最終更新:2026年10月19日
電子帳簿保存法で一人法人が必ずやることは、メールやWebで受け取った(または送った)請求書・領収書のデータを、データのまま決まったルールで保存することだけです。帳簿のデータ保存とスキャナ保存は希望者だけの制度です。設立1期目と2期目は基準期間がないため、ダウンロードの求めに応じられれば検索要件が不要で、フォルダとファイル名を決めて改ざん防止の事務処理規程を置けば、専用のシステムがなくても対応できます。
ぼくは40歳でtiny合同会社を設立し、代表社員はぼく一人です。この記事は、一人法人がまず手をつける電子取引データの保存を、国税庁の特設サイトと一問一答で確かめた要件をもとに、最小構成の手順まで落としたものです。2026年10月19日時点の制度で書いています。
電子帳簿保存法とは?一人法人の対応を結論から
電子帳簿保存法は、税法で保存が必要な帳簿や書類を紙ではなくデータで保存するための法律で、正式名を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトは、所得税法・法人税法上の保存義務者は特に「電子取引」を確認するよう呼びかけています。
| 項目 | 一人法人の結論 |
|---|---|
| 必ずやること | 電子取引データ(メール・Web・クラウドで授受した請求書や領収書など)をデータのまま保存する(電子帳簿保存法7条) |
| 選べること | 帳簿・自社作成書類のデータ保存と、紙の書類のスキャナ保存(どちらも希望者のみ) |
| 保存のルール | 改ざん防止の措置・見られる装置・検索の3つ(施行規則4条1項) |
| 検索要件 | 基準期間の売上高が5,000万円以下なら、ダウンロードの求めに応じられる状態を条件に不要。設立1期目・2期目は基準期間がないので不要 |
| 専用システム | なくてよい。ファイル名か索引簿で検索を確保し、事務処理規程で改ざん防止の措置にできる |
| 印刷保存 | 2024年1月1日以後の電子取引は、印刷した紙だけの保存では足りない |
3つの区分と電子取引データの保存要件(国税庁で確認)
電子帳簿保存法は、電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引データ保存の3つの区分でできていて、義務は電子取引データ保存だけです。国税庁のパンフレット「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」(令和8年6月)は、前の2つを「希望者のみ」、電子取引データ保存を「法人・個人事業者は対応が必要」と区分しています。
| 区分 | 対象 | 義務か | 一人法人の最初の判断 |
|---|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 会計ソフトなどで最初から作った帳簿、自社がパソコンで作った書類の控え | 希望者のみ | 紙に印刷して保存してもよい。令和3年度改正で事前の承認制度は廃止された |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った請求書・領収書・契約書など(決算関係書類を除く) | 希望者のみ | 紙を捨てたいときだけ始める |
| 電子取引データ保存 | データで授受した注文書・契約書・請求書・領収書・見積書など | 義務 | 最初の取引から対応する |
電子取引データの保存ルールは、施行規則4条1項と国税庁の電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)の問18・問30で次のとおりです。
| 要件 | 内容 | 専用システムなしの満たし方 |
|---|---|---|
| 改ざん防止(いずれか1つ) | ①タイムスタンプ付きのデータを受け取る ②受け取ったデータに速やかにタイムスタンプを付す ③訂正削除の履歴が残る、または訂正削除できないシステムで授受・保存する ④訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用し、備え付ける | ④の事務処理規程。国税庁が法人の例と個人事業者の例のサンプルを公開している |
| 見読可能装置 | ディスプレイやプリンタなどを備え付け、速やかに出力できるようにする | 普段のパソコンで足りる。性能や台数は問われない(問20) |
| 検索機能 | 「取引年月日・取引金額・取引先」で検索できる。あわせて範囲指定検索と組み合わせ検索ができるか、税務職員のダウンロードの求めに応じられるようにする | 規則性のあるファイル名か、表計算ソフトの索引簿(問19) |
検索要件が不要になる措置と、要件どおりに保存できないときの猶予措置は、国税庁の電子取引データ保存要件チェックシート(令和6年11月)と施行規則4条3項で次のように整理されています。
| 措置 | 条件 | 免除されるもの |
|---|---|---|
| 検索要件の不要措置 | 基準期間の売上高が5,000万円以下、または出力した書面を日付と取引先ごとに整理して提示・提出できる。どちらもダウンロードの求めに応じられることが条件 | 検索機能の確保(3項目の検索も含めてすべて) |
| 猶予措置 | 要件どおりに保存できないことに税務署長が相当の理由(システム整備が間に合わない・人手不足・資金不足など)を認め、データのダウンロードと出力書面の提示・提出の両方に応じられる。事前の届出は不要 | 改ざん防止・検索などの保存時の要件(データそのものの保存は必要) |
法人と個人事業主では、判定に使う期間と保存期間の数え方が違います(一問一答の問17・問21・問51)。
| 項目 | 法人(一人法人) | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 判定期間 | 電子取引を行った日の属する事業年度 | 電子取引を行った日の属する年(1月1日〜12月31日) |
| 基準期間 | 前々事業年度 | 前々年 |
| 基準期間がないとき | 設立1期目・2期目は検索要件が不要 | 開業した年と翌年は検索要件が不要 |
| 「売上高」の中身(共通:税抜・非課税売上を含む) | 営業活動の収益。営業外収益・特別利益は含まない | 商品・役務提供などの売上高。家事消費などは含まない |
| 保存期間 | 7年(青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年)。確定申告書の提出期限の翌日から数える | 青色申告者は帳簿7年、書類は7年または5年。翌年3月15日の翌日から数える |
紙を捨てるためのスキャナ保存は、国税庁のパンフレット「はじめませんか、書類のスキャナ保存」(令和6年1月以降用)に、次の要件がまとめられています。
| 要件 | 重要書類(契約書・納品書・請求書・領収書など) |
|---|---|
| 入力期間 | 受け取ってから速やか(おおむね7営業日以内)、または事務処理規程を定めたうえで業務処理サイクル(最長2か月以内)の経過後速やか(おおむね7営業日以内) |
| 読み取り | 解像度200dpi相当以上、赤・緑・青それぞれ256階調以上のカラー |
| 改ざん防止 | 入力期間内のタイムスタンプ(入力期間内に保存したことを確認できるシステムなら代えられる)と、訂正削除の履歴が残るか訂正削除できないシステム |
| 帳簿との相互関連性 | スキャナデータと帳簿の記録が互いに確認できるようにする |
| 見読可能装置など | 14インチ以上のカラーディスプレイとカラープリンタ、操作説明書、システム概要書などの備付け |
| 検索機能 | 日付・金額・取引先で検索できる(ダウンロードに応じるなら範囲指定と組み合わせ検索は不要) |
見積書などの一般書類は、入力期間の制限なしやグレースケールも選べます。スマートフォンも要件を満たせばスキャナに含まれ(問5)、一問一答【スキャナ保存関係】の問3は、読み取って同等確認をした後なら紙を即時に廃棄してよいとしています。
一人法人の電子取引データ保存の手順(フォルダ・ファイル名・索引簿)
専用システムを入れない一人法人の最小構成は、保存先を1か所決め、ファイル名で検索できるようにし、事務処理規程を備え付ける3点です。一問一答の問19・問21・問33・問50に沿うと、次の5つの手順になります。会社名と金額はすべて架空の例です。
- 自社の電子取引を洗い出す。メールで受け取る・送るPDFの請求書、SaaSやECサイトの領収書、ネットバンキングの振込データ、Webでしか見られないカード明細などが該当します(問10・チェックシート)。取引情報のないメールは保存不要で、添付ファイルの領収書は添付ファイルだけ保存すれば足ります(問6)
- 保存先のフォルダを1か所に決める。例は「電子取引/2026年度/受領」「電子取引/2026年度/発行」で、取引先ごとに分けてもかまいません。格納先が複数になる場合は、どこに何があるか分かるように管理します(問32)
- ファイル名を「日付_取引先_金額」の順にそろえる。例:2026年10月20日にA社から受け取った税込33万円の請求書なら「20261020_A社_330000」。日付は西暦か和暦のどちらかに統一し、混ぜないこと(問50)。金額は帳簿の税抜・税込に合わせるのが基本で、データに書かれた金額でもかまいません(問57)
- 改ざん防止の事務処理規程を置く。国税庁の参考資料(各種規程等のサンプル)からWord版をダウンロードし、自社名・電子取引の範囲・施行日を入れて、データと同じ場所に保存します。規程は定めるだけでなく、規程に沿って運用することまでが要件です(規則4条1項4号)
- 月に1回、未保存がないかを確かめる。Web上で見られるようになった時点で受け取ったことになり、ダウンロードしなければ保存義務がないわけではありません(問44)。カード明細やSaaSの領収書は、その年度のうちに落としておきます
ファイル名が手間なら、通し番号のファイル名にして、表計算ソフトの索引簿で日付・金額・取引先を管理する方法もあります(問19・問50)。国税庁の作成例をもとにした形は次のとおりです。
| 連番 | 日付 | 金額 | 取引先 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 20261020 | 330000 | A社 | 請求書(発行) |
| 2 | 20261025 | 4400 | B社 | SaaS利用料の領収書(受領) |
| 3 | 20261031 | 55000 | C社 | 外注費の請求書(受領) |
設立3期目からは、1期目の売上高で検索要件の要否を判定します。例として1期目の売上高(税抜)が2,400万円なら5,000万円以下なので、ダウンロードに応じられる状態なら3期目も検索要件は不要です。1期目が1年未満の場合は基準期間の取り方と12か月換算の規定がある(規則4条2項3号・問51)ので、決算月を決めるときに確認しておくと安心です。決算月の考え方は決算月の決め方の記事にまとめています。
一人法人・個人事業主の判断ポイント
一人法人が迷うのは、検索と改ざん防止をどの方法で満たすかと、紙をスキャナ保存して捨てるかどうかの2点です。どれを選んでも義務は同じで、違うのは毎月の手間と、税務調査ですぐ出せるかどうかです。
| やり方 | 向いている人 | 気をつけること |
|---|---|---|
| フォルダ+ファイル名 | 件数が少なく、まず0円で始めたい一人法人 | 名前の付け忘れ。事務処理規程が別に必要 |
| 通し番号+索引簿 | 件数が増えてきて、一覧で見たい人 | 索引簿とファイルの番号がずれないようにする |
| 訂正削除の履歴が残るシステムに保存 | 仕組みに任せたい人 | そのサービスが要件を満たすかは、提供元の説明で確認する |
ぼくは経理や書類整理のようなバックオフィス作業がかなり苦手で、会計の入力はツールに頼り、判断が要る税務は税理士に聞く分け方にしたことを一人で合同会社を設立した話に書きました。会計ソフトを比べた記事にも書いたとおり、独立1年目には領収書を溜め込んで後からまとめて入力し、その作業がかなりきつかった経験があります。いまは打ち合わせが終わったらその場でレシートを撮影して登録していますが、撮影したことと紙を捨ててよいことは別の話です。紙を処分するにはスキャナ保存の要件を満たす必要があり、満たせないなら紙も残しておくのが安全です。
もう1つの判断は、お金の通り道を1本にすることです。ぼくは独立時に事業用の口座とクレジットカードを作り、事業の支払いはそこを通すようにしたことを確定申告の流れを書いた記事に書きました。支払いの経路が散らばるほどデータの置き場所も散らばるので、法人口座とカードに寄せることが、そのまま保存先をまとめることになります。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、メールで受け取った請求書を印刷して紙で綴じ、データを消してしまうことです。一問一答の問98によると、2024年1月1日以後に行う電子取引は、出力した書面の保存でデータの保存に代えることはできません。
- データを要件どおりに保存したうえで、印刷して整理するのは問題ありません(問30・問31)
- 書面を日付と取引先ごとに整理して検索要件を不要にする措置を使う場合も、元のデータは保存が必要です。保存スペースを理由に書面を捨てても、猶予措置の「相当の理由」には当たらないとされています(問96)
- 猶予措置は、システム整備が間に合わないなどの事情が続いている間だけ使えます。事情が解消された後の取引には使えません(問94)
- 消費税の仕入税額控除のための保存は書面出力も認められていますが、法人税の保存義務があるので、データの保存は必要です(問29)
- 要件どおりに保存していない場合は、青色申告の承認の取消対象となり得ます。ただし違反の程度などを総合して判断され、直ちに必ず取り消されるものではないとされています(問98)
- データを削除・改ざんして売上除外や経費の水増しをすると、重加算税が10%加重されます(問64)
ここに書いた内容は、2026年10月19日時点で国税庁の特設サイトと一問一答(令和8年7月版)、e-Govの法令で確認できた範囲です。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。税理士を選ぶときの考え方は税理士の選び方の記事に書いています。
電子帳簿保存法(一人法人)に関するよくある質問
一人法人や売上の小さい会社でも、電子帳簿保存法の対象ですか?
対象です。電子取引データの保存義務は、所得税と法人税の保存義務者すべてにかかり、会社の規模や人数による除外はありません。規模が効くのは検索要件で、基準期間の売上高が5,000万円以下なら、ダウンロードの求めに応じられる状態にしておけば検索機能の確保が不要になります。
電子帳簿保存法の検索要件が不要になるのは、どんな場合ですか?
基準期間の売上高が5,000万円以下の場合と、出力した書面を日付と取引先ごとに整理して提示・提出できるようにしている場合で、どちらもダウンロードの求めに応じられることが条件です。基準期間がない設立1期目と2期目の法人も不要になります。
ファイル名に入れる金額は、税込と税抜のどちらですか?
国税庁の一問一答の問57は、帳簿の処理方法(税抜経理か税込経理か)に合わせるのが基本としつつ、受け取ったデータに書かれている金額でもかまわないとしています。迷ったら、請求書に書かれた税込金額で統一すると付け間違いが減ります。
電子帳簿保存法に違反すると、法人に罰則はありますか?
要件どおりに保存していない場合、青色申告の承認の取消対象となり得ます。ただし違反の程度などを総合して判断され、直ちに取り消されるわけではありません。電子データの改ざんなどで隠蔽・仮装があった場合は、重加算税が10%加重されます。
おわりに──電子帳簿保存法の対応は、システムを買うことではなく、置き場所と名前を決めること
電子帳簿保存法と聞くと、専用のシステムが要る気がします。一人法人の義務は電子取引データの保存だけで、必要なのはデータを消さずに1か所に置き、すぐ出せる名前を付け、改ざんしないと決めた規程を置くことです。対応の中身は、何を買うかではなく、どこに置いてどう名前を付けるかで決まります。
今日やることは、「電子取引」フォルダを1つ作り、今月メールで受け取った請求書を「日付_取引先_金額」の名前で入れ直すことです。次に、国税庁の事務処理規程のサンプルを同じフォルダに置いてください。