、条文の例(架空の当事者)、実績公開の扱いを整理しました。NDAを電子契約で結ぶ方法は電子契約の記事に、契約書の印紙は印紙税と契約書の記事に任せます。2026年10月20日時点の制度で書いています。
秘密保持契約(NDA)の注意点とは?結論から
NDAの注意点は、受け取る情報の範囲と、使い方・期間・責任・公開の可否を、契約の文言で具体的にしておくことに尽きます。法律で決まった書式はなく、中身は当事者が決めます。
| 条項 | 受注側が確認すること | よくある落とし穴 |
|---|---|---|
| 秘密情報の範囲 | 「開示された一切の情報」なのか、「秘密と明示した情報」に限るのか | 範囲が広すぎて、打ち合わせで聞いた一般的な話まで秘密になる |
| 例外 | 公知の情報・もともと持っていた情報・第三者から正当に得た情報・独自に作った情報が外れているか | 例外がなく、自分のノウハウまで使えなくなる |
| 目的外使用の禁止 | 使ってよい目的が「◯◯の検討」などと特定されているか | 目的が書かれておらず、どこまで使ってよいか分からない |
| 第三者への開示・再委託 | 外注先・税理士・クラウドサービスに渡せるか、その条件 | 再委託先に同じ義務を負わせる手当てがない |
| 期間 | 契約の有効期間と、終了後も義務が続く期間 | 期間の定めがなく、いつまで守ればよいか分からない |
| 返還・破棄 | 終了時に返す・消す対象と、その証明の方法 | バックアップやメールの扱いが決まっていない |
| 損害賠償 | 賠償の範囲と上限、違約金の定め | 上限がなく、報酬に比べて大きすぎる責任を負う |
| 実績公開の可否 | 取引の事実・社名・成果物を実績として紹介できるか、承諾の取り方 | 取引の存在そのものが秘密情報に含まれている |
表の8項目のうち、受注側にとって影響が大きいのは「範囲」「例外」「実績公開」の3つです。範囲と例外は、契約が終わったあとに自分の経験をどこまで使えるかを決めます。実績公開は、次の仕事を取るための材料をどこまで出せるかを決めます。
不正競争防止法の営業秘密とNDAの関係
営業秘密は法律で定義された情報で、3つの要件をすべて満たしたときに不正競争防止法で守られます。NDAは、その要件の1つである「秘密として管理されている」ことを示す代表的な手段でもあります。
不正競争防止法2条6項は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています(e-Gov 不正競争防止法)。経済産業省の営業秘密管理指針(最終改訂2025年3月31日)は、3つの要件を次のように説明しています。
| 要件 | 経済産業省の説明の要点 |
|---|---|
| 秘密管理性 | 秘密として管理しようとする意思が、管理の措置で示され、情報に接する人がそれを認識できること。措置には「マル秘」などの表示や、秘密保持契約などの契約上の措置も含めて広く考える |
| 有用性 | 客観的に見て事業活動に有用であること。脱税など公序良俗に反する情報は外れる。失敗した研究データのような情報にも有用性は認められる |
| 非公知性 | 一般に知られておらず、容易に知ることもできないこと。合理的な努力で手に入る刊行物に載っていない、公開情報から容易に推測できない状態 |
指針は、取引先に秘密情報を渡す場合、取引先と秘密保持契約を結んだうえで渡したかどうかが秘密管理のポイントになるとしています。ただし、NDAを結ばずに渡したからといって、直ちに秘密管理の措置を欠くことにはならないとも書いています。別の法人と情報を共有するときは、営業秘密を特定したNDAを結ぶのが典型だとしています。
| 比べる点 | NDA(契約) | 営業秘密(不正競争防止法) |
|---|---|---|
| 守られる範囲 | 契約で決めた「秘密情報」。営業秘密より広く決めることもできる | 3つの要件をすべて満たす情報だけ |
| 誰に効くか | 契約した当事者 | 当事者以外にも効く |
| 違反したとき | 債務不履行として損害賠償(民法415条)、契約で決めた違約金 | 差止めなどの民事上の措置や刑事罰の対象になり得る |
| 期間 | 契約で決めた期間 | 要件を満たしている限り続く |
受け取った側にとって大事なのは、示された営業秘密を「不正の利益を得る目的」や「保有者に損害を加える目的」で使ったり開示したりする行為が、不正競争にあたることです(不正競争防止法2条1項7号)。NDAの期間が終わっても、この行為が許されるわけではありません。
条項の確認手順と条文の例
NDAを受け取ったら、範囲→例外→目的→期間→責任→公開の順に読むと、見落としが減ります。気になる条項は、署名する前に修正案を出して相談します。
- 範囲を読む:「一切の情報」なら、秘密と明示したものに限る修正を相談します
- 例外を読む:公知・既存・第三者から取得・独自開発の4つが入っているかを見ます
- 目的を読む:使ってよい目的が案件に合っているか、再委託や外部サービスの利用が許されているかを見ます
- 期間を読む:契約期間と、終了後に義務が続く期間を確かめます
- 責任を読む:賠償の上限、違約金、故意・重大な過失の扱いを見ます
- 公開を読む:実績として紹介できる範囲と、承諾の取り方を確かめます
以下は、架空の当事者(株式会社サンプル商事=甲、合同会社テスト企画=乙)で書いた条文の例です。例(そのまま使える雛形ではない)なので、実際の契約に使うときは案件に合わせて弁護士に確認してください。
| 条項 | 条文の例(架空・そのまま使える雛形ではない) |
|---|---|
| 秘密情報 | 本契約において「秘密情報」とは、甲が乙に開示した情報のうち、開示の際に秘密である旨を明示したもの(口頭で開示した場合は、開示後14日以内に書面で特定したもの)をいう。 |
| 例外 | 次の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報に含まない。(1)開示時に公知であった情報(2)開示後に乙の責めによらず公知となった情報(3)開示時に乙がすでに保有していた情報(4)正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに取得した情報(5)秘密情報によらず乙が独自に作成した情報 |
| 目的 | 乙は、秘密情報を、甲の新商品の広告企画を検討する目的にのみ使用する。 |
| 実績の紹介 | 乙は、甲の事前の書面(電子メールを含む)による承諾を得た場合に限り、甲との取引の事実および成果物を、承諾された範囲で自己の実績として紹介することができる。 |
| 損害賠償 | 乙が本契約に違反して甲に損害を与えたときは、通常かつ直接の損害を賠償する。ただし、乙の故意または重大な過失による場合を除き、賠償額は本件業務の委託料の総額を上限とする。 |
民法420条は、当事者が損害賠償の額を予定でき、違約金は賠償額の予定と推定すると定めています。違約金の条項がある場合は、金額と、それとは別に損害賠償を請求できる書き方になっていないかを確かめます。
フリーランス・一人法人の判断ポイント
受注側は「次の仕事で使えるものが残るか」、発注側は「自分が守る義務を外注先にもつなげているか」で判断すると、NDAの読み方がぶれません。一人で受けて一人で外注もする立場では、両方が同時に起きます。
受注側(フリーランス・一人法人として受ける)で迷いやすいのが、実績公開とポートフォリオです。NDAが取引の存在そのものを秘密にしているなら、社名を出すことも許されません。成果物の著作権を譲渡する契約なら、譲渡したあとの公開には著作権者の許諾が要ります(著作権法61条・63条)。NDAと業務委託契約の知的財産権の条項は、セットで読むものです。
| 実績として出したいもの | 確認する条項 | 安全な出し方の例 |
|---|---|---|
| 社名・ロゴ | NDAの秘密情報の範囲、実績紹介の条項 | 事前に書面かメールで承諾をもらう |
| 公開済みの広告・Webページ | 業務委託契約の著作権の帰属、実績紹介の条項 | 公開日以降に、承諾された範囲で載せる |
| 非公開の資料・数値 | NDAの秘密情報の範囲 | 載せない。数値は社名が分からない形でも、承諾がなければ出さない |
| 担当した業務の種類 | NDAの範囲(取引の存在を秘密にしているか) | 業種と役割だけを書く形で承諾をもらう |
賠償の上限も、受注側には大きな論点です。ぼくはマーケターとして企業のデータを扱う仕事をしているので、情報漏えいなどの業務過誤に備える補償があるかないかで、安心感がかなり違うと感じています(ファクタリングの記事で書いたこと)。契約で上限を決めることと、保険で備えることは別の対策です。保険の種類はフリーランスの保険の記事にまとめています。
発注側(一人法人が外注する)では、受け取った秘密情報を外注先に渡す前に、元のNDAで再委託が許されているかを確かめます。許されていても、外注先と同じ水準のNDAを結ばずに渡すと、元の取引先との約束を自分が破ることになりかねません。渡す情報は作業に必要な分に絞り、終了時の返還・破棄まで決めておきます。会社名とそろったメールアドレスで契約書や見積書をやり取りすることも、小さな信用の一部になると感じてきました(一人で合同会社を設立した記事)。
外部のクラウドサービスや生成AIに情報を入力することも、第三者への提供にあたるかどうかが論点になります。経済産業省の指針は、秘密管理された情報が生成AIの提供事業者などの第三者に提供される場合、秘密管理性が否定される場合もあり得ると注記しています。NDAで外部サービスの利用がどう扱われているかは、入力する前に確認します。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、相手の雛形だからと読まずに署名することです。NDAは受注側の義務を中心に書かれていることが多く、範囲・期間・賠償の上限が受注側に不利なまま残りやすい契約です。
- 範囲を「一切の情報」のままにする:契約後に、自分の経験やノウハウまで使えなくなるおそれがあります
- 例外の条項がない:もともと知っていた情報や、独自に作った情報まで秘密情報に入ってしまいます
- 期間を見ない:終了後に義務が続く期間を決めておかないと、いつまで守るかで解釈が割れます
- 実績公開を口頭の了解で済ませる:担当者が替わると確認できなくなります。承諾は書面かメールで残します
- NDAが切れたら自由に使えると思う:営業秘密を不正の利益を得る目的などで使えば、不正競争防止法の問題になり得ます
- 外注先とNDAを結ばずに情報を渡す:元の取引先に対する義務違反になりかねません
この記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約の判断は弁護士・税理士に確認してください。この記事は最終更新日時点の制度で書いています。契約トラブルの相談先としては、厚生労働省の委託で運営されているフリーランス・トラブル110番があり、弁護士に無料で相談できます(契約書の網羅的なチェックは対象外と案内されています)。
秘密保持契約(NDA)に関するよくある質問
NDAの期間は何年にするのが普通ですか?
法律で決まった年数はなく、当事者が契約で決めます。確認するのは、契約そのものの有効期間と、終了後も秘密保持の義務が続く期間の2つです。期間が切れても、営業秘密を不正の利益を得る目的などで使えば不正競争防止法の問題になり得る点は変わりません。
NDAの雛形はそのまま使ってもいいですか?
雛形は出発点として使い、案件ごとに秘密情報の範囲・目的・期間・賠償の上限・実績公開を書き換えるのが前提です。この記事の条文の例も架空の当事者で書いた例で、そのまま使える雛形ではありません。重要な取引は弁護士に確認してください。
フリーランスはNDAを結んだ仕事を実績として公開できますか?
契約で決まります。取引の存在が秘密情報に入っていれば社名も出せず、成果物の著作権を譲渡していれば公開に許諾が要ります。署名前に実績紹介の条項を入れてもらい、公開するときは承諾を書面かメールで残します。
NDAを結ばずに受け取った情報は自由に使えますか?
自由に使えるとは限りません。経済産業省の指針は、NDAを結ばずに開示しても直ちに秘密管理の措置を欠くことにはならないとしています。秘密である旨が示されていれば営業秘密として守られる場合があるので、受け取る前にNDAを結ぶほうが双方にとって安全です。
おわりに──NDAは秘密を守る契約である前に、自分の次の仕事を守る契約
NDAに署名すると、受け取った情報だけでなく、その後の自分の仕事の自由も一部を差し出すことになります。範囲と例外で経験を守り、期間と賠償の上限で責任の大きさを決め、実績紹介の条項で次の仕事の材料を残す。そこまで読んでから署名すれば、守る約束と自分の仕事は両立します。
今日やることは1つです。手元にあるNDAを1通開いて、「実績」という言葉が書かれているかを探してください。