最終更新:2026年10月19日
事前確定届出給与とは、役員に払う賞与の支給日と金額を前もって決めて税務署に届け出て、その通りに払うことで会社の損金にできる給与のことです。一人社長が役員賞与を損金にするには、実質この方法しかありません。届出期限は原則として「決議をした日から1か月を経過する日」と「期首から4か月を経過する日」の早いほうで、新設法人は「設立の日以後2か月を経過する日」です。届け出た額と違う額を払うと、原則としてその給与は損金になりません。この記事では、国税庁と日本年金機構・協会けんぽのページで確認できた内容だけを使って、期限の計算例、届出書に書く項目、否認されるケース、社会保険料の扱いを整理します。役員報酬の金額の決め方は一人法人の役員報酬の決め方に書いたので、ここでは賞与の制度に絞ります。内容は最終更新日時点の制度にもとづいています。
事前確定届出給与とは?結論から
事前確定届出給与は「いつ・いくら払うかを先に決め、税務署に届け、その通りに払う」役員賞与の仕組みです。3つのうちどれか一つでも崩れると、損金にできなくなります。要点を表にします。
| 項目 | 内容 | 確認した公式ページ |
|---|---|---|
| 対象 | 所定の時期に確定した額の金銭などを払う定めにもとづく役員の給与で、定期同額給与・業績連動給与に当たらないもの | 国税庁 No.5211/法人税法 第34条第1項第2号 |
| 届出の要否 | 同族会社は必要(定期給与を払っていない役員への給与でも必要) | No.5211 |
| 届出期限(原則) | 決議日(職務執行の開始日より後なら開始日)から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日の早いほう | 国税庁 C1-23 事前確定届出給与に関する届出 |
| 届出期限(新設法人) | 設立の時に始まる職務についての定めなら、設立の日以後2か月を経過する日 | 国税庁 C1-23 |
| 届け出た額と違ったら | 事前確定届出給与に当たらず、損金不算入 | 国税庁 質疑応答事例 |
| 社会保険 | 年3回以下の支給なら賞与として標準賞与額に保険料がかかり、支払日から5日以内に賞与支払届を出す | 日本年金機構 |
一人で100%出資している会社は、法人税法上の同族会社に当たります。同族会社が使える役員給与の形は、毎月の定期同額給与と、この事前確定届出給与の2つです。損金に入れられる業績連動給与は、同族会社では原則として使えないので、一人社長の「ボーナス」はこの制度を通すことになります。
届出期限・届出書・要件──公式ページで確認した中身
届出期限は「どんな場面で定めをしたか」で3つに分かれ、あとから額を変える場合は変更届出の期限が別にあります。国税庁の手続案内(C1-23・C1-24)とタックスアンサーNo.5211に書かれている内容を表にまとめます。
| 場面 | 届出期限 | 使う書類 |
|---|---|---|
| 株主総会・社員総会などの決議で定めた(通常) | 決議日(職務執行の開始日より後なら開始日)から1か月を経過する日。ただし会計期間開始の日から4か月を経過する日のほうが早ければ、その日 | 事前確定届出給与に関する届出書+付表1 |
| 新設法人が、設立の時に始まる職務について定めた | 設立の日以後2か月を経過する日 | 同上 |
| 臨時改定事由(役員の地位や職務内容の重大な変更など)で定めた | 上の期限と、臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日の、いずれか遅い日 | 同上 |
| 届け出た内容を業績悪化改定事由で減額する | 変更を決議した日から1か月を経過する日。ただし変更前の定めによる支給日がそれより前に来るなら、その支給日の前日 | 事前確定届出給与に関する変更届出書+付表 |
出典は国税庁 C1-23 事前確定届出給与に関する届出とC1-24 事前確定届出給与に関する変更届出です。申告期限の延長の特例で税務署長の指定を受けている法人は「4か月」が「指定に係る月数に3を加えた月数」に変わります。提出先は納税地の所轄税務署長で、e-Taxのほか、書面を1部持参または送付する方法も案内されています。
届出書に書く項目は、国税庁の届出書の記載要領で決まっています。主な欄は次のとおりです。
- ①決議をした日と決議をした機関:株主総会、社員総会など
- ②職務の執行を開始する日:定時総会の開催日など
- ③臨時改定事由の概要と生じた日:臨時改定事由で定めた場合だけ
- ⑤定期同額給与で払わない理由と、支給時期をその時期にした理由:具体的に書く
- ⑥その他参考となるべき事項:新設法人なら設立年月日など。定めの内容は、定めの写しを添付してもよい
- 届出期限の欄:上の表のどの区分の期限かを書く
- 付表1:役員ごとに、職務執行期間、事前確定届出給与の支給時期と支給額、それ以外の給与(毎月の報酬)の支給時期と支給額を書く
一人の合同会社の場合は、職務執行の開始日の考え方に注意が要ります。株式会社では一般に「定時株主総会から次の定時株主総会まで」が職務執行期間と解されますが、合同会社の社員には会社法上の任期の定めがなく、開始日がはっきりしないからです。この点について、東京国税局の文書回答事例(令和7年2月7日回答)は、業務執行社員の任期を定款に定め、定時社員総会で総社員の同意により支給日と金額を決め、その開催日を職務執行の開始日とする合同会社について、届出期限を「定時社員総会の開催日から1月を経過する日」と解して差し支えないとしています。ただし、これは照会した会社の事実関係を前提にした回答で、東京国税局の見解である点も明記されています。
手順と届出期限の計算例
事前確定届出給与の手順は「決める→届ける→その通りに払う→社会保険の届出をする」の4段で、つまずきやすいのは届出期限の日付の数え方です。国税庁の記載要領は、「決議をした日から1月を経過する日」を、決議日の翌日を起算日として暦で数えると説明しています(例:5月25日の決議なら6月25日)。
- 支給日と金額を決める:株式会社は株主総会、合同会社は定款の定めに従った社員の同意などで、役員ごとの支給日と金額を決め、議事録や同意書に残します。
- 届出書と付表を出す:上の表の期限までに、所轄税務署に届出書と付表1を出します。
- 届け出た日に、届け出た額を払う:1円でも違えば、原則として損金にできません。
- 賞与支払届を出す:社会保険では賞与として扱われるので、支払日から5日以内に日本年金機構へ「被保険者賞与支払届」を出します。
届出期限の計算例を3つ出します(会社・日付はすべて架空の例です)。
| 例 | 前提 | (イ)決議日から1か月 | (ロ)期首から4か月/設立以後2か月 | 届出期限 |
|---|---|---|---|---|
| A | 3月決算の株式会社。6月25日の定時株主総会で決議し、職務執行も同日開始 | 7月25日 | 7月31日(4月1日から4か月) | 早いほうの7月25日 |
| B | 9月決算の合同会社。12月20日の定時社員総会で決定し、同日を職務執行の開始日とする | 1月20日 | 1月31日(10月1日から4か月) | 早いほうの1月20日 |
| C | 2026年11月1日に設立した新設法人が、設立時に始まる職務について定めた | ― | 2026年12月31日(設立の日以後2か月) | 2026年12月31日 |
検算します。Aは決議日の翌日6月26日が起算日で、翌月の応当日7月26日の前日が7月25日です。会計期間の開始日4月1日から4か月を経過する日は7月31日なので、早いほうの7月25日が期限になります。Bも同じ数え方で、12月21日起算の1月20日と、10月1日から4か月の1月31日を比べて1月20日です。Cは設立日を含めて2か月を数え、12月31日になります。Bは東京国税局の文書回答と同じ形をとった場合の例なので、定款や決め方が違う合同会社は税理士に確認してください。
次に、届け出た額と違う額を払った場合の計算例です。国税庁の質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定」の考え方を、架空の数字に置き換えます。3月決算の会社が、職務執行期間(6月25日〜翌年6月24日)の賞与として、12月と翌年6月に各100万円を届け出たとします。
| 実際の支給(例) | 扱い | 損金不算入になる額 |
|---|---|---|
| 12月に80万円だけ払い、翌年6月は100万円払った | 職務執行期間の支給の全てが定めどおりとはいえない | 80万円+100万円=180万円の全額 |
| 12月は100万円払い、翌年6月は40万円しか払わなかった | 当期(12月分)は定めどおりなので、翌期分だけ不算入としてよい | 翌期の40万円 |
| 年1回100万円を届け出て、80万円だけ払った | 届け出た額と実際の支給額が違う | 80万円の全額 |
減らして払った分だけが損金になるのではなく、払った額の全額が損金から外れる点に注意してください。届け出た額を下げたいときは、業績悪化改定事由に当たる場合に限って変更届出を出す道があります。業績悪化改定事由に「一時的な資金繰りの都合」が含まれないことは、定期同額給与と同じです(国税庁 No.5211)。
一人社長の判断ポイント
一人社長にとって事前確定届出給与は、「数か月先の会社の現金を、いま約束する制度」です。届け出た額を払えなければ損金にならないので、利益の見込みより、支給日に現金があるかどうかが判断の中心になります。
以前、役員報酬の決め方の記事のよくある質問で、役員にボーナスを出すなら事前確定届出給与として届け出て、確実に払える額で届け出る、と書きました。同じ記事に、独立して最初に痛感したのは、売上より先に手元の現金がどれだけ残るかが生命線になることだった、とも書いています。賞与の判断は、この2つをつなげて考えると迷いが減ります。
- 「払えるか」で額を決める:届け出る時点では利益が読めないことが多いので、支給日に確実に払える額にとどめます。
- 社会保険料も一緒に見る:一人法人では、会社負担分も本人負担分も結局は自分のお金です。賞与にも保険料がかかります(下の表)。
- 期限の日付を先に書き出す:決算月と総会の日が決まった時点で、届出期限をカレンダーに入れます。
- 判断は人に頼る:一人で合同会社を設立したときの記事には、会計入力はツールに頼り、判断が必要な部分は人に頼る分け方にしてから、バックオフィスへの不安がかなり減ったと書きました。賞与の額と届出は、まさに判断が必要な部分です。
社会保険では、事前確定届出給与も年3回以下の支給なら「賞与」です。日本年金機構によると、賞与額から1,000円未満を切り捨てた額が標準賞与額になり、その上限は健康保険が年度(4月〜翌3月)の累計で573万円、厚生年金保険が1か月あたり150万円です。協会けんぽ東京支部の令和8年度(2026年3月分から)の料率で、賞与100万円を払う場合を計算します(45歳・2026年12月支給の架空の例)。
| 項目 | 料率 | 全額 | 本人負担(折半) |
|---|---|---|---|
| 健康保険(介護保険第2号被保険者) | 11.47% | 114,700円 | 57,350円 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 2,300円 | 1,150円 |
| 厚生年金保険 | 18.300% | 183,000円 | 91,500円 |
| 合計 | 30.00% | 300,000円 | 150,000円 |
| 子ども・子育て拠出金(事業主だけが負担) | 0.36% | 3,600円 | ― |
出典は協会けんぽ 令和8年3月分からの保険料額表(東京支部)と日本年金機構 従業員に賞与を支給したときの手続きです。子ども・子育て支援金は令和8年4月分から加わり、介護保険料は40歳から64歳までの人にかかります。40歳未満なら健康保険の料率は9.85%で、合計は283,800円です。一人法人では、全額の300,000円に拠出金3,600円を足した303,600円が、会社と自分から出ていくお金になります。料率は支部と年度で変わるので、自分の会社が加入している支部の最新の表で確かめてください。社会保険そのものの仕組みは独立したら保険証はどうなるのかにまとめています。
よくある間違いと注意点
事前確定届出給与でいちばん多い間違いは、「届け出た額より少なく払えば、払った分は損金になる」と考えることです。国税庁の質疑応答事例のとおり、届け出た額と実際の額が違えば、払った額の全額が損金不算入になります。ほかの注意点も並べます。
- 届出期限を4か月だけで覚える:期限は「決議日から1か月」と「期首から4か月」の早いほうです。総会が期首から3か月以内にあれば、たいていは決議日から1か月が先に来ます。
- 新設法人の期限を見落とす:設立の時に始まる職務についての定めは、設立の日以後2か月を経過する日が期限です。設立直後の手続きが重なる時期なので、とくに忘れやすいところです。ほかの届出の期限は会社設立後の届出一覧で並べて確認できます。
- 同族会社だから届出は不要だと思う:逆です。届出が要らないのは、同族会社に当たらない法人が定期給与を払っていない役員に金銭で払う場合などに限られます。
- 2回払いの判定を1回ずつ考える:複数回払う定めは、職務執行期間を一つの単位として、全ての支給が定めどおりかで判定されます(質疑応答事例)。
- 賞与支払届を出し忘れる:社会保険の届出は支払日から5日以内です。税務署の届出とは別の手続きです。
- 額を大きくしすぎる:事前確定届出給与に当たっても、不相当に高額な部分は損金になりません(No.5211)。
この記事は、最終更新日時点の制度で、国税庁・日本年金機構・協会けんぽのページで確認できた内容だけを書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。相談相手を探すなら、税理士ドットコムをすすめる理由に探し方を書いています。
事前確定届出給与に関するよくある質問
事前確定届出給与について、検索で一緒に調べられている「期限」「届出書」「記載例」「否認事例」の疑問に答えます。内容は、最終更新日時点で公式ページで確認できたものだけです。
事前確定届出給与の届出期限はいつですか?
原則は、決議をした日(職務執行の開始日より後なら開始日)から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日の早いほうです。新設法人が設立時に始まる職務について定めた場合は、設立の日以後2か月を経過する日です。3月決算で6月25日に決議した例なら7月25日になります(架空の例)。
事前確定届出給与の届出書には、何を書けばいいですか?
決議をした日と機関、職務の執行を開始する日、定期同額給与で払わない理由と支給時期の理由などを書き、役員ごとの付表1に支給時期と支給額、毎月の報酬の額を書きます。様式と記載要領は国税庁の手続案内(C1-23)に載っています。迷う欄は税理士に確認してください。
届け出た額より少なく払うと、どうなりますか?
届け出た額と実際の支給額が違うので、事前確定届出給与に当たらず、払った額の全額が損金不算入になります。2回払う定めなら、職務執行期間の全ての支給が定めどおりかで判定されます。ただし当期は定めどおりで翌期だけ違った場合は、翌期分だけ不算入としてよいとされています。
合同会社の一人社長でも、事前確定届出給与は使えますか?
使えます。合同会社でも、社員総会などで支給日と金額を決めて届け出れば対象になります。職務執行の開始日の考え方は、東京国税局の文書回答(令和7年2月7日)が一つの例を示していますが、照会した会社の事実関係が前提なので、自分の会社の定款に当てはめて税理士に確認してください。
おわりに──事前確定届出給与は、ボーナスではなく「先払いの約束」
事前確定届出給与は、利益が出たあとにご褒美を出す仕組みではありません。数か月先の支給日と金額を、いまの時点で税務署に約束する仕組みです。届け出る前に決めるべきなのは「いくら欲しいか」ではなく「その日に確実に払えるか」です。その一点を外さなければ、この制度はちゃんと味方になります。